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残酷な描写あり
9話 佐々木国明
【これまでのあらすじ】

 明治生まれの常太郎。大阪の材木商で丁稚生活。旦那衆に認められ単身四国へ。道中地震に遭い命を失う。常太郎の先祖である徳川幕府2代将軍徳川秀忠の時代へ転生。わずか100石の分家の嫡男として転生。右肩に大きな火傷を負う。体格の良さと前世での記憶と知識を兼ね備えた優秀な人材。知識と人柄から寺子屋の経営を譲られる。大御所の死去に伴い、父恒興は小山を発つ。戻る恒興は慣れぬ作業と膨大な刻を経るが、体調を崩しやすくなった事で恒興は隠居し恒太郎に当主の座を譲る。正純から転生者であることを指摘。
正純からの新たな使命は、師範を増やすために育成をせよ。50石の加増を受ける。
【募集】
如月きさらぎ

 早速さっそく、浪人探しにとりかかる。寺子屋前に張り紙。師範代募集しはんだいぼしゅう告知こくちをした。
 給金きゅうきん分金ぶきん。住み込み。3食付き。子供が好きであること。真面目な人もとむ。

  恒太郎[このような内容で来る人はいるのだろうか。けっして敷居しきいは高すぎないが、給金が安いと言われそうだ。給金はせない方が良かったのだろうか。だが、私につかえる金は同じくらい少ない。これ以上出すのはあまりにもきびしい]

 かなりの低給金に心配をする。この時代では、3食付きは珍しく腹いっぱい食べれると言うだけで価値を高くする浪人はいた。
 数日が経過けいか。ひとりの浪人が来る。子供たちが集まる前に来た。なかなか気持ちの良い男だ。そのまま中へまねく。

  浪人「張り紙を見てまいった」
  恒太郎「よくおしくださった。ささ、上がられよ。茶を入れてこよう。上がって待っててくだされ」

 おそる恐る上がる。奥で茶を入れる間、鼻歌はなうたをつい口ずさむ。

  恒太郎「そこへお座りくだされ」

 笑顔で迎えられる。

  恒太郎「まぁ、お茶でもすすってくだされ。外は寒いでしょう。少しでもあったまってくだされ。お口に合うか分かりませんが」
  浪人「ではいただく」
  恒太郎「まだ如月きさらぎの上旬ですからな寒いのは当然。それで、張り紙を見てお越しになられたのですね?よくぞお越し下さった。落ち着きましたら自己紹介じこしょうかいしてくだされ」
  浪人「では。生れは、陸奥ムツの国の会津藩アイヅはんに仕えていた佐々木国明ササキクニアキとしは、二十一。出来れば、仕官しかんのぞんだのですが時代がようやく落ち着きだしたばかり。私のような武人ぶじんは好まれません。各地をまわっていたのですが、面白い張り紙があったので声を掛けさせていただきました」
  恒太郎「そうですか。待遇たいぐう面は見ていただけましたか?二分金にぶきんとかなり安い給金きゅうきんですが。その代わり、主な仕事は寺子屋の師範代しはんだいや子供たちを送るくらいなものです。住み込みですし食事は三食です。給金をどのような使い方をしても結構けっこうです。ただ、博打ばくちにのめりこんだり他者たしゃへの迷惑めいわく行為こういは、おことわりしています。そのあたりなどをまえてお答えください」
  国明「博打は苦手です。現に浪人として生きていくことになったのは、人生の博打に負けたからでもあります。毎日を安心して過ごせるのであればこれ以上の事はありません。私は独り者ですが、子供には好かれやすいようです」

 受け答えが出来質問にも答えられる。人間性は良い方だろうと認識にんしきする。

  恒太郎「では、少し試めさせていただきます。間もなく子供たちが来ますので、それまでここでお待ちください。お茶でもすすってゆっくりしていてください」

 試めすという言葉とここで待つと言う言葉。なにを試されてるのか分からない。その上、茶を飲んでくつろげと言われて困惑こんわくする浪人。主人の気持ちがよく分からない。
 「せんせーおはようございます」元気な声が徐々に広がっていく。

  男児「あれ?このお侍さんだれ?」
  恒太郎「おはよう。この方はね。ひみつです」
  男児「そっかー。わかったー」
  千代「若さま。おはようございます。なにかお手伝いしますか?」
  恒太郎「お千代ちゃんおはよう。そうですね。火鉢ひばちスミを入れて置いてください。火傷やけどには注意してくださいね」
  千代「わかりました」

 子供たちが集まった。まだわいわいとさわいでいる。今日もみな元気なようだ。

  恒太郎「みなそろったかな?では、今日は特別講師こうしが来てくださってる。こちらの方だ。えーとお名前をみなに聞かせてくだされ」
  国明「えっ!?あっはい。私は、陸奥の国の会津藩につかえて」
  恒太郎「挨拶がかたいですね。名前と得意なことをお願いします」
  国明「失礼しました。では改めて、佐々木国明と申す。刀の稽古けいこは得意ですが、教えるのは初めてです。読み書きや計算は出来ます。よろしくお願いいたす」
  恒太郎「今日は、国明殿にも手伝ってもらいながら進めます」

 国明に子供たちの勉強を見るよう指示し、全体を見ている。
 少しぶっきらぼうなところが見られるが、ひとりひとりに対して真面目に取り組んでいるのが見られる。なかなか良さそうな人材だ。



【結果】

休憩きゅうけい

  恒太郎「国明殿。人に教えることは過去に少しでもやってたのでは?」
  国明「いえ。初めてです。おそるおそる々やってる感じです。怖がられないよう気を付けてます。いざやってみると色々と思い出して楽しいですな」
  恒太郎「楽しんでもらえて何よりです。ここの寺子屋は、いつもこのような形で進めています。子供たちの目標もくひょうは、人それぞれ違いますが、文字が読めて書くことが出来、簡単かんたんな計算ができるようになるのが目標であり目的です。高度こうど勉学べんがくはしておりませんが、望むのであれば、なにか手を打ちたいと考えています。ですが、まだまだこの寺子屋ではそれだけの余裕がありません。ですので、今の寺子屋で長く働ける人を募集していました。国明殿が可能だと言うのであれば一緒に働いて欲しいですね。形としては、私の家臣かしんとなります。私はまだ名乗なのってませんでしたね。小山藩藩主オヤマはんはんしゅ 本多弥八郎正純家臣ホンダヤハチロウマサズミかしん本多恒太郎ホンダツネタロウと申します」

 藩主どころか江戸の中枢ちゅうすうである老中ろうじゅうの家臣だということを知り恐れる。寺子屋師範だけの少年かと思われていたようだ。

  国明「失礼いたした。随分ずいぶん若い主人で、藩主様の御家臣だとはつゆ知らず」

 恐れるあまり平伏へいふくしている。

  恒太郎「すみません。そこまでしていただくほどじゃないのです。私は、正純様の家臣ではありますが、少しばかりのろくもらっているだけに過ぎません。また、遠い縁戚えんせきですので、一族のような扱いはされてません。私は、国明殿より年下です。今年十五になりました。年下の家臣が嫌であれば、断っていただいても結構です」

 あまりにも下手したてに出られたのにおどろく。年齢などを正直に話す。まだまだ子供である。恒太郎は、元服げんぷくこそすれど、前世では手代てだい見習いでしかなく、人材発掘はっくつのような経験をしたことが無い。まだまだ子供なのである。子供の家臣になれと言われて浪人が飛びつくのは気持ちが追い付かないのであろう。

  国明「丁寧ていねいな自己紹介ありがたく思います。私はどんな形でも良いと思い声を掛けさせていただきました。軽い気持ちなどありませぬ。主人が年下なぞ関係ありません。そのようなお家はどこでもあること。寺子屋でよい働きを見せましょう」
  恒太郎「それは良いですね。それでは、今日一日お任せします」

 試験はまだ続いていることは伝えず、気分の良いうちに取り組んでもらった。国明は真面目な性格なのか、細かいところまで気が回る。
 お昼になったので、帰る子供もいればそのまま残り夕方近くまで残る子供もいる。ひとまず、お昼ということもあり、カメ特製とくせいのおむすびの1つを国明に与え、昼休憩をする。
 子供たちは、持ってきている子もいれば、遊んでいる子もいれば寝てる子もいる。おのおの々上手に時間を使っているようだ。

  恒太郎「今日は誰が来るとかわからなかったので、おむすびはひとつになりますが、家臣になれば、お昼はふたつになります。おむすびひとつでもお腹いっぱいになるので、腹をかせてる子供がいたら分けてたんです。昼休憩はひとつ食べ、夕方前まで残っている子に分けて食べてもらってます。おむすびを分けるのは難しいのであまり均等きんとうに分けられていません」
  国明「でしたら、かゆにするのはいかがですか?粥にすれば、湯でふやけていくらか増えたように感じます。また、茶碗ちゃわん一杯でも多く感じるでしょう。恒太郎さまと私のおむすびを一つずつ粥にすれば、全員に行き渡るのではないでしょうか?」
  恒太郎「それです!それはいいですね。面白いです。国明殿。あなたのような人を待ってました。是非ぜひ次回からそれで行きましょう!」

 勉学の時間が終わる頃に伝える。

  恒太郎「終わる前に一言あります。聞いてください。明日よりお昼が出ます。立派なものではありませんが、皆で一緒に食べましょう。身分など元よりこの寺子屋にはありません。家に帰ったら父上や母上に相談するようにお願いします。はし持参じさんしていただけると助かります」
  子供たち「ほんと?すごい!せんせいと一緒に食べれるの?楽しみ」
  子供たち「お昼食べたことないけどいいのかな」
  子供たち「どんなおひるだろ」

 迎えに来た親からは聞いたことも無い提案ていあんに驚いている。

  親「先生。初めて聞くことなので驚いてます。それで先生たちは足りるのですか?わたし達に手伝えることはありませんか?」
  恒太郎「今日のお昼に決まったことなんです。急で申し訳ありません。皆が楽しく学べる場所として、昼の食事も楽しければ、通うことが楽しくなります。親の皆様には迷惑めいわくをかけないようつとめます。できれば、箸だけは持参していただけると助かります」
  親たち「それは別に良いのですがね。寺子屋に支払っている額がピンキリとはいえ少ないでしょう。本多様もその。。なんというか。。」
  恒太郎「そうですね。当家は百五十こく贅沢ぜいたくは出来ませんが、粥くらいならえると思います。しばらくは、粥だけとなりますが、食べないよりかはマシだと思ってもらえたら嬉しいですね」
  親たち「粥ですか。なるほど。それなら」

 軽い食事という意味だと理解してもらえた。これで、おくする親は少ないだろう。

  恒太郎「国明先生。すみませんが、お千代ちゃんと買い出しに出ていただけますか?茶碗を二十ほど購入こうにゅうしてもらえますか?代金だいきんはこれで足りるようお願いします。なるべくれとけてないものをお願いしますね。計算はお千代ちゃんに任せてください」

 ふたりは、ぎこちなく手をつないで買い出しに出かけた。その間、明日の準備や片付けをする。言い忘れたことに気づいた。落としても丈夫な木製もくせいの茶碗だと伝えるのを忘れていた。少し気にしながら待つ。

 しずみ空が暗くなる頃ふたりは戻って来た。

  恒太郎「おお。待ってましたよ。いかがでしたか?茶碗はそろいましたか?」
  国明「ガラはバラバラですが、安く買えました。計算は、お千代さんが懸命けんめいに計算してくれましたよ。すばらしいですね。いくつかまとめて買うので割り引くことをお千代さんが話を付けてくださいました。ですので、お釣りがありますのでお返しします」
  恒太郎「そうでしたか。良い仕事をしましたね。お千代ちゃん。いえ、お千代さん。計算が実践じっせんで出来たのは大きいことです。成長しましたね」

 千代の頭をなでる。良いことが出来た時は素直にめる。国明にそれが言葉で出来る人物であり、欲してた人材だとわかった。

  恒太郎「国明殿。採用さいようします。今日から当家へお越しください」
  国明「ありがとうございます。ご一緒させていただきます」
  千代「若さま。若先生。一緒に帰りましょ」
  恒太郎「そうだね。お千代さん。私の事は若さまではなく、先生と呼ぶか名前で呼ぶようにして下さい。国明殿とごちゃついてしまいます」
  千代「わかりました。ツネ先生と呼ばせてもらいます。暗くなりましたので帰りましょ」

 3人は、張り紙を外し、千代を真ん中に横に並ぶようにして帰った。
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