残酷な描写あり
R-15
156 通信
アドバロが通信石に理力を流ししばらく待つ。結構長い間待っていたような気がした。そして、ついに反応があった。
「……やっと連絡がつきましたか。誰からも何の反応も無かったので心配してたんですよ」
聞き覚えのある声だった。予想通り、ザイステルと通信が繋がった。皆が息を殺してしんと静まり返る中、通信相手のザイステルの声だけが部屋の中に響く。
「1248番。現状の説明を」
緊張が走る。アドバロは表情には出さなかったものの、内心はかなり動揺していた。
「現在……水の都。対象者を捕らえることに成功……」
無表情を装い嘘をつく。操られている者たちは喋り方がゆっくりになるという。それをアドバロは演技で再現している。
「おお、捕まえましたか。賞賛に値します」
ザイステルは満足そうに声を上げた。
「しかし連絡が遅すぎます。他の人たちはどうしましたか?」
「……囚われたり、死んだり、した」
「はあ……随分目立ってしまったのですね。目立たないようにと言ったでしょう」
通信石で連絡出来ない理由としてそう設定しておいたのだが、「目立たないように」していたから監視だけのときもあったのだろうとフォスターは思った。
「それで、捕らえたのなら早く転移石で戻って来たらどうですか」
「……転移石、無い」
「無い? 無くしたってことですか?」
「……はい」
はあー、と大きな溜め息をついた音が聞こえた。
「困りましたね……」
しばらく思案した後、質問された。
「……リューナさんはどうしてますか?」
「……眠らせて縛って、ここにいる」
「確認したいのですが」
アドバロは立ち上がってリューナの側で腰をおろす。通信石は接続した者を自動で追うため、リューナの近くへ行く必要があるのだ。縛られて横になっているところを映してやった。
「確かに、本人ですね。よくやりました。これであの方に良い報告が出来ます」
ザイステルはとても嬉しそうな声でそう言った。フォスターはそれを聞いて怒りに震えていた。この男はやはり妹のことを物としか思っていないのだと。怒鳴りつけてやりたかったが今はしてはいけないし、何も出来ることはない。音を立てないよう軽く深呼吸して心を落ち着かせる。
『「あの方」って誰のことなんだろうな』
ビスタークが話しかけてきたが今声を出すわけにはいかない。ザイステルが首謀者では無いのではとは考えていたが、その正体が知りたい。しかし操られている神衛兵がそれを探る質問をするはずがない。
「彼女をそんな状態で水の都から出すのは難しいでしょう。仕方がない、転移石を持っている他の神衛を見繕って向かわせます。今は水の都のどこにいるんですか?」
「……貧民街の空き家……」
「では、しばらくその場で待機していなさい。また連絡します」
そう言った後、通信が切られた。
一瞬の沈黙の後、皆がため息をついた。
「はあー、大した情報は得られなかったねー」
リジェンダが残念そうに言うと、タトジャが訂正する。
「いえ、『あの方』という後ろにいる者の存在、『目立たないようにしている』という姿勢、新たにこの場所へ向こうの駒が送り込まれることがわかりましたよ」
周りが会話する中、アドバロは緊張から解放され両腕を上げて伸びをしている。
「入口の門番に通達して警戒しよう。一発で操られているかどうかわかる質問を考えとかないとな……」
警備隊長のスヴィルがそう提案した。
「後は、記録石の解析次第でしょうね」
ティリューダがフォスターと共にリューナの緊縛をほどきながら追加する。フォスターは通信が終わると真っ先にリューナの猿轡と耳栓を取っていた。
「思ってたより長くなかったね」
リューナがけろっとして普通に喋る。
「大丈夫だったか? 苦しくなかったか?」
「ゆるくしてくれてたから大丈夫だって言ったでしょ」
「はあ……もうこんなことやめて欲しいよ……」
「また通信するんなら同じことするんじゃないの?」
『そうだろうな』
「えっ!?」
フォスターは慌ててリジェンダたちのほうを向いた。
「向こうから通信が来たら出ないでおくけど、こっちからまた通信するならお願いするかもしれない。居場所が映像解析でわかればその必要はないかもしれない。まだ何とも言えないね」
「……必要ないことを祈ります」
協力的だったリューナも不満点をあげる。
「縛られるのは平気だけど、床に横になるのが嫌だったなあ。砂っぽいから汚れちゃった」
髪や服をはたいて砂を落としている。ティリューダも手伝っていた。
「今日は戻ったらすぐお風呂ですね」
「はい」
「では明日、約束したお店へ行きましょう」
「はい!」
リューナは高級料理に釣られてこの役を引き受けたのである。目が輝いている。
皆が安堵する中、通信石が点滅し始めた。
「!?」
「ど、どうしましょう?」
アドバロがおろおろしている。
「準備が出来たら受けても良いが、まだ無理だ。整うまでそのままにしておいてくれ」
リジェンダが指示を出す。ザイステルは何か言い忘れたことでもあったのだろうか。皆慌てて準備をし始めた。リューナはまた緩めに紐を巻かれ猿轡をされた。しかし今回は紐を結んでいない。映らない位置なら良いだろうとのことだ。
全員急いで配置につき、リジェンダがアドバロに許可を出す。
「それでは出てくれ」
頷いた後ごくりと喉を鳴らし、アドバロが通信石に触った。
「……はい」
「さっきから大して時間が経ってないのに出るまでに随分時間がかかりましたね。何をしていたんです?」
「……便所……」
アドバロは無難な言い訳をする。
「まあ仕方ない、いいでしょう」
ザイステルは納得したようで皆心の中で安堵した。
「人員の手配が出来ました。そちらの拠点へすぐに神衛を一人派遣します。一緒に石を使って戻ってきなさい」
「……了解」
声は出さずとも皆の表情が一斉に動揺しているのがわかった。この水の都内に「拠点」があるということ。「すぐに」敵が送り込まれるということ。短時間で対処を考えなくてはならない。
「大まかな位置を教えなさい」
アドバロはリジェンダをちらりと見て確認した。リジェンダが頷いたので普通に教える。
「……命の都方向の貧民街……」
「では一刻ほどしたら見つけやすいよう外に立っていなさい」
「……はい」
ザイステルからの通信はそれだけだった。接続が終わってすぐにリジェンダが指示を出し始める。猶予は一刻しかない。
「スヴィルは街中の神衛兵に神殿以外の全地区を巡回するように通達! ただし五人ほどここへ応援を!」
「了解!」
「水の神衛兵以外の神衛兵は紛らわしいから神殿から外に出すなよ! 今街にいる奴らも神殿に戻るように言え! その際雑談が出来るかどうかも絶対に確認しろ!」
「はい!」
「ただし、四半刻までだ。それ以降は送り込まれた奴かもしれないから後をつけろ。鎧を着けてくればすぐにわかるかもしれないが、最終的にここへ来るまでは確証がない。取り押さえるのはここだ」
「わかりました。そのように」
リジェンダとスヴィルのやりとりを聞きながらフォスターは再度リューナの紐を取る。自分たちはどうするべきか考えていたが、こちらへもリジェンダから指示が飛んだ。
「リューナはすぐに神殿へ戻れ!」
「は、はい!」
「フォスター、君もだ!」
「わ、わかりました」
ティリューダが口を挟む。
「私とダスタムも一緒に神殿へ戻ります」
「それがいいだろう。護衛も必要だ」
リジェンダは呆然としているアドバロに向かって依頼する。
「アドバロにはまだ協力してもらわなくてはならない。一刻くらいしたら外で立っていてくれ。敵が家の中に入り次第捕まえる」
「はいっ」
リジェンダがてきぱきと指示を出す横から外へ出ていこうとすると引き留められた。
「あ、それからビスタークにも協力を頼みたい」
『何だ』
「親父にですか?」
「ビスタークの取り憑き能力は役に立ちそうだからね。取り押さえるときに敵に取り憑いてもらえば転移石や何かの神の石を使えなく出来るだろう?」
鉢巻きに触りながらリジェンダが提案する。
『わかった。じゃあ俺はここに残ろう』
ビスタークだけはその場に残り、フォスターとリューナはダスタムとティリューダと共に急いで馬車に乗り込み神殿へと戻った。
「……やっと連絡がつきましたか。誰からも何の反応も無かったので心配してたんですよ」
聞き覚えのある声だった。予想通り、ザイステルと通信が繋がった。皆が息を殺してしんと静まり返る中、通信相手のザイステルの声だけが部屋の中に響く。
「1248番。現状の説明を」
緊張が走る。アドバロは表情には出さなかったものの、内心はかなり動揺していた。
「現在……水の都。対象者を捕らえることに成功……」
無表情を装い嘘をつく。操られている者たちは喋り方がゆっくりになるという。それをアドバロは演技で再現している。
「おお、捕まえましたか。賞賛に値します」
ザイステルは満足そうに声を上げた。
「しかし連絡が遅すぎます。他の人たちはどうしましたか?」
「……囚われたり、死んだり、した」
「はあ……随分目立ってしまったのですね。目立たないようにと言ったでしょう」
通信石で連絡出来ない理由としてそう設定しておいたのだが、「目立たないように」していたから監視だけのときもあったのだろうとフォスターは思った。
「それで、捕らえたのなら早く転移石で戻って来たらどうですか」
「……転移石、無い」
「無い? 無くしたってことですか?」
「……はい」
はあー、と大きな溜め息をついた音が聞こえた。
「困りましたね……」
しばらく思案した後、質問された。
「……リューナさんはどうしてますか?」
「……眠らせて縛って、ここにいる」
「確認したいのですが」
アドバロは立ち上がってリューナの側で腰をおろす。通信石は接続した者を自動で追うため、リューナの近くへ行く必要があるのだ。縛られて横になっているところを映してやった。
「確かに、本人ですね。よくやりました。これであの方に良い報告が出来ます」
ザイステルはとても嬉しそうな声でそう言った。フォスターはそれを聞いて怒りに震えていた。この男はやはり妹のことを物としか思っていないのだと。怒鳴りつけてやりたかったが今はしてはいけないし、何も出来ることはない。音を立てないよう軽く深呼吸して心を落ち着かせる。
『「あの方」って誰のことなんだろうな』
ビスタークが話しかけてきたが今声を出すわけにはいかない。ザイステルが首謀者では無いのではとは考えていたが、その正体が知りたい。しかし操られている神衛兵がそれを探る質問をするはずがない。
「彼女をそんな状態で水の都から出すのは難しいでしょう。仕方がない、転移石を持っている他の神衛を見繕って向かわせます。今は水の都のどこにいるんですか?」
「……貧民街の空き家……」
「では、しばらくその場で待機していなさい。また連絡します」
そう言った後、通信が切られた。
一瞬の沈黙の後、皆がため息をついた。
「はあー、大した情報は得られなかったねー」
リジェンダが残念そうに言うと、タトジャが訂正する。
「いえ、『あの方』という後ろにいる者の存在、『目立たないようにしている』という姿勢、新たにこの場所へ向こうの駒が送り込まれることがわかりましたよ」
周りが会話する中、アドバロは緊張から解放され両腕を上げて伸びをしている。
「入口の門番に通達して警戒しよう。一発で操られているかどうかわかる質問を考えとかないとな……」
警備隊長のスヴィルがそう提案した。
「後は、記録石の解析次第でしょうね」
ティリューダがフォスターと共にリューナの緊縛をほどきながら追加する。フォスターは通信が終わると真っ先にリューナの猿轡と耳栓を取っていた。
「思ってたより長くなかったね」
リューナがけろっとして普通に喋る。
「大丈夫だったか? 苦しくなかったか?」
「ゆるくしてくれてたから大丈夫だって言ったでしょ」
「はあ……もうこんなことやめて欲しいよ……」
「また通信するんなら同じことするんじゃないの?」
『そうだろうな』
「えっ!?」
フォスターは慌ててリジェンダたちのほうを向いた。
「向こうから通信が来たら出ないでおくけど、こっちからまた通信するならお願いするかもしれない。居場所が映像解析でわかればその必要はないかもしれない。まだ何とも言えないね」
「……必要ないことを祈ります」
協力的だったリューナも不満点をあげる。
「縛られるのは平気だけど、床に横になるのが嫌だったなあ。砂っぽいから汚れちゃった」
髪や服をはたいて砂を落としている。ティリューダも手伝っていた。
「今日は戻ったらすぐお風呂ですね」
「はい」
「では明日、約束したお店へ行きましょう」
「はい!」
リューナは高級料理に釣られてこの役を引き受けたのである。目が輝いている。
皆が安堵する中、通信石が点滅し始めた。
「!?」
「ど、どうしましょう?」
アドバロがおろおろしている。
「準備が出来たら受けても良いが、まだ無理だ。整うまでそのままにしておいてくれ」
リジェンダが指示を出す。ザイステルは何か言い忘れたことでもあったのだろうか。皆慌てて準備をし始めた。リューナはまた緩めに紐を巻かれ猿轡をされた。しかし今回は紐を結んでいない。映らない位置なら良いだろうとのことだ。
全員急いで配置につき、リジェンダがアドバロに許可を出す。
「それでは出てくれ」
頷いた後ごくりと喉を鳴らし、アドバロが通信石に触った。
「……はい」
「さっきから大して時間が経ってないのに出るまでに随分時間がかかりましたね。何をしていたんです?」
「……便所……」
アドバロは無難な言い訳をする。
「まあ仕方ない、いいでしょう」
ザイステルは納得したようで皆心の中で安堵した。
「人員の手配が出来ました。そちらの拠点へすぐに神衛を一人派遣します。一緒に石を使って戻ってきなさい」
「……了解」
声は出さずとも皆の表情が一斉に動揺しているのがわかった。この水の都内に「拠点」があるということ。「すぐに」敵が送り込まれるということ。短時間で対処を考えなくてはならない。
「大まかな位置を教えなさい」
アドバロはリジェンダをちらりと見て確認した。リジェンダが頷いたので普通に教える。
「……命の都方向の貧民街……」
「では一刻ほどしたら見つけやすいよう外に立っていなさい」
「……はい」
ザイステルからの通信はそれだけだった。接続が終わってすぐにリジェンダが指示を出し始める。猶予は一刻しかない。
「スヴィルは街中の神衛兵に神殿以外の全地区を巡回するように通達! ただし五人ほどここへ応援を!」
「了解!」
「水の神衛兵以外の神衛兵は紛らわしいから神殿から外に出すなよ! 今街にいる奴らも神殿に戻るように言え! その際雑談が出来るかどうかも絶対に確認しろ!」
「はい!」
「ただし、四半刻までだ。それ以降は送り込まれた奴かもしれないから後をつけろ。鎧を着けてくればすぐにわかるかもしれないが、最終的にここへ来るまでは確証がない。取り押さえるのはここだ」
「わかりました。そのように」
リジェンダとスヴィルのやりとりを聞きながらフォスターは再度リューナの紐を取る。自分たちはどうするべきか考えていたが、こちらへもリジェンダから指示が飛んだ。
「リューナはすぐに神殿へ戻れ!」
「は、はい!」
「フォスター、君もだ!」
「わ、わかりました」
ティリューダが口を挟む。
「私とダスタムも一緒に神殿へ戻ります」
「それがいいだろう。護衛も必要だ」
リジェンダは呆然としているアドバロに向かって依頼する。
「アドバロにはまだ協力してもらわなくてはならない。一刻くらいしたら外で立っていてくれ。敵が家の中に入り次第捕まえる」
「はいっ」
リジェンダがてきぱきと指示を出す横から外へ出ていこうとすると引き留められた。
「あ、それからビスタークにも協力を頼みたい」
『何だ』
「親父にですか?」
「ビスタークの取り憑き能力は役に立ちそうだからね。取り押さえるときに敵に取り憑いてもらえば転移石や何かの神の石を使えなく出来るだろう?」
鉢巻きに触りながらリジェンダが提案する。
『わかった。じゃあ俺はここに残ろう』
ビスタークだけはその場に残り、フォスターとリューナはダスタムとティリューダと共に急いで馬車に乗り込み神殿へと戻った。