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残酷な描写あり
5話 寺子屋
寺子屋てらこやへ】

 翌朝よくあさ、父と一緒に寺子屋へ向かう。恒興ツネオキ師範しはんにこれまでの経緯けいいを伝えよろしくたのむと言い、城に戻る。太郎は、勉強ができることがうれしく息巻いきまく。

  太郎「ふん!ふん!」
  師範「太郎さま。かたに力が入ってますよ。落ち着いて行きましょう。私の名は、板橋幸綱イタバシユキツナと言います。子供たちからは、先生と呼ばれています」
  太郎「息をととのえます。スーハースーハー。太郎と言います。よろしくお願いします。幸綱様はお武家ぶけかたですか?」
  幸綱「ははは。過去の事です。この下野シモツケで育ち武士ぶしとしてつかえて来ましたが、今は寺子屋の師範をしてます」
  太郎「そうでしたか。これからよろしくお願いします」
  幸綱「太郎さんは、休んでる間書物を読んでたと聞いてます。どれほど読みましたか?」
  太郎「父上からいくつかお借りしましたが、読み終えて何度も読み返してました」
  幸綱「そうですか。では理解は出来てるのですね。それは話が早い。とりあえず今日は様子を見てどういうことを学びたいのかなど言ってください」
  太郎「はぁ」
  子供たち「せんせぇこんにちはー」

 子供たちの声がする。年齢ねんれいはバラバラのようだ。

  女の子「あ!若さまじゃないですか!?」

 聞き覚えのある声と若さま呼ばれている。声のする方へ振り向くと千代だった。千代は手を小さく振っている。

  千代「若さま早いですね。わたしいま来たところです」

 昨日、千代にしばらく会えないようなことを言ってしまったことにずかしくなり赤くなる太郎。まさか、千代も寺子屋に通っているとは思っても無かった。

  千代「どうしたんですか?若さまのお顔真っ赤ですよ?」
  太郎「。。。」
  幸綱「みなさん集まりましたね。では、始めていきましょう」

 勉学が始まった。本人の出来により教えていることはバラバラだ。効率こうりつの悪い教え方だと思いながらも教えられる先生が1人に対して15人もいるのだ。仕方ないことだろう。太郎はとりあえず簡単な読み書きは見てるだけだった。ひまそうにしてる太郎を見るとなりの席の子供たちが、太郎に話しかける。

  男児だんじ「ねぇねぇタロちゃん。いつもとなんかちがうね。どうしたの?わからないことでもある?それともかわや?」
  太郎「いや大丈夫だよ。ただ、思ってたのとはかなり違うなと思ってね。それとその文字の点を付ける場所が違うぞ。下では無く右上だ」
  男児「あれ?ちがうの?にててわかんないや」
  太郎「大の右に点を付けるとイヌだ。ワンワンのほうな。大の下に点をつけると太いになる。私の名前の太だ。右上に付けると犬郎になってしまうのだ」
  男児「そうなんだ。タロちゃんワンワンになっちゃうね。ワンちゃんかわいいからおぼえておくね。タロちゃんありがとう」

 太郎は書いて覚えるというだけでなく、意味やり立ちなどから教えるため覚えやすいと子供たちから質問しつもんを受ける。

  女児じょじ「じゃあこの水と氷と永は?」
  太郎「そっくりだね。水がこおったのを氷と書くでしょ。固まったよと分かるように点を付けたんだ。これで違いがわかるだろ?永と氷は似てるけど、永はそもそも水じゃない。それさえ覚えておけば間違えないと思うよ」
  女児「へぇ永って水じゃないんだ?覚えとこ」 

 かたむき、寺子屋が終わるはんから幸綱は太郎を呼びだした。

  幸綱「太郎さん。今日はどうでしたか?子供たちに囲まれてましたね。おかげで私は暇になり楽できました。太郎さんは、教えられるより教える/iにいた方が良さそうに思います。教え方がやさしく分かりやすい。教える方が太郎さんも楽しいでしょう。私一人では全員に目が向けられません。手伝ってはいただけませんか?」

 思わぬ申し出に驚きを隠せない。

  太郎「ありがとうございます。過分かぶん配慮はいりょに感謝します。私一人では決めれませんので、父上に伝えてまいります」
  幸綱「もちろんです。良い返事へんじをお待ちしてます」

 心配して待つ。

  千代「あっ、若さま。お話終わったんですか?」
  太郎「おや?待っててくれたんだ。帰ろう。一緒に帰ろう。大丈夫。心配するようなことじゃないさ」

 屋敷に戻り父と会話。

  恒興「どうだった。久しぶりの寺子屋は」
  太郎「楽しかったですが、少し物足ものたりなく感じました。父上。実は、先生の幸綱ゆきつな様より手伝ってほしいと言っていただきました。よろしいでしょうか。私は教えながら学ぶことが大きいと考えてます」
  恒興「そうか!それは良い。太郎のやりたいことをしなさい。太郎が自分からやりたいことを伝えてくれるとは。嬉しいなぁトラよ」
  トラ「ええ。ホントですね。太郎あのこが」

 以前の太郎は、勉学が苦手で自分の意見を言わない子供だった。

  恒興「では、次回も一緒に行き幸綱様と話すこととしよう」
  太郎「父上、思いをんでいただきありがとうございます」

 太郎は嬉しさで、千代との赤面せきめん再会など忘れるほど。詩麻は、両親の喜ぶ姿を見て微笑ほほえんでいる。

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