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残酷な描写あり
22話 調理実習
明治生まれの常太郎。大阪の材木商で丁稚奉公中に事故により死亡。100石の嫡男は右肩を火傷後転生。時は徳川幕府2代将軍秀忠。前世の記憶と知識を持つ。大御所死去葬儀後に恒興は体調を崩し隠居。恒太郎に家督を譲り翌月死去。正純により転生者と知る。知行150石。初の家臣は佐々木国明21歳。妹詩麻が手習道場へ。皆食と仮眠の導入。雑炊販売を許可。手習道場に賊が入り書物などの盗難。賊逮捕し褒美を戴く。水田2反拝借。カタワの少女幸と出会い手習道場へ通わせる。外と歩くことに慣れず身体を壊す。薬師装庵と知り合う。正純と謁見し隠されたカタワたちを手習道場へ通わせたいと願う。間違いだとわかる。同じ転生者の弥助を知る。
【たまにだから凝ってしまう】

ー手習道場ー

  子供たち「先生たちどこ行ってたの?」
  子供たち「おそいよー」
  恒太郎「みんな来てるなー。よしよし。千代先生に迷惑はかけて無いか?」
  千代「ツネ先生!私まだ先生じゃないです!」
  恒太郎「みんなに教えることが出来ていたので充分じゅうぶんに先生ですよ」

 国明もうなず納得なっとくの様子。

  千代「奥の席に幸さん来てますよ」

 周りを見渡すと、サチ両脇りょうわき百太モモタ賛太サンタが座っている。幸は足をくずしながら座っていた。足の筋力きんりょくが少ないため足を崩さなければ座れない。

  恒太郎「良く来ましたね。また来てくれて嬉しく思います。今日はゆっくり来たんですね。百太も賛太もよく気を使いましたね。そうだ。千代先生。そのまま続けてください。今日は私が作ります。国明先生は千代先生のお手伝いをお願いします」

 すぐに家に戻る。走る。とにかく走る。野菜を受け取ると再び走る。走る。息を切らせて走るの何ていつ以来だろうか。幸がまた来てくれた。嬉しい。上がらない腕でも持てるようにかごに入れて走る。急ぎ手習道場へ戻る。

 息を切らせて戻り、一度火を入れた水を飲む。冷めてて飲みやすい。
 昨晩さくばんいただいた野菜を使って調理を始める。時折ときおり聞こえる千代の高い声がひびく。子供たちが騒ぐのを必死におさえているようだが、調理中なので千代に丸投げ。最悪、国明がなんとかするだろう。
 材料は、コロンとした太い大根1本、家にあった昆布こんぶ椎茸シイタケ5個、家に余っていた和布わかめ、長ネギ2本。いつになく豪華ごうかな食材である。出汁ダシにとった昆布をこまかく切り小皿こざらに入れておく。しゅんの大根が美味しそうだ。そのままかじっても美味い。生で食べるのが好きではあるが、酒のツマミを作るのではないから泣く泣く雑炊の具にする。とはいえ、大皿おおざらに、味噌ミソを付けて食べれるように細切ほそぎりした大根を用意。味噌はあまり使えないので、塩もみした大根にしている。長ネギは、青い部分の半分を雑炊の具へ。青い部分の下の方を細かくきざんで食べる前に振りかけて食べるように、皿に入れておく。白い部分は、2口大くちだいに切り焼いて食べる。塩を付けて食べるようにしておいた。椎茸はカサの部分を細かく切り雑炊の具に。じくの部分は、焼いて好きな人が食べるようにする。大根の葉は、軽く茹でて塩もみしておかずにした。
 たまに料理をするとったものを出したくなるのは今も昔も変わらない。おかずは地味じみではあるが、いつも雑炊に全部入れてしまうので、おかずの無い皆食かいしょく。この日に来た子供は運が良かった。
 椎茸は滅多めったに入らない。それも肉厚にくあつの椎茸だ。細かく切ったので肉厚かどうかはわかりにくいのではあるが。

 昼のカネが鳴り出来上がった雑炊を運ぶ。いつになく凝った皆食が並ぶ。子供たちは、腹を空かせて待つ。

  恒太郎「では整ったので、いただきましょう」

  子供たち「いただきす」
  子供たち「いただきまーす」
  子供たち「美味しそう」

 平六が作った日よりも豪華な皆食になった。子供たちも大喜びだ。子供たちの喜ぶ顔を見て恒太郎はいやされた。

  恒太郎「幸も食べているか?熱いからゆっくり食べなさい」

もももぐ

  恒太郎「たまに作ると楽しいな。まぁたまにだから良いものを作ろうとしてしまうのだろうか」
  千代「ツネ先生。料理も出来るんですね。美味しいですよ」
  恒太郎「そうか。ありがとう。平六に負けないよう腕を上げたいものだ」
  千代「ツネ先生。思うのですが、皆で料理をするというのはどうですか?勉学とは関係ないかもしれないですが」
  恒太郎「なるほどね。確かに、ここを卒業しいつかは親元おやもとを離れるだろう。食事くらい自分で作れるようになると親御おやごさんも安心だろうしな。そうだな。男も女も簡単な料理くらいは出来るようになっても良いだろう。ヨシ。検討けんとうしてみよう。そうだな。皆、食べてるところすまぬが、今後、料理を習って見たいものはいるか?居たら手を挙げて欲しい」

 子供たちは思わぬことをわれ戸惑とまどう。

  恒太郎「すまない。いきなり言われても困るな。よし。帰りまでに考えておいて欲しい。ある程度人が集まれば料理をする日を作っても良いと考えている。気が変わっても特別めることも無い。居なければ居ないでもよい」
  香与「ツネ先生。それは良いんだけど、食材とかはどうするんです?学費がくひ増えるんですか?他の勉学はしないんですか?」
  恒太郎「香与さんは、冷静れいせいでいいですね。そうですね。食材はこちらで用意します。学費は変わりません。料理をしない子は、勉学しててください。台所は、五人も入ればいっぱいなので、五人くらいがいいですね。それより多い場合は、見学けんがくにしましょう」
  香与「ツネ先生は、思いついたらすぐに行動に移してくれるので嬉しいのですが、もう少し良く考えてから行動してくださると皆も反応はんのうしやすいと思います」
  国明「ふふふ。どちらが先生かわかりませんね」
  恒太郎「本当ですね。香与さん。ありがとうございます。以後いご気を付けます」

 年齢としが近いことと身分の差が少ない手習道場だからこそ言える会話でもある。香与はこのことを家に持ち帰ると父親からこっぴどくしかられたのは言うまでもない。

 帰りに恒太郎は再び皆に聞いた。男三人と女二人が手を挙げた。女は香与と幸。

  恒太郎「五人か。よしよし。では、明後日にしますので、参加を楽しみにしてますよ。当日来れなくてもまた別の日にやりますからその時に参加してくださいね。次回は、月末の三十日にします」

 

ー当日ー

 四人で仲良く手習道場へ向かう道中どうちゅうでの会話。

  恒太郎「今日は、料理をするので家にある残り物の野菜を持ってきてます。これを使って、お昼の雑炊を作りましょう。ついでに、一品いっぴんか二品作れたらいいですね。先生は、お千代さんにお願いしますね。私が補助ほじょに付きます。子供たちがどれくらい出来るのかを見たいので、鍋一つ多く持ってきてますので皆に作ってもらいます。もし、あぶなっかしい時は、私が止めに入るので、お千代さんは見張みはりながら自由に作らせてあげてくださいね」
  千代「わかりました。よろしくお願いします」
  国明「では、私は他の子供たちの勉学を見てますので気を付けておねがいします」
  詩麻「わたしもお手伝いしたかったな。わたしも一緒に料理したいな」
  恒太郎「いいぞ。では、見学することになるが一緒に見てようか」
  詩麻「兄さま良いのですか?わたしも参加できるんですね?やったー」

 詩麻は真面目に毎日通っているが、まだ自分から行動に移すのを得意としていない。そんな詩麻が自分から参加したいと言ってくれたことに、恒太郎は喜んだ。

 子供たちが集まりだした。千代には先に台所の準備を詩麻と二人に頼み、男二人で準備をする。早く来た子供たちも手伝う。
 詩麻の事を心配してくれた子供たちが追いかけて見に行ってくれている。なんだかんだで、詩麻は子供たちと仲良くやっているようだ。
 千代と詩麻が無事戻って来た。追いかけて行った子供たちも帰って来た。水の手配は多めに出来た。二往復する予定だったが後から追いかけてきた子供たちが手伝ってくれたおかげ。うまく連携れんけいが取れている。子供たちもただ通うだけでなく子供たちは自分から何かをしようとするようになった。中には、評価を気にして動いている子もいるがそれは大人になればやることなので特に指摘してきすることなくまんべんなくめる。

  千代「準備出来ました」

 千代の一言で、順にやって来た子たちを割り振って与いく。調理には、男三人で、武家の平次ヘイジと商家の梅吉ウメキチと百姓の百太。女は三人で、商家の香与と百姓の幸。見学に詩麻が参加。

  国明「ではいつも通りに勉学の時間とします。台所では別の勉学をしてますので、のぞきに行かないように。どうしても見学したくなったら必ず私にまで声を掛けてくださいね」


【お料理開始】

  恒太郎「では、始めます。調理をしたことがある人は手を挙げて」

 四人手を挙げた。挙げて無いのは百太と幸だけ。

  恒太郎「いいですよ。やったことの無い人の方が勉強になるでしょう。では、百太と幸を中心にやって行きましょう。では、最初にやるのは釜戸かまどに火を入れるところからですね。千代先生お願いします」

 千代は先生と皆の前で言われて耳を真っ赤にしながら話し出す。百太さんは男の子なので、チカラ技で火おこしをする。火を入れるだけなので、特別教えることも無いのだが、火を入れるとしながらもその間もやることがあるとしてそこを話す。

  千代「火おこしはさほどむずかしくはありません。しかし、火おこしをして終わりではありません。火が安定あんていするまで、何度も見ながらナベを準備し鍋に入れる食材を用意します。では、質問です。鍋の具材はどの順に用意し入れるかわかりますか?」

 百太と幸はまったくわからない。

  百太「食べたいじゅんに入れたらダメなんですか?」
  千代「あはは。その気持ちはよくわかります。でも、それだと美味しくならないので順番を守って入れることをおすすめします。答えは、かたいものから順に入れます。そのために、最初に用意するのは、硬い食材からとなります。たとえば、大根ですね。大根はえるのに時間がかかるので、最初に入れる食材と考えておくと良いでしょう」

 百太をはじめ梅吉・平次ヘイジは、紙に書いていく。

  香与「千代先生。大根は時間がかかりますが、あらかじめ切れ込みを入れておくと早いと母上から教わりました。それでも最初に入れる具材なんですか?」
  千代「すごく良い質問ですし答えでもありますね。では、実演じつえんをしますので、百太くんは、引き続き火の方をお願いしますね」

 恒太郎としては、百太の方を中心に見ながら千代の実演を見る。どちらも場合によっては危険なため大人としてその様子を見守る。

  千代「大根は、大きめにザクザクと切ります。切った大根の皮をむいて、十字に軽く切りつけます。これで大根に火が通りやすくなり味が良くみやすくなります。ですが、ここは手習道場ですので、少しでも充実じゅうじつにするために、大根を十字に切り分けます。皮をむく人もいますが、皮は良く洗えば特に問題ありません。ここは好みに分かれます」
  香与「へぇそういうことなんだ。家で食べる鍋は、軽く包丁を入れてたんだね」
  百太「先生。火が安定しました」
  千代「百太さんありがとうございます。では、鍋に水を入れてそっと置きます。ここで火傷やけどしないようにそではまくっておきましょうね。台所で作る時は男も女も袖をまくるかしばっておきましょう。袖に火が付いたら大変ですからね」

 それを言われてようやく袖をまくりだす子供たち。実のところ大人がなぜ袖をまくっているのか理解してはいなかった。着物のため袖をまくることは少なかったこともあり見てはいたが理解はしてなかった。
 二つ目の釜戸に火を入れてある。いつでも鍋を用意できるようにと。

  千代「ツネ先生ありがとうございます。では、鍋をもう一つ掛けてください。誰でもいいですよ。火に注意してくださいね」

 釜戸に水を張った鍋を置く。

  千代「今日は初めての調理ですから、包丁ほうちょうはあまり使わないようにしますね。とはいえ、さすがに大根はるわけにも行かないので、皆さんで少し切ってみましょう。刃物はものや包丁に慣れて無い人は、大根をこのように輪切わぎりするだけで良いですよ」

 包丁をまともに使ったことの無い子供は、輪切りだけ参加。十字に四つ切にするのは、慣れている子だけにした。包丁は一本しかないため、交代しながらザクザクと切っていく。百太もここに参加。幸は、片手なので詩麻と仲良く見学。
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