9頁
「話す、ねぇ」
「手っ取り早いと言えば、手っ取り早いよね」
ホズの部屋を後にした兄妹とロキは、綺麗な花々が生い茂る庭を散歩していた。
「で? どうすんだ? ホズの言う通りに奴等と話すのか?」
「そうするしかないんだろうな。俺達から行くのはなんか嫌だけど……げっ」
「あっ」
「おぉ。ベストタイミング」
ナリが話している途中で、急に顔を嫌悪で歪ませた。その視線の先には、件のフレイとフレイヤがいたのだ。彼等も兄妹と同じように庭を散歩しているようで、黙っていれば絵になるような光景であった。
「よし、ボクは逃げる」
「「なんでっ?」」
「ボクがいても、ややこしくなるだろ? 喧嘩するなら君達だけでどうぞ。ボクは知り合い見つけたから、そっちにいるよ」
ロキは兄妹に背を向け、手をヒラヒラと振って去っていってしまう。
そんな彼の態度に「そりゃそうだよね」とか「知り合い、バルドルさん以外にいるんだ」など兄妹は心では納得しながらも、「それでもいいから隣にいて」と言わんばかりの震える手をロキへと伸ばす。が、背中を見せた彼にその手が見える訳もなく、空を切るだけであった。
そうこうしているうちに、豊穣の兄妹の方もナリとナルの存在に気付いてしまう。
「「「「……………………」」」」
ジリジリと互いに近づいていき、話ができる距離まで来ると兄妹は苦い顔で両手を小さく掲げて見せる。
「「……?」」
「……弱い者いじめ、はんたーい」
ナリがボソリと言う。
「は? ……あぁ」
その動作の理由をフレイは分からずにいたが、ナリの付け加えられた言葉でようやく理解する。
「先日は……やりすぎたな。すまない」
「えっ?」
たった数日前に会ったばかりのナリでも分かる。彼のようなプライドが高そうな人物が、すぐに謝るだなんておかしいという事を。
「楽しくなって、つい」
「おいこら」
それでも、なぜだか塩らしくなってしまっているフレイ。フレイヤは何も言わないが、目線は下ばかりを見ていてもじもじとしている。そんな彼等にナリは。
「あのさ。なんで俺達につっかかってくるんだよ」
意を決して、真正面から疑問を投げた。
「そりゃ、俺達は部外者だし、ロキと一緒にいるのは目立つだろうけど……なんか、納得いかねぇよ」
ナリの問いかけに、豊穣の兄妹は肩をぴくりと動かす。それから、互いに目を合わせては彼等も何か決心したのか、強く頷き合い、一つ深呼吸をしてからゆっくりと話し始める。
「おかしな話だと思うかもしれん。余達兄妹も、貴様達の姿を見るまでは……信じられなかった」
「……?」
「夢を、見たのよ。……とても楽しくて……そして、悲しい夢を」
豊穣の兄妹が浮かべる表情は、初対面で会った威圧的な表情とは真逆の、哀しげなものであった
そんな彼の表情を見てナリは、昨夜ナルと話していた事を思い出す。
「……夢って、なんですか?」
恐る恐るナルが聞くと、彼等はポツポツと話し始める。
「君達によく似た……いや、ほぼ同じ姿だな。その者達と、友として仲良くしている夢だよ。けれど……その友は亡くなってしまう。それは……」
初めは柔らかな笑みを浮かべて、途中からは苦しげな顔を見せるフレイ。豊穣の兄妹は拳をギュッと握りしめながら、言葉ではなく瞳で示す。その視線に、兄妹もつられて瞳を動かす。
その先に映る、炎のように燃える髪の姿は、遠くにいても鮮やかで美しい。
「一番の理由が、ロキさんといたから。ってこと、ですか」
「「……」」
「だから、あんたらはそれが正夢にならないように、俺達をロキから離れさせようと?」
「「……」」
その無言は肯定。
「よく、わかんねぇけど」
兄妹も互いに目を合わせて、一つ一つ。
「アンタ達が、意外と優しい奴なんだなってのはよーく分かったよ」
「うんうん」
「は?」
言葉を選んでいく。
「たかが夢なのに、似たような子が現れたからって、忠告しにきてくれるだもの。優しい以外に合う言葉はないですよね」
「いや、そっ、それはね――」
「でも、さ」
記憶のない彼等が、勇ましげに放つ。
「「俺/私は離れない」」
兄妹の答えに、豊穣の兄妹は絶句する。
「初めて会った時も言ったろ? 俺達はロキを信じてる」
「なぜだ? ただ、助けてもらって衣食住の確保をしてもらった。たったそれだけじゃないか?」
「俺達にとっちゃ、それで充分なんだよ。あとは……まぁ、言葉に出来ねぇんだけど。離れちゃ、ダメな気もするし」
彼等の決意に、豊穣の兄妹は溜息を溢す。
「それに、一緒にいたら私達の記憶を取り戻す手掛かりが見つかるかもですし」
「そうそう」
記憶がない、と言う言葉に。豊穣の兄妹は知らなかったのか、口をポカンと開ける。
「……記憶の無い君達を、何か利用するかもとか考えなかったのか?」
フレイの言葉に、兄妹は笑って見せる。
「ハハッ。まぁ、利用されてるって分かったら、一緒にぶん殴ってくれよ! フレイ!」
「私達は、それを見守ってようね。……フレイヤ!」
ナリとナルはニカッと笑いかけ、その笑顔にフレイとフレイヤもつられてフッと笑みを溢す。
「……。おい、今更だが。口の聞き方には気をつけろ! 余達はヴァン神族なのだ! 不敬だぞ!」
「え〜、今それ言うか? いいじゃん。俺達、友達なんだろ?」
「夢の話だ! 夢の話!」
「じゃあ、今なったということでいいんじゃない? ね、フレイヤ」
「っ! いっ、いい加減にしなさい! そんなの嬉しくなんかないんだから!」
――彼等がわちゃわちゃとしているのを、ロキは巨漢の男神と共に遠くから見守っていた。
「なんか仲良くなってる……なんで?」
「いいわねぇ」
男神は、顔に似合わずほのぼのとした声音を吐きながら、彼等のやりとりを堪能していた。
「そうか?」
「そうよぉ。あぁ、ずっと眺めてたいわぁ」
男神がほのぼのと彼等を見つめ、ロキも満面の笑みを見せている兄妹にあたたかな笑みを浮かべるのであった。
「手っ取り早いと言えば、手っ取り早いよね」
ホズの部屋を後にした兄妹とロキは、綺麗な花々が生い茂る庭を散歩していた。
「で? どうすんだ? ホズの言う通りに奴等と話すのか?」
「そうするしかないんだろうな。俺達から行くのはなんか嫌だけど……げっ」
「あっ」
「おぉ。ベストタイミング」
ナリが話している途中で、急に顔を嫌悪で歪ませた。その視線の先には、件のフレイとフレイヤがいたのだ。彼等も兄妹と同じように庭を散歩しているようで、黙っていれば絵になるような光景であった。
「よし、ボクは逃げる」
「「なんでっ?」」
「ボクがいても、ややこしくなるだろ? 喧嘩するなら君達だけでどうぞ。ボクは知り合い見つけたから、そっちにいるよ」
ロキは兄妹に背を向け、手をヒラヒラと振って去っていってしまう。
そんな彼の態度に「そりゃそうだよね」とか「知り合い、バルドルさん以外にいるんだ」など兄妹は心では納得しながらも、「それでもいいから隣にいて」と言わんばかりの震える手をロキへと伸ばす。が、背中を見せた彼にその手が見える訳もなく、空を切るだけであった。
そうこうしているうちに、豊穣の兄妹の方もナリとナルの存在に気付いてしまう。
「「「「……………………」」」」
ジリジリと互いに近づいていき、話ができる距離まで来ると兄妹は苦い顔で両手を小さく掲げて見せる。
「「……?」」
「……弱い者いじめ、はんたーい」
ナリがボソリと言う。
「は? ……あぁ」
その動作の理由をフレイは分からずにいたが、ナリの付け加えられた言葉でようやく理解する。
「先日は……やりすぎたな。すまない」
「えっ?」
たった数日前に会ったばかりのナリでも分かる。彼のようなプライドが高そうな人物が、すぐに謝るだなんておかしいという事を。
「楽しくなって、つい」
「おいこら」
それでも、なぜだか塩らしくなってしまっているフレイ。フレイヤは何も言わないが、目線は下ばかりを見ていてもじもじとしている。そんな彼等にナリは。
「あのさ。なんで俺達につっかかってくるんだよ」
意を決して、真正面から疑問を投げた。
「そりゃ、俺達は部外者だし、ロキと一緒にいるのは目立つだろうけど……なんか、納得いかねぇよ」
ナリの問いかけに、豊穣の兄妹は肩をぴくりと動かす。それから、互いに目を合わせては彼等も何か決心したのか、強く頷き合い、一つ深呼吸をしてからゆっくりと話し始める。
「おかしな話だと思うかもしれん。余達兄妹も、貴様達の姿を見るまでは……信じられなかった」
「……?」
「夢を、見たのよ。……とても楽しくて……そして、悲しい夢を」
豊穣の兄妹が浮かべる表情は、初対面で会った威圧的な表情とは真逆の、哀しげなものであった
そんな彼の表情を見てナリは、昨夜ナルと話していた事を思い出す。
「……夢って、なんですか?」
恐る恐るナルが聞くと、彼等はポツポツと話し始める。
「君達によく似た……いや、ほぼ同じ姿だな。その者達と、友として仲良くしている夢だよ。けれど……その友は亡くなってしまう。それは……」
初めは柔らかな笑みを浮かべて、途中からは苦しげな顔を見せるフレイ。豊穣の兄妹は拳をギュッと握りしめながら、言葉ではなく瞳で示す。その視線に、兄妹もつられて瞳を動かす。
その先に映る、炎のように燃える髪の姿は、遠くにいても鮮やかで美しい。
「一番の理由が、ロキさんといたから。ってこと、ですか」
「「……」」
「だから、あんたらはそれが正夢にならないように、俺達をロキから離れさせようと?」
「「……」」
その無言は肯定。
「よく、わかんねぇけど」
兄妹も互いに目を合わせて、一つ一つ。
「アンタ達が、意外と優しい奴なんだなってのはよーく分かったよ」
「うんうん」
「は?」
言葉を選んでいく。
「たかが夢なのに、似たような子が現れたからって、忠告しにきてくれるだもの。優しい以外に合う言葉はないですよね」
「いや、そっ、それはね――」
「でも、さ」
記憶のない彼等が、勇ましげに放つ。
「「俺/私は離れない」」
兄妹の答えに、豊穣の兄妹は絶句する。
「初めて会った時も言ったろ? 俺達はロキを信じてる」
「なぜだ? ただ、助けてもらって衣食住の確保をしてもらった。たったそれだけじゃないか?」
「俺達にとっちゃ、それで充分なんだよ。あとは……まぁ、言葉に出来ねぇんだけど。離れちゃ、ダメな気もするし」
彼等の決意に、豊穣の兄妹は溜息を溢す。
「それに、一緒にいたら私達の記憶を取り戻す手掛かりが見つかるかもですし」
「そうそう」
記憶がない、と言う言葉に。豊穣の兄妹は知らなかったのか、口をポカンと開ける。
「……記憶の無い君達を、何か利用するかもとか考えなかったのか?」
フレイの言葉に、兄妹は笑って見せる。
「ハハッ。まぁ、利用されてるって分かったら、一緒にぶん殴ってくれよ! フレイ!」
「私達は、それを見守ってようね。……フレイヤ!」
ナリとナルはニカッと笑いかけ、その笑顔にフレイとフレイヤもつられてフッと笑みを溢す。
「……。おい、今更だが。口の聞き方には気をつけろ! 余達はヴァン神族なのだ! 不敬だぞ!」
「え〜、今それ言うか? いいじゃん。俺達、友達なんだろ?」
「夢の話だ! 夢の話!」
「じゃあ、今なったということでいいんじゃない? ね、フレイヤ」
「っ! いっ、いい加減にしなさい! そんなの嬉しくなんかないんだから!」
――彼等がわちゃわちゃとしているのを、ロキは巨漢の男神と共に遠くから見守っていた。
「なんか仲良くなってる……なんで?」
「いいわねぇ」
男神は、顔に似合わずほのぼのとした声音を吐きながら、彼等のやりとりを堪能していた。
「そうか?」
「そうよぉ。あぁ、ずっと眺めてたいわぁ」
男神がほのぼのと彼等を見つめ、ロキも満面の笑みを見せている兄妹にあたたかな笑みを浮かべるのであった。