三篇10頁
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
いやっ、いやっ、いやああああああああああああああああああああああ」
妹が泣きながら俺に謝る姿が、目に焼き付いて頭から離れない。
妹の涙を拭う手は動かない。
妹を安心させるための声が出ない。
俺は、駄目な兄ちゃんだ。
◆
「……また、あの夢」
ナリは流れる涙を拭い、右肩の痛みに手を添えながら、見てしまった悪夢について考える。
夢にしてはとても鮮明で妹の悲痛な声と泣き叫ぶ姿が、彼の頭から離れない。
この夢は一体なんなのか。
そんな事うなされる本人に分かるはずもなく。ただただ、これが正夢にならないことを願うぐらいしか彼には出来なかった。
悪夢に悩まされていたナリの隣では、一定のリズムの寝息をたてて眠るナルの姿があった。夢の中で泣いていた顔とは違い、とても心地良さげな顔をしている。
そんな彼女の頭をナリは優しく撫で、自分の方へと強く抱き寄せた。
「なぁ、ナル。俺達、なんで忘れちまったんだろうな」
◇
朝の時刻。
ロキは目の前にある扉を数回叩く。と、その音を聞き取った中にいる彼等は、ドタバタと慌ただしく扉を開ける。
「おはようございます、ロキさん」
「おはよっ!」
「おう、はよ」
兄妹は渡した服をビシッとカッコよく着こなしながら、元気な笑顔でロキを迎える。ロキもそれにつられてか、ほんの少しだけ口角を釣り上げる。
「さて。今日のご予定は?」
「俺、鍛錬場!」
「私はフレイヤさんの部屋に招待されてて。そのあとは、図書室で調べ物を」
「調べ物?」
「はい。図書室の本で気になったのはあらかた読んだので。次は、自分たちの事を徹底的に調べようと思って! あんなに広いんですから、私達の記憶を取り戻すために何か手掛かりがないかなって」
ナルの真剣に語る瞳を見て感心するロキ。ぼそりと、「ほんと、彼女と似てる」とも呟く。そこでナリの顔を見てみると、なぜか彼は「俺の妹すごいだろ」と誇らしげな表情を見せている。
「いや、なんで君が誇らしげなんだ? というか、君は調べないのか?」
「俺はナルを守るための鍛錬で忙しいの! というか、本読むのは苦手」
「それは同感。……そうだなぁ、バルドルは今日忙しいから、いねぇし。今日はボク途中で抜けたいし……まずは、女神の方に行くか」
ロキの言葉にナリは、「えぇ!? ロキ、いなくなんのかよっ!」ととても悔しそうな顔を見せる。
「私は一人でもいけますよ? もう道は覚えました!」
ナルが申し訳なさそうに話す態度に「いやいや。流石にそれは」と、ロキはその提案を拒んだ。
「ナルちゃんみたいな可愛い子が一人で彷徨いたらダメだ。というか、ボクがバルドルに怒られる」
「そうだぞナル、それはお兄ちゃんも許さん!」
「なら、我が一緒に行ってあげましょうか?」
「「「わっ!」」」
そんな彼等の間に、突如として巨漢が割って入ってきた。
「トール! 驚かすなよっ!」
雷の神トール。巨人族に匹敵するほどの筋肉を震わせながら「ガハハっ!」と彼は大声をあげた。
つい先日、トールの巨大さとそれと真逆な女性らしい言葉遣いをする彼に驚いてばかりだった兄妹であったが、今では自分達の顔を覆い被せられる程に大きい手に笑顔でハイタッチをする。
「ごめーんごめん。驚かせたくなっちゃって。で? どうするの? 我は時間あるから、本当にいいのだけれど」
先程の荒々しい笑い声と変わって、トールは悪びれる様子がなく、可愛いくウィンクをして返す。
「じゃあ、お願いするか」
「えぇ! さ、ナルちゃん。我と行きましょっ! ついでに、女子会混ーぜて!」
「はい、トールさん! では、行ってきます!」
ナルはトールと楽しげにフレイヤの部屋への道を進んでいく。その後ろ姿を見送ったロキは、ナリへと視線を向ける。
「じゃあ、ナリ。行くか」
「おう! なぁ、どっか行く前に俺に稽古つけてくれよー!」
ナリが目を輝かせながら懇願するものの、ロキはその眩しさに目を逸らしながら「うーん……気が向いたらな」と、悪戯な返事をする。それに対して、ナリが「なんでだよ! 約束が違う!」とロキをポカポカと殴る姿は、鍛錬場に着くまで続いたのであった。
いやっ、いやっ、いやああああああああああああああああああああああ」
妹が泣きながら俺に謝る姿が、目に焼き付いて頭から離れない。
妹の涙を拭う手は動かない。
妹を安心させるための声が出ない。
俺は、駄目な兄ちゃんだ。
◆
「……また、あの夢」
ナリは流れる涙を拭い、右肩の痛みに手を添えながら、見てしまった悪夢について考える。
夢にしてはとても鮮明で妹の悲痛な声と泣き叫ぶ姿が、彼の頭から離れない。
この夢は一体なんなのか。
そんな事うなされる本人に分かるはずもなく。ただただ、これが正夢にならないことを願うぐらいしか彼には出来なかった。
悪夢に悩まされていたナリの隣では、一定のリズムの寝息をたてて眠るナルの姿があった。夢の中で泣いていた顔とは違い、とても心地良さげな顔をしている。
そんな彼女の頭をナリは優しく撫で、自分の方へと強く抱き寄せた。
「なぁ、ナル。俺達、なんで忘れちまったんだろうな」
◇
朝の時刻。
ロキは目の前にある扉を数回叩く。と、その音を聞き取った中にいる彼等は、ドタバタと慌ただしく扉を開ける。
「おはようございます、ロキさん」
「おはよっ!」
「おう、はよ」
兄妹は渡した服をビシッとカッコよく着こなしながら、元気な笑顔でロキを迎える。ロキもそれにつられてか、ほんの少しだけ口角を釣り上げる。
「さて。今日のご予定は?」
「俺、鍛錬場!」
「私はフレイヤさんの部屋に招待されてて。そのあとは、図書室で調べ物を」
「調べ物?」
「はい。図書室の本で気になったのはあらかた読んだので。次は、自分たちの事を徹底的に調べようと思って! あんなに広いんですから、私達の記憶を取り戻すために何か手掛かりがないかなって」
ナルの真剣に語る瞳を見て感心するロキ。ぼそりと、「ほんと、彼女と似てる」とも呟く。そこでナリの顔を見てみると、なぜか彼は「俺の妹すごいだろ」と誇らしげな表情を見せている。
「いや、なんで君が誇らしげなんだ? というか、君は調べないのか?」
「俺はナルを守るための鍛錬で忙しいの! というか、本読むのは苦手」
「それは同感。……そうだなぁ、バルドルは今日忙しいから、いねぇし。今日はボク途中で抜けたいし……まずは、女神の方に行くか」
ロキの言葉にナリは、「えぇ!? ロキ、いなくなんのかよっ!」ととても悔しそうな顔を見せる。
「私は一人でもいけますよ? もう道は覚えました!」
ナルが申し訳なさそうに話す態度に「いやいや。流石にそれは」と、ロキはその提案を拒んだ。
「ナルちゃんみたいな可愛い子が一人で彷徨いたらダメだ。というか、ボクがバルドルに怒られる」
「そうだぞナル、それはお兄ちゃんも許さん!」
「なら、我が一緒に行ってあげましょうか?」
「「「わっ!」」」
そんな彼等の間に、突如として巨漢が割って入ってきた。
「トール! 驚かすなよっ!」
雷の神トール。巨人族に匹敵するほどの筋肉を震わせながら「ガハハっ!」と彼は大声をあげた。
つい先日、トールの巨大さとそれと真逆な女性らしい言葉遣いをする彼に驚いてばかりだった兄妹であったが、今では自分達の顔を覆い被せられる程に大きい手に笑顔でハイタッチをする。
「ごめーんごめん。驚かせたくなっちゃって。で? どうするの? 我は時間あるから、本当にいいのだけれど」
先程の荒々しい笑い声と変わって、トールは悪びれる様子がなく、可愛いくウィンクをして返す。
「じゃあ、お願いするか」
「えぇ! さ、ナルちゃん。我と行きましょっ! ついでに、女子会混ーぜて!」
「はい、トールさん! では、行ってきます!」
ナルはトールと楽しげにフレイヤの部屋への道を進んでいく。その後ろ姿を見送ったロキは、ナリへと視線を向ける。
「じゃあ、ナリ。行くか」
「おう! なぁ、どっか行く前に俺に稽古つけてくれよー!」
ナリが目を輝かせながら懇願するものの、ロキはその眩しさに目を逸らしながら「うーん……気が向いたらな」と、悪戯な返事をする。それに対して、ナリが「なんでだよ! 約束が違う!」とロキをポカポカと殴る姿は、鍛錬場に着くまで続いたのであった。