残酷な描写あり
第九話「変化の代償」
緊急任務:依頼者マリエルの救出、『海の魔女』の正体の捜索、及び討伐
遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、カルマ、エイジ
犠牲者:0名
海の惑星リヴァイス 海中――
あぁ。何で私はこんなにも無力なんだろう。お父様が正気になったことしか頭にないが故にこうしてアースラに捕まってしまった。大蛇君もあんな危険なことをしてまで私を守ってくれたのに。
これじゃ元も子もないよ。本当に私はいつになっても駄目な女ね。あの時もそうだった。
この状況は、あの時とすごく似ている。私が一生思い出したくない出来事にすごく似ている――
私はアースラの足に絡まれながらそんなことを心の底から思った。アースラにこれから殺されることなんてほとんど怖くなかった。
それよりも自分の無力さに対しての怒りと自分のせいで皆に迷惑をかけてしまった罪悪感の方が強い。
むしろ、今犯してしまった私の罪を償うには死が一番いいと思っている。たとえアースラが死刑執行人だとしても。
自分の死を覚悟したところで、アースラはピタリと泳ぐのをやめた。更に絡まれてた足がほどけ、マリエルを開放した。
「……どういうつもり?」
「可哀想に、マリエル。あなたの気持ちはよ〜く分かる、分かるとも。どうやら辛い気持ちに押し潰されそうだね」
「――!!」
今、私の心を読んだの!? 何で……今までサリエル姉様にしか読まれて無かったのに!
「かわいいお嬢さん。これと他に何か悩みがあるようだね。私に言ってごらん。隠さなくてもいいのよ。……まぁ、隠しても無駄だけど」
そんなことは分かっている。心を読めると分かった以上、当然嘘も通じないしアースラの前では思ってる事を正直に全て話さないといけない。
もう逃げられないなら、素直に話すまで。
「私、時々思うの。人間になりたいって。そしてその世界でずっと暮らしてみたいって。でも……お父様は何も分かってくれないの」
たとえお父様が正気になったとしても人間の世界に行くことは否定されると思う。正気になっても、中身はいつものお父様だから。
「トリトン王だね〜、ひどいやつさ〜!」
アースラは嫌味を言うかのようにお父様を評価した。まるで私に同情するかのように。
「ねぇ、アースラには出来るの? 私を人間にすることが」
「私にできるか、だって? ふっふっふっ……お嬢さんを3日間だけ人間にしてあげよう。今日は1月12日。
つまり3日後の1月15日の日没までにその人間と共に愛し暮らせれば、お嬢さんは本当の人間になれる」
「もし……、出来なかったら?」
「その時はお嬢さんの魂をいただくよ」
「っ――!?」
魂をいただく。それは文字通り殺すという事だ。それならこんな私を早く殺してほしい。日没なんて待ってられない。
でも、私の全身は震えていた。呼吸も浅い。汗が止まらない。私は死を恐れているのだ。3日後にやってくる死を。
これでも死を望んでいるというのに怖くて仕方が無い。
「あぁっ、でも大丈夫だ。きっと人間一人くらいお嬢さんのことを好きになってくれるに違いないさ」
「……」
それはそうかもしれない。でも、私はただ人間になりたいと言っただけだ。人間と幸せな家庭を築きたいとは言っていない。
そもそも3日間で結婚できるわけがない。人魚である私でさえ分かる事だ。やっぱりアースラは最初から私を殺す気だったのだ。そう思うと更に身体が震えてくる。
「マリエル、ダメだ! 今すぐそいつから離れろ!!」
「えっ……!?」
突然アースラに襲いかかったのはカルマだ。彼の右手には恐らく亜玲澄のと思われる素朴な片手剣がある。
「ちっ、邪魔が入ったわね!」
カルマの剣撃を易々と避け、再びアースラは足で私の全身を掴み海上へと上がっていった。
……簡単に逃げられてしまった。そりゃそうだ。バカ正直に正面から突っ込めばそりゃ逃げられる。
「くそ、アースラめっ……!」
「だから無駄だと言っただろ」
カルマが即興で立てた『アースラの隙をついてマリエル奪還作戦』は無事失敗に終わった。これしか策が浮かばなかった俺達は、これから新たな策を考えなければならない。マリエルの身に何かが起こる前に。
「それで、これからどうするんだ?」
「エイジ、すまないがここはもう陸に上がるしかないと思うぞ」
「アレス、それはいいが現時点のアースラの生息が不明だ」
「うん、大蛇の言うとおりだと思う」
俺達はこれからどうやってマリエルを奪還するかをただひたすら考えていた。だが、いい案は何一つ浮かばない。何せ4人も出会ったばかりなのにこれほどの深刻な問題を背負う事になったのだ。
突然過ぎて正直どうすれば良いかすらも分からない。
そんな時、先程策を立てたカルマが皆に提案した。
「ならしょうがねぇからさ……この事を国王様に報告しようぜ」
「な、何言ってるんだ! 俺達は今海の中にいるんだぞ!!」
「それも結局陸に上がらなきゃいけないだろ」
「くそっ、他に方法は無いのか!?」
俺とエイジの一言で呆気なくカルマの策はボツとなった。
……このまま考えてる時間があるなら押し通すしかない。今この間にもマリエルは奴の攻撃を受けているはずだ。
考える頭も無く、俺はただ一人陸へと上がろうとしていた。
「お……おい、大蛇!」
「おい、待ってくれよ!!」
「勝手に俺達を置いて行くなぁぁ!!」
男3人は俺の後を追うように慌てて陸へと向かった。まるで置いてけぼりにされそうになって慌てふためく子供のように。
レイブン王国 レイブン城付近の森――
緑に囲まれた地。一度足を踏み入れれば二度と戻って来れない。このレイブンの森はその事でとても有名で、『悪魔の森』と呼ばれている。
カルマの攻撃を避けて、この森に逃げてきたアースラは高笑いをした。
「ふはははっ! さぁお嬢さん! この契約書に名前を書くだけだよ!!」
この契約書に署名すれば、私は人間になると同時に3日後に爆発する時限爆弾を背負うことになる。
でも、もう引けない……そういう思いでマリエルは契約書に署名した。
「ふはははは!! さぁマリエル、契約は成立したよ! さぁ……人間になったんだ、もっと喜んでもいいんじゃないか?」
「えっ……!?」
瞬きをした時にはもうマリエルの体はもう完全に人間になっていた。
下半身のヒレは同じ色をしたスカートに変化している。そして上はスカートと同じ色の服で体を覆っている。
脚がある。歩ける。人間の世界で生きる事が出来る。
それが分かった瞬間、喜びのあまりマリエルは森の中へと走っていった。
だがその先にアースラが待ち構えていた。
「あぁ、そういえば忘れていた。無条件ってわけにはいかないよ。契約の料金はお嬢さんの声だ……『強奪』」
「あっ……!!」
唱えた直後、マリエルの首元に魔法の輪が出現し、首を締め付ける。マリエルは必死に口を開けるが声が一切出なくなっていた。
(どうしよう……! アースラのせいでしゃべれなくなった! これからどうコミュニケーションをとればいいの!?)
目の前のアースラが再び高笑いをしながらレイブン城へと飛んでいった。
ただ一人残されたマリエルはひたすら走る。奪われた声を取り戻すために。だがこれは取引。つまりは人間になる事への等価交換に過ぎないのだ――
(誰かっ……! 誰でもいいから助けてっ!!)
言語を話せない存在は生物とは言わない。
それでも助けを求めて。こんな自分を拾ってくれる王子様を探して――
遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、カルマ、エイジ
犠牲者:0名
海の惑星リヴァイス 海中――
あぁ。何で私はこんなにも無力なんだろう。お父様が正気になったことしか頭にないが故にこうしてアースラに捕まってしまった。大蛇君もあんな危険なことをしてまで私を守ってくれたのに。
これじゃ元も子もないよ。本当に私はいつになっても駄目な女ね。あの時もそうだった。
この状況は、あの時とすごく似ている。私が一生思い出したくない出来事にすごく似ている――
私はアースラの足に絡まれながらそんなことを心の底から思った。アースラにこれから殺されることなんてほとんど怖くなかった。
それよりも自分の無力さに対しての怒りと自分のせいで皆に迷惑をかけてしまった罪悪感の方が強い。
むしろ、今犯してしまった私の罪を償うには死が一番いいと思っている。たとえアースラが死刑執行人だとしても。
自分の死を覚悟したところで、アースラはピタリと泳ぐのをやめた。更に絡まれてた足がほどけ、マリエルを開放した。
「……どういうつもり?」
「可哀想に、マリエル。あなたの気持ちはよ〜く分かる、分かるとも。どうやら辛い気持ちに押し潰されそうだね」
「――!!」
今、私の心を読んだの!? 何で……今までサリエル姉様にしか読まれて無かったのに!
「かわいいお嬢さん。これと他に何か悩みがあるようだね。私に言ってごらん。隠さなくてもいいのよ。……まぁ、隠しても無駄だけど」
そんなことは分かっている。心を読めると分かった以上、当然嘘も通じないしアースラの前では思ってる事を正直に全て話さないといけない。
もう逃げられないなら、素直に話すまで。
「私、時々思うの。人間になりたいって。そしてその世界でずっと暮らしてみたいって。でも……お父様は何も分かってくれないの」
たとえお父様が正気になったとしても人間の世界に行くことは否定されると思う。正気になっても、中身はいつものお父様だから。
「トリトン王だね〜、ひどいやつさ〜!」
アースラは嫌味を言うかのようにお父様を評価した。まるで私に同情するかのように。
「ねぇ、アースラには出来るの? 私を人間にすることが」
「私にできるか、だって? ふっふっふっ……お嬢さんを3日間だけ人間にしてあげよう。今日は1月12日。
つまり3日後の1月15日の日没までにその人間と共に愛し暮らせれば、お嬢さんは本当の人間になれる」
「もし……、出来なかったら?」
「その時はお嬢さんの魂をいただくよ」
「っ――!?」
魂をいただく。それは文字通り殺すという事だ。それならこんな私を早く殺してほしい。日没なんて待ってられない。
でも、私の全身は震えていた。呼吸も浅い。汗が止まらない。私は死を恐れているのだ。3日後にやってくる死を。
これでも死を望んでいるというのに怖くて仕方が無い。
「あぁっ、でも大丈夫だ。きっと人間一人くらいお嬢さんのことを好きになってくれるに違いないさ」
「……」
それはそうかもしれない。でも、私はただ人間になりたいと言っただけだ。人間と幸せな家庭を築きたいとは言っていない。
そもそも3日間で結婚できるわけがない。人魚である私でさえ分かる事だ。やっぱりアースラは最初から私を殺す気だったのだ。そう思うと更に身体が震えてくる。
「マリエル、ダメだ! 今すぐそいつから離れろ!!」
「えっ……!?」
突然アースラに襲いかかったのはカルマだ。彼の右手には恐らく亜玲澄のと思われる素朴な片手剣がある。
「ちっ、邪魔が入ったわね!」
カルマの剣撃を易々と避け、再びアースラは足で私の全身を掴み海上へと上がっていった。
……簡単に逃げられてしまった。そりゃそうだ。バカ正直に正面から突っ込めばそりゃ逃げられる。
「くそ、アースラめっ……!」
「だから無駄だと言っただろ」
カルマが即興で立てた『アースラの隙をついてマリエル奪還作戦』は無事失敗に終わった。これしか策が浮かばなかった俺達は、これから新たな策を考えなければならない。マリエルの身に何かが起こる前に。
「それで、これからどうするんだ?」
「エイジ、すまないがここはもう陸に上がるしかないと思うぞ」
「アレス、それはいいが現時点のアースラの生息が不明だ」
「うん、大蛇の言うとおりだと思う」
俺達はこれからどうやってマリエルを奪還するかをただひたすら考えていた。だが、いい案は何一つ浮かばない。何せ4人も出会ったばかりなのにこれほどの深刻な問題を背負う事になったのだ。
突然過ぎて正直どうすれば良いかすらも分からない。
そんな時、先程策を立てたカルマが皆に提案した。
「ならしょうがねぇからさ……この事を国王様に報告しようぜ」
「な、何言ってるんだ! 俺達は今海の中にいるんだぞ!!」
「それも結局陸に上がらなきゃいけないだろ」
「くそっ、他に方法は無いのか!?」
俺とエイジの一言で呆気なくカルマの策はボツとなった。
……このまま考えてる時間があるなら押し通すしかない。今この間にもマリエルは奴の攻撃を受けているはずだ。
考える頭も無く、俺はただ一人陸へと上がろうとしていた。
「お……おい、大蛇!」
「おい、待ってくれよ!!」
「勝手に俺達を置いて行くなぁぁ!!」
男3人は俺の後を追うように慌てて陸へと向かった。まるで置いてけぼりにされそうになって慌てふためく子供のように。
レイブン王国 レイブン城付近の森――
緑に囲まれた地。一度足を踏み入れれば二度と戻って来れない。このレイブンの森はその事でとても有名で、『悪魔の森』と呼ばれている。
カルマの攻撃を避けて、この森に逃げてきたアースラは高笑いをした。
「ふはははっ! さぁお嬢さん! この契約書に名前を書くだけだよ!!」
この契約書に署名すれば、私は人間になると同時に3日後に爆発する時限爆弾を背負うことになる。
でも、もう引けない……そういう思いでマリエルは契約書に署名した。
「ふはははは!! さぁマリエル、契約は成立したよ! さぁ……人間になったんだ、もっと喜んでもいいんじゃないか?」
「えっ……!?」
瞬きをした時にはもうマリエルの体はもう完全に人間になっていた。
下半身のヒレは同じ色をしたスカートに変化している。そして上はスカートと同じ色の服で体を覆っている。
脚がある。歩ける。人間の世界で生きる事が出来る。
それが分かった瞬間、喜びのあまりマリエルは森の中へと走っていった。
だがその先にアースラが待ち構えていた。
「あぁ、そういえば忘れていた。無条件ってわけにはいかないよ。契約の料金はお嬢さんの声だ……『強奪』」
「あっ……!!」
唱えた直後、マリエルの首元に魔法の輪が出現し、首を締め付ける。マリエルは必死に口を開けるが声が一切出なくなっていた。
(どうしよう……! アースラのせいでしゃべれなくなった! これからどうコミュニケーションをとればいいの!?)
目の前のアースラが再び高笑いをしながらレイブン城へと飛んでいった。
ただ一人残されたマリエルはひたすら走る。奪われた声を取り戻すために。だがこれは取引。つまりは人間になる事への等価交換に過ぎないのだ――
(誰かっ……! 誰でもいいから助けてっ!!)
言語を話せない存在は生物とは言わない。
それでも助けを求めて。こんな自分を拾ってくれる王子様を探して――