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作者: 結城貴美
残酷な描写あり R-15
149 万引犯
 フォスターとエクレシアが外出している間、店では万引き犯の子どもを確保するため罠を仕掛けていた。ビスタークの鉢巻きを店の商品の上に置き、ティリューダがその端を握りカウンターの後ろへ隠れる。フォスター達が買い物に出た後しばらく待ったが、客がたまに来るだけで万引き犯らしき子どもは一向に来ない。客が来た場合はキナノスが奥から出てきて対応するが、客が帰ると奥に引っ込んでいた。

『今日犯人が来なかったらどうなるんだ?』
「キナノスさん、ビスタークさんが今日来なかったらどうなるんだと聞いてます」

 今はティリューダしかビスタークの声が聞こえていない。奥の部屋へ向かって声をかけた。奥の部屋への扉は開けっ放しになっており、その扉の陰に隠れるようにダスタムが待機している。

「毎日やらせる」
「だそうですよ」
『やなこった』
「どうせ文句言ってるんだろ。だったら酒弁償しろ」
「まあまあ。その辺は今日来なかったら考えましょう」

 それからかなり待った後、また入口扉のベルが鳴った。

『ガキらしいのが入ってきたぞ』

 入ってきた人物は帽子を目深に被って顔が見えなかったが、背丈で子どもだと判断した。普通の客という可能性もあるが様子が怪しかった。ビスタークがティリューダにそう伝えると場に緊張が走る。その子どもは店の奥のほうを気にしながら、近くにあった神の石を無造作に掴んで服のポケットに突っ込んだ。

『石を服に入れてる』

 その現場を見たとたん、ビスタークがティリューダに告げた。子どもはビスタークの鉢巻きには触れなかったのでティリューダはダスタムに合図をした。ダスタムは即、奥から瞬時に飛び出し店から出ていこうとしている子どもを捕まえた。急に出てきた体格の良い男に子どもは驚き怯えたようで一瞬動きが止まっていた。

「子どもだよな?」
「そうだね」

 ダスタムは万引き犯の首根っこを掴んでそのまま片手で持ち上げている。ティリューダもビスタークの鉢巻きと一緒に近付き、そっと肌が出ている足首に巻いた。

「いてぇ! 何すんだ! 離せよ!」
「さあ、今服に入れた石を出しなさい」
「首締まる! 下ろしてくれたら出すよ!」

 ティリューダに目で合図され、ダスタムはその子どもを床に下ろした。そのとたん、走って逃げ出そうとしたが、ビスタークの鉢巻きを巻かれた右足首が動かずその場で転んでしまった。

「ははは、残念だったな」
「くそっ! なんで足が動かないんだ!」
「呪いの布を巻いたからよ」
「呪い!? な、なんだこれ!? 外せない!」
『……』

 子どもは慌てて鉢巻きを外そうとしたがビスタークの意志で外すことが出来ない。ビスタークは「呪いの布」と呼ばれたことに苛立ったが、今自分が発言すると場が混乱すると考えて黙っておいた。そしてダスタムが子どもの服から盗んだ神の石を取り出している間にキナノスが奥から合流した。

「おー、お前だな? この前から石盗んでたのは」
「盗まれて困るんならちゃんと店番してろよ。人がいねえから盗まれるんだよ」
「忠告ありがとう」

 客が来たときだけ奥から出てくるのでもっともな指摘である。

「なんでこんなことした?」
「生活苦しいのか?」
「そういうときは神殿に頼りなさい」

 キナノスとダスタムとティリューダがいっぺんに話しかけたが子どもは黙ったままである。思い詰めたような表情の子どもが何か言うのを待っていると気の抜けるような音が聞こえた。

 ぐぅぅ……。

 その直後、子どもの顔が赤くなった。

「お腹すいてるの?」
「やっぱり生活苦しいのか」
「おーい、さっきの菓子、まだ残ってるか?」

 キナノスが奥にいる自分の子どもたちに聞いた。

「あるよー」

 姉のケトレンが答える。リューナは本当ならもっと食べたかったのだが、フォスターが昼食を作ってくれるというので我慢したため残っていた。

「じゃあ、こっちこい。まずは何か食え。話はそれから聞く」

 キナノスが万引き犯の子どもの腕を引っ張り、半ば無理矢理奥の部屋へ連れていった。ビスタークの鉢巻きはつけたままで、その端はティリューダからダスタムに渡された。ビスタークがいつまでこうしてるのかと文句を言うと、子どもが出所のわからない声に少し怯えた。その部屋では先程からリューナと姉のケトレン、弟のシーカフがテーブル席に座っている。子どもはリューナを見て一瞬目を留めたが、 誰にも気付かれることはなかった。

「とりあえずこれでも食っとけ」

 キナノスは強制的に椅子に座らせ菓子の載った皿を前に置いてやった。我慢出来なかったのか喉を鳴らすとすぐに勢いよく食べ始めた。

 そこでフォスターとエクレシアが買い出しから帰ってきた。

「ただいまー。どうなったー? お、その子?」

 エクレシアが菓子を食べている子どもを見ておおよそのことを察した。

「というわけで一人増えますが大丈夫でしょうか?」

 ティリューダが昼食の人数変更について気遣う。

「大丈夫だよね?」
「ああ、はい。子ども一人くらいなら」
「おかえりなさい」

 リューナが自分のことにも気を向けるようフォスターに声をかけた。

「ただいま。これから作るからおとなしく待っててくれな」
「うん」

 リューナはあまり大勢の中に身を置くことがない。慣れていない人たちの中でフォスターと離れると不安になってしまう。返事が聞こえたので少し安心したようだ。フォスターとエクレシアはそのまま昼食を作るため奥の厨房へ引っ込んでいった。

 万引きの子どもは残っていた菓子を全て平らげた。もっと欲しい素振りを見せたのですかさずキナノスが話しかける。

「さて、昼飯を食わせてやってもいいんだが、作っている間に話を聞かせてもらうぞ」
「……食べずに持って帰ってもいいか?」
「誰か待ってるのか?」

 子どもは少し考えてからぼそっと呟く。

「……母ちゃん」
「母ちゃん、病気かなんかか?」

 ダスタムが横から聞いた。

「足を怪我してるんだ。動けなくて、働けないんだ」
「お父さんは?」

 今度はティリューダが聞く。

「もっと小さいときに死んじゃった」
「そう……ごめんね、つらいこと聞いて。あなた、お名前は?」
「……ビヨシュ」
「ビヨシュ。わかった。この後お母さんのところに何か食べ物買って持っていってあげる。おうち教えてくれる?」

 ビヨシュはそれを聞いて怪訝な表情をした。

「……なんで親切にしてくれるんだ? おれ、悪いことしたのに」
「子どもが盗みを働くのは大抵何か困っていて、生きるために仕方なくやってることが多いからな」

 今は商売人だが元々は神官だったキナノスが答える。

「あなたたち親子は神殿で面倒をみるわよ」
「え、神殿で?」

 ビヨシュの顔色が変わった。ダスタムはそれを見て疑問に思う。

「なんかまずいことでもあんのか?」

 言いづらそうにビヨシュは答える。

「……神衛かのえが嫌いだ。見慣れない鎧を着けた神衛が母ちゃんを怪我させたんだ。神殿には色んなとこの神衛がいっぱいいるんだろ? きっと母ちゃんも怖がる」

 そばにあった鎧を見ながらそう言った。ダスタムが先ほど脱いで置いたものである。体格が良いため神衛兵だと察したらしい。

「見慣れないってことは他のところから来た神衛か」
「まさか……」
「その神衛、表情が無くて人形みたいな感じじゃなかったか?」
「え、そうだけど……なんか知ってんのか?」
「坊主、ちょっと帽子取るぞ」
「ちょ、勝手に触んな!」

 ビヨシュは青い髪色をしていた。

「お前の母ちゃんも同じ髪の色か?」
「……そうだけど?」
「だからか……」
「母ちゃんはそこのねえちゃんみたいに長いくせっ毛なんだ」

 ティリューダとダスタム、キナノスは顔を見合わせ、リューナはそれを聞いて青ざめた。
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