残酷な描写あり
21話 教訓
明治生まれの常太郎。大阪の材木商で丁稚。単身四国にて道中地震に遭い死亡。100石の嫡男に転生。事故で右肩を火傷。時は徳川幕府2代将軍秀忠。前世の記憶と知識を持つ。寺子屋を預かる。大御所死去葬儀に参加した恒興は苦労で体調を崩し隠居。恒太郎に家督を譲り翌月死去。正純から転生者と指摘。家臣を雇う為50石加増。新家臣は陸奥国会津藩出身の佐々木国明21歳。妹詩麻が手習道場へ通う。皆食と仮眠の導入。寺子屋の雑炊として販売。寺子屋に賊が入り書物などの盗難。賊を捕まえ褒美を戴き両替商と知り合う。研究用に水田2反拝借。カタワの少女幸と出会い手習道場へ通わせる。外と歩くことに慣れず身体を壊す。薬師装庵と知り合う。
ー翌日ー
恒太郎は、早速登城。城の外で、国明に駄賃を渡し別れた。
正純と話す。
正純「今日はどうした」
恒太郎「はい。今日はお願いがございまして登城した次第です」
正純「そうか。どうした」
正純は横にあった脇息を前に動かし前のめりで話を聞く。恒太郎からの願いはどれも面白いことから興味を持ったようだ。
それを確認してから話す。
恒太郎「実は、先日宴を催しましてその場で、水田の一部を貸してほしいと収入保証付きで募りました。最初は渋ってた百姓たちの中から手を挙げてくれた者の家に行きました。家族の紹介を受けたのですが、聞いていた家族が一人足りません。どういうことかと聞くと、カタワの娘が家の奥に隠されていました。会い話をすると慣れぬ様子ではありましたが徐々に、話をしてくれます。たまに草鞋を作ると聞き作ってもらいますと、形はあまり良くはありませんが、家の者が履くには充分の出来でした。その娘に、手習道場へ来ないかと誘います。娘の父は飛んで来て訴えます。娘を笑いものにさせられないと。どこの家でも同じでしょうが、カタワやハクチ・メクラを外に出せないとしている家々があります。私はその家に閉じ込められてる子供や大人が惜しいのです。彼らと話し合ってみると至って普通の人間なのです。家のお荷物にはなりたくはない。と思ってます。彼ら彼女らをひとりの人として扱ってほしいのです。百姓や職人の家は、生活に余裕がありません。そこへ、家に押し込めたままにして外から見えないようにしているのが私には惜しいと思います。それを一件一件会いに行くには時間がかかります。それを提案してくださったのが、町の薬師である装庵殿が正純様に指示を仰ぎなさいとおっしゃられ今日にいたります」
座り直し着物を整え脇息を横に置く。
正純「なるほど。装庵殿と申すか。では具体的にどうして欲しい」
恒太郎「はい。お触れを出していただきたいのです。すべての学の無いものは、手習道場へ行くようにと。また、家の奥に閉じ込めている人間をすべて開放せよ」
正純「。。。分かった。だが、それでどのような益があると言うのだ?まさか単純に可哀想だからというわけではあるまい」
恒太郎「もちろん益はあります。必ずこの小山の役に立ちます。例えば、食い扶持を増やすことが出来ます。百姓の場合、大人と息子や娘が農作業をしますが、カタワな子供には不向きです。しかし、勉学を真面目に積んだ者は、計算ができるようになります。この計算を米を売る時に役立ちます。多くの百姓は金に換えるときに騙されてしまいがちです。言い値で売却していることを防げます。売却専用に、カタワな子供が働くとすれば、百姓の生活水準が向上し、また、農作業に集中できます」
正純「うん。そうだな。だがもっと目に見える益は無いのか?」
恒太郎「そうですね。まだ先の話になりますが、現在、手習道場の師範代らに日記を書かせています。その日記を私が編集し文字の上手な者に書かせます。その文字の上手な者を彼らにやってもらうことも考えています。また、挿絵なるものを入れて読みやすくしたいと考えています。その日記を一冊五千文ほどで売りたいと考えています。先日殿から頂いた書物に庭訓往来があります。あのように絵が入り日常を描いた日記を売るというのは庶民の娯楽にもなるでしょう。庶民が五千文も出すのは大変です。ですので、貸書をしたいと考えてます。貸書は、五日二十文ほどで貸したいと思います。書物を読むという娯楽を作ります。娯楽のために、手習道場へ行きたいと思う者が増えることで、殿の利益は高まります」
正純「そうか日記か。面白いことを考えたな。庶民は他人の生活に興味があるからな。その他人の生活を垣間見ることが出来るという娯楽は楽しいだろうな。だが、その庶民の多くは文字が読めないのだが誰が読むのだ?それに、お主の負担が増えるぞ。良いのか」
恒太郎「庶民でも読めるようにフリガナを振ります。まだ負担と言うほどでは無いので楽しくやっております。なんでしたら家臣を増やせばよいのです」
正純「そうか。面白い。我が願いを受け入れてくれて感謝するぞ。しかし、人の気持ちというのはそう簡単ではない。特に前例の無いことは経験の無いこととして非常に心配をしてしまう。そのために、初めの一歩が踏み出せないのだ。その初めの一歩をお主はどう考えておる?」
恒太郎「そうですね。しばしお待ちを」
思わぬ返しに長考。正純は考える恒太郎に向けて話す。
正純「世間体を気にしている親たちが藩主の命で指示されたからと隠している家族を表に出すのは大変勇気のいることだ。なぜ隠しているのかを考えればわかるだろう。特別罰則も無いのであれば、表向きは居ないものとして扱うだろう。もし罰則を設けた場合、渋々従うだろうが、お主の考えているような流れにはきっとならんだろうな。今の手習道場に通わせる親たちが自発的に通わせているのであり、通わせたくないのであれば家の手伝いをさせていることだろう」
恒太郎「隠す理由。そうか。殿!ありがとうございます。私は焦っていたようです。殿の言われるように、可哀想だからという気持ちが先走っていたのかもしれません。どうか、この件は忘れていただきとうございます」
殿に、2手3手先まで言われて気づいた。今でも手習道場へ行く理由が見つからない勉学を教えたくないなどの親はたくさんいる。それらから意識改革をしなければ変わりようがない。
正純「わかった。それよりも久しぶりだ。少し話していかれよ。もうだいぶ前だが、明治の頃の話をしてはくれんか」
恒太郎「わかりました。私も最近はこちらに慣れてきて明治の頃のことをあまり考えずに過ごしています。その中で面白いと思うのが。船ですね」
正純「船か。今でもあるだろ。廻船問屋などが帆掛け船で運んでいる」
恒太郎「私も最初はそれでした。しかし、島に渡るのに堺港から四国の松山に移動するのに、帆掛け船では時間がかかるということで、石炭で進む大きな船の蒸気船に乗りました。黒い煙を吐き出しながらそれはそれは速いのなんの。いくつもの帆掛け船を追い抜いて行くでは無いですか。どの船も恐れて避けて行くのです。一刻半ほどで到着します」
正純「堺港とは堺奉行のところか?四国とはなんだ。松山は伊予松山藩のことか?」
恒太郎「失礼しました。和泉の国の堺ですので、恐らくはそうだと思われます。天下の台所と呼ばれた土地です。四国とは四つの国で成り立った島でして伊予・土佐・阿波・讃岐から成り立つ島です」
正純「そうか。そのような呼び名になっておったか。それで、その蒸気船とやらはいくらで乗れたのだ」
恒太郎「三銭ですので、今の価値に直すと一分金と銀三匁くらいでしょうか」
正純「なんと。そんな高額なのか。しかし、速く到着できるというのは良いな」
明治後期の一銭は約1万円相当なので、3万円ほどの乗船料だった。
恒太郎「その船は元は客を乗せるためでは無く、物品を運ぶ船でして、それに交渉して乗り込んだ感じです。私は木材商の丁稚でしたので、木材を運ぶためだと話すと乗せてもらえたのです。初めての蒸気船は広くてゆったりとしてました。内海を走るので、揺れが少なく乗り心地は大変良かったです」
正純「そうか。あっという間だな」
恒太郎「そうですね。あっという間で到着して景色を楽しむ暇もありませんでした」
正純「儂も一度は乗ってみたいな。どのような景色なのか。またどのような動力で動くのか調べてみたいな」
恒太郎「そうですね。この蒸気船は異国が持ち込んだそうです。米国が攻めてきたとかで、開国したそうです。なぜ攻めてきたのかなどは分かりかねます」
正純「おお。開国か。ということは国を閉じていたのか。閉国はいつからなのだろうか。その頃は儂は生きているのだろうか。その時は何代目が務めているのだろうか。秀忠様ではないだろう。となると、家光様か弟の国千代様か。どちらだろうか。いやその子か孫かもしれんな。理由は伴天連への当てつけだろうか。最近も異国となにかと揉めている」
恒太郎「申し訳ありません。詳しいことはわかりかねます」
正純「そうだな。いやありがたい。蒸気船も気になるが、閉国していたのが気になるな。儂に何ができるか考えていたのだ。もし閉国していて異国から攻められたら国が二分していただろう。どちらに着くか。そうか。一度決まったことは覆せんからな。儂は、異国の文化は好きだ。信長様もお好きだった。だから、弥助を雇ったのだろう。そうでなければただの黒くてデカい男だからな。言葉も話せない。この着物も元は異国のものだそうだ。儂らは常に異国の文化を受け入れながら独自の発展をさせてきた。大御所様も異国の文化がお好きで、西班牙に派遣団を送ったのも大御所様だった。これからは平和になり異国との交流も楽しくなる頃だというのに。一体なにをお考えなのか」
少しの間思案をする。
正純「すまんな。今日はこの辺にするか。いやいや楽しかったぞ。また来てくれ。それから、私を喜ばそうと考えてくれるのは嬉しいが、今見えている人々で考えてくれるだけでも私は嬉しいぞ。今手習道場に通っているカタワの娘を大事にしなさい。そうすれば、徐々に通わせたいという親が出て来るだろう。何だったらカタワの師範代を雇うとかどうだ?」
恒太郎「カタワの師範代。なるほど。浪人であればいるかもしれませんね。以前の戦でカタワになった者を雇うのですか。それは思いもつきませんでした」
正純「長い目で見ろよ。教育は大事な努め。藩の発展を期待しているぞ」
恒太郎「立派に努めさせていただきます」
城をあとにする。
途中、団子を頬張っている国明を見つけ共に団子を食べる。
恒太郎「殿からカタワの師範代を雇うという考えをいただいた。ただ、家臣とするのかそれとも師範代として雇うのか。悩んでいるところだが、国明殿にもどうかこの手習道場を助けて欲しい」
国明「わかりました。幸さまのように通う子が増えると良いですな」
恒太郎「幸さんのように片腕だけではなく、片足や両足の子もいるだろう。多様なカタワな子供たちが陽を浴びれるようにしたいものだ。しかし、親だけでなく民の考えが変わらない限りカタワの子が通えるようになるのはまだまだ刻が必要だ。今では無いと考えた。どのような子にも限りなく機会を与えることで何かしらの益を生むと信じている。人は生まれた時から何かしらの益を産むために生まれて来るのだ。『役に立たない』や『お荷物』なんていうことは絶対にありえないのだ」
国明「殿は先の事までお考えなのですね」
恒太郎「いや、これは正純様がおっしゃられた言葉だ。私は考えが甘かった。しっかりと指導を受けてきたところだ」
二人は、これからの行く末を考えながら手習道場へ向かう。手習道場には、千代がひとりで師範代代理を務めてくれている。急ぎ戻る。
恒太郎は、早速登城。城の外で、国明に駄賃を渡し別れた。
正純と話す。
正純「今日はどうした」
恒太郎「はい。今日はお願いがございまして登城した次第です」
正純「そうか。どうした」
正純は横にあった脇息を前に動かし前のめりで話を聞く。恒太郎からの願いはどれも面白いことから興味を持ったようだ。
それを確認してから話す。
恒太郎「実は、先日宴を催しましてその場で、水田の一部を貸してほしいと収入保証付きで募りました。最初は渋ってた百姓たちの中から手を挙げてくれた者の家に行きました。家族の紹介を受けたのですが、聞いていた家族が一人足りません。どういうことかと聞くと、カタワの娘が家の奥に隠されていました。会い話をすると慣れぬ様子ではありましたが徐々に、話をしてくれます。たまに草鞋を作ると聞き作ってもらいますと、形はあまり良くはありませんが、家の者が履くには充分の出来でした。その娘に、手習道場へ来ないかと誘います。娘の父は飛んで来て訴えます。娘を笑いものにさせられないと。どこの家でも同じでしょうが、カタワやハクチ・メクラを外に出せないとしている家々があります。私はその家に閉じ込められてる子供や大人が惜しいのです。彼らと話し合ってみると至って普通の人間なのです。家のお荷物にはなりたくはない。と思ってます。彼ら彼女らをひとりの人として扱ってほしいのです。百姓や職人の家は、生活に余裕がありません。そこへ、家に押し込めたままにして外から見えないようにしているのが私には惜しいと思います。それを一件一件会いに行くには時間がかかります。それを提案してくださったのが、町の薬師である装庵殿が正純様に指示を仰ぎなさいとおっしゃられ今日にいたります」
座り直し着物を整え脇息を横に置く。
正純「なるほど。装庵殿と申すか。では具体的にどうして欲しい」
恒太郎「はい。お触れを出していただきたいのです。すべての学の無いものは、手習道場へ行くようにと。また、家の奥に閉じ込めている人間をすべて開放せよ」
正純「。。。分かった。だが、それでどのような益があると言うのだ?まさか単純に可哀想だからというわけではあるまい」
恒太郎「もちろん益はあります。必ずこの小山の役に立ちます。例えば、食い扶持を増やすことが出来ます。百姓の場合、大人と息子や娘が農作業をしますが、カタワな子供には不向きです。しかし、勉学を真面目に積んだ者は、計算ができるようになります。この計算を米を売る時に役立ちます。多くの百姓は金に換えるときに騙されてしまいがちです。言い値で売却していることを防げます。売却専用に、カタワな子供が働くとすれば、百姓の生活水準が向上し、また、農作業に集中できます」
正純「うん。そうだな。だがもっと目に見える益は無いのか?」
恒太郎「そうですね。まだ先の話になりますが、現在、手習道場の師範代らに日記を書かせています。その日記を私が編集し文字の上手な者に書かせます。その文字の上手な者を彼らにやってもらうことも考えています。また、挿絵なるものを入れて読みやすくしたいと考えています。その日記を一冊五千文ほどで売りたいと考えています。先日殿から頂いた書物に庭訓往来があります。あのように絵が入り日常を描いた日記を売るというのは庶民の娯楽にもなるでしょう。庶民が五千文も出すのは大変です。ですので、貸書をしたいと考えてます。貸書は、五日二十文ほどで貸したいと思います。書物を読むという娯楽を作ります。娯楽のために、手習道場へ行きたいと思う者が増えることで、殿の利益は高まります」
正純「そうか日記か。面白いことを考えたな。庶民は他人の生活に興味があるからな。その他人の生活を垣間見ることが出来るという娯楽は楽しいだろうな。だが、その庶民の多くは文字が読めないのだが誰が読むのだ?それに、お主の負担が増えるぞ。良いのか」
恒太郎「庶民でも読めるようにフリガナを振ります。まだ負担と言うほどでは無いので楽しくやっております。なんでしたら家臣を増やせばよいのです」
正純「そうか。面白い。我が願いを受け入れてくれて感謝するぞ。しかし、人の気持ちというのはそう簡単ではない。特に前例の無いことは経験の無いこととして非常に心配をしてしまう。そのために、初めの一歩が踏み出せないのだ。その初めの一歩をお主はどう考えておる?」
恒太郎「そうですね。しばしお待ちを」
思わぬ返しに長考。正純は考える恒太郎に向けて話す。
正純「世間体を気にしている親たちが藩主の命で指示されたからと隠している家族を表に出すのは大変勇気のいることだ。なぜ隠しているのかを考えればわかるだろう。特別罰則も無いのであれば、表向きは居ないものとして扱うだろう。もし罰則を設けた場合、渋々従うだろうが、お主の考えているような流れにはきっとならんだろうな。今の手習道場に通わせる親たちが自発的に通わせているのであり、通わせたくないのであれば家の手伝いをさせていることだろう」
恒太郎「隠す理由。そうか。殿!ありがとうございます。私は焦っていたようです。殿の言われるように、可哀想だからという気持ちが先走っていたのかもしれません。どうか、この件は忘れていただきとうございます」
殿に、2手3手先まで言われて気づいた。今でも手習道場へ行く理由が見つからない勉学を教えたくないなどの親はたくさんいる。それらから意識改革をしなければ変わりようがない。
正純「わかった。それよりも久しぶりだ。少し話していかれよ。もうだいぶ前だが、明治の頃の話をしてはくれんか」
恒太郎「わかりました。私も最近はこちらに慣れてきて明治の頃のことをあまり考えずに過ごしています。その中で面白いと思うのが。船ですね」
正純「船か。今でもあるだろ。廻船問屋などが帆掛け船で運んでいる」
恒太郎「私も最初はそれでした。しかし、島に渡るのに堺港から四国の松山に移動するのに、帆掛け船では時間がかかるということで、石炭で進む大きな船の蒸気船に乗りました。黒い煙を吐き出しながらそれはそれは速いのなんの。いくつもの帆掛け船を追い抜いて行くでは無いですか。どの船も恐れて避けて行くのです。一刻半ほどで到着します」
正純「堺港とは堺奉行のところか?四国とはなんだ。松山は伊予松山藩のことか?」
恒太郎「失礼しました。和泉の国の堺ですので、恐らくはそうだと思われます。天下の台所と呼ばれた土地です。四国とは四つの国で成り立った島でして伊予・土佐・阿波・讃岐から成り立つ島です」
正純「そうか。そのような呼び名になっておったか。それで、その蒸気船とやらはいくらで乗れたのだ」
恒太郎「三銭ですので、今の価値に直すと一分金と銀三匁くらいでしょうか」
正純「なんと。そんな高額なのか。しかし、速く到着できるというのは良いな」
明治後期の一銭は約1万円相当なので、3万円ほどの乗船料だった。
恒太郎「その船は元は客を乗せるためでは無く、物品を運ぶ船でして、それに交渉して乗り込んだ感じです。私は木材商の丁稚でしたので、木材を運ぶためだと話すと乗せてもらえたのです。初めての蒸気船は広くてゆったりとしてました。内海を走るので、揺れが少なく乗り心地は大変良かったです」
正純「そうか。あっという間だな」
恒太郎「そうですね。あっという間で到着して景色を楽しむ暇もありませんでした」
正純「儂も一度は乗ってみたいな。どのような景色なのか。またどのような動力で動くのか調べてみたいな」
恒太郎「そうですね。この蒸気船は異国が持ち込んだそうです。米国が攻めてきたとかで、開国したそうです。なぜ攻めてきたのかなどは分かりかねます」
正純「おお。開国か。ということは国を閉じていたのか。閉国はいつからなのだろうか。その頃は儂は生きているのだろうか。その時は何代目が務めているのだろうか。秀忠様ではないだろう。となると、家光様か弟の国千代様か。どちらだろうか。いやその子か孫かもしれんな。理由は伴天連への当てつけだろうか。最近も異国となにかと揉めている」
恒太郎「申し訳ありません。詳しいことはわかりかねます」
正純「そうだな。いやありがたい。蒸気船も気になるが、閉国していたのが気になるな。儂に何ができるか考えていたのだ。もし閉国していて異国から攻められたら国が二分していただろう。どちらに着くか。そうか。一度決まったことは覆せんからな。儂は、異国の文化は好きだ。信長様もお好きだった。だから、弥助を雇ったのだろう。そうでなければただの黒くてデカい男だからな。言葉も話せない。この着物も元は異国のものだそうだ。儂らは常に異国の文化を受け入れながら独自の発展をさせてきた。大御所様も異国の文化がお好きで、西班牙に派遣団を送ったのも大御所様だった。これからは平和になり異国との交流も楽しくなる頃だというのに。一体なにをお考えなのか」
少しの間思案をする。
正純「すまんな。今日はこの辺にするか。いやいや楽しかったぞ。また来てくれ。それから、私を喜ばそうと考えてくれるのは嬉しいが、今見えている人々で考えてくれるだけでも私は嬉しいぞ。今手習道場に通っているカタワの娘を大事にしなさい。そうすれば、徐々に通わせたいという親が出て来るだろう。何だったらカタワの師範代を雇うとかどうだ?」
恒太郎「カタワの師範代。なるほど。浪人であればいるかもしれませんね。以前の戦でカタワになった者を雇うのですか。それは思いもつきませんでした」
正純「長い目で見ろよ。教育は大事な努め。藩の発展を期待しているぞ」
恒太郎「立派に努めさせていただきます」
城をあとにする。
途中、団子を頬張っている国明を見つけ共に団子を食べる。
恒太郎「殿からカタワの師範代を雇うという考えをいただいた。ただ、家臣とするのかそれとも師範代として雇うのか。悩んでいるところだが、国明殿にもどうかこの手習道場を助けて欲しい」
国明「わかりました。幸さまのように通う子が増えると良いですな」
恒太郎「幸さんのように片腕だけではなく、片足や両足の子もいるだろう。多様なカタワな子供たちが陽を浴びれるようにしたいものだ。しかし、親だけでなく民の考えが変わらない限りカタワの子が通えるようになるのはまだまだ刻が必要だ。今では無いと考えた。どのような子にも限りなく機会を与えることで何かしらの益を生むと信じている。人は生まれた時から何かしらの益を産むために生まれて来るのだ。『役に立たない』や『お荷物』なんていうことは絶対にありえないのだ」
国明「殿は先の事までお考えなのですね」
恒太郎「いや、これは正純様がおっしゃられた言葉だ。私は考えが甘かった。しっかりと指導を受けてきたところだ」
二人は、これからの行く末を考えながら手習道場へ向かう。手習道場には、千代がひとりで師範代代理を務めてくれている。急ぎ戻る。