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残酷な描写あり
11話 詩麻通う
【これまでのあらすじ】

 明治生まれの常太郎。大阪の材木商で丁稚生活。旦那衆に認められ単身四国へ。道中地震に遭い命を失う。常太郎の先祖は徳川幕府2代将軍徳川秀忠の時代。僅か100石の嫡男として転生。右肩に火傷を負う。体格の良さと前世での記憶と知識を兼ね備える。知識と人柄から寺子屋の経営を譲られる。大御所の死去に伴い、父恒興は小山を発ち、慣れぬ作業と膨大な刻を経て、体調を崩す恒興は隠居し恒太郎に家督を譲る。翌月家族に見守られ死去。正純から転生者だと指摘。新たな使命は、師範を増やすための育成。浪人を雇うのに50石の加増。雇ったのは陸奥国会津藩出身の佐々木国明という若者。早速、正純に報告する。
【詩麻】

 母に作ってもらったおむすびを手にし3人寺子屋へ向かう。道中、この日より待っていた千代も連れて4人で向かう。千代はたまに話していた詩麻が一緒にいることに喜ぶ。

  千代「ツネ先生。今日は詩麻さまいらっしゃるんですね」

 嬉しそうにねる。

  恒太郎「そうだよ。今日から詩麻も寺子屋に通うんだ。今日は、初めてだから私と一緒に通うが、次回からは、お千代さんと一緒に通えるようにしてもらえるかな?」
  千代「わかりました。詩麻さまのことはお任せください」
  詩麻「ちよちゃんよろしくね」
  恒太郎「お願いするときは、よろしくお願いします。と言うんだよ」
  詩麻「おともだちなのに?ちよちゃんよろしくおねがいします」
  千代「うん!」

 うなづく。

  千代「いいよ。お友達だもんね。詩麻さま」

 

寺子屋到着

 詩麻は慣れない距離を歩き息があがり苦しい。

  恒太郎「大人の速さで息が上がったんだな。仕方ない。これからは、お千代さんと通うからゆっくり来なさい。少しずつ慣れて行けばよい」

 詩麻以外は、準備をしている。台盤だいばんを4きゃく火鉢ひばちを3つい。火鉢にすみを入れる。寒さが最も厳しい如月きさらぎ。子供たちが来る前に温めておきたい。皆がせわしなく働くその様子を見ている。母に言われた気を回すは、今の詩麻にはできずただボーっと見るだけ。

  恒太郎「お千代さん。お昼前に鍋にこのおむすびを四つ入れて粥(かゆ)を作ってもらえますか。塩はそこの棚にあります。手が届くココに置いておきます。勉学の途中ですが頼めますか?あと、茶碗も用意しておいてください。鍋は二つで作ってください。お願いできますか?」
  千代「おむすびは今預かります。四つですね。ツネ先生と国明さまのおむすび二つずつ使えばよいのですね。鍋は二つ。わかりました。水を汲(く)んできます」
  詩麻「わたしもみずくみてつだう」
  千代「わかりました。一緒に川まで行きましょ」
  恒太郎「すべり落ちないよう注意しなさい」

 ふたりは仲良くおけを持ち、注意され振り向き手を振りながら川へと向かう。詩麻は詩麻なりの気を使ったようだ。
 子供2人で川へ向かう。祇園ギオン城の裏に思川おもいがわが流れている。思川を引き入れている支流しりゅうで水をくむ。

  恒太郎「国明殿、子供だけでは心配なので様子を見てきてくだされ。見つからないようにお願いします」

 千代たちを心配して国明に任せる。その間に、準備をして子供たちが来るのを待つ。
 四半刻しはんときほどで3人は戻って来た。無事運べたようだ。国明は帰る途中で見つかり桶を持って戻ってくる。

  国明「お恥ずかしいところをお見せしました。戻る途中で見つかり運ぶことにしました。詩麻さまにいち早く見つかってしまいました。お恥ずかしい」

 笑顔で迎えたが、隠密おんみつには向いてないことを理解。素直な性格なのだろう。これからも色々と試しながら国明を知るのも良いだろう。

  恒太郎「お千代さんも詩麻も無事で何より。そろそろ子供たちがくる。それまで火鉢で少し温まりなさい」

 「おはようございまーす」子供たちの明るい声が聞こえてきた。高い声がひびく。季節は関係なくこの明るく高い声が聞こえるのは寺子屋ならではだ。なにより無邪気むじゃきで良い。

  恒太郎「皆さんおはようございます。今日より国明先生が手伝ってくださいます。分からないことは、私か国明先生に聞いてくださいね。それと、今日から私の妹の詩麻がこの寺子屋に通うことになりました。私の妹だからといって特別扱いは無用むようです。仲良くしてあげてください」
  詩麻「みなさんおはようございます。きょうからかよいます。よろしくおねがいします」

 たどたどしく挨拶をするが、最初の挨拶としては充分よくできた。



 新しく入ると決まって、子供たちは質問攻しつもんぜめをする。今まで母親にべったりだったためか対応に苦労しているようだ。そうしていると

  女の子「はいはーい。みんな落ち着いて。詩ぃちゃん怖がってるでしょ?そんなに一度に聞かれても困るわよね。今日だけじゃないんだから。これで詩ぃちゃん怖くなって次から来なくなったらどうすんのよ!」

 囲む子供たちをかき分けて入って来たのは、商家しょうか雑貨ざっか屋の娘香与カヨ10歳。寺子屋へは2年目。年上も年下も関係なく口をはさめる強気つよきな娘。
 香与が無事仕切ってくれたのを見落とさずに確認した。これも評価ひょうかの1つでもある。来月の弥生やよいには、評価を全員にしめす。勉学以外のことも評価の対象たいしょうだ。
 詩麻は新たに友だちができた。

  香与「先生もなんで止めないんですか?詩ぃちゃんおびえてたでしょ」

 ふくれっつらで言ってくる。

  恒太郎「お香与ちゃん。ありがとうね。過保護かほごは詩麻のためにもならないからね。これくらいで通いたくなくなるならそれはそれで仕方ないと思っている。それに、みんな優しさから質問しているのだから」
  香与「ふーん。そっか。分かったわ。先生は詩ぃちゃんを特別じゃないのね」


【おかゆさん】

 お昼になる頃、千代は言われた通り台所へ向かいかゆを作り始める。その香りに子供たちがざわつく。

  子供たち「なんかいいにおいする。なんだろ」
  子供たち「どこからだろ」
  子供たち「台所かな?」
  国明「集中しなさい。お昼まではまだ少しありますよー」

 子供たちは、慣れない出来事に躊躇ちゅうちょしている。その間も一人一人の評価として記録されている。前回、食事をかこもうと話ており、はし持参じさんするように伝えてある。そこから理解し大人しくできるかどうか。評価の対象でもある。
  しばらくするとかねが鳴る。

  恒太郎「この辺で良いとしようか。皆お疲れさまでした。お昼にしますので、机を四角く囲んでもらえるかな。それと皆、箸は持ってきたかな?」

 台所へ向かい千代に指示をする。

  恒太郎「いい香りです。味見させてください。どれ」

 小皿こざらに入れて口にふくむ。

  恒太郎「塩をもう少し入れましょう。これと言ったもおかずもありませんからね。せめて塩で味が整っている方が良いでしょう」

 ふたた味見あじみをしてうなずく。

 恒太郎「鍋は私が運びます。お千代さんは、子供たちが近寄らないようにしてください。かかったら大事ですからね。それから、国明先生は、茶碗ちゃわんを用意してください」

 鍋を運び終え、国明は茶碗を運ぶ。子供たちを順番に並ばせる。

  恒太郎「いいですか?順番に並び、国明先生から茶碗を受け取ってください。受け取った茶碗は、私のところまで来て下さい。茶碗が熱くなりますので落とさないよう大切に運んでくださいね」

 ひととおり注意をしたが、無事にできるだろうか。
 心配したが、思いのほか大事な米は誰もが同じ。熱くなった茶碗も四角く囲った机に何度か置きながら運ぶ。みな真面目に真剣に取り組む。米の大事さは誰もが分かっている。

  恒太郎「みなさんが真面目に取り組んでくださったので、誰一人欠けることなくまた怪我をすることなく運べました。初めての取り組みでしたが、真面目に取り組んでくれたことに感謝します。ではいただきましょう」

 寺子屋で初めての食事が振る舞われた。たて社会の強い時代のため、どの家でも家族みなそろって食べることは無かった時代。ましてや、武家ぶけや商家、百姓ひゃくしょうの子供たちが集まり一緒に食事をするというのは考えられなかった。恒太郎が仕切しきるこの寺子屋独自どくじの食事の形である。ましてや、食べながら話すというのは礼儀れいぎとして最悪さいあくである。

  恒太郎「礼儀としては良くないが、この寺子屋では食事も大事なことだとみなにも知って欲しいので、本来の礼儀とは違うが、楽しく食べることを第一とします。食事は楽しくしましょう」

 子供たちは慣れないことで戸惑とまどいながらも決して多くは無い粥を大事に食べる。

  恒太郎「東の国では粥と言うが、西の国ではお粥さんと言うようだ。西の国の人たちは、食べ物をとても大切にするので、食べ物の前にが付き最後にが付く。少しも無駄にしないのが西の国の人々の考えだそうだ」

 さすがに、粥だけでは物足りない。改善かいぜん余地よちが必要とは思うが。それでも食べないよりかはマシだと思うようにした。大人の2人は、おむすびも食べて丁度良い。

  恒太郎「では、みな食べ終えたな。これから片付けるが、全員が台所へ行くとむので年長者ねんちょうしゃ四人を自分たちで選び、茶碗と箸を台所まで運びなさい。お千代さんはいいですよ。台所で受け取ってください。お千代さんの手伝いができる人は率先そっせんしてお願いしますね」

 子供たちは言われた通り、年長者を選抜せんばつし茶碗と箸を台所まで運ぶ。いつもと違う光景こうけいに戸惑う子供たちもいるが、みなワイワイと楽しんでいるようだ。

  恒太郎「お昼休みだ。いつもと同じで自由にしててよいぞ。危ないことだけはしないように」

 千代は台所で茶碗と箸を洗う。年長者の2人も手伝う。そこへ、詩麻も恐る恐る手伝おうとしている。

  千代「詩麻さま。お手伝いお願いできますか?」

 詩麻は手伝えるとわかると喜んでる。
 年長者は、誰の箸かわかるように注意して洗う。

  年長者「ツネ先生。箸が誰のものか分からなくなります。箸くらいは自分で洗うようにしてはいかがですか?」
  恒太郎「なるほど。それもそうだ。では、次回からそのように変えましょう。良いあんですね。今回のように案を持ってくることは歓迎かんげいします。それを判断はんだんするのは先生のつとめです。ありがとうございます」

 お昼の食事は特別問題なく進められた。子供たちは全員食べることができ喜んでいる。改善点はあるが、改善点を子供たちから教わるのも自身の成長にもつながる。
妹の詩麻が通うことになりました。大事にしてあげてください。早速妹に友達が出来ました。雑貨屋の香与。チャキチャキな娘ですが、優しい性格が滲み出てます。妹のことよろしくね。
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