残酷な描写あり
R-15
158 手配
フォスターの予想通り、夜中にリジェンダから呼び出された。会話しやすいようにいつも通りビスタークの鉢巻きの端を彼女へ渡している。今日はティリューダがいなかった。
「いつも夜中に呼び出してすまない」
「いえ、待っていました」
「あちこちから返事があったのでね、報告だよ」
おそらく各都からの返答のことだろう。フォスターは背筋を伸ばした。
「まず命の都から。例の医者の家がまだザイステルの名前で登録されていたとのことだ。税金も律儀に払われてるってさ。まあ調べに行ってみたけど誰もいなかったと」
「そうでしょうね」
ビスタークが突っ込む。
『税金払ってるって、本人が払いに来たのか?』
「そこまではまだわからない。調べてはもらってる」
「転移石の跡はどうですか?」
「あったから消したと言っていたよ」
リジェンダが一拍置いて付け足す。
「勿論向こうでも雑談の出来ない神衛を炙り出してるよ。他の都にも伝えてある」
「ありがとうございます」
『命の都ついでにさっきの話をしたらどうだ』
「何の話かな?」
「あ、リューナなんですけど……」
リューナが輝星石に触れると感じる「もの」のことをリジェンダに伝えた。
「うーん……神の石を神の子が使うと特殊な力が出るのかな? ちょっと色々検証してみたいねえ」
「そ、それはちょっと」
リジェンダの口元がにやけている。リューナで実験されてはたまらない。
「それは冗談としても、輝星石は地上にある魂にも反応するのかもしれないね。普通は悪霊になったりしないから」
「知られていないだけってことですか」
「君が石に触るとビスタークの魂を感じるのかやってみよう」
「ほとんど一緒にいますし、輝星石に触ったときもそんな感じしませんでしたよ?」
「じゃあ違うのか」
ビスタークが推測を発言する。
『あいつには血縁者がいねえからじゃねえか?』
「あー、普通の人間なら絶対に親がいるけど、神の子にはいないから、か……なるほどね」
「……ストロワさん、亡くなってるんでしょうか」
「それはまだわからないよ。神の子が輝星石を使うなんて前例の無いことだし、生きている魂に反応している可能性もある。方向的にはどの辺?」
『命の都とか炎の都のほうだと思う。ちゃんと検証してくれねえか』
「わかった。明日調べよう。手配しておくよ」
リジェンダは報告を続ける。
「じゃあ次。闇の都だ」
「はい」
「リューナを預かれなかったことと力を封じたことについては答えられないそうだ」
「えっ」
『何でだ』
「直接向こうに行って他言しないと契約すれば教えると言っていたよ」
「ああ、そういうことですか」
『極秘の理由があるからか』
極秘の理由とは何だろうと思いつつも納得はした。
「破壊神の神殿が今どうなっているかは調査に出たところだそうだ」
「ありがとうございます」
『無事に調査出来るといいけどな』
「そうだね……あそこは人数も少ないし。何かわかったら応援を出そうと考えている。まずは結果を待とう」
「はい」
ビスタークはフォスターとリジェンダが何故闇の都がリューナを預からなかったことを知っているのかと一瞬思ったが、キナノスかエクレシアから聞いたのだろうと考えて追及はしなかった。
「空の都からも例の半島へ調査に向かったと報告があった」
例の半島、とはザイステルとの接触役を果たしたアドバロの地元の風鳥木神の町や最初に襲ってきたヴァーリオの地元の鳥神の町、先日リューナを攫おうとした神衛兵の地元の鮭神の町がある半島のことである。
「大丈夫でしょうか……敵の本拠地がありそうな気がしますけど」
「まあ何かしら対策は考えているだろう。向こうに任せるしかない」
『遠いしこっちからは何も出来ねえしな』
頷きながらリジェンダはビスタークの鉢巻きを見て伝える。
「光の都は十六年前、確かに数人の行方不明者が出たそうだ。光源石も通常通り降臨しているから都全部がおかしくなったわけではないよ」
『そうか』
「行方不明者については全ての町に報告を依頼している。おそらく相当な人数になるんじゃないだろうか」
「そうですね……」
神衛兵の寄せ集めのような集団に町が襲われたとアドバロは言っていた。敵のおおよその人数を把握するためにも情報はあったほうが良いだろう。
「時の都には昔の君が怪しくなかったことを伝えたよ」
『当時伝えて欲しかったな』
ビスタークは半笑いの声色で冗談を飛ばした。
「こんなところかな。勿論全ての都に操られている神衛兵のことと転移石の線が書かれた空き家のこと、ストロワ氏の捜索、医者のこと、青髪の女の子への注意を通達してある。幸い攫われたり襲われた女性の報告は上がってない。ここにいることはわかっていたようだからね」
『おい。操られてるのが神衛だけとは限らねえぞ』
「勿論だ。雑談ができない者への注意喚起はしている。ああそれから、君がやむを得ず殺した神衛たちの悪霊を浄化したい。後で君が通った道程を教えてくれ」
『……わかった』
そこで扉を叩く音が聞こえた。リジェンダが返事をすると、扉の向こう側からティリューダの声が聞こえた。
「通信石の映像解析が終わりました」
「ご苦労さま」
部屋に入るなりティリューダがそう伝えた。今までずっと記録石の映像を見ていたのだろうか。疲れた顔をしていた。他の者に任せれば良いのではと思うが、母親譲りで自分が動かないと落ち着かない性格なのかもしれない。
「結論から言うと、何処の場所なのかはわかりませんでした」
「そうか……ダメだったか。地域に分布している虫でも映っていないかと思ったんだが」
「ただ、後ろにベッドなどの家具がありまして、その造りは命の都の辺りで見られる意匠でした」
「家具だけじゃ移動できるから決定的ではないね」
「はい」
ザイステルは命の都に住んでいたので転移石で移動する際家具を持って行ったのかもしれない。それだけで居場所はわからない。
「他に何かわかったことは?」
「そのベッドは膨らんでいたので何か隠してありそうでした。あと、隅に神の石らしきものが置かれていました」
「何の石かはわかる?」
「真四角でしたので時停石か静寂石あたりだと思います。周りが暗くて色がはっきりとはわかりませんでした」
「静寂石は周りの色の影響も受けるしねえ。まあ、何かあまり有名ではない石かもしれないし、そこは調べてくれ」
「はい、勿論です。それから、窓も無さそうで通信石の近くに置かれた光源石の明かりだけの様子でした」
「大きな建物の内部の部屋、地下室、洞窟、そのあたりかな」
「以上です。あとは特に何もわかりませんでした」
「そうか」
リジェンダは頷いて次の指示を出す。
「それでは次に絵画石で医者の顔を写しとり各地で聞き込みを」
「写しは済んでおります」
ティリューダは紙を差し出した。そこには通信石に映ったザイステルの顔がそのまま描かれていた。
「うわ、あいつの顔だ……」
『絵画石か。見るのは初めてだな』
フォスターとビスタークは絵画石で作られた写し絵を興味津々で眺めた。細長い石で四角い枠を描くように空中で動かし、その枠内を石で突くとその枠内の風景が写し絵となって出現するのだという。枠の大きさと石で突いたときの角度で微妙に構図が変わるため意外と難しく理力の消費も激しいそうだ。
「一部の金持ちが買い占めてて出回らないからね。都の神殿には特別卸してもらってるんだ。各町でこれを元に探してもらう。地道に聞き込みだ」
「ストロワさんもこれで聞き込み出来れば良かったんですが」
「本人がいないんじゃ似顔絵を作るくらいしか出来ないからね」
「お二人は似顔絵描けますか?」
「え」
ティリューダにそう聞かれフォスターは焦る。
「俺、絵は全然ダメで……親父は?」
『俺もダメだな。もう顔もうろ覚えだしな』
「キナノスさんやエクレシアさんにお願いしては?」
「そうですね。もしあちらもだめなら絵の得意な者に向こうが納得するまで描かせます」
「うん。じゃあストロワ氏の捜索はそれで進めよう。あとはさっきの輝星石の方向を明日確かめる」
リジェンダは先ほどのリューナの輝星石の話をティリューダへ伝える。
「わかりました。明日一緒に食事へ出掛けますのでその際一緒に確認します」
「よろしく頼む」
フォスターが確認のため質問する。
「拠点になっていた家についてはまだわかりませんよね?」
「持ち主は判明しました。ここで建物を貸す商売をしている方でした。まだ話は聞けていませんが」
「もうそこまでわかってるんですね……」
フォスターの何か含んだ言い様にリジェンダが不思議そうに訊く。
「何か?」
「いえ、進展が無いようなら一度地元に帰ろうかと思っただけです」
「ああ、言ってたね。そんなのいつでもいいよ。マフティロのところには転移石も通信石もあるんだから」
ティリューダが現実的な話をする。
「では精算しましょうか。いつ帰られます?」
「明日はリューナに予定がありますし、自分も対人訓練をしておきたいので明々後日くらいでしょうか」
「わかりました。そのつもりで手続きしますね」
「ありがとうございます」
こうして自宅へ帰る目処がついた。
「いつも夜中に呼び出してすまない」
「いえ、待っていました」
「あちこちから返事があったのでね、報告だよ」
おそらく各都からの返答のことだろう。フォスターは背筋を伸ばした。
「まず命の都から。例の医者の家がまだザイステルの名前で登録されていたとのことだ。税金も律儀に払われてるってさ。まあ調べに行ってみたけど誰もいなかったと」
「そうでしょうね」
ビスタークが突っ込む。
『税金払ってるって、本人が払いに来たのか?』
「そこまではまだわからない。調べてはもらってる」
「転移石の跡はどうですか?」
「あったから消したと言っていたよ」
リジェンダが一拍置いて付け足す。
「勿論向こうでも雑談の出来ない神衛を炙り出してるよ。他の都にも伝えてある」
「ありがとうございます」
『命の都ついでにさっきの話をしたらどうだ』
「何の話かな?」
「あ、リューナなんですけど……」
リューナが輝星石に触れると感じる「もの」のことをリジェンダに伝えた。
「うーん……神の石を神の子が使うと特殊な力が出るのかな? ちょっと色々検証してみたいねえ」
「そ、それはちょっと」
リジェンダの口元がにやけている。リューナで実験されてはたまらない。
「それは冗談としても、輝星石は地上にある魂にも反応するのかもしれないね。普通は悪霊になったりしないから」
「知られていないだけってことですか」
「君が石に触るとビスタークの魂を感じるのかやってみよう」
「ほとんど一緒にいますし、輝星石に触ったときもそんな感じしませんでしたよ?」
「じゃあ違うのか」
ビスタークが推測を発言する。
『あいつには血縁者がいねえからじゃねえか?』
「あー、普通の人間なら絶対に親がいるけど、神の子にはいないから、か……なるほどね」
「……ストロワさん、亡くなってるんでしょうか」
「それはまだわからないよ。神の子が輝星石を使うなんて前例の無いことだし、生きている魂に反応している可能性もある。方向的にはどの辺?」
『命の都とか炎の都のほうだと思う。ちゃんと検証してくれねえか』
「わかった。明日調べよう。手配しておくよ」
リジェンダは報告を続ける。
「じゃあ次。闇の都だ」
「はい」
「リューナを預かれなかったことと力を封じたことについては答えられないそうだ」
「えっ」
『何でだ』
「直接向こうに行って他言しないと契約すれば教えると言っていたよ」
「ああ、そういうことですか」
『極秘の理由があるからか』
極秘の理由とは何だろうと思いつつも納得はした。
「破壊神の神殿が今どうなっているかは調査に出たところだそうだ」
「ありがとうございます」
『無事に調査出来るといいけどな』
「そうだね……あそこは人数も少ないし。何かわかったら応援を出そうと考えている。まずは結果を待とう」
「はい」
ビスタークはフォスターとリジェンダが何故闇の都がリューナを預からなかったことを知っているのかと一瞬思ったが、キナノスかエクレシアから聞いたのだろうと考えて追及はしなかった。
「空の都からも例の半島へ調査に向かったと報告があった」
例の半島、とはザイステルとの接触役を果たしたアドバロの地元の風鳥木神の町や最初に襲ってきたヴァーリオの地元の鳥神の町、先日リューナを攫おうとした神衛兵の地元の鮭神の町がある半島のことである。
「大丈夫でしょうか……敵の本拠地がありそうな気がしますけど」
「まあ何かしら対策は考えているだろう。向こうに任せるしかない」
『遠いしこっちからは何も出来ねえしな』
頷きながらリジェンダはビスタークの鉢巻きを見て伝える。
「光の都は十六年前、確かに数人の行方不明者が出たそうだ。光源石も通常通り降臨しているから都全部がおかしくなったわけではないよ」
『そうか』
「行方不明者については全ての町に報告を依頼している。おそらく相当な人数になるんじゃないだろうか」
「そうですね……」
神衛兵の寄せ集めのような集団に町が襲われたとアドバロは言っていた。敵のおおよその人数を把握するためにも情報はあったほうが良いだろう。
「時の都には昔の君が怪しくなかったことを伝えたよ」
『当時伝えて欲しかったな』
ビスタークは半笑いの声色で冗談を飛ばした。
「こんなところかな。勿論全ての都に操られている神衛兵のことと転移石の線が書かれた空き家のこと、ストロワ氏の捜索、医者のこと、青髪の女の子への注意を通達してある。幸い攫われたり襲われた女性の報告は上がってない。ここにいることはわかっていたようだからね」
『おい。操られてるのが神衛だけとは限らねえぞ』
「勿論だ。雑談ができない者への注意喚起はしている。ああそれから、君がやむを得ず殺した神衛たちの悪霊を浄化したい。後で君が通った道程を教えてくれ」
『……わかった』
そこで扉を叩く音が聞こえた。リジェンダが返事をすると、扉の向こう側からティリューダの声が聞こえた。
「通信石の映像解析が終わりました」
「ご苦労さま」
部屋に入るなりティリューダがそう伝えた。今までずっと記録石の映像を見ていたのだろうか。疲れた顔をしていた。他の者に任せれば良いのではと思うが、母親譲りで自分が動かないと落ち着かない性格なのかもしれない。
「結論から言うと、何処の場所なのかはわかりませんでした」
「そうか……ダメだったか。地域に分布している虫でも映っていないかと思ったんだが」
「ただ、後ろにベッドなどの家具がありまして、その造りは命の都の辺りで見られる意匠でした」
「家具だけじゃ移動できるから決定的ではないね」
「はい」
ザイステルは命の都に住んでいたので転移石で移動する際家具を持って行ったのかもしれない。それだけで居場所はわからない。
「他に何かわかったことは?」
「そのベッドは膨らんでいたので何か隠してありそうでした。あと、隅に神の石らしきものが置かれていました」
「何の石かはわかる?」
「真四角でしたので時停石か静寂石あたりだと思います。周りが暗くて色がはっきりとはわかりませんでした」
「静寂石は周りの色の影響も受けるしねえ。まあ、何かあまり有名ではない石かもしれないし、そこは調べてくれ」
「はい、勿論です。それから、窓も無さそうで通信石の近くに置かれた光源石の明かりだけの様子でした」
「大きな建物の内部の部屋、地下室、洞窟、そのあたりかな」
「以上です。あとは特に何もわかりませんでした」
「そうか」
リジェンダは頷いて次の指示を出す。
「それでは次に絵画石で医者の顔を写しとり各地で聞き込みを」
「写しは済んでおります」
ティリューダは紙を差し出した。そこには通信石に映ったザイステルの顔がそのまま描かれていた。
「うわ、あいつの顔だ……」
『絵画石か。見るのは初めてだな』
フォスターとビスタークは絵画石で作られた写し絵を興味津々で眺めた。細長い石で四角い枠を描くように空中で動かし、その枠内を石で突くとその枠内の風景が写し絵となって出現するのだという。枠の大きさと石で突いたときの角度で微妙に構図が変わるため意外と難しく理力の消費も激しいそうだ。
「一部の金持ちが買い占めてて出回らないからね。都の神殿には特別卸してもらってるんだ。各町でこれを元に探してもらう。地道に聞き込みだ」
「ストロワさんもこれで聞き込み出来れば良かったんですが」
「本人がいないんじゃ似顔絵を作るくらいしか出来ないからね」
「お二人は似顔絵描けますか?」
「え」
ティリューダにそう聞かれフォスターは焦る。
「俺、絵は全然ダメで……親父は?」
『俺もダメだな。もう顔もうろ覚えだしな』
「キナノスさんやエクレシアさんにお願いしては?」
「そうですね。もしあちらもだめなら絵の得意な者に向こうが納得するまで描かせます」
「うん。じゃあストロワ氏の捜索はそれで進めよう。あとはさっきの輝星石の方向を明日確かめる」
リジェンダは先ほどのリューナの輝星石の話をティリューダへ伝える。
「わかりました。明日一緒に食事へ出掛けますのでその際一緒に確認します」
「よろしく頼む」
フォスターが確認のため質問する。
「拠点になっていた家についてはまだわかりませんよね?」
「持ち主は判明しました。ここで建物を貸す商売をしている方でした。まだ話は聞けていませんが」
「もうそこまでわかってるんですね……」
フォスターの何か含んだ言い様にリジェンダが不思議そうに訊く。
「何か?」
「いえ、進展が無いようなら一度地元に帰ろうかと思っただけです」
「ああ、言ってたね。そんなのいつでもいいよ。マフティロのところには転移石も通信石もあるんだから」
ティリューダが現実的な話をする。
「では精算しましょうか。いつ帰られます?」
「明日はリューナに予定がありますし、自分も対人訓練をしておきたいので明々後日くらいでしょうか」
「わかりました。そのつもりで手続きしますね」
「ありがとうございます」
こうして自宅へ帰る目処がついた。