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残酷な描写あり
7話 本多家分家
【これまでのあらすじ】

 明治生まれの常太郎。大阪の材木商で丁稚生活をしていた。旦那さんと手代さんに認められ単身四国へ。道中に地震に遭い土砂崩れに巻き込まれ命を失う。常太郎の先祖である徳川幕府2代目将軍徳川秀忠の時代へ転生。
 100石の分家の嫡男として転生。
 右肩に大きな火傷を負い腕が上がらない。その他は健康。体格の良さと前世での記憶と知識を兼ね備えた優秀な人材となる。元服し名を恒太郎と改名。知識と人柄から寺子屋の師範になり経営することに。
 大御所と言われた徳川家康の死去に伴い、父恒興は江戸に発つ。暫くし戻ると慣れぬ作業と膨大なときを経て屋敷に戻ると体調を崩しやすくなる。

二毛作にもうさくはじめました】
水無月みなづき

 大御所おおごしょ徳川家康トクガワイエヤスくなり静かに送り出された。その2カ月後、主君しゅくん本多正純ホンダマサズミの父本多正信マサノブが家康の後をうように。ではなく、後を追い亡くなった。正信の死去しきょは近年現在の子孫しそんによりわかった。死因しいんは飲まず食わず家にこもいのり続け亡くなっている。
 これにより、2代将軍徳川秀忠ヒデタダの政治がようやく始まる。

 家の者と所領しょりょうの百姓の代表である名主なぬしらを呼んだ

  恒興「忙しい中良く集まってくれた。先日正信様がお亡くなりになられたのを知ってるものはいるだろうか。葬儀そうぎには正信様のご家来衆けらいしゅうと我ら正純マサズミ様の家来衆が集まりしゅくしゅく々と進んだ。その間、皆よく守ってくれた。これからは、秀忠様の時代となる。老中ろうじゅう正純様の活躍かつやく期待きたいされる。そのためにわれらはささえることになる。半年前に、我が嫡男ちゃくなん恒太郎の助言じょげんを元に二毛作にもうさくを本格的に始めて行こうと考える。今年の秋に植えるたねなえの準備をしてほしい。くわしいことは、恒太郎から聞いて取り組んでくれ」
  恒太郎「はは。では、三つに分けて作物を作ろうと考えています。一つは、かぶ。 昨年取り組んで成功しているので今年はひろげていく。二つ目は、大根。地中ちちゅうにあるから昨年のような寒さでもえられるだろう。土は休ませた方が良いと聞いてはいるが、ものは試しだ。やってみようと思う。最後の三つ目は、ネギを植えてはどうかと考えている。異論いろんのある者は遠慮えんりょすること無く言ってほしい」

 百姓たちは素直に取り組む。冬の間のらぬ手作業を減らせるのと土を触っている方がしょうに合うとして、自分たちが出来ることで正純の配下はいかである当主とうしゅ恒興を支援しえんしたいと願った。


文月ふみつき

 今年の夏も暑くならない。天候てんこうが悪く作物の育ちが悪い。収穫しゅうかくるだろう。だが、二毛作が上手く行けばしのげるかもしれない。百姓たちの気合が入る。
 恒太郎は今後の目標もくひょうのためにとコメカミを押す日が増えた。ひまがあれば考える時間を作り考える。自分は何のためにこの時代に来たのか。今分かっているのは

  恒太郎[殿とのである正純を助け、江戸幕府を支えることだ。しかし、当家は規模きぼが小さく発言はつげん力が弱い。だがそれだと江戸幕府はもっと短命たんめいだったのではないか?260年続くのだからそれ以外の事なのでは無いか?それはなんなのか。自分がこの時代に転生てんせいした理由を知りたい。とりあえず、当家を調べてみよう。出てこない。存在しないのか?それとも知られてないだけなのか?どうせ、また夢で見るだろう。あの男に。では、正純殿を調べたらなにか分かるかもしれない]

本多正純で調べた。

  恒太郎「ほう。うんうん。なるほどね。。んん?これは!?」

 その日の夜、またあの男が出てきた。

  大男「よう!ツーネちゃん。どうしたの?難しい顔しちゃって」
  恒太郎「待ってたぞ。お前に聞きたいことがある」
  大男「なんだーい。ぼくのスリーサイズかな?スケベなんだからもう。上からぁ」
  恒太郎「そういうのはいいから。って、すりー?なんだそれ。お前が言った考えたら出て来るというあれで調べたが、なぜ当家は出てこない」

 大男は、片目をつぶり左手であやま仕草しぐさ

  大男「そりゃ出てこないよ。歴史書にもわずかにしか出てこないしぃ、そもそも何か記録きろくに残るようなことをしたわけじゃないですしぃ。まぁ端的たんてきに言うと無名むめいなんだよ」
  恒太郎「なるほど、合点がてんがいった」

 大男は、目を丸くする

  大男「あれあれ?納得なっとくしちゃうんだ。すごいなぁ」
  恒太郎「だってそうだろ?百石なんて規模が小さすぎる。名を残していたら私は、農民では無かっただろう。丁稚でっちに出されることも無かっただろう。だから、合点がいくんだ」
  大男「なるほどね。やっぱ、ツネちゃんは面白いわ」

 腹を抱えて苦しむ男

  恒太郎「それはそんなに重要じゃないんだ。それよりもなんだこのつり〇〇事件じけんとは。他はなぜ事細ことこまかに書かれているのに、このつり○○事件だけはせられてるのだ。事件ということは、人が死ぬのか。その事件で、誰かが仕掛しかけたのか?家中かちゅうか?それとも」
  大男「あーそこまで見ちゃったんだねー。えっちー。うんそーだよ。それがキーワードだね。正直どこを隠してんだよって言いたいよね。わかるよわかる。事件こそ隠せって話だよね。わかる。で、ツネちゃんはそれを見てどう思ったんだい?」

 おおよそ分かっているのにえて本人の口から聞こうとたずねる。

  恒太郎「ひょっとして、このつり○○事件を回避かいひするために私はこの時代に来たのか?それ以外の答えは無さそうだな。てか、きーわーどってなんだ。さっきから聞いたこと無い言葉で話すな。ボケてるのだろうが、お前のボケはわからん!!」

 最後のひとことは重要なのか?恒太郎よ。

  大男「わかってるんじゃーん。そうだーよん!」

 両手の人差し指を恒太郎に向けて言う。

  大男「君の最終目標さいしゅうもくひょうは、つり○○事件を回避することにある」

 真面目まじめな顔してというか目も鼻も口も無いが、雰囲気ふんいき察知さっちする。

  恒太郎「だろうな。だが、当家は百石と発言力が弱い。今後私が当主になるのはいつになるかわからんが、歴史を変えれる力なんて無いぞ」
  大男「えーもうあきらめるわけぇ?なんだか拍子抜ひょうしぬけだなぁ。ツネちゃんなら面白いことやってくれると思ったのにー。何のために、前世ぜんせ記憶きおく能力のうりょくを残して、考えたら出て来る便利べんりなシステムを付けてあげたと思ってんのよ。そっかぁ。ツネちゃんはもう諦めちゃうんだ。そうか。そっかそっか。でもそれもまた面白いね。どんな転落てんらく人生が見れるのか。ツネちゃんは武家ではなくなり西へ流れていくさまを見せてくれるんだね。うんうん。こっちはこっちで楽しいな。いいぞ。好きなようにしなさい。自分で選択せんたくするのだ」
  恒太郎「なんだよ。父上みたいなこといいやがって。流されずにあらがってやるさ。せっかく、教えてくれたんだからな。いいよ。歴史かえてやるよ。見てろよ?」

 恒太郎が啖呵たんかを切ったところで目が覚める

  恒太郎「なるほどな。デカイ目標が出来たな。いいさ。抗ってやるさ」

 ふすまから顔を出し聞いてくる

  詩麻「おにいちゃんどうしたの?ねごと?それともひとりごと?」

 説明しても伝わらない。寝たふりをする恒太郎だった。





 とある1日の恒太郎

葉月はずき

 恒太郎の1日をみてみよう

明るくなる前に起きる
太陽が昇る頃に朝食
太陽がまぶしくなった頃に準備と書物を読む
周りが明るくなった頃に寺子屋へ
昼過ぎまで教鞭きょうべんをふるう
遅めのお昼は、カメお手製てせいのおにぎり
食べ終えたら少し寝る
次回の準備をしながら書物に目を通す
夕方、子供たちを迎えに来た親たちと談笑だんしょう
帰宅きたく、千代とは同じ方向なので一緒に帰り送る
千代たちと畑作業の手伝い
日が暮れて夕食。風呂
翌日の授業の準備
睡眠

 千代との帰り道

  千代「ツネ先生はすごいね。どうやって計算覚えたの?」
  恒太郎「父上から教わったんだ。みんなが見てないうちに、幸綱ユキツナ先生からも教わってたんだよ。知らないと教えられないからね」

 すべてウソである。前世の記憶を使っているだけである。

  千代「ふーん。ツネ先生の事好きだけど、先生がどんどん遠くに行っちゃうような気がして。。少しさびしいんだ」
  恒太郎「そんなこと無いさ。私は私のままだよ。お千代ちゃんは、私の話し相手になってくれる唯一ゆいいつの友だ。こうして一緒に帰ってくれて私は嬉しいよ」
  千代「ずーーーーっと一緒だったらいいな」



のぞきは犯罪はんざいです】
長月ながつき

 収穫しゅうかくが終わり、あらたな作付さくづけをしていそがしいからなのか、それとも、冷夏れいかにより早く秋が来たことでなのか。恒興ツネオキの体調が悪くなることが増えてきた。せきをすることが増えた。薬師くすしからは労咳ろうがいかもしれないとして、屋敷のはなれに住むようになった。それ以前から身体からだを悪くしやすかった。大坂オオサカ夏のじんで、正純の息子正勝マサカツの陣にくわわり槍働やりばたらきをしたさいに、足に銃創じゅうそういその後も登城とじょうの出来ないことが多々あった。家康の葬儀そうぎの手伝いで体調をくずしたのが要因よういんかと思われる。体調があまり戻らなかったところへ、労咳と思われ寝込ねこむことが増えた。恒興はひとりでんでいる。その手伝いに、下男げなん彦作ヒコザが助けている。
 下男とは、力仕事を主にした農民であとげない三男さんなんなどが賃金ちんぎんもらって働くことが多い。がくが無い者をやとうことはあるが、上位じょうい武家になると礼儀れいぎのある人物がこのまれる。

 労咳とは今の結核けっかく


神無月かんなづき

 とある日の恒太郎。寺子屋で教鞭きょうべんをふるっていた。特に生活が変わることも無く、子供たちからは、ツネ先生とばれ和気わきあいあいとした生活を楽しんでいた。
 恒太郎の先生ぶりに興味を持つ人がいた。どのような教え方をしているのかと気になりのぞきに来たのだ。ただ1人で。

  ??男「あれが、話に聞く恒太郎か。わずか十四で師範しはんとは。どのようなものかと思えば、身体が大きいだけでなく、子供相手に言葉遣ことばづかいが美しく面白い教え方をしているな。わしが以前に聴いた時は、まったく興味の無い凡人ぼんじんだったが、なかなか面白い青年せいねんだ。一度、話を聞いて見たい」

 ブツブツとひとり言を言いながらかさで隠しつつ覗いてる奇妙きみょうな男。どこからどう見てもあやしい男。カタをトントンと叩かれ振り向く。そこには町方まちかた役人やくにんが立っている。

  役人「あーもし。そなたはそこでなにをしておる。少し話を聞かせてはもらえんかな」
  ??男「いやいやいや、何でもない。何でもないぞ。変わった教え方をすると話題になっておったのでな。ちょっと興味があったまで」
  役人「わかったわかった。怪しい者ほど否定ひていする。とりあえず番所ばんしょまで来てもらおうか」
  ??男「いやいやいやいやいやいや、すぐ帰る。長居ながい無用むよう!」
  役人「うんうんわかった。とりあえず番所にだな」
  ??男「ちょっと待て。儂の顔を見忘れたか」

 顔を隠すようにしていた笠から覗かせる。

  役人「ん?なんじゃ?も。もう。もう。申し訳ございませぬ!どうか。どうかお許しを」
  ??男「よいよい。では、これにて失礼」

 さわぎにならぬよう、指を口に当てて「シー」。そのまま男はっていった。
 本多正信の死去のことは、正純の子孫である木村敦明様の講演などを参考に書いております。
 一般的には、自称と言われておりますが、徳川記念財団の講演会などに本多正純子孫として参加されております。
 
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