残酷な描写あり
R-15
148 弱音
夢で見た内容を思い返してフォスターは暗い気持ちになっていた。ビスタークの重い過去のことだけではない。リューナが神の子ではなく人間だと言えるような出来事が何一つ無かったからだ。
ストロワが急いでビスタークにリューナを託したこと。神の子だから人間の赤ん坊より楽だと言っていたこと。死去神の町で神託があったこと。怪我をしてもすぐに治ること。神の子だという証拠がまた増えてしまった。
「大丈夫? 思い詰めたような顔をしてるけど」
エクレシアが黙ったままのフォスターを案じた。
「あ……はい……」
「大丈夫じゃなさそうだね。何かあるなら聞いてあげるよ。ビスタークやリューナには言えないこともあるでしょ」
「言っても何も解決しないんですけど……」
「でも言ったほうが少しは楽になると思うから」
そう言われ、エクレシアの言葉に甘えて弱音を吐いた。
「俺は、リューナが神の子なんかじゃなければいいと思ってるんです。身代わりの子で、ただ巻き込まれただけの普通の子だったらいいと」
「……うん」
「あいつが神の子に見えますか?」
「神様を見たことがないからなんとも言えないけど、普通の可愛い女の子だね……。ただ、なんか惹き付けられる感じがするよね。変装に眼鏡とかつらを着けて正解だったと思うよ」
「それは俺も思いました」
変装したらどうかと提案してくれたヨマリーに心の中で感謝した。
「神殿のほうで、捕まえた神衛たちにリューナと同じ髪の色の人を見せて反応するかどうか確認するとさっき聞きました」
「あーなるほど。姿形でしか判断してないんじゃないかってことね」
静寂石は使っているが念のため声の大きさは抑えている。
「で、話を戻しますが、あいつが神様になれると思いますか?」
「うーん……」
「親父の記憶に出てきた神の子はもっと落ち着いていて、達観している感じのひとでした。俺にはリューナがああなれるとはとても思えない。ただの人間になる方法は何か無いんですか?」
フォスターは悲痛な表情で訴えた。
「私は神の子をリューナしか知らないから何とも言えないね……普通なら自覚があるんだよね?」
「俺が夢の中で見た神の子は自覚がありました。神の力を使ってしまったときは『怒られる』って言ってましたから、こっちにわからないところで今の神様と会話してるのかもしれません」
エクレシアは少し考えてから発言する。
「今まで人間になった神様の話は聞いたことがないね。神話の戦争した神様たちもすぐ人間になったわけじゃなくて、次に生まれるときって話だったじゃない」
「……」
神話は確かにそういう話だった。人間に降格するとしても次の人生なのだ。リューナに当てはめると罪を犯したとしても今人間になることは出来ず、家族のままではいられないということである。両親の悲しむ顔が脳裏に浮かび苦しくなる。
「でもさ、リューナは普通の神の子と状況が違うじゃない。自覚も無いし神殿で育てられてもいない。力の制御とかとても出来そうもないよね」
「はい……」
「その辺をさ、リューナが今の神様と交渉したらどうにかならないかな?」
「なる……でしょうか」
「このまますんなり神様になれるとは思えないし、少なくとも猶予はもらえるよ」
「……」
猶予は確かにもらえるかもしれないが、人間になるのは不可能なのだろうか。でも、交渉に一縷の望みを抱くことにした。
「あの、神官の人にこんなこと言うのは申し訳ないんですけど……」
「ん?」
「うちの町では、破壊神って嫌われてるんですよ」
「あはは、まああの神話を聞かされてたらそうなるだろうね」
破壊神の神官であるエクレシアは笑って流してくれた。
「それで、リューナが自分と破壊神は似てるって言ったことがあって」
「えっ? なんで?」
「『いなければいいのに』と思われているところが自分と似てるって言ってました。否定しましたが」
子どもの頃を思い出してフォスターは苦渋の表情になった。
「そんなこと思ってるようには見えないけど」
「旅に出てからは理力が多いことに気が付いて自信がついたのか、友達が出来たからなのかあまり表に出さなくなりましたが」
「今までは理力が多いことに気付いてなかったの?」
「はい。神官じゃないとそんなこと気付かないですよ」
「まあ、それはそうかも。ここで普通に暮らしてる分には理力の多い少ないって生活に関係ないもんね」
納得しているエクレシアにフォスターは話を続ける。
「あいつは、自分に自信が無いんです。目が見えないからか『人に迷惑かけてる』と思いがちで。だから、自分が破壊神の子だと知ったら、どんなに落ち込むか。やっぱりいらない子だったとか思うんじゃないかって。俺は、それが嫌なんです」
「それは……大問題だね……」
エクレシアは言いにくそうに続ける。
「その、あんたの心配とはズレてしまって申し訳ないんだけどね……大問題なんだよ」
「? どういうことですか?」
「神の子は感情を抑えるように育つはずなんだ」
「あっ……」
過去の夢で見たレアフィールを思い出す。一度だけ、感情的になって神の力を使っていた。
「で、でも、そうならないために力を封じてあるんですよね?」
「うん、たぶんね。今まで特に何ともなかったんでしょ?」
「はい」
特に今までリューナの周りで不可解な出来事が起きた覚えはない。
「感情的になったことは?」
「しょっちゅうですよ。親父に怒ったり、友達と別れて大泣きしたり」
「となると……知ったらどうなるか、だね。きっと悲しむよね……知ったとたん自覚が出るのかもわからないし。そのとたん封じた力が覚醒するかもしれないし、しないかもしれない。前例が無いからどうなるのか全くわからないのが困るね……」
二人で少しの間思考を巡らせた。
「自覚したら、別人のようになってしまうんでしょうか」
「わからない。自覚によって力を制御出来るかどうかもわからない」
「わからないことだらけで……これからどうすればいいんでしょうか……」
「お父さんを見つけるのが一番いいと思う。あと、見つからなかったときのために闇の都に当時の様子を聞く。大神官にお願いしたら聞いてくれると思うし」
ストロワのことで一つ気付いたことがあったので訊いてみた。
「そういえば、そちらは聖堂が無いところでも石が降臨するって過去を見たときに聞きました」
「あ、うん。お父さんは簡易祭壇を作ってた」
「エクレシアさんたちは石を降臨させることは出来るんですか?」
「神殿の聖堂でなら出来るけど、簡易祭壇では出来なかった」
「大神官じゃないと出来ないってことですか」
少し考えをまとめてから続いて尋ねる。
「もし、大神官が亡くなったら次の大神官って自動的に引き継がれるんですか?」
「聖堂で新しい大神官が祈って神様に報告しないとなれないね」
「じゃあ、やっぱりそこからじゃ生死はわからないのか……」
「ああ、そういうことか……」
エクレシアの声が沈んだ。自動的に引き継がれるなら簡易祭壇でキナノスが祈って神の石が降臨するかどうかでストロワの生死がわかるのではないか、とフォスターは考えたのだがそれは無理のようだ。しかし人の不幸を想像するのは気分の良いものではない。
「今うちの神殿がどうなってるかもわからないからね。ああいうのがたくさんいるんじゃないかと思ってるし」
「それも大神官から闇の都に連絡してもらって探れませんかね?」
「そうだね。手紙に書いておこう」
エクレシアは手持ちの紙に今まで話したことを書きとめていた。後で清書して大神官への手紙を書くのだろう。
「じゃあそろそろ本当に買い物に行こうか。あまり遅くなってもいけないし」
「はい」
「じゃあ、まずは何を買う?」
エクレシアが広場にあった大きな時計で時間を確認すると、二人は急ぎ足で買い物へ向かった。
ストロワが急いでビスタークにリューナを託したこと。神の子だから人間の赤ん坊より楽だと言っていたこと。死去神の町で神託があったこと。怪我をしてもすぐに治ること。神の子だという証拠がまた増えてしまった。
「大丈夫? 思い詰めたような顔をしてるけど」
エクレシアが黙ったままのフォスターを案じた。
「あ……はい……」
「大丈夫じゃなさそうだね。何かあるなら聞いてあげるよ。ビスタークやリューナには言えないこともあるでしょ」
「言っても何も解決しないんですけど……」
「でも言ったほうが少しは楽になると思うから」
そう言われ、エクレシアの言葉に甘えて弱音を吐いた。
「俺は、リューナが神の子なんかじゃなければいいと思ってるんです。身代わりの子で、ただ巻き込まれただけの普通の子だったらいいと」
「……うん」
「あいつが神の子に見えますか?」
「神様を見たことがないからなんとも言えないけど、普通の可愛い女の子だね……。ただ、なんか惹き付けられる感じがするよね。変装に眼鏡とかつらを着けて正解だったと思うよ」
「それは俺も思いました」
変装したらどうかと提案してくれたヨマリーに心の中で感謝した。
「神殿のほうで、捕まえた神衛たちにリューナと同じ髪の色の人を見せて反応するかどうか確認するとさっき聞きました」
「あーなるほど。姿形でしか判断してないんじゃないかってことね」
静寂石は使っているが念のため声の大きさは抑えている。
「で、話を戻しますが、あいつが神様になれると思いますか?」
「うーん……」
「親父の記憶に出てきた神の子はもっと落ち着いていて、達観している感じのひとでした。俺にはリューナがああなれるとはとても思えない。ただの人間になる方法は何か無いんですか?」
フォスターは悲痛な表情で訴えた。
「私は神の子をリューナしか知らないから何とも言えないね……普通なら自覚があるんだよね?」
「俺が夢の中で見た神の子は自覚がありました。神の力を使ってしまったときは『怒られる』って言ってましたから、こっちにわからないところで今の神様と会話してるのかもしれません」
エクレシアは少し考えてから発言する。
「今まで人間になった神様の話は聞いたことがないね。神話の戦争した神様たちもすぐ人間になったわけじゃなくて、次に生まれるときって話だったじゃない」
「……」
神話は確かにそういう話だった。人間に降格するとしても次の人生なのだ。リューナに当てはめると罪を犯したとしても今人間になることは出来ず、家族のままではいられないということである。両親の悲しむ顔が脳裏に浮かび苦しくなる。
「でもさ、リューナは普通の神の子と状況が違うじゃない。自覚も無いし神殿で育てられてもいない。力の制御とかとても出来そうもないよね」
「はい……」
「その辺をさ、リューナが今の神様と交渉したらどうにかならないかな?」
「なる……でしょうか」
「このまますんなり神様になれるとは思えないし、少なくとも猶予はもらえるよ」
「……」
猶予は確かにもらえるかもしれないが、人間になるのは不可能なのだろうか。でも、交渉に一縷の望みを抱くことにした。
「あの、神官の人にこんなこと言うのは申し訳ないんですけど……」
「ん?」
「うちの町では、破壊神って嫌われてるんですよ」
「あはは、まああの神話を聞かされてたらそうなるだろうね」
破壊神の神官であるエクレシアは笑って流してくれた。
「それで、リューナが自分と破壊神は似てるって言ったことがあって」
「えっ? なんで?」
「『いなければいいのに』と思われているところが自分と似てるって言ってました。否定しましたが」
子どもの頃を思い出してフォスターは苦渋の表情になった。
「そんなこと思ってるようには見えないけど」
「旅に出てからは理力が多いことに気が付いて自信がついたのか、友達が出来たからなのかあまり表に出さなくなりましたが」
「今までは理力が多いことに気付いてなかったの?」
「はい。神官じゃないとそんなこと気付かないですよ」
「まあ、それはそうかも。ここで普通に暮らしてる分には理力の多い少ないって生活に関係ないもんね」
納得しているエクレシアにフォスターは話を続ける。
「あいつは、自分に自信が無いんです。目が見えないからか『人に迷惑かけてる』と思いがちで。だから、自分が破壊神の子だと知ったら、どんなに落ち込むか。やっぱりいらない子だったとか思うんじゃないかって。俺は、それが嫌なんです」
「それは……大問題だね……」
エクレシアは言いにくそうに続ける。
「その、あんたの心配とはズレてしまって申し訳ないんだけどね……大問題なんだよ」
「? どういうことですか?」
「神の子は感情を抑えるように育つはずなんだ」
「あっ……」
過去の夢で見たレアフィールを思い出す。一度だけ、感情的になって神の力を使っていた。
「で、でも、そうならないために力を封じてあるんですよね?」
「うん、たぶんね。今まで特に何ともなかったんでしょ?」
「はい」
特に今までリューナの周りで不可解な出来事が起きた覚えはない。
「感情的になったことは?」
「しょっちゅうですよ。親父に怒ったり、友達と別れて大泣きしたり」
「となると……知ったらどうなるか、だね。きっと悲しむよね……知ったとたん自覚が出るのかもわからないし。そのとたん封じた力が覚醒するかもしれないし、しないかもしれない。前例が無いからどうなるのか全くわからないのが困るね……」
二人で少しの間思考を巡らせた。
「自覚したら、別人のようになってしまうんでしょうか」
「わからない。自覚によって力を制御出来るかどうかもわからない」
「わからないことだらけで……これからどうすればいいんでしょうか……」
「お父さんを見つけるのが一番いいと思う。あと、見つからなかったときのために闇の都に当時の様子を聞く。大神官にお願いしたら聞いてくれると思うし」
ストロワのことで一つ気付いたことがあったので訊いてみた。
「そういえば、そちらは聖堂が無いところでも石が降臨するって過去を見たときに聞きました」
「あ、うん。お父さんは簡易祭壇を作ってた」
「エクレシアさんたちは石を降臨させることは出来るんですか?」
「神殿の聖堂でなら出来るけど、簡易祭壇では出来なかった」
「大神官じゃないと出来ないってことですか」
少し考えをまとめてから続いて尋ねる。
「もし、大神官が亡くなったら次の大神官って自動的に引き継がれるんですか?」
「聖堂で新しい大神官が祈って神様に報告しないとなれないね」
「じゃあ、やっぱりそこからじゃ生死はわからないのか……」
「ああ、そういうことか……」
エクレシアの声が沈んだ。自動的に引き継がれるなら簡易祭壇でキナノスが祈って神の石が降臨するかどうかでストロワの生死がわかるのではないか、とフォスターは考えたのだがそれは無理のようだ。しかし人の不幸を想像するのは気分の良いものではない。
「今うちの神殿がどうなってるかもわからないからね。ああいうのがたくさんいるんじゃないかと思ってるし」
「それも大神官から闇の都に連絡してもらって探れませんかね?」
「そうだね。手紙に書いておこう」
エクレシアは手持ちの紙に今まで話したことを書きとめていた。後で清書して大神官への手紙を書くのだろう。
「じゃあそろそろ本当に買い物に行こうか。あまり遅くなってもいけないし」
「はい」
「じゃあ、まずは何を買う?」
エクレシアが広場にあった大きな時計で時間を確認すると、二人は急ぎ足で買い物へ向かった。