▼詳細検索を開く
作者: Siranui
残酷な描写あり
第百一話「神が下す運命」
 任務 ロスト・ゼロ作戦の成功
 遂行者 黒神大蛇、白神亜玲澄、エレイナ・ヴィーナス、武刀正義、カルマ、エイジ、ミスリア・セリウス、クロム・セリウス


 この長崎市からは、既に光も闇も消えていた。残るはスラムと化した街とそれを照らし出す太陽、そして神にひれ伏す一人の人間のみだった。

「ぐっ……がはっ」

 血を吐くも血の味がしない。まるで味覚が奪われたかのようだ。もはや痛覚しか感じられない。力が入らない。軽々と振っていた剣がずっしりと重く感じる。

「ふむ……人間如きにもこの我に傷をつける存在がいたとはな。我にもまだ世界の未知なる真実があるということか」

 両手から剣を消し、目の前に倒れるエイジの首を左手で掴む。

「うぐっ……」

 痛い。首の骨が折れそうになる。片手で握りつぶされる林檎りんごはこういう気持ちなのだろうか。

「エイジ……いや、今はあえてと言っておこう。今の貴様はあの頃によく似ている。生まれ変わり……なのかもしれぬな」
「あがっ……!」

 首を絞める力が一気に強くなる。思わず声が出る。視界が霞んできた。死が迫ってきてるのだろうか。

 ……俺は、もう死ぬのか。カルマを、大蛇達を、皆を置いて先に逝く朽ち果てるのか…………

「……だが、人は結局我には……神には抗えぬのだ。運命にも抗えないのだ。地球この世界じきに滅ぶ。神々の怒りによって……愚かなる人間共を存在ごと消し去る。
 たとえ魔王を仕えし『勇者』の生まれ変わりであろうお前でさえも、この運命を断ち切れない」
「――!?」

 やっぱり、そうか……こいつはアルスタリアの生徒なんかじゃない。だ。水星リヴァイスでいうトリトン王のような、何かを司る神……

「ぐっ……!!」

 まぁ、人間が馬鹿なのは否めないな……『常夏の血祭り』なんてものを作っては同類で殺し合い、豊かなる地を鮮血で満たすのだから。結局は戦争だ。無意味なことでただ星を血で染めては命を投げ捨て、刃を振るっては星を錆にしてしまう。

「安心しろ、すぐにこの世の人間共を全て消し去ってやる。『常夏の血祭り』などという下らん祭典もこの手で終わらせてやろう」
「お……まえは…………」

 結局人間は命を芽生えさせてはすぐに散らす存在なんだ。同時に在るもの全てを生み出しては腐らせる。愚か以上のなにものでもない。
 ファウストの言う通りだ……人間は一人でも多く消えるべきだ。当然俺も含まれる。人を救うために人を殺す……そんなものなんて最初からいらないんだよ。結局は神々が創ったとされる星を汚してるのだから。
 
 あぁ……これ、ただの学祭なんだよな。イメージと全然違ったな。むしろこんな事普通ありえない。祭りは楽しむものだって、カルマやディアンナ、それに国王様も……言ってたのに。

「さらばだ……愚かな人間の一人よ。そして、宿よ」

 ――刹那、プツンッと何かが切れた音がした。それと同時に視界が暗転した。あぁそうか、死んだのか。悪魔の手で首を摑まれて、握りつぶされてしんだのか、俺……いや、僕は。

 あぁ……もう君に合わせる顔が無くなっちゃったな。僕にはもう生まれ変わる価値なんてものも無いんだろうな。

『そうだ。もう貴様は生まれ変わる事はない。むしろこれが貴様の……の辿る運命なのだ。貴様はその実験台にしか過ぎなかったのだ。
 ……最後に教えてやろう。その反逆者の名は――――』
「――!!」


 その名を聞いて、僕は悟ってしまった。今の僕の恩人しんゆうの名が、突然聞こえた謎の者の口から発せられた。姿は見えなくとも、確かに言ったのだ。



 ――。それは、あの時水星リヴァイスで出会った青年……黒神大蛇である事に。
Twitter