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「ここが、今日から君達の部屋だ」
ロキ達は、バルドルとホズ兄弟と簡単な談笑をしてから別れ、ある部屋へと辿り着いた。
寝台に本棚、机にソファなど。寝台は大きなものが一つだけだけれども、兄妹二人で過ごすには十分な広さだ。
兄妹は「自分達の部屋!」という特別感で心が高揚し、目を輝かせている。
「もともと、別の奴が使ってたけど……今はいなくてさ。掃除は出来てる。でも、ベッドが一つだけでさ。兄妹でも、必要なら明日にでも用意させるよ」
ロキの言葉も聞いているのか分からないが、兄妹は既にふかふかな寝台に身体を埋めている。そんな兄妹の微笑ましい姿に、ロキも自然と目を細めて笑みを浮かべる。
「じゃあな。朝――の時間になったら起こしにくるよ。おやすみ」
彼等は同じように笑みを浮かべながら大きく手を振って「おやすみー!」と声をかけた。
兄妹は寝台でゴロゴロしながら、今日あった出来事の大きさに興奮がおさまらないのか、ナリは鍛錬場でロキや兵士達に構ってもらえたこと、ナルはバルドルに案内してもらった場所のことを楽しげに話していた。
そこでナルがふと「実はね……」と話し始める。
「図書館である女神様に話しかけられたの」
「えっ、ナルも?」
「も? ……どういうこと?」
「あっ」
どうやらナリも、鍛錬場である男神に話しかけられたらしい。見た目も、その女神と似たようなものだとか。
内容は、ナルと同じく。邪神ロキと共にいることについて、つらつらと説教じみた話をされてしまった、というものだった。
ちなみに、ナリはそのまま喧嘩になってこのように傷を負ってしまったようだ。
「うーん、なんでだ?」
「なんでだろうね。ロキさんが嫌われてるっていうのはもう、よーく分かったけど」
「でも、離れるって選択肢はでてこねぇよな」
「そうなんだよね」
兄妹達も分かっていた。
ただ、襲われているのを助けられただけ。一緒にいようとしてくれている事の、理由は分からない。聞いてもいないし、今更聞こうとも思えない。
それでも、兄妹の中ではロキは既に大きな存在になっているのだ。自分達があの家で目覚めて、互いに兄妹であると離れて悲しかったなどと感じた時と同じような感情が渦巻いている。
そう悩みながらも、眠気に勝てず、兄妹はスヤスヤと眠りに落ちた。
◇
次の日からというもの。昨夜話していた二神は、再び兄妹にちょっかいをかける、というわけでもないらしく。プライドが高そうな見た目の二神は、物陰から兄妹をジーーーーっと見つめては、何かしてこようとはしなかった。
しかし、そんな状況が数日も続くとあっては、兄妹の精神はすり減り続け……もう底が尽きようとしていた。
そこで彼等は、この状況を打破するべく――。
「「どうしたらいいですか!?」」
ホズの元へと相談を持ちかけた。
兄妹は、仲良くなったホズの部屋へとロキとバルドルに案内してもらって、ここにいる。
「えっ、なんで僕?」
彼の疑問は至極当然のものだ。つい数日前に出会った彼に、兄妹はなぜ相談をしようと思ったのか。
「……なんでだろ?」
「なんか、解決してくれそうに思った……から?」
どうやら、兄妹にも分からないようだ。そんな兄妹に、ホズはため息を溢す。
わちゃわちゃとしている彼等のやり取りを、苦笑気味のロキと嬉しそうにニコニコと笑みを浮かべているバルドルが、見守っていた。
「さっきから君はなんでそんなに笑顔なんだ? 気持ち悪いぞ」
「別に気持ち悪くて結構。私は今、ホズが私やロキ以外の誰かと楽しげに話している状況が嬉しくて仕方ないんだ」
「そーですか。……そういや、ナリとナルちゃんにちょっかいをかけてきてるの、誰なんだっけ?」
珍しいバルドルの表情に、引き攣った口角を戻せないでいるロキは、ある疑問を出す。
ロキの問いに、「それは俺達も気になってた!」「そういえば、名前も知らないままでした」と兄妹も乗っていくのだが。
今まで微笑んでいたバルドルは、唐突に呆れ顔でその問いに答える。
「……フレイとフレイヤ。元ヴァン神族の豊穣の兄妹だよ。ロキも知ってるだろ?」
フレイとフレイヤ。赤茶色の刺々しい髪が勇ましい男神と緩く巻かれた髪が愛らしい女神の兄妹だ。ヴァン神族は昔最高神オーディンのアース神族に反抗し分たれていた神族だが、その最高神に負けてしまい今は吸収されて、存在しない族名となっている。
バルドルの説明に、ホズは「あぁ、あの二神ですか」と呟くも、ロキはというと。
「……?」
あまりピンと来ていない様子だ。
そんなロキを見てナリは「……あー」と声を漏らし、何か納得した表情を見せる。
ナリの顔を見て苛立ちが少し湧いたロキは「なんだよ」と問いただすも「……。なんもねぇよ」とナリは口をつぐんだ。彼の言葉にロキは「いや、あるだろその顔」と言いそうになる口をなんとか堪えてみせる。
そんな彼等の話を区切るため、ホズが一つ咳払いをする。
「なぜ彼等が君達にちょっかいをかけるのか……解決方法は一つ。話せばいいんじゃないのかな」
ロキ達は、バルドルとホズ兄弟と簡単な談笑をしてから別れ、ある部屋へと辿り着いた。
寝台に本棚、机にソファなど。寝台は大きなものが一つだけだけれども、兄妹二人で過ごすには十分な広さだ。
兄妹は「自分達の部屋!」という特別感で心が高揚し、目を輝かせている。
「もともと、別の奴が使ってたけど……今はいなくてさ。掃除は出来てる。でも、ベッドが一つだけでさ。兄妹でも、必要なら明日にでも用意させるよ」
ロキの言葉も聞いているのか分からないが、兄妹は既にふかふかな寝台に身体を埋めている。そんな兄妹の微笑ましい姿に、ロキも自然と目を細めて笑みを浮かべる。
「じゃあな。朝――の時間になったら起こしにくるよ。おやすみ」
彼等は同じように笑みを浮かべながら大きく手を振って「おやすみー!」と声をかけた。
兄妹は寝台でゴロゴロしながら、今日あった出来事の大きさに興奮がおさまらないのか、ナリは鍛錬場でロキや兵士達に構ってもらえたこと、ナルはバルドルに案内してもらった場所のことを楽しげに話していた。
そこでナルがふと「実はね……」と話し始める。
「図書館である女神様に話しかけられたの」
「えっ、ナルも?」
「も? ……どういうこと?」
「あっ」
どうやらナリも、鍛錬場である男神に話しかけられたらしい。見た目も、その女神と似たようなものだとか。
内容は、ナルと同じく。邪神ロキと共にいることについて、つらつらと説教じみた話をされてしまった、というものだった。
ちなみに、ナリはそのまま喧嘩になってこのように傷を負ってしまったようだ。
「うーん、なんでだ?」
「なんでだろうね。ロキさんが嫌われてるっていうのはもう、よーく分かったけど」
「でも、離れるって選択肢はでてこねぇよな」
「そうなんだよね」
兄妹達も分かっていた。
ただ、襲われているのを助けられただけ。一緒にいようとしてくれている事の、理由は分からない。聞いてもいないし、今更聞こうとも思えない。
それでも、兄妹の中ではロキは既に大きな存在になっているのだ。自分達があの家で目覚めて、互いに兄妹であると離れて悲しかったなどと感じた時と同じような感情が渦巻いている。
そう悩みながらも、眠気に勝てず、兄妹はスヤスヤと眠りに落ちた。
◇
次の日からというもの。昨夜話していた二神は、再び兄妹にちょっかいをかける、というわけでもないらしく。プライドが高そうな見た目の二神は、物陰から兄妹をジーーーーっと見つめては、何かしてこようとはしなかった。
しかし、そんな状況が数日も続くとあっては、兄妹の精神はすり減り続け……もう底が尽きようとしていた。
そこで彼等は、この状況を打破するべく――。
「「どうしたらいいですか!?」」
ホズの元へと相談を持ちかけた。
兄妹は、仲良くなったホズの部屋へとロキとバルドルに案内してもらって、ここにいる。
「えっ、なんで僕?」
彼の疑問は至極当然のものだ。つい数日前に出会った彼に、兄妹はなぜ相談をしようと思ったのか。
「……なんでだろ?」
「なんか、解決してくれそうに思った……から?」
どうやら、兄妹にも分からないようだ。そんな兄妹に、ホズはため息を溢す。
わちゃわちゃとしている彼等のやり取りを、苦笑気味のロキと嬉しそうにニコニコと笑みを浮かべているバルドルが、見守っていた。
「さっきから君はなんでそんなに笑顔なんだ? 気持ち悪いぞ」
「別に気持ち悪くて結構。私は今、ホズが私やロキ以外の誰かと楽しげに話している状況が嬉しくて仕方ないんだ」
「そーですか。……そういや、ナリとナルちゃんにちょっかいをかけてきてるの、誰なんだっけ?」
珍しいバルドルの表情に、引き攣った口角を戻せないでいるロキは、ある疑問を出す。
ロキの問いに、「それは俺達も気になってた!」「そういえば、名前も知らないままでした」と兄妹も乗っていくのだが。
今まで微笑んでいたバルドルは、唐突に呆れ顔でその問いに答える。
「……フレイとフレイヤ。元ヴァン神族の豊穣の兄妹だよ。ロキも知ってるだろ?」
フレイとフレイヤ。赤茶色の刺々しい髪が勇ましい男神と緩く巻かれた髪が愛らしい女神の兄妹だ。ヴァン神族は昔最高神オーディンのアース神族に反抗し分たれていた神族だが、その最高神に負けてしまい今は吸収されて、存在しない族名となっている。
バルドルの説明に、ホズは「あぁ、あの二神ですか」と呟くも、ロキはというと。
「……?」
あまりピンと来ていない様子だ。
そんなロキを見てナリは「……あー」と声を漏らし、何か納得した表情を見せる。
ナリの顔を見て苛立ちが少し湧いたロキは「なんだよ」と問いただすも「……。なんもねぇよ」とナリは口をつぐんだ。彼の言葉にロキは「いや、あるだろその顔」と言いそうになる口をなんとか堪えてみせる。
そんな彼等の話を区切るため、ホズが一つ咳払いをする。
「なぜ彼等が君達にちょっかいをかけるのか……解決方法は一つ。話せばいいんじゃないのかな」