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残酷な描写あり
4話 正月
【百姓魂】

  太郎は百姓ひゃくしょうの千代と別れ、屋敷やしきへと戻る。

   太郎「戻りました。久しぶりに歩いたらむねがスッキリしました」
   カメ「戻られましたか。ささ、お食事できてます。おし上がりください」

  おにぎりが2個と漬物つけものがおぜんに出されている。

   トラ「太郎さん。外はどうでしたか?」
   太郎「母上。百姓と話しましたが、この時期じき作物さくもつは作っていないのですね。とりあえず、大根は冬の野菜ものだと伝えました。作らせてはどうでしょう」
   トラ「なんと。それは本当ですか?秋に収穫しゅうかくした後はすることが無いからと手作業をしているのですよ。石高こくだかやせますね。らしが豊かになるのであれば良いことです。あの人に話しておきましょう」

 しばらくすると父恒興ツネオキが戻る。
 恒興は戻るとトラより太郎が外へ出て百姓と会話をしたことを伝えた。農作物の追加ついかを話す。
 
  恒興「戻った。太郎が元気になって来たようで何よりだ。夕食までしばらく話しておこうか。まず、百姓と話したそうだな。どうだった」
  太郎「畑が広く土も良い。良い畑でした。ですが、この時期は農作物を作らないようでしいなと思い、しゅん野菜ものを伝えてみました。試しに植えてみてはどうかと。ただ今から植えるのは遅いですが、試しなのでかぶすすめてみました。勝手な行動でしたら謝ります」
  恒興「そのような知識ちしきはどこからだ。お前はどうも人が変わったように感じる。思い付きで行動するのは感心かんしんしないが、私もそのような話は聞いておる。しかし、試しに百姓を動かすのは良いとは考えない。前例ぜんれいの無いことは無駄ムダに終わるかもしれないからな。そうか。太郎がそのようなことを」
  太郎「出すぎたマネをして申し訳ありません。ひかえます」
  恒興「いやいや、一度にいくつもの試しに植えるのは賛成さんせいしないが、ひとつにしぼるのであれば良い。少しずつ増やしていけば良い。なにより太郎が土の良さを理解しているのがうれしく思う。私たちは、武家だが米や根菜こんさいを作る。そうでなければ、成り立たんからな」
  太郎「父上、お聞きしたいことがあります。ここはどこなのでしょうか?」
  恒興「こことはどういうことだ?」

 おどろく恒興。なにもかも忘れてしまったのか?だが、身体は丈夫じょうぶ火傷やけどなおりも早い。はつらつとした太郎に嬉しくもある。なるべく答えていこうと決めた。

  太郎「父上。他の者には言わないでいただきたいのですが、出自しゅつじのことはカメから聞きました。私は、記憶きおくを失ってるのやも知れませぬ。そういう意味でここはどこなのか。というのを思い出せません。教えていただけませんでしょうか」 
  恒興「大事なことだ。言わんから安心せよ。ではじゅんに答えて行こう。ここは、下野シモツケの国小山藩オヤマはん三万三千石サンマンサンゼンゴクだ。本家ほんけ本多弥八郎正純ホンダヤハチロウマサズミ様で、当家とうけはいくつもある分家ぶんけの内の一つ本多家だ。正純様のお父上の正信マサノブ様の代から武家として当家は百石ひゃっこくで取り立てていただいておる」

 なんと、家康いえやす参謀さんぼうである正信の息子正純につかえる家柄いえがらだった。

  太郎「なるほど。それで私は嫡男ということなのですね。カメからきましたが、私には兄弟がいるようですがまだ見ておりません。どちらに」
  恒興「うむ。二郎・三郎は養子ようしに出していてな。二郎たちは家にはおらんのだ。それぞれ養子先で家をぐ予定になっている。だから、嫡男のお前が死なれたら家は断絶だんぜつする。無事で本当に何よりだ。私と違い体力のあるお主なら無事戻ってくると思っておった。それと妹の詩麻シマはトラたちが太郎に付きっきりになると思いほかへ預けておる。じきに戻るだろう」
  太郎「強い身体からだ感謝かんしゃしてます。なるほど。そろそろ元服げんぷくの時期が近いと思いますが」
  恒興「そうだな。来年の春頃には元服させても良いと考えている。それまでにしっかりと動けるようにしておきなさい。年明けから再度寺子屋さいどてらこやに通うようにしよう。それまでに私の書物しょもつでも見ておきなさい。畑仕事は、この時期は見ての通りひまだからな。これからは学問がくもんが大切になるから心しておきなさい」
  太郎「父上わかりました。時々、外に出て畑を見て回ります。明るい時間に書物を色々と読んでいようと思います」
  恒興「じかん?んん。うむ。本当に人が変わったようだ。だが、良いことだ。正純様へ胸をって会わせられるぞ」
  太郎「はは」



記憶力きおくりょく

元和げんな2年正月

 太郎は14歳になった。当時とうじは数え歳だったため、生まれて1歳。正月で全員1歳としを取る。

  恒興「正月だからな。詩麻シマが戻って来たぞ。太郎は元気になった。さぁ挨拶あいさつしなさい」
  詩麻「あけましておめでとうございます。おにいちゃんげんきになってよかったね。しんぱいたくさんしたんだよ。またかたぐるましてね」
  恒興「太郎がもっと元気になったらやってもらいなさい」

 詩麻9歳が家に戻って来たことで家に活気かっきが戻る。
 太郎は毎日書物を読みあさった。時代の流れを知ることが出来た。あの大男が言っていた「思い出すように考える」をやってみたが、出てこない。仕草しぐさが必要なのかもしれない。色々と試してみたところ1つわかった。き手をコメカミに親指で押すと脳裏のうりに浮かんでくる。

  太郎「めんどくさ」

 最近起きたことを知ろうとすると見慣れない写真のようなものが見えた。文字がたくさん出て来る。元和2年を調べた。

  太郎「一六一六年なのか。二九三年も前に来てしまったのか」

 太郎が生まれたのは、1602年。前後の年も調べる。

  太郎「一六零零年関ケ原せきがはらの戦い!?天下分け目!?」

 尋常ジンジョー小学校では、主に計算と読み書きそれと礼儀れいぎを教わっていた。歴史れきし材木商ざいもくしょう丁稚でっちには必要ないと言われていた。それでも、関ケ原の戦いくらいは知っていた。太郎は混乱こんらんする。とんでもない時代に来てしまったのだ。
 1601年・1602年と調べるもあまり大きな出来事は無いようだ。生まれた年の翌年を調べると。

  太郎「お、お、おお。江戸幕府えどばくふだと!?」

 混乱しつつも調べるとどんどんと出て来る。

  太郎「なんて便利べんりなんだ。コメカミを押すだけで知らないことが頭に流れ込んでくる。これがあれば、勉強することもらないじゃないか!!」
  トラ「太郎さんどうかしました?」
  太郎「イエ!ナニモ!!チョット。ちょっとおどろいただけです」
  トラ「??」

 気を取り直し。

  太郎[父上はこれからの時代は、学問が重要じゅうようだといた。私の経験はかせるのだろうか。寺子屋というのは、尋常小学校のような場所なのだろうか]

 楽しみだと心躍こころおどらせる。

 妹の詩麻は、寺子屋には行かず、母の手伝いをしている。そのためか、言葉遣ことばづかいがつたなおさない。
 息抜いきぬきに畑を見て回る。太郎が畑に行くと百姓は喜ぶ。若さまと声を掛けて来る。太郎は手をこたえた。たまに千代と話し丁度良い話し相手になる。

  太郎「お千代ちゃん。私はまもなく寺子屋にかようようになるようだ。話し相手になってくれてありがとう。これからは機会きかいるかもしれないが、ちょくちょく畑にも顔を出す。その時にまた話を聞かせてくれ」

 千代はポカンとしているのをよそに屋敷に戻るる。

  詩麻「おにいちゃん。たのしいといいね」
  太郎「うん。ありがとう。詩麻も一緒に行けるといいのにね」
  恒興「詩麻は、トラの手伝いが今は重要だからな。では、太郎。明日より寺子屋へ通うこととしよう」

 久しぶりの勉強が楽しみでならなかった。楽しみで寝つきが悪いほど。
 翌朝よくあさ、父と一緒に寺子屋へ向かう。恒興は師範しはんにこれまでの経緯けいいを伝えよろしく頼むと言い、仕事に戻る。勉強ができることが嬉しく息巻いきまく。

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