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作者: 結城貴美
残酷な描写あり R-15
157 顛末
 馬車に乗り込みリューナ、ティリューダ、ダスタムたちと共に神殿へ戻ったフォスターは落ち着かなかった。あれからどうなったのだろう、皆は無事だろうか、そればかり考えていた。残ったほうが良かったのではないか、いやそれではリューナが危険だ、などと思考が行ったり来たりしていた。

 それに残ったとしても神衛兵かのえへい見習い扱いの自分では何の役にも立たないだろう。神衛兵になりたくはないのだが、もっと強くならなくてはならないと思った。最近用事が重なったため訓練に参加出来ない日が多い。個人的に毎日鍛錬はしているものの、走り込みなどは出来ていなかった。それに加えもっと対人の戦闘訓練をしなければならないと反省している。

 人手が欲しいためその神衛兵の訓練も中止になったそうだ。水の神衛兵は一部そちらへ駆り出されたらしい。神殿内部は慌ただしい様子であった。中の警備もあるので全員というわけにはいかず、神殿に残されたダスタムが悔しがっていた。

 リューナも風呂にはすぐに入ったものの、あの後どうなったのか気になって仕方がなかったという。ティリューダも一緒に帰って来ていたので質問しても彼女にもわからない状態だった。

 詳細がわかったのは夕食が終わった後だった。ビスタークの鉢巻きが手元へ戻ってきたので、あの家での顛末を教えてもらった。

 リジェンダは指示を出した後、副官のタトジャに他の仕事をせっつかれ神殿へ戻ることになったそうだ。面白がって残りたがっているリジェンダをタトジャが「これは大神官の仕事ではなく神衛兵の仕事です」と言って無理矢理あの家から引きずり出し、フォスターたちを下ろして現場へ引き返した馬車に乗せて連れて帰ったらしい。

「タトジャさんって大変なんだな……」
『あいつは子どものおもりをさせられてる感じだな。で、俺はそのときスヴィルの奴に渡された』

 ビスタークが警備隊長のスヴィルとアドバロと共に家の中で待っていると応援が数人到着したので、これから送り込まれて来る神衛兵に見つからないよう近くの物陰や屋根の上で待機させたそうだ。

 街中では水の神衛兵が警戒体制で巡回していたという。そのうちの一人が民家から出てくるこの辺りでは見かけない鎧を着た神衛兵を目撃したので後をつけたらしい。その知らない鎧の神衛兵は真っ直ぐ貧民街を目指し、しばらくアドバロの立つ場所を探していた。アドバロを見つけると抑揚の無い声をかけ、家の中へと入る。そこで待伏せしていた水の神衛兵たちが一斉に取り押さえ、肌が露出している顔にビスタークの鉢巻きを当てたという。

『あいつら意識が無いようなもんだからな。寝てなくても簡単に取り憑けたぞ』
「そうなんだ」

 そのまま額に巻いて身体の主導権を奪い神殿に戻ってきたらしい。ついでにしっかり飲み食いしてきたそうだ。

 その神衛兵が出てきた民家を調べると、転移石エイライトで書いた円などの囲みが何重にも重なって床に書かれていたそうだ。建物全部の床を確認し、書かれていた線を全て消して向こうから来られなくしたという話だった。

「その家は誰が住んでることになってるんだろう」
『それは今神官たちが調べてるってよ』

 土地は人のものではなく神の土地を神殿経由で貸しているという扱いであるが、建物の所有者はいるのでその登録者を確認すれば良いだけだ。しかしその所有者が誰か他の者に貸しているとなれば調査は難航する。賃借人は神殿に登録しないからだ。登録所有者へどんな人間が借りているのか直接聞き込みに行かなければならない。

「じゃあ今日中にはわからないかな」
「みんなが無事ならそれでいいよ」

 リューナは鉢巻きに触れていないのでフォスターの声だけを聞いているのだが話の流れは大体わかっているようだ。自分のせいで周りが傷つくことを恐れている。本人には全く非が無いのだがやはり気になってしまうようだ。

『あの後しばらく経ってから通信石タルカイトが光りまくってたけどな、もう通信したらまずいだろうって無視を決め込んだ』
「そりゃそうだろ。送り込んだ神衛が戻ってこない理由を誤魔化しきれないだろうし」
『転移も出来なくさせたからな。芝居がバレたかどうかまではわからないが、全員捕まって失敗したとは思ってるだろ』
「そうだな」
『あの医者、後ろにいる奴に激怒されてるかもな』
「はは、それはいい気味だな」

 後ろに「あの方」という存在がいることは確定した。きっと今頃ザイステルは苛立っているだろう。

「でも、これからどうなるのかな」
『さあな。他に転移石エイライトのしるしのある場所や潜伏しているのがいない限り、当分この都は安全だからな。ここに居続けて全部都任せにするのも手だ』
「うーん……どうしようかな……とりあえず、まずは一回帰りたいな」
『盾の修理と格納石ストライトの取り付けしたいとか言ってたな』
「そうそう」

 それを聞いてリューナが明るい声で聞いてくる。

「一回おうちに帰れるの?」
「ああ。コーシェルたちがここに来れる転移石エイライトを持ってるらしいから、ここにはいつでも戻れるなと思って」
「……お父さんとお母さんに会いたいな」
「そうだな。きっと心配して寂しがってるよ」
「うん。私もそう思う。もう一か月は経ってるし、私も寂しいもん」

 少ししんみりとした空気が流れた。

「でもその後どうするかなんだよな」
「んー……」

 リューナは考える素振りを見せた。

「おじいちゃんを探すのが目的だよね?」
「ああ」
「私、ちょっと気になってたことがあるんだけど……」
「え? な、なんだ?」

 フォスターは少し動揺した。嘘に対して突っ込まれたらどうしようという焦りだ。

「前に、輝星石ソウライトを触らせてもらったことがあったでしょ」
「へ?」

 予想外のことを言われて間抜けな声が出てしまった。

「……旅立ってすぐの頃、確かに渡したな」

 フォスターは思い返す。旅に出て初めて悪霊に遭遇して火葬石カンドライトで空へ送ったことがあった。その後ビスタークから輝星石ソウライトのことを聞き、母親レリアの星を教えてもらった。リューナはその時に目が見えないと星はわからないのかと試してみたのだ。

「空の星はわからなかったけど、なんとなく気になったことがあったの。自信は無いんだけど……」
「いいよ、言ってみな」
「もう一回触ってみてもいい?」
「ん、ちょっと待ってな」

 石袋の中の輝星石ソウライトを取りに席を立つ。最近使っていなかったが、触れると地元の方角に母の星の存在を感じた。

「手を出して」

 リューナの手のひらの上に石を乗せた。

「うん……やっぱり何か感じる……」
「何を?」
「あっちのほうに何かある感じ。何かはわかんない」

 リューナはその「あっち」へ人差し指を向けた。

命の都ライヴェロス炎の都フィルバルネスの方向だな』
「上のほうじゃないから星じゃないと思うんだけど……」
「んー……何だろうな」

 二人で思案しているとビスタークが呟く。

『神の子だから輝星石ソウライトの普段の能力とは違うものが引き出されてるのかもしれねえな』
「魂に関係してるのかな……」

 フォスターの声だけを聞いているリューナがおそるおそる口に出す。

「……おじいちゃんが死んじゃってて、悪霊になっちゃってて……それに反応してたりとか……する……?」
「まさか……」
『まあ、あり得る話ではあるな』

 フォスターもその可能性を考えなかったわけではない。人の不幸を想像したくなかったので自分からは言えなかったのだ。しかしリューナにつらいことを言わせてしまったと自分から言わなかったことを反省した。

 しばしの沈黙の後、リューナが再度口を開いた。

「私、どうすればいいんだろう……」
「……大神官たちに相談してみよう。そうと決まったわけじゃない。まだ何もわからないよ」
「うん……」

 リューナが眠った後にまた呼び出しがあるかもしれない。そこで相談しようと考えた。
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