残酷な描写あり
第六幕 1 『大河』
トゥージスの町に一泊して私達一座は再び街道を行く。
黄金街道は進路を北東に、王都までは順調に行けばあと一週間ほどといった行程である。
今日は最後の難所とも言うべきところを通る予定だ。
アレシア大河。
スオージ山に源流があると言われ、数多の支流が流れ込むイスパル王国最長の大河だ。
イスパル王国はこの川によって大きく東西に分けられる。
難所と言っても今は昔のこと。
かつては渡し船に乗ったり、馬車などは川幅が狭く橋が架けられてる上流まで迂回するなどしていたが、今では大きな橋が架かっているため容易に通行が可能となっている。
私達はその橋に差し掛かろうとしていた。
「これがアレシアの六連橋か。よくぞここまでの規模の橋を架けることができたものだ」
ティダ兄が感嘆した様子で呟く。
橋は街道の幅そのままに遥か彼方までまっすぐ伸びている。
川に幾つか点在する中洲を繋ぐように繋がったそれは六連の橋で、全長は2キロほどにも及ぶ。
「カティアさん、もう一本架橋しようとしてるのはもしかして…」
ルシェーラが言う通り、六連橋の隣にもう一本架橋工事が行われている最中であり、これは恐らく鉄道橋になるのだろう。
「多分、トゥージスから先の路線工事をしているんだろうね」
「やっぱり。本当に一大事業ですわね…」
国を巻き込まなければ実現不可能だろうからね。
前世の知識があるだけじゃ成し遂げることなんてできやしないだろう。
非凡な才能と情熱があったからこそだ。
そして一行は大河を渡るべく長大な橋を進んでいく。
重厚な作りの石橋で欄干には彫刻が施されており、この橋そのものが壮大な美術作品のようである。
雄大な流れの大河と合わせてその景観は素晴らしく、単なる建築物以上の価値がある。
「ママ〜、おっきい橋だね〜」
「そうだね〜、この国一番の橋なんだって」
「いちばんおっきいんだ〜。すごいの!」
これほどに大きい川と橋を見るのは初めてのミーティアは感心しながらキョロキョロと忙しなくあたりを観察している。
かく言う私もここまでの橋を見たことはないので、その規模の大きさに驚いている。
「こんだけ広い川となると普通は渡し船になるからなぁ。そうなると結構大変だしな。橋があるのはありがてぇ」
身一つなら渡し船でもそれほど困らないけど、ウチみたいに大人数で荷物もそれなりにあるとなると、父さんの言うとおり結構時間を取られてしまい大変だっただろう。
この橋が架けられたのは300年前の大戦の時代まで遡る。
当時のグラナ帝国の侵攻に対処するための軍道として整備されたのが始まりだという。
この橋の完成とともに当時のイスパル王は親征のため前線に近い軍都アクサレナに居城を構え…大戦が終結してもアクサレナに留まり続けそのまま遷都することになった。
丁度半分くらいまで来ただろうか。
両岸は遠く、豊かな水量の川を見るとまるで海の上を通っているかのようだ。
時折すれ違う旅人や商人らしき人々も、立ち止まって雄大な景色を眺めている。
川の流れは穏やかで水は澄み渡り、川幅の割に深さはそれほどでもないみたいで浅いところでは川底が見えるところも。
「あ!ママ〜、お魚さんがいるよ!」
ミーティアが指差す方を見ると確かに何匹かの魚影が見えた。
「本当だね。釣りなんかも楽しそうだね」
実際、橋の上から釣り糸を垂らしてる人もいた。
船も散見され盛んに漁も行われているのが見て取れる。
そんな普段の生活の風景も見ながら進んでいくと、長かった橋も終わりが見えてきた。
「さあ、ここからがイスパルの東部地域になるぞ」
「今日の宿泊はアレイストの町だっけ?」
「そうだな。ここから先は似たような宿場が続くだけだ」
王都に近づくに連れて町の規模も大きくなって行くと思うけど、まあ父さんの言う通り変わり映えのしない宿場町が続く。
特に観光とかもしないし、王都到着までは淡々と進んでいくだけかな。
そして私達は本日の宿泊地、アレイストの町に到着しそれぞれ宿を確保したのだが…
久しぶりにミーティアが我儘?を言い出して、私とカイト、ミーティアが同室となった。
「カティア、分かってるとは思うが…」
「分かってる!!」
父さんの言葉に被せて食い気味に返事をする。
みなまで聞かなくたって言わんとしてることは分かってる。
「あら〜、もう良いんじゃないの〜?」
何が!?
「行くよ!カイト、ミーティア!」
「あ、ああ。それじゃあ皆さん、おやすみなさい…」
「おやすみなさい!」
ミーティアはお風呂に入って髪を乾かし、早々に寝てしまった。
…多分、私の心情を無意識に察してカイトと二人きりにさせてくれたんだよね。
ずっとカイトと話をしたいと思ってたんだけど、なかなか機会がなかったのでありがたかった。
姉さんにからかわれるのは勘弁してほしいけども。
ただ、どうやって切りだそうか…と思ってると、カイトの方から話しかけてきた。
「カティア」
「ひゃい!?」
うう…緊張して変な声が出ちゃった…
「…驚かせてすまない。ああ、いや…丁度いい機会だから俺の事を話しておこうかと思ってな」
「う、うん。私も聞こうと思ってたんだけど、なかなか機会がなかったから…」
カイトも私と同じことを考えていたんだね。
やっぱり彼の方から話してくれたほうが嬉しい。
「さて、何から話せばいいのか…まず俺の出自についてはある程度は察してるとは思うが…」
「うん。…レーヴェラントの王族って事だよね」
リヴェティアラ様の印を受け継いでいると言う事から、普通に考えればそういう事になるだろう。
でも、何で隣国の王族がブレゼンタムで冒険者なんてやってたのかは分からない。
単純に考えれば王位継承絡みのゴタゴタといったところだろうか?
そんな私の疑問に応えるべく、カイトは事の経緯を話し始めるのだった。
黄金街道は進路を北東に、王都までは順調に行けばあと一週間ほどといった行程である。
今日は最後の難所とも言うべきところを通る予定だ。
アレシア大河。
スオージ山に源流があると言われ、数多の支流が流れ込むイスパル王国最長の大河だ。
イスパル王国はこの川によって大きく東西に分けられる。
難所と言っても今は昔のこと。
かつては渡し船に乗ったり、馬車などは川幅が狭く橋が架けられてる上流まで迂回するなどしていたが、今では大きな橋が架かっているため容易に通行が可能となっている。
私達はその橋に差し掛かろうとしていた。
「これがアレシアの六連橋か。よくぞここまでの規模の橋を架けることができたものだ」
ティダ兄が感嘆した様子で呟く。
橋は街道の幅そのままに遥か彼方までまっすぐ伸びている。
川に幾つか点在する中洲を繋ぐように繋がったそれは六連の橋で、全長は2キロほどにも及ぶ。
「カティアさん、もう一本架橋しようとしてるのはもしかして…」
ルシェーラが言う通り、六連橋の隣にもう一本架橋工事が行われている最中であり、これは恐らく鉄道橋になるのだろう。
「多分、トゥージスから先の路線工事をしているんだろうね」
「やっぱり。本当に一大事業ですわね…」
国を巻き込まなければ実現不可能だろうからね。
前世の知識があるだけじゃ成し遂げることなんてできやしないだろう。
非凡な才能と情熱があったからこそだ。
そして一行は大河を渡るべく長大な橋を進んでいく。
重厚な作りの石橋で欄干には彫刻が施されており、この橋そのものが壮大な美術作品のようである。
雄大な流れの大河と合わせてその景観は素晴らしく、単なる建築物以上の価値がある。
「ママ〜、おっきい橋だね〜」
「そうだね〜、この国一番の橋なんだって」
「いちばんおっきいんだ〜。すごいの!」
これほどに大きい川と橋を見るのは初めてのミーティアは感心しながらキョロキョロと忙しなくあたりを観察している。
かく言う私もここまでの橋を見たことはないので、その規模の大きさに驚いている。
「こんだけ広い川となると普通は渡し船になるからなぁ。そうなると結構大変だしな。橋があるのはありがてぇ」
身一つなら渡し船でもそれほど困らないけど、ウチみたいに大人数で荷物もそれなりにあるとなると、父さんの言うとおり結構時間を取られてしまい大変だっただろう。
この橋が架けられたのは300年前の大戦の時代まで遡る。
当時のグラナ帝国の侵攻に対処するための軍道として整備されたのが始まりだという。
この橋の完成とともに当時のイスパル王は親征のため前線に近い軍都アクサレナに居城を構え…大戦が終結してもアクサレナに留まり続けそのまま遷都することになった。
丁度半分くらいまで来ただろうか。
両岸は遠く、豊かな水量の川を見るとまるで海の上を通っているかのようだ。
時折すれ違う旅人や商人らしき人々も、立ち止まって雄大な景色を眺めている。
川の流れは穏やかで水は澄み渡り、川幅の割に深さはそれほどでもないみたいで浅いところでは川底が見えるところも。
「あ!ママ〜、お魚さんがいるよ!」
ミーティアが指差す方を見ると確かに何匹かの魚影が見えた。
「本当だね。釣りなんかも楽しそうだね」
実際、橋の上から釣り糸を垂らしてる人もいた。
船も散見され盛んに漁も行われているのが見て取れる。
そんな普段の生活の風景も見ながら進んでいくと、長かった橋も終わりが見えてきた。
「さあ、ここからがイスパルの東部地域になるぞ」
「今日の宿泊はアレイストの町だっけ?」
「そうだな。ここから先は似たような宿場が続くだけだ」
王都に近づくに連れて町の規模も大きくなって行くと思うけど、まあ父さんの言う通り変わり映えのしない宿場町が続く。
特に観光とかもしないし、王都到着までは淡々と進んでいくだけかな。
そして私達は本日の宿泊地、アレイストの町に到着しそれぞれ宿を確保したのだが…
久しぶりにミーティアが我儘?を言い出して、私とカイト、ミーティアが同室となった。
「カティア、分かってるとは思うが…」
「分かってる!!」
父さんの言葉に被せて食い気味に返事をする。
みなまで聞かなくたって言わんとしてることは分かってる。
「あら〜、もう良いんじゃないの〜?」
何が!?
「行くよ!カイト、ミーティア!」
「あ、ああ。それじゃあ皆さん、おやすみなさい…」
「おやすみなさい!」
ミーティアはお風呂に入って髪を乾かし、早々に寝てしまった。
…多分、私の心情を無意識に察してカイトと二人きりにさせてくれたんだよね。
ずっとカイトと話をしたいと思ってたんだけど、なかなか機会がなかったのでありがたかった。
姉さんにからかわれるのは勘弁してほしいけども。
ただ、どうやって切りだそうか…と思ってると、カイトの方から話しかけてきた。
「カティア」
「ひゃい!?」
うう…緊張して変な声が出ちゃった…
「…驚かせてすまない。ああ、いや…丁度いい機会だから俺の事を話しておこうかと思ってな」
「う、うん。私も聞こうと思ってたんだけど、なかなか機会がなかったから…」
カイトも私と同じことを考えていたんだね。
やっぱり彼の方から話してくれたほうが嬉しい。
「さて、何から話せばいいのか…まず俺の出自についてはある程度は察してるとは思うが…」
「うん。…レーヴェラントの王族って事だよね」
リヴェティアラ様の印を受け継いでいると言う事から、普通に考えればそういう事になるだろう。
でも、何で隣国の王族がブレゼンタムで冒険者なんてやってたのかは分からない。
単純に考えれば王位継承絡みのゴタゴタといったところだろうか?
そんな私の疑問に応えるべく、カイトは事の経緯を話し始めるのだった。