残酷な描写あり
R-15
147 報告
「で、どうだった?」
店から少し離れた広場に出ると、エクレシアがその場にある椅子がわりとして設置された大きな石をフォスターに勧め、早速ビスタークの過去のことを聞いてきた。周りに人があまりおらず見通しも良く、静寂石も使っているため安心して会話が出来そうである。
「えっと……ストロワさんのことでいいんですよね?」
「うん。まずはそこから」
「会えるまで世界中を探してましたね……」
過去を見たとはいえ、あれは夢でもあったので早く話さないと忘れていきそうであった。
「闇の都の孤児院に行って、そこのええと……ディオファさん、だったかな。その人にストロワさんが孤児院に来たこととリグテュラス大陸へ向かったことを教えられてました」
「その辺は本人から聞いた」
「……俺が過去を見た意味あります?」
「いや、本人が忘れてることや言わなかったことがあるかもしれないから確認してるんだよ。気にせず続けて」
フォスターは頷いて続きを話す。
「ストロワさんはリューナを闇の都の孤児院に預けるつもりだったらしいです」
「それは聞いてないなあ」
少しほっとした。過去を見たことが何の役にも立たないのではないかと思ったからだ。
「何か神殿のほうで色々とあったらしく預けられなかったそうです」
「色々とあった?」
「その辺のことは何も言われて無かったですね。ストロワさんが知ってたかどうかもわかりませんでした」
エクレシアは少し考えてから疑問を口にした。
「……闇の都も襲われてた、とか?」
「ストロワさんは闇の都では襲われなかったと言ってました。それに特に混乱とかも無いように見えました」
「破壊神の神殿から一番近い都は闇の都なんだよね」
「風の都との中間地点だって言ってませんでしたか?」
「距離的にはそうなんだけど、崖があって遠回りしないと風の都には行けないから」
「あー、なるほど」
「だから闇の都が襲われてもおかしくないなあと思ったんだけどね」
そう推測を述べた後でエクレシアが報告の続きを促す。
「それから、ストロワさんと再会したときには光の都の神衛兵に追われていて、光の都には行かないほうがいいって言われてました。……どうなんでしょう」
「それはこっちでも聞いた。やっぱり都も信用ならないってことなのかな……」
「でも、出会う前に光の都に行ってましたけど、特に変なことは無かったですよ?」
「光の神衛は全員じゃなく一部だけああいう操られたような感じになってたのかな?」
「追ってきた神衛はみんな鎧が違ってましたし、全員じゃないと思いますけどね……」
「光源石が出なくなった話も聞かないしね。まあ、大神官にも一応報告したほうがいいね」
確かにそうなのだがフォスターには一つ懸念がある。
「そうなると親父に過去を見たことがばれちゃいますよね?」
「うーん……じゃあ、後で私が手紙を書くよ。神官の子に渡しておくから、それを大神官に読んでもらえばいい」
「それは助かります」
心配事が無くなったので過去の話を続ける。
「ストロワさんと別れた後、親父が絹神の町、ストロワさんが鉄神の町に向かってました」
「それも聞いた。ビスタークはティメロス大陸に行って、お父さんは別の道を行くって言ってたらしいね」
「そうなると、命の都や炎の都方面か、闇の都、風の都方面に回り道する感じですかね」
「闇の都は通らないと思う。そこから逃げて来たんだから」
「俺もそう思いました」
風の都より命の都のほうがまだ近い。そこから捜索したほうがいいだろうかと考える。船で襲われたら逃げ場が無いと危惧していたが、大陸から出るなら必ず船に乗らなければならないので何処へ向かうのでも危険なのは一緒だ。
「他に何か気付いたこととかあった?」
「会う前でしたけど、親父は時の都でみなさんのことを神殿の窓口で聞いて警戒されてたようでした」
「ああ、それも聞いたよ。一応大神官から時の都に怪しくないって伝えてもらおうか」
「十六年前のことを伝える必要あります?」
「まあ、念のためだよ」
他に何か無いだろうかと思い出そうとする。
「あ、神の力をどうやって封じ込めているかは『口止めされていて言えない』って言ってました」
「それも聞いてる。闇の都で何かしてもらったのかな……」
「これも大神官に報告ですね」
「他には何かある?」
ストロワに関してはそれくらいしかなかったが、フォスターは別の気になることがあった。
「ストロワさんの話では無いんですけど……」
「いいよ、言ってみて」
「母の出身の町が滅んでいたことは知ってましたか?」
「えっ、知らない……」
エクレシアの表情が暗くなった。
「レリアはそもそもどこの出身なのかもわからないって聞いたけど」
「じゃあ、子どもには教えなかったのかもしれませんね」
それを聞き怪訝な顔をしてエクレシアが尋ねる。
「どこなの?」
「鯵神の町です。四つの都の中間地点にある島にあったそうです」
「滅んだってどういうこと?」
「町民全員死んで悪霊化していたらしいです」
「……原因は?」
「全員衰弱死、だそうです」
「衰弱死?」
「はい。全員に母と同じような喉の傷があって声が出せなくなっていたそうですが、死因は衰弱死だとか」
「初めて聞いたよ、それ」
「ストロワさんとは関係ないことだから言わなかったのかもしれませんね」
エクレシアは軽く頷いて話の続きを求めた。
「『例の薬』も使われていて、神の石もとっくに出なくなっていたとか。親父は朽ちた建物のある島を船から遠目に見ただけで、直接確かめたわけじゃないですけど、複数の人たちから証言を聞いてましたので本当のことだと思います」
「大事件じゃない。それはどうなったの?」
「未解決のままでした」
「何もわかってないの?」
「そうみたいです。本や紙類は全部燃やされていて、手がかりになるような物は死体と『薬』の成分、血痕くらいしか無かったらしいです。当時の話ですから今は何かわかっているのかもしれませんが」
フォスターはそこまで話してから夢で見た死ぬ直前のビスタークの考えを思い出した。
「それで……これは親父の勝手な憶測なんですけど……」
「うん、いいから話して」
「滅んだ町の原因とリューナを攫おうとする奴らに繋がりがあるんじゃないかって」
「……まあ、そう思いたい気持ちはわかる。それなら悪人は一組で済むからね」
「ああ、確かに……」
この二つの事件に関係性がないのなら、悪人は二組いることになる。
「神の町が滅ぶなんてことあるんですね……町って、神様が守ってくれてるんじゃないんですか?」
「神様が見てるから石の供給が止まったんだろうけど……神託はどうだったのかな。一度神託があったら、神様が代替わりするまで何も干渉出来ないからね。神の子もいなかったとしたら神様が何も手出し出来なかったのかもしれない」
神話の戦争以降、神は基本的に人の世に手を出さない方針となった。たった一度だけの神託と代替わりの前に神の子を神殿に託す以外は関わらない。
「町が無くなったら、そこの神様ってどうなるんですか?」
「別に死んだりしないよ。人には神様を殺すことが出来ないからね。お役目が無くなって力が弱くなるって聞いてるけど」
「そうなんですか」
「『例の薬』を作ってばらまいている奴らなのかなあ」
「証拠を残さないようにしたようですのでそうかもしれませんね」
「島で作っていたのかもしれないね」
エクレシアはそう言ってから首を傾げる。
「でも『薬』とリューナを狙ってることに関連性が見出だせないなあ。どっちも犯人の目星がついていないって共通点があるだけだよ」
「それでも一応報告の手紙に書いておいてください」
「うん、いいよ」
フォスターはもう一つ思い出したことがあった。
「あ、そうだ。これも不確かなんですけど」
「何?」
「その町の大神官が半分悪霊化してて、『子どもに気をつけろ』って言ったらしいんです。聞き取りにくかったから違うかもしれないとは言ってましたが」
「子ども?」
「人質の子どものことじゃないかとも言われてました。母が逃がされたんだとしたら、俺にとっての祖父母は殺されたんだと思いますし」
「んー……」
しばらくエクレシアは考え込んだ。フォスターも自分でそう言ってから、祖父母は父方と母方両方どちらも殺されたのだなと重い気持ちになって黙り込んだ。沈黙の後、エクレシアが口を開いた。
「でもさ、死んでからそんなこと言うかな? 生きてる間は人質のことを考えなきゃならなかっただろうけど、死んじゃったら気をつける必要無いじゃない」
「そう言われればそうですね」
「でも子どもが町を滅ぼすような犯人になるとも思えないし、別のことを言ってたんじゃないかなあ」
「それはその言葉を聞いてた人でないと推測できませんね……」
「まあ一応大神官へ報告しておこうか」
自分でも大神官へ手紙を書いて報告するべきかとも一瞬考えたが、ビスタークの前では書けないからエクレシアに任せたことを思い出し、それは諦めた。
店から少し離れた広場に出ると、エクレシアがその場にある椅子がわりとして設置された大きな石をフォスターに勧め、早速ビスタークの過去のことを聞いてきた。周りに人があまりおらず見通しも良く、静寂石も使っているため安心して会話が出来そうである。
「えっと……ストロワさんのことでいいんですよね?」
「うん。まずはそこから」
「会えるまで世界中を探してましたね……」
過去を見たとはいえ、あれは夢でもあったので早く話さないと忘れていきそうであった。
「闇の都の孤児院に行って、そこのええと……ディオファさん、だったかな。その人にストロワさんが孤児院に来たこととリグテュラス大陸へ向かったことを教えられてました」
「その辺は本人から聞いた」
「……俺が過去を見た意味あります?」
「いや、本人が忘れてることや言わなかったことがあるかもしれないから確認してるんだよ。気にせず続けて」
フォスターは頷いて続きを話す。
「ストロワさんはリューナを闇の都の孤児院に預けるつもりだったらしいです」
「それは聞いてないなあ」
少しほっとした。過去を見たことが何の役にも立たないのではないかと思ったからだ。
「何か神殿のほうで色々とあったらしく預けられなかったそうです」
「色々とあった?」
「その辺のことは何も言われて無かったですね。ストロワさんが知ってたかどうかもわかりませんでした」
エクレシアは少し考えてから疑問を口にした。
「……闇の都も襲われてた、とか?」
「ストロワさんは闇の都では襲われなかったと言ってました。それに特に混乱とかも無いように見えました」
「破壊神の神殿から一番近い都は闇の都なんだよね」
「風の都との中間地点だって言ってませんでしたか?」
「距離的にはそうなんだけど、崖があって遠回りしないと風の都には行けないから」
「あー、なるほど」
「だから闇の都が襲われてもおかしくないなあと思ったんだけどね」
そう推測を述べた後でエクレシアが報告の続きを促す。
「それから、ストロワさんと再会したときには光の都の神衛兵に追われていて、光の都には行かないほうがいいって言われてました。……どうなんでしょう」
「それはこっちでも聞いた。やっぱり都も信用ならないってことなのかな……」
「でも、出会う前に光の都に行ってましたけど、特に変なことは無かったですよ?」
「光の神衛は全員じゃなく一部だけああいう操られたような感じになってたのかな?」
「追ってきた神衛はみんな鎧が違ってましたし、全員じゃないと思いますけどね……」
「光源石が出なくなった話も聞かないしね。まあ、大神官にも一応報告したほうがいいね」
確かにそうなのだがフォスターには一つ懸念がある。
「そうなると親父に過去を見たことがばれちゃいますよね?」
「うーん……じゃあ、後で私が手紙を書くよ。神官の子に渡しておくから、それを大神官に読んでもらえばいい」
「それは助かります」
心配事が無くなったので過去の話を続ける。
「ストロワさんと別れた後、親父が絹神の町、ストロワさんが鉄神の町に向かってました」
「それも聞いた。ビスタークはティメロス大陸に行って、お父さんは別の道を行くって言ってたらしいね」
「そうなると、命の都や炎の都方面か、闇の都、風の都方面に回り道する感じですかね」
「闇の都は通らないと思う。そこから逃げて来たんだから」
「俺もそう思いました」
風の都より命の都のほうがまだ近い。そこから捜索したほうがいいだろうかと考える。船で襲われたら逃げ場が無いと危惧していたが、大陸から出るなら必ず船に乗らなければならないので何処へ向かうのでも危険なのは一緒だ。
「他に何か気付いたこととかあった?」
「会う前でしたけど、親父は時の都でみなさんのことを神殿の窓口で聞いて警戒されてたようでした」
「ああ、それも聞いたよ。一応大神官から時の都に怪しくないって伝えてもらおうか」
「十六年前のことを伝える必要あります?」
「まあ、念のためだよ」
他に何か無いだろうかと思い出そうとする。
「あ、神の力をどうやって封じ込めているかは『口止めされていて言えない』って言ってました」
「それも聞いてる。闇の都で何かしてもらったのかな……」
「これも大神官に報告ですね」
「他には何かある?」
ストロワに関してはそれくらいしかなかったが、フォスターは別の気になることがあった。
「ストロワさんの話では無いんですけど……」
「いいよ、言ってみて」
「母の出身の町が滅んでいたことは知ってましたか?」
「えっ、知らない……」
エクレシアの表情が暗くなった。
「レリアはそもそもどこの出身なのかもわからないって聞いたけど」
「じゃあ、子どもには教えなかったのかもしれませんね」
それを聞き怪訝な顔をしてエクレシアが尋ねる。
「どこなの?」
「鯵神の町です。四つの都の中間地点にある島にあったそうです」
「滅んだってどういうこと?」
「町民全員死んで悪霊化していたらしいです」
「……原因は?」
「全員衰弱死、だそうです」
「衰弱死?」
「はい。全員に母と同じような喉の傷があって声が出せなくなっていたそうですが、死因は衰弱死だとか」
「初めて聞いたよ、それ」
「ストロワさんとは関係ないことだから言わなかったのかもしれませんね」
エクレシアは軽く頷いて話の続きを求めた。
「『例の薬』も使われていて、神の石もとっくに出なくなっていたとか。親父は朽ちた建物のある島を船から遠目に見ただけで、直接確かめたわけじゃないですけど、複数の人たちから証言を聞いてましたので本当のことだと思います」
「大事件じゃない。それはどうなったの?」
「未解決のままでした」
「何もわかってないの?」
「そうみたいです。本や紙類は全部燃やされていて、手がかりになるような物は死体と『薬』の成分、血痕くらいしか無かったらしいです。当時の話ですから今は何かわかっているのかもしれませんが」
フォスターはそこまで話してから夢で見た死ぬ直前のビスタークの考えを思い出した。
「それで……これは親父の勝手な憶測なんですけど……」
「うん、いいから話して」
「滅んだ町の原因とリューナを攫おうとする奴らに繋がりがあるんじゃないかって」
「……まあ、そう思いたい気持ちはわかる。それなら悪人は一組で済むからね」
「ああ、確かに……」
この二つの事件に関係性がないのなら、悪人は二組いることになる。
「神の町が滅ぶなんてことあるんですね……町って、神様が守ってくれてるんじゃないんですか?」
「神様が見てるから石の供給が止まったんだろうけど……神託はどうだったのかな。一度神託があったら、神様が代替わりするまで何も干渉出来ないからね。神の子もいなかったとしたら神様が何も手出し出来なかったのかもしれない」
神話の戦争以降、神は基本的に人の世に手を出さない方針となった。たった一度だけの神託と代替わりの前に神の子を神殿に託す以外は関わらない。
「町が無くなったら、そこの神様ってどうなるんですか?」
「別に死んだりしないよ。人には神様を殺すことが出来ないからね。お役目が無くなって力が弱くなるって聞いてるけど」
「そうなんですか」
「『例の薬』を作ってばらまいている奴らなのかなあ」
「証拠を残さないようにしたようですのでそうかもしれませんね」
「島で作っていたのかもしれないね」
エクレシアはそう言ってから首を傾げる。
「でも『薬』とリューナを狙ってることに関連性が見出だせないなあ。どっちも犯人の目星がついていないって共通点があるだけだよ」
「それでも一応報告の手紙に書いておいてください」
「うん、いいよ」
フォスターはもう一つ思い出したことがあった。
「あ、そうだ。これも不確かなんですけど」
「何?」
「その町の大神官が半分悪霊化してて、『子どもに気をつけろ』って言ったらしいんです。聞き取りにくかったから違うかもしれないとは言ってましたが」
「子ども?」
「人質の子どものことじゃないかとも言われてました。母が逃がされたんだとしたら、俺にとっての祖父母は殺されたんだと思いますし」
「んー……」
しばらくエクレシアは考え込んだ。フォスターも自分でそう言ってから、祖父母は父方と母方両方どちらも殺されたのだなと重い気持ちになって黙り込んだ。沈黙の後、エクレシアが口を開いた。
「でもさ、死んでからそんなこと言うかな? 生きてる間は人質のことを考えなきゃならなかっただろうけど、死んじゃったら気をつける必要無いじゃない」
「そう言われればそうですね」
「でも子どもが町を滅ぼすような犯人になるとも思えないし、別のことを言ってたんじゃないかなあ」
「それはその言葉を聞いてた人でないと推測できませんね……」
「まあ一応大神官へ報告しておこうか」
自分でも大神官へ手紙を書いて報告するべきかとも一瞬考えたが、ビスタークの前では書けないからエクレシアに任せたことを思い出し、それは諦めた。