残酷な描写あり
第六幕 2 『事情』
アレイストの町の宿にて、ミーティアも寝て二人きりになった私とカイトは、これまで聞くことのできなかったカイトの素性や抱える問題についての話をする事になった。
「…レーヴェラントの王族って事だよね」
ある程度は察してるのだろう、と聞かれたのでそれに答える。
印を使えたことからもそれは明白だった。
「そうだ。俺はレーヴェラントの第三王子と言うことになる」
「…!」
予想はしていたが、改めて本人の口からハッキリとそれを聞くと流石に驚きがあり思わず息を呑む。
「だが…王族とは言っても俺の母親は平民でな、俺自身も幼少期は平民として暮らしていたんだ」
「じゃあ、私と同じなんだ…」
「そうだな。母は割と高ランクの冒険者でな…どこで父王に見初められたのかは分からないが、正式に結婚することもなく俺を産んで…女手一つで俺を育ててくれた。どうも子ができたことは黙っていたらしい」
「…お母様は?」
「ん?ああ、今は王宮で元気にしてるはずだ。父王や正妃様、俺の異母兄弟達とも仲は悪くないしな。問題ないと思う」
「そっか、良かった」
とすると、何故カイトだけがこうして冒険者なんかやってたのか…
「俺も自分が王族と分かるまで冒険者をやっててな…10歳くらいから母について依頼を受けたりしていた」
「へえ…」
私が冒険者登録したのもそれくらいだったかな。
もちろん戦闘を伴う依頼はそうそう受けられるものでは無かったけど、採取とか町中の依頼とか色々あるからね。
そのくらいの年齢から登録する人は結構いる。
「俺が12歳の頃だったか、父王が正式に母を側室に迎えることになったんだ。もともと父王はそのつもりだったらしいのだが、母があまり乗り気では無かったみたいでな。だが、俺の存在を知ったらしい父は随分熱心に口説いて…結局情に絆されたってことだ」
「ふ〜ん、カイトのお父様はお母様のことを愛してたんだね。そして、お母様も…」
「そうだな。何だかんだ言って母も父の事は気にしていたし…ただ王宮の退屈な暮らしが嫌だったみたいだ」
冒険者をやっていたような人だものね。
カイトとこのまま付き合いが続けば、きっといつかお会いすることになるんだよね…
ちょっと怖い気もするけど、楽しみでもある。
「正妃様とは…?」
「ああ、正妃との仲は悪くない。子供たちともな」
国にもよるが、王ともなれば複数の妃を持つことは普通のことだけど、妃同士でいがみ合うなんてのはよく聞く話だからね。
家族同士が仲が良いと聞いて安心した。
「でも、そうするとカイトの抱える問題って…?」
「ああ…王位継承権の一位は正妃の子、俺の異母兄である第一王子になるのだが…俺が印持ちである事が分かってから少し話がややこしくなってな」
「…印持ちであるカイトが次期王に相応しいという声があがった?」
もともと印は王の証と言われているし、優秀な者に現れるとも言われている。
そういう声が上がっても不思議ではないし、国によっては継承権順位に関係なく印持ちが優先して王になるところもある。
レーヴェラントはどうだったか…?
「そうだ。だが、レーヴェラントは特に王位継承に印の有無は関係ないからな。特に問題はないはずだった」
「『はずだった』、と言う事は問題はあったんだね?」
「ああ。それに関しては父王も王位継承権に変更はないことを早々に宣言していたのだが…それにも関わらず、どういう訳かそう言った声がおさまる気配がなかったんだ」
「…変な話だね」
王が直接宣言した。
つまりそれは勅令とも言えるはずなのにそれを無視するなんてあり得ない。
だが、そのあり得ないことが起きた。
「王の意向に沿わないとはいえ、国を思ってのことだからと父もそう言った意見を無下にはできず…結局第一王子派と俺を担ぎ上げる派閥に二分されてしまったんだ」
「…カイトは別に王座が欲しいわけじゃないんだよね?」
「ああ。もともと平民として暮らしてたところ急に王族なんて言われてもピンと来てないこともあったし、ましてや王なんて…とても務まるとは思えん」
「…そんな事はないと思うけど。でも、カイト自身がその気も無いのに担ぎだされても迷惑な話だよねぇ…」
「全くだ。まあとにかく、そんな状態が出来上がってしまったのは国としてもあまり良い事ではない」
ある程度派閥が出来るのはまあ分かるけど、あまり行き過ぎた対立の構図はマイナスでしかないだろう。
「それでなのか…ある時、俺に対して暗殺者が差向けられたんだ」
「えっ!?だ、大丈夫なの!?」
「じゃなきゃ、こうしてここにはいないな」
苦笑しながらカイトが答える。
そりゃそうだ。
でも、いきなり暗殺者なんて言われたら、恋人(仮)としては心配になるよ!
「ふふ、心配してくれてありがとな?…まあ、俺の事を侮っていたのか、それ程の手練という相手でも無かったから事無きを得たんだが…その後も何度か襲われてな。毒を入れられたこともあった…ああ、それも心配するな。王族なんかは毒に対してはかなり警戒してるから、常に[解毒]が使える者が控えているし、毒を防ぐ魔道具なんかもある」
「…黒幕は?」
「分かっていない。第一王子派の誰かだとは予想されるが…暗殺者を捕らえても口を割ることも無かったし、毒殺未遂の方も犯行に関わったと思しき者は口止めのためなのか殺されてしまった」
「家族の仲は良いって言ってたけど…」
「考えにくいとは思う…いや、思いたい」
「…ごめん、嫌なことを聞いて」
「いや、なんにせよ証拠がないから憶測でしか語れないからな…」
仲が良いと思ってる家族を疑うのは辛いことだよね。
私だって父さんたちや一座の皆を疑うことなんて絶対にしたくないもの。
「俺が身を隠す手助けをしてくれたのも正妃様だしな」
「正妃様が?」
「ああ。知らないか?レーヴェラントの正妃…ラシェル様はブレーゼン侯爵閣下の妹君だ」
「え!?…じゃあ、カイトとルシェーラは………何だろ?従兄妹って言うのかな?」
「直接の血の繋がりはないが…まあ従兄妹みたいなものだ」
「そっか…それでブレーゼン領に…」
「そうだ。俺自身王位を継ぐ気は毛頭ないし、暗殺の危険を犯してまで王宮に留まる理由もない。だったら混乱を避けるためにさっさと姿を眩ませようと思ったんだが…それで暗殺の手が緩むのかも分からなかった。だから名を変え国外に出ることにしたんだが、だったらせめて閣下の庇護下に置いてもらえるように、と正妃様が口添えしてくれたんだ」
「でも、閣下に庇護を求めたのに、なんで冒険者なんてやってたの?」
「正妃様がブレーゼンに関わりがあるのは知られてるからな。万が一でもそこから辿り着くものもいるかもしれないし、閣下にそれ以上の迷惑をかけたくもなかった。それに、もともと性に合ってるからな」
「なるほどね…」
王族の一員になる前は冒険者やってたという事だし、それほど違和感もなかったのか。
「俺の事情はこれくらいだな」
「うん、話してくれてありがとう。じゃあ、カイトの抱える問題と言うのは…」
「何れ俺の正体がバレた時、また暗殺者が送られてくるかもしれん。そうなった時、俺一人だけならどうとでもできる自信はあるが…周りを巻き込みたくはない」
「そっか。それでか…」
「実際、ダードさんは俺の剣の型やパーティ名から俺の出自をなんとなく察してたみたいだしな」
「父さんが?…パーティ名って『鳶』?…ああ、レーヴェラントの国章か…案外父さんって鋭いんだよね」
いつもはテキトーな感じなのにね。
「だが…今はコソコソ逃げ回るのはもう終わりにしたいと思ってる」
「…それはどうして?」
ちょっとドキドキしながら私は尋ねる。
「お前に出会ったから。俺はお前と添い遂げたいと思っている。そのためには脅威を排除せねばならん」
「!!」
うひゃあ〜っ!
どストレート!
う、嬉しいけど…
顔が火照って、きっと真っ赤になってると思う。
「いつか約束したよな、相談させてもらうと。カティア…お前の力を俺に貸してくれ。最初は誰も巻き込みたくないと思ってたが…今は、お前と一緒に未来を切り拓きたいと思っている」
「うん!もちろんだよ!頼りにしてくれて嬉しいよ。あ、でも…一緒にと言うなら…」
「…何だ?」
「…本当の名前、教えてほしいな。カイトって偽名なんでしょ?本当の名前を呼ぶわけにはいかないかもしれないけど、私には教えて欲しい」
「…そうだな。俺もお前には知って欲しい。俺の本当の名は…」
そうして私に教えてくれたその名前。
いつの日かその名前で呼べる日が来ることを願いながら…いつの日かと同じように私達は寄り添うのだった…
「…レーヴェラントの王族って事だよね」
ある程度は察してるのだろう、と聞かれたのでそれに答える。
印を使えたことからもそれは明白だった。
「そうだ。俺はレーヴェラントの第三王子と言うことになる」
「…!」
予想はしていたが、改めて本人の口からハッキリとそれを聞くと流石に驚きがあり思わず息を呑む。
「だが…王族とは言っても俺の母親は平民でな、俺自身も幼少期は平民として暮らしていたんだ」
「じゃあ、私と同じなんだ…」
「そうだな。母は割と高ランクの冒険者でな…どこで父王に見初められたのかは分からないが、正式に結婚することもなく俺を産んで…女手一つで俺を育ててくれた。どうも子ができたことは黙っていたらしい」
「…お母様は?」
「ん?ああ、今は王宮で元気にしてるはずだ。父王や正妃様、俺の異母兄弟達とも仲は悪くないしな。問題ないと思う」
「そっか、良かった」
とすると、何故カイトだけがこうして冒険者なんかやってたのか…
「俺も自分が王族と分かるまで冒険者をやっててな…10歳くらいから母について依頼を受けたりしていた」
「へえ…」
私が冒険者登録したのもそれくらいだったかな。
もちろん戦闘を伴う依頼はそうそう受けられるものでは無かったけど、採取とか町中の依頼とか色々あるからね。
そのくらいの年齢から登録する人は結構いる。
「俺が12歳の頃だったか、父王が正式に母を側室に迎えることになったんだ。もともと父王はそのつもりだったらしいのだが、母があまり乗り気では無かったみたいでな。だが、俺の存在を知ったらしい父は随分熱心に口説いて…結局情に絆されたってことだ」
「ふ〜ん、カイトのお父様はお母様のことを愛してたんだね。そして、お母様も…」
「そうだな。何だかんだ言って母も父の事は気にしていたし…ただ王宮の退屈な暮らしが嫌だったみたいだ」
冒険者をやっていたような人だものね。
カイトとこのまま付き合いが続けば、きっといつかお会いすることになるんだよね…
ちょっと怖い気もするけど、楽しみでもある。
「正妃様とは…?」
「ああ、正妃との仲は悪くない。子供たちともな」
国にもよるが、王ともなれば複数の妃を持つことは普通のことだけど、妃同士でいがみ合うなんてのはよく聞く話だからね。
家族同士が仲が良いと聞いて安心した。
「でも、そうするとカイトの抱える問題って…?」
「ああ…王位継承権の一位は正妃の子、俺の異母兄である第一王子になるのだが…俺が印持ちである事が分かってから少し話がややこしくなってな」
「…印持ちであるカイトが次期王に相応しいという声があがった?」
もともと印は王の証と言われているし、優秀な者に現れるとも言われている。
そういう声が上がっても不思議ではないし、国によっては継承権順位に関係なく印持ちが優先して王になるところもある。
レーヴェラントはどうだったか…?
「そうだ。だが、レーヴェラントは特に王位継承に印の有無は関係ないからな。特に問題はないはずだった」
「『はずだった』、と言う事は問題はあったんだね?」
「ああ。それに関しては父王も王位継承権に変更はないことを早々に宣言していたのだが…それにも関わらず、どういう訳かそう言った声がおさまる気配がなかったんだ」
「…変な話だね」
王が直接宣言した。
つまりそれは勅令とも言えるはずなのにそれを無視するなんてあり得ない。
だが、そのあり得ないことが起きた。
「王の意向に沿わないとはいえ、国を思ってのことだからと父もそう言った意見を無下にはできず…結局第一王子派と俺を担ぎ上げる派閥に二分されてしまったんだ」
「…カイトは別に王座が欲しいわけじゃないんだよね?」
「ああ。もともと平民として暮らしてたところ急に王族なんて言われてもピンと来てないこともあったし、ましてや王なんて…とても務まるとは思えん」
「…そんな事はないと思うけど。でも、カイト自身がその気も無いのに担ぎだされても迷惑な話だよねぇ…」
「全くだ。まあとにかく、そんな状態が出来上がってしまったのは国としてもあまり良い事ではない」
ある程度派閥が出来るのはまあ分かるけど、あまり行き過ぎた対立の構図はマイナスでしかないだろう。
「それでなのか…ある時、俺に対して暗殺者が差向けられたんだ」
「えっ!?だ、大丈夫なの!?」
「じゃなきゃ、こうしてここにはいないな」
苦笑しながらカイトが答える。
そりゃそうだ。
でも、いきなり暗殺者なんて言われたら、恋人(仮)としては心配になるよ!
「ふふ、心配してくれてありがとな?…まあ、俺の事を侮っていたのか、それ程の手練という相手でも無かったから事無きを得たんだが…その後も何度か襲われてな。毒を入れられたこともあった…ああ、それも心配するな。王族なんかは毒に対してはかなり警戒してるから、常に[解毒]が使える者が控えているし、毒を防ぐ魔道具なんかもある」
「…黒幕は?」
「分かっていない。第一王子派の誰かだとは予想されるが…暗殺者を捕らえても口を割ることも無かったし、毒殺未遂の方も犯行に関わったと思しき者は口止めのためなのか殺されてしまった」
「家族の仲は良いって言ってたけど…」
「考えにくいとは思う…いや、思いたい」
「…ごめん、嫌なことを聞いて」
「いや、なんにせよ証拠がないから憶測でしか語れないからな…」
仲が良いと思ってる家族を疑うのは辛いことだよね。
私だって父さんたちや一座の皆を疑うことなんて絶対にしたくないもの。
「俺が身を隠す手助けをしてくれたのも正妃様だしな」
「正妃様が?」
「ああ。知らないか?レーヴェラントの正妃…ラシェル様はブレーゼン侯爵閣下の妹君だ」
「え!?…じゃあ、カイトとルシェーラは………何だろ?従兄妹って言うのかな?」
「直接の血の繋がりはないが…まあ従兄妹みたいなものだ」
「そっか…それでブレーゼン領に…」
「そうだ。俺自身王位を継ぐ気は毛頭ないし、暗殺の危険を犯してまで王宮に留まる理由もない。だったら混乱を避けるためにさっさと姿を眩ませようと思ったんだが…それで暗殺の手が緩むのかも分からなかった。だから名を変え国外に出ることにしたんだが、だったらせめて閣下の庇護下に置いてもらえるように、と正妃様が口添えしてくれたんだ」
「でも、閣下に庇護を求めたのに、なんで冒険者なんてやってたの?」
「正妃様がブレーゼンに関わりがあるのは知られてるからな。万が一でもそこから辿り着くものもいるかもしれないし、閣下にそれ以上の迷惑をかけたくもなかった。それに、もともと性に合ってるからな」
「なるほどね…」
王族の一員になる前は冒険者やってたという事だし、それほど違和感もなかったのか。
「俺の事情はこれくらいだな」
「うん、話してくれてありがとう。じゃあ、カイトの抱える問題と言うのは…」
「何れ俺の正体がバレた時、また暗殺者が送られてくるかもしれん。そうなった時、俺一人だけならどうとでもできる自信はあるが…周りを巻き込みたくはない」
「そっか。それでか…」
「実際、ダードさんは俺の剣の型やパーティ名から俺の出自をなんとなく察してたみたいだしな」
「父さんが?…パーティ名って『鳶』?…ああ、レーヴェラントの国章か…案外父さんって鋭いんだよね」
いつもはテキトーな感じなのにね。
「だが…今はコソコソ逃げ回るのはもう終わりにしたいと思ってる」
「…それはどうして?」
ちょっとドキドキしながら私は尋ねる。
「お前に出会ったから。俺はお前と添い遂げたいと思っている。そのためには脅威を排除せねばならん」
「!!」
うひゃあ〜っ!
どストレート!
う、嬉しいけど…
顔が火照って、きっと真っ赤になってると思う。
「いつか約束したよな、相談させてもらうと。カティア…お前の力を俺に貸してくれ。最初は誰も巻き込みたくないと思ってたが…今は、お前と一緒に未来を切り拓きたいと思っている」
「うん!もちろんだよ!頼りにしてくれて嬉しいよ。あ、でも…一緒にと言うなら…」
「…何だ?」
「…本当の名前、教えてほしいな。カイトって偽名なんでしょ?本当の名前を呼ぶわけにはいかないかもしれないけど、私には教えて欲しい」
「…そうだな。俺もお前には知って欲しい。俺の本当の名は…」
そうして私に教えてくれたその名前。
いつの日かその名前で呼べる日が来ることを願いながら…いつの日かと同じように私達は寄り添うのだった…