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作者: Siranui
残酷な描写あり
第百二話「命の価値」
 任務 ロスト・ゼロ作戦の成功
 遂行者 黒神大蛇、白神亜玲澄、エレイナ・ヴィーナス、武刀正義、カルマ、エイジ、ミスリア・セリウス、クロム・セリウス


 ヤマタノオロチ……それが、彼の本名だったのか。でも、今更知って何になるのだろうか。直に僕は死ぬ。身体ぬけがらをここに置いて旅立つというのに。あの声の人は何故この事を僕に言ったのだろうか。

 ……。
 ……………。
 ………もう、どうでもいい。何もかもどうでも良くなってきた。むしろ何かを考える事が馬鹿馬鹿しく思えてきた。これから消え逝く僕に何が出来よう。願えば叶うのか。祈れば実るのか。すがれば許してくれるのか。

 否、これは僕に定められた運命。結局は大蛇の実験台の一人に過ぎない。

 ……最後に聞かせてくれないか、黒神大蛇。お前は一体――



「何を……望んで、いる…………」
「何……?」
「お前は……っ! どんな運命を……、望むんだ!!」

 ……大蛇。お前は何のために運命と戦ってるんだ。そんなもののために俺やカルマが命を賭けて戦う意味は何だ。
 教えてくれよ大蛇。何で俺は目の前の神に刃を向けなければならない。何で必死に足掻かないといけない。
 そもそも今生きる者達は全てお前の運命とやらに命運が左右されるのか。

「ああああああっ!!!!」

 大蛇。お前は別の意味で人の命を軽く見ている。俺達の命はお前のものでも、神のものでもない。俺達個人のものだ。

 ――だから、俺に降り掛かった宿命くらい俺自身で変えてやる。もう昔の俺とは違う。
 それを今、この剣血喝祭で証明してやる!!

「『天啓断ツ冥神之剣ヘキザ・ジ・ゾルディック』!!」

 左手の魔剣キリシュタリアを後ろに構えつつ、右手の聖剣をもう一度ファウストに突きだす。

「くっ……まだ死なぬというのか!」

 ファウストは咄嗟とっさに両手から二刀を精製し、左手の魔剣でエイジの聖剣を受け流す構えをとる。それより一秒ほど速くエイジの聖剣がファウストの心臓を捉えた。

「なっ――!?」

 ――僕はもう、レイブン王国カルマの学友エイジではない。を仕える、ただ一人の勇者……だ!!

「うおおおおおおおお!!!!!!」

 深々と聖剣がファウストの心臓を貫く。鮮血の如く黒い液体が宙に舞う。

「くっ、人間如きが……神に抗えると思うなあああ!!!」

 ファウストは先程エイジの背中に突き刺した剣を精製して飛ばす。再び突き刺さる痛みに耐えながらも、エイジは左手にありったけの魔力を籠める。

「はああああああああっ!!!!」
「今度こそ……終わりだあああああ!!!」

 ファウストの右手の聖剣とエイジの左手の魔剣が同時に互いの身体を斬り裂いていく。

 長崎の地に、再び鮮血が飛び散った――
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