残酷な描写あり
R-15
133 都
既にストロワ達が時の都を訪れた後だったことを知り、すぐにビスタークは出発した。今から光の都へ向かって間に合うのだろうかとは思ったが、他に手がかりも無いので向かうしかなかったのである。
光の都は時の都から見て飛翔神の町とは反対側だ。世界の果ての崖にくっついている形の大陸内にある。来た道とは反対側の坂を下って港を目指した。
光の都側の港のほうが行きに通った港より距離がある。陸路は長いがそのかわり光の都のあるリグテュラス大陸までの海路はアークルス半島からティメロス大陸までの距離の半分程度である。
船に乗る時間は短いほうが憂鬱とならずに済む。暇があると幸せだった頃を思い出して悲しくなってしまうのだ。自分でも大の男がみっともないと思うがレリアより心が弱いのだから仕方がない。忙しくする以外に悲しみを乗り越える方法は思いつかなかった。海路より陸路のほうが景色も変わるため視界に刺激がある分まだ良い。海路が短いことに安堵し、また一か月ほどかけて光の都へ向かった。
光の都は大陸の中心の森の中にあった。街中にも大きな木があちこちに生えているためその広い木陰で薄暗くなっていてもおかしくないのだが、大きな光源石のついた街灯が等間隔で配置されているので明るさに問題は無かった。
ビスタークがこの光の都に来たのは初めてであるがやることは前回とほぼ同じである。真っ直ぐ神殿へ向かい滞在の手続きをした。前回の失敗を踏まえ、今回は受付で馬鹿正直に尋ねるようなことはしなかった。
まずは神殿内を歩き回ってストロワ達を探したが見当たらなかった。次に聞き込みを始めた。食堂には必ず寄るだろうと考え、厨房の奥で働いている者に聞くと厨房に籠りきりのため客の顔など見ていないと言われ落胆した。気を取り直して訓練の最中に複数の神衛兵見習い達にも聞いたが知らないと言われてしまった。
都の神官に尋ねるのは時の都でのことがあるので躊躇われた。また警戒されて嘘を教えられるかもしれないからだ。そのため神殿にいた神官見習い達へ片っ端から声をかけ聞き込みした。時々ナンパと間違えられて警戒されたが情報を得るため気にせず続けた。
めげずに聞き込みを続け、ようやくストロワ達の目撃情報を得た。その話をした神官見習いがここ光の都へ来た頃、何をどうすれば良いのかわからず右往左往していたときに助言をもらったらしい。その時、自分たちはもう試験が終わったので出発するという会話をしていたという。大体一か月くらい前の出来事だそうだ。
それを聞いてビスタークは心底後悔した。あの時時の都の受付に聞かず、聞き込みを済ませてさっさと出発していれば間に合っていたではないか、と。しかし悔やんでも時間を巻き戻すことは出来ない。賭けに負けた気分だった。次に何処へ行く予定など何か言っていなかったかと聞いたが、特に何も行き先の情報は得られなかった。その後も聞き込みを続けたが、それ以上役に立つ話は入って来なかった。
どうすれば良いのか目標を見失い、ビスタークは夜に外へ飲みに出歩き星を見上げた。輝星石を握れば遠くに紫色の星が見つけられる。光の都から飛翔神の町はかなりの距離があるため、石が無い状態ではレリアの星が見えなくなっていた。常に持ち歩きよく握りしめているのでそろそろ石が消滅しそうであるが、既に替えの石は購入してあるので問題ない。
ビスタークは暫くの間レリアの星をぼうっと眺めていて思い付いた。行くあてがないならレリアの故郷とも言える闇の都を目指すのも良いのではないかと。子どもの頃住んでいてストロワ達もいたならそこへ戻る可能性もある。
その思い付きに少し冷静さを取り戻し他にも取るべき行動が見えた。この小さな大陸には幾つかの港町がある。そこで聞き込みをすれば足取りが辿れるかもしれない。希望が出てきた。
早速退去手続きをし準備を整え翌々日に出発した。港町に行き聞き込みをして回ったが有力な情報は得られなかった。ストロワ達のような中年の者と一緒にいる神官見習いは神殿の中では珍しいため少し目につく存在だった。しかし町ではそういった少人数の集団はたくさんいる。さらに港町は他の島や大陸から、それに加え内陸部からもたくさんの人間が出入りしているのだ。そのため通り過ぎるだけの人物など印象に残らないようだった。色黒で金髪の者、山吹色の髪の女など別に珍しくもない。全ての港町をまわった後、ビスタークは予定通り闇の都方面へ向かう船に乗り込んだ。
闇の都のあるニグートス大陸は時の都のあるティメロス大陸の左側に位置している。光の都から一番近い海側は切り立った山岳地帯で町が無いため右から上に回り込むような航路となっている。船に乗っているだけで一か月以上もかかる。途中の島々へ停泊することと、持ち歩いているレリアの筆談の紙だけが退屈しのぎだった。船に乗っている者達にも当然ストロワ達に関する聞き込みをしたが誰も知る者はいなかった。
長い船旅を終えてニグートス大陸へ到着した。闇の都は港町から四日ほどの距離の平坦な場所にある。ビスタークは少し変わった畑が広がる街道を進んでいく。四角く区分けされていて一部は池のようだった。生えたばかりに見える短い緑の草はその池から生えている。一見麦のように見える金色の畑もあれば、その中間のものもあって成長具合がうかがえた。おそらく神の石の効果で問題なく育成しているのだろう。途中の米神の町であれは畑ではなく田んぼだと教えられた。米はレリアがよく食べていたと聞いている。寝込んでいたときに粥を作ったことを思い出した。あの時はまだ飛翔神の町に着いたばかりだった。あれから二年半くらいしか経っていないが随分昔のことのように感じられた。
レリアが亡くなってそろそろ一年経つ。ということは息子のフォスターも一歳になる頃である。ジーニェル達が幸せに育てていると信じているので何も心配はしていなかった。ただ、遥か遠い過去のように感じられるのだ。もう戻ってこない幸せだった日々が、夢だったのかと思える日々が、そんなに最近のことだとは思えなかった。
歩いている間に余計なことを考えないよう景色を眺める。周りは広大な田に囲まれているがたまに球形状の黒っぽい空間が見えた。闇源石の効果で農作業の者達が影を作っているのだ。この地方の気候は蒸し暑いので、影を作って少しでも涼しく過ごせるようにしているのだろうと思った。ビスタークも砂漠でそうしてもらったからだ。
闇の都は暗いのかと思っていたがそんなことはなく普通であった。ただ、他の都に比べて小さかった。周りを田畑に囲まれた少し大きな田舎町という雰囲気である。後から聞いた話によると、闇の大神の石はあまり需要が無いため、街が発展しなかったのだという。
この大陸は地元とは大分文化が違うようで町の建物も、行き交う人々の服装も、食堂で出される料理も見たことの無いものばかりであった。この場にレリアがいたら色々と案内してもらえただろうにな、と亡き妻に想いを馳せる。
神殿で滞在の手続きをして中を見て回った。ストロワ達は見当たらない。食堂の片隅で勉強をしていた神官見習い達に聞いてみたがやはり知らないようだった。その神官見習い達は額に鉢巻きをして勉強していた。レリアから聞いていた通りだな、と少し顔が綻ぶ。ビスタークは葬儀以降風呂と寝る時以外ずっと鉢巻きを額に巻いたままだった。神衛兵見習い達は兜を着けているので分かりづらいが首後ろから鉢巻きの端が見えている者もいた。試験や訓練に集中して挑むためにつけているのだろう。そういう風習があるのだとレリアから鉢巻きをもらったとき手紙に書かれていたな、と思い出していた。
光の都は時の都から見て飛翔神の町とは反対側だ。世界の果ての崖にくっついている形の大陸内にある。来た道とは反対側の坂を下って港を目指した。
光の都側の港のほうが行きに通った港より距離がある。陸路は長いがそのかわり光の都のあるリグテュラス大陸までの海路はアークルス半島からティメロス大陸までの距離の半分程度である。
船に乗る時間は短いほうが憂鬱とならずに済む。暇があると幸せだった頃を思い出して悲しくなってしまうのだ。自分でも大の男がみっともないと思うがレリアより心が弱いのだから仕方がない。忙しくする以外に悲しみを乗り越える方法は思いつかなかった。海路より陸路のほうが景色も変わるため視界に刺激がある分まだ良い。海路が短いことに安堵し、また一か月ほどかけて光の都へ向かった。
光の都は大陸の中心の森の中にあった。街中にも大きな木があちこちに生えているためその広い木陰で薄暗くなっていてもおかしくないのだが、大きな光源石のついた街灯が等間隔で配置されているので明るさに問題は無かった。
ビスタークがこの光の都に来たのは初めてであるがやることは前回とほぼ同じである。真っ直ぐ神殿へ向かい滞在の手続きをした。前回の失敗を踏まえ、今回は受付で馬鹿正直に尋ねるようなことはしなかった。
まずは神殿内を歩き回ってストロワ達を探したが見当たらなかった。次に聞き込みを始めた。食堂には必ず寄るだろうと考え、厨房の奥で働いている者に聞くと厨房に籠りきりのため客の顔など見ていないと言われ落胆した。気を取り直して訓練の最中に複数の神衛兵見習い達にも聞いたが知らないと言われてしまった。
都の神官に尋ねるのは時の都でのことがあるので躊躇われた。また警戒されて嘘を教えられるかもしれないからだ。そのため神殿にいた神官見習い達へ片っ端から声をかけ聞き込みした。時々ナンパと間違えられて警戒されたが情報を得るため気にせず続けた。
めげずに聞き込みを続け、ようやくストロワ達の目撃情報を得た。その話をした神官見習いがここ光の都へ来た頃、何をどうすれば良いのかわからず右往左往していたときに助言をもらったらしい。その時、自分たちはもう試験が終わったので出発するという会話をしていたという。大体一か月くらい前の出来事だそうだ。
それを聞いてビスタークは心底後悔した。あの時時の都の受付に聞かず、聞き込みを済ませてさっさと出発していれば間に合っていたではないか、と。しかし悔やんでも時間を巻き戻すことは出来ない。賭けに負けた気分だった。次に何処へ行く予定など何か言っていなかったかと聞いたが、特に何も行き先の情報は得られなかった。その後も聞き込みを続けたが、それ以上役に立つ話は入って来なかった。
どうすれば良いのか目標を見失い、ビスタークは夜に外へ飲みに出歩き星を見上げた。輝星石を握れば遠くに紫色の星が見つけられる。光の都から飛翔神の町はかなりの距離があるため、石が無い状態ではレリアの星が見えなくなっていた。常に持ち歩きよく握りしめているのでそろそろ石が消滅しそうであるが、既に替えの石は購入してあるので問題ない。
ビスタークは暫くの間レリアの星をぼうっと眺めていて思い付いた。行くあてがないならレリアの故郷とも言える闇の都を目指すのも良いのではないかと。子どもの頃住んでいてストロワ達もいたならそこへ戻る可能性もある。
その思い付きに少し冷静さを取り戻し他にも取るべき行動が見えた。この小さな大陸には幾つかの港町がある。そこで聞き込みをすれば足取りが辿れるかもしれない。希望が出てきた。
早速退去手続きをし準備を整え翌々日に出発した。港町に行き聞き込みをして回ったが有力な情報は得られなかった。ストロワ達のような中年の者と一緒にいる神官見習いは神殿の中では珍しいため少し目につく存在だった。しかし町ではそういった少人数の集団はたくさんいる。さらに港町は他の島や大陸から、それに加え内陸部からもたくさんの人間が出入りしているのだ。そのため通り過ぎるだけの人物など印象に残らないようだった。色黒で金髪の者、山吹色の髪の女など別に珍しくもない。全ての港町をまわった後、ビスタークは予定通り闇の都方面へ向かう船に乗り込んだ。
闇の都のあるニグートス大陸は時の都のあるティメロス大陸の左側に位置している。光の都から一番近い海側は切り立った山岳地帯で町が無いため右から上に回り込むような航路となっている。船に乗っているだけで一か月以上もかかる。途中の島々へ停泊することと、持ち歩いているレリアの筆談の紙だけが退屈しのぎだった。船に乗っている者達にも当然ストロワ達に関する聞き込みをしたが誰も知る者はいなかった。
長い船旅を終えてニグートス大陸へ到着した。闇の都は港町から四日ほどの距離の平坦な場所にある。ビスタークは少し変わった畑が広がる街道を進んでいく。四角く区分けされていて一部は池のようだった。生えたばかりに見える短い緑の草はその池から生えている。一見麦のように見える金色の畑もあれば、その中間のものもあって成長具合がうかがえた。おそらく神の石の効果で問題なく育成しているのだろう。途中の米神の町であれは畑ではなく田んぼだと教えられた。米はレリアがよく食べていたと聞いている。寝込んでいたときに粥を作ったことを思い出した。あの時はまだ飛翔神の町に着いたばかりだった。あれから二年半くらいしか経っていないが随分昔のことのように感じられた。
レリアが亡くなってそろそろ一年経つ。ということは息子のフォスターも一歳になる頃である。ジーニェル達が幸せに育てていると信じているので何も心配はしていなかった。ただ、遥か遠い過去のように感じられるのだ。もう戻ってこない幸せだった日々が、夢だったのかと思える日々が、そんなに最近のことだとは思えなかった。
歩いている間に余計なことを考えないよう景色を眺める。周りは広大な田に囲まれているがたまに球形状の黒っぽい空間が見えた。闇源石の効果で農作業の者達が影を作っているのだ。この地方の気候は蒸し暑いので、影を作って少しでも涼しく過ごせるようにしているのだろうと思った。ビスタークも砂漠でそうしてもらったからだ。
闇の都は暗いのかと思っていたがそんなことはなく普通であった。ただ、他の都に比べて小さかった。周りを田畑に囲まれた少し大きな田舎町という雰囲気である。後から聞いた話によると、闇の大神の石はあまり需要が無いため、街が発展しなかったのだという。
この大陸は地元とは大分文化が違うようで町の建物も、行き交う人々の服装も、食堂で出される料理も見たことの無いものばかりであった。この場にレリアがいたら色々と案内してもらえただろうにな、と亡き妻に想いを馳せる。
神殿で滞在の手続きをして中を見て回った。ストロワ達は見当たらない。食堂の片隅で勉強をしていた神官見習い達に聞いてみたがやはり知らないようだった。その神官見習い達は額に鉢巻きをして勉強していた。レリアから聞いていた通りだな、と少し顔が綻ぶ。ビスタークは葬儀以降風呂と寝る時以外ずっと鉢巻きを額に巻いたままだった。神衛兵見習い達は兜を着けているので分かりづらいが首後ろから鉢巻きの端が見えている者もいた。試験や訓練に集中して挑むためにつけているのだろう。そういう風習があるのだとレリアから鉢巻きをもらったとき手紙に書かれていたな、と思い出していた。