残酷な描写あり
第六幕 3 『王都到着』
アレイストの町を出発しその後も一行は旅を続けた。
そして一週間の行程を特に波乱もなく順調に進み、いよいよ王都は目前となった。
王都周辺には大小の衛星都市が取り巻き、今私達が通っている街道沿いにも建物が多くなってきた。
そして、夕日に赤く染まるころ…
「おぉ、門が見えてきたぞ」
父さんの言葉に視線を向けると、緩やかな上り坂の先には巨大で立派な門が見えた。
王都アクサレナは城郭都市であり、3つの城壁を持っている。
今見えているのは最も外側、第一城壁の…確か大西門だったか。
今歩いている周辺も建物がひしめき合っているが、厳密に王都とはあの城壁の内部を指す。
だが、生活圏、経済圏は一体なので王都と言えば城壁外周辺部も含めるのが普通だ。
そういう意味では衛星都市までを含めて王都と言う人もいる。
王都の歴史を紐解くと…アクサレナと言うのはもともとはこの辺一帯の丘陵地帯の名称で、丘陵の最も高い位置に築かれた砦がこの都市の始まりとされている。
それ以降、少しづつ人が集まり町が形成されたが、遷都までは一地方都市に過ぎなかった。
しかし、300年前に王が居城に据えた事と大規模な軍勢の拠点となったことから、人と物資が集まるようになり街もそれに合わせて急速に発展していったのだ。
そして、現在では大陸でも一、ニを争う大都市となっており、王都単独で人口およそ二十万人、周辺の衛星都市まで合わせると三十万人を超えると言われている。
「ついにやって来たね、王都アクサレナ。ここが私達がこれから暮らす場所だよ」
大西門前の広場までやって来た。
夕日に照らされた巨大な門の扉は開放されていて自由に往来できる。
中に入っていくのは、私達と同じく外からやって来た旅人であろうか。
外に出ていくのは、仕事を終えて城壁外の家へと帰宅する人々であろうか。
様々な人が行き交い、広場にも多くの人がいて喧騒に包まれている。
「おっきな町なの!人がいっぱいなの!」
「本当にね。先ずは土地勘を養うためにも色々見回ってみないとね」
「あら、それでしたら私もご一緒したいですわ」
「ルシェーラは初めてなの?」
「幼少の頃に来たことはありますけど、街を見回る機会はありませんでしたわ」
「そっか〜。じゃあ一緒に遊びにいこうね。ルシェーラは侯爵家の王都邸だよね?」
「ええ。昨日ぴーちゃんに報せを出してもらってるのでこの広場に迎えが来るはずですわ」
「そしたら今日はここでお別れかな」
「ええ、そうなりますわ。落ち着いたら侯爵邸にお招きいたしますわね。お父様も久しぶりに皆さんにお会いしたいと思ってるでしょうし」
ああ…そういえば閣下にも久しぶりにお会いすることになるか。
何か私にも色々あったけど…閣下なら変わらず接してくれるかな。
「私もご一緒するのはここまでですね。王都にはしばらく滞在する予定ですので、アスティカントに向かう日が決まりましたらまたご連絡します」
そっか、リーゼさんとはここでお別れか。
寂しいけど、また会えるよね。
「お別れするのは名残惜しいですけど、またお会いしましょうね。私達はこれからずっと王都に居ることになるはずですし、いつでも遊びに来てくださいね」
「はい、必ず。まあアスティカントはブレゼンタムよりよっぽど近いですからね。皆さんの公演を見に行きますよ」
「カティアさん、我々は王城に帰還します。後日、お迎えに上がることになるかと思います」
「リュシアンさん、これまでありがとうございました。その際はまたお願いしますね」
リュシアンさんとケイトリンさんは護衛任務で私達に同行していたが、ここで任務完了と言うことだろう。
「カティアちゃん、またね〜。…まったく、王女様って分かってるんだからこのまま王城に来てもらえばいいのに。格式だとか段取りだとか面倒な…」
「あはは…まあ私もいきなり国王陛下にお会いすると言われても心の準備が出来てませんし…」
ケイトリンさんはそう言うけど、少しはゆっくりしたいかな…
ルシェーラは迎えの馬車が来て、リーゼさん、リュシアンさん、ケイトリンさんもそれぞれの場所へ。
そして私達は、と言うと…
「ダードさん〜、私達はどこに向かえばいいのかしら〜?」
「ああ、確か…八番街にある旧貴族邸を宿舎として使ってくれってことだ。今は管理人が常駐してくれてるらしい」
「八番街…と言う事は第二城壁の内側か」
「そうだな。国立劇場もその近くにあるそうだ」
通勤に便利な物件って事だね。
旧貴族邸なら周囲の治安も良いところだろうし、なかなかの優良物件じゃないかと期待する。
そして私達は大西門を入って、そのままメイン通りを暫く進み第二城壁の門も通過する。
なお、第一城壁内は商業地区や歓楽街が多く、第二城壁内は住宅や行政機関、文教施設などが多い。
第三城壁内は富裕層の住宅や貴族邸が多い、というように大まかな特色がある。
ルシェーラやレティが通う予定の学園は第二城壁内にあるらしい…と言うか、件の旧貴族邸や劇場とも近いみたい。
二人にも会いやすい立地なのは嬉しいね。
そしてやってきたのは…
「…ここ?」
「…そのはずだ」
今目の前にあるのは、想定してたよりもかなり立派なお邸。
流石にブレーゼン侯爵邸やモーリス公爵邸とまではいかないが、十分に大きな邸である。
でも確かにウチの一座の全員が滞在するならこれくらいの大きさは必要なのかもしれないけど…
ホントにここで良いのだろうか…?
と、皆して門前で呆けていると、大きな門の脇にある通用扉が開いて、初老の男性が表に出てくる。
この人が管理人かな?
「ダードレイ一座の皆さまでしょうか?」
「ああ、そうだ。俺が座長のダードレイだ。あんたは?」
「これは失礼しました。私はこの邸の管理を仰せつかっているクレマンと申します。皆様の到着をお待ち申しておりました。長旅でお疲れでしょうから、詳しいお話は邸の中でしましょうか」
「そうだな、よろしく頼む」
そうしてクレマンさんに案内されて邸に入っていく。
父さんやティダ兄、ミディットばあちゃんなどの一座の運営に関わる主だったメンバーと私は応接室へ、それ以外のメンバーは各個人部屋へと。
自由にお使いくださいとのことだったので部屋割はお任せだ。
「さて、改めまして。ようこそ王都へおいでくださいました。王都民を代表して…というのはおこがましいですが、お礼申し上げます」
「いや、こっちこそ何処かに拠点を持ちたいと思っていた矢先の話だったんでな。いろいろと手配してくれたことに感謝する」
「「「ありがとうございます」」」
父さんの感謝の言葉とともに私達もお礼を言う。
「では、この邸のことについてご説明申し上げます…」
そう言ってクレマンさんは説明を始めたが、要約すると…
・この邸は国が所有者であり、一座には貸与と言う形である。
・5年間は無償で一座が使用できるが、以降も居住する場合は賃貸契約が必要となる。買い上げる事も可能。
・邸の管理については基本的に一座が自ら行うものとするが、使用人を雇い入れる場合は王城から人材を派遣することも可能(費用は応相談)。
・上記諸条件は一座が一定以上の活動を行うことを前提とする(具体的には年間の公演数を規定回数以上行うこと)。
ふむふむ…
このあたりは事前に聞いていた話と同じだね。
その他、今回私達一座が居住するにあたって事前に清掃や修繕は行ってるとのこと。
いやはや至れリ尽くせりなことで…ありがたいことです。
「私からの説明は以上になります。何かご質問はありますか?」
「そうだな…今回の件について調整してくれた関係者には是非お礼をしたいのだが…」
「それでしたら、皆様が落ち着いた頃合いに王城より使者が参ると思います。代表の方に登城頂くことになると思いますので、その際にどうぞ」
「分かった。劇場との調整は?」
「そちらは劇場の支配人に話が通っておりますので、直接お話して頂いて問題ありません」
…というように、その後も細かな話はティダ兄が上手いことやってくれた。
こうして、私達の王都での新たな生活が始まるのだった。
そして一週間の行程を特に波乱もなく順調に進み、いよいよ王都は目前となった。
王都周辺には大小の衛星都市が取り巻き、今私達が通っている街道沿いにも建物が多くなってきた。
そして、夕日に赤く染まるころ…
「おぉ、門が見えてきたぞ」
父さんの言葉に視線を向けると、緩やかな上り坂の先には巨大で立派な門が見えた。
王都アクサレナは城郭都市であり、3つの城壁を持っている。
今見えているのは最も外側、第一城壁の…確か大西門だったか。
今歩いている周辺も建物がひしめき合っているが、厳密に王都とはあの城壁の内部を指す。
だが、生活圏、経済圏は一体なので王都と言えば城壁外周辺部も含めるのが普通だ。
そういう意味では衛星都市までを含めて王都と言う人もいる。
王都の歴史を紐解くと…アクサレナと言うのはもともとはこの辺一帯の丘陵地帯の名称で、丘陵の最も高い位置に築かれた砦がこの都市の始まりとされている。
それ以降、少しづつ人が集まり町が形成されたが、遷都までは一地方都市に過ぎなかった。
しかし、300年前に王が居城に据えた事と大規模な軍勢の拠点となったことから、人と物資が集まるようになり街もそれに合わせて急速に発展していったのだ。
そして、現在では大陸でも一、ニを争う大都市となっており、王都単独で人口およそ二十万人、周辺の衛星都市まで合わせると三十万人を超えると言われている。
「ついにやって来たね、王都アクサレナ。ここが私達がこれから暮らす場所だよ」
大西門前の広場までやって来た。
夕日に照らされた巨大な門の扉は開放されていて自由に往来できる。
中に入っていくのは、私達と同じく外からやって来た旅人であろうか。
外に出ていくのは、仕事を終えて城壁外の家へと帰宅する人々であろうか。
様々な人が行き交い、広場にも多くの人がいて喧騒に包まれている。
「おっきな町なの!人がいっぱいなの!」
「本当にね。先ずは土地勘を養うためにも色々見回ってみないとね」
「あら、それでしたら私もご一緒したいですわ」
「ルシェーラは初めてなの?」
「幼少の頃に来たことはありますけど、街を見回る機会はありませんでしたわ」
「そっか〜。じゃあ一緒に遊びにいこうね。ルシェーラは侯爵家の王都邸だよね?」
「ええ。昨日ぴーちゃんに報せを出してもらってるのでこの広場に迎えが来るはずですわ」
「そしたら今日はここでお別れかな」
「ええ、そうなりますわ。落ち着いたら侯爵邸にお招きいたしますわね。お父様も久しぶりに皆さんにお会いしたいと思ってるでしょうし」
ああ…そういえば閣下にも久しぶりにお会いすることになるか。
何か私にも色々あったけど…閣下なら変わらず接してくれるかな。
「私もご一緒するのはここまでですね。王都にはしばらく滞在する予定ですので、アスティカントに向かう日が決まりましたらまたご連絡します」
そっか、リーゼさんとはここでお別れか。
寂しいけど、また会えるよね。
「お別れするのは名残惜しいですけど、またお会いしましょうね。私達はこれからずっと王都に居ることになるはずですし、いつでも遊びに来てくださいね」
「はい、必ず。まあアスティカントはブレゼンタムよりよっぽど近いですからね。皆さんの公演を見に行きますよ」
「カティアさん、我々は王城に帰還します。後日、お迎えに上がることになるかと思います」
「リュシアンさん、これまでありがとうございました。その際はまたお願いしますね」
リュシアンさんとケイトリンさんは護衛任務で私達に同行していたが、ここで任務完了と言うことだろう。
「カティアちゃん、またね〜。…まったく、王女様って分かってるんだからこのまま王城に来てもらえばいいのに。格式だとか段取りだとか面倒な…」
「あはは…まあ私もいきなり国王陛下にお会いすると言われても心の準備が出来てませんし…」
ケイトリンさんはそう言うけど、少しはゆっくりしたいかな…
ルシェーラは迎えの馬車が来て、リーゼさん、リュシアンさん、ケイトリンさんもそれぞれの場所へ。
そして私達は、と言うと…
「ダードさん〜、私達はどこに向かえばいいのかしら〜?」
「ああ、確か…八番街にある旧貴族邸を宿舎として使ってくれってことだ。今は管理人が常駐してくれてるらしい」
「八番街…と言う事は第二城壁の内側か」
「そうだな。国立劇場もその近くにあるそうだ」
通勤に便利な物件って事だね。
旧貴族邸なら周囲の治安も良いところだろうし、なかなかの優良物件じゃないかと期待する。
そして私達は大西門を入って、そのままメイン通りを暫く進み第二城壁の門も通過する。
なお、第一城壁内は商業地区や歓楽街が多く、第二城壁内は住宅や行政機関、文教施設などが多い。
第三城壁内は富裕層の住宅や貴族邸が多い、というように大まかな特色がある。
ルシェーラやレティが通う予定の学園は第二城壁内にあるらしい…と言うか、件の旧貴族邸や劇場とも近いみたい。
二人にも会いやすい立地なのは嬉しいね。
そしてやってきたのは…
「…ここ?」
「…そのはずだ」
今目の前にあるのは、想定してたよりもかなり立派なお邸。
流石にブレーゼン侯爵邸やモーリス公爵邸とまではいかないが、十分に大きな邸である。
でも確かにウチの一座の全員が滞在するならこれくらいの大きさは必要なのかもしれないけど…
ホントにここで良いのだろうか…?
と、皆して門前で呆けていると、大きな門の脇にある通用扉が開いて、初老の男性が表に出てくる。
この人が管理人かな?
「ダードレイ一座の皆さまでしょうか?」
「ああ、そうだ。俺が座長のダードレイだ。あんたは?」
「これは失礼しました。私はこの邸の管理を仰せつかっているクレマンと申します。皆様の到着をお待ち申しておりました。長旅でお疲れでしょうから、詳しいお話は邸の中でしましょうか」
「そうだな、よろしく頼む」
そうしてクレマンさんに案内されて邸に入っていく。
父さんやティダ兄、ミディットばあちゃんなどの一座の運営に関わる主だったメンバーと私は応接室へ、それ以外のメンバーは各個人部屋へと。
自由にお使いくださいとのことだったので部屋割はお任せだ。
「さて、改めまして。ようこそ王都へおいでくださいました。王都民を代表して…というのはおこがましいですが、お礼申し上げます」
「いや、こっちこそ何処かに拠点を持ちたいと思っていた矢先の話だったんでな。いろいろと手配してくれたことに感謝する」
「「「ありがとうございます」」」
父さんの感謝の言葉とともに私達もお礼を言う。
「では、この邸のことについてご説明申し上げます…」
そう言ってクレマンさんは説明を始めたが、要約すると…
・この邸は国が所有者であり、一座には貸与と言う形である。
・5年間は無償で一座が使用できるが、以降も居住する場合は賃貸契約が必要となる。買い上げる事も可能。
・邸の管理については基本的に一座が自ら行うものとするが、使用人を雇い入れる場合は王城から人材を派遣することも可能(費用は応相談)。
・上記諸条件は一座が一定以上の活動を行うことを前提とする(具体的には年間の公演数を規定回数以上行うこと)。
ふむふむ…
このあたりは事前に聞いていた話と同じだね。
その他、今回私達一座が居住するにあたって事前に清掃や修繕は行ってるとのこと。
いやはや至れリ尽くせりなことで…ありがたいことです。
「私からの説明は以上になります。何かご質問はありますか?」
「そうだな…今回の件について調整してくれた関係者には是非お礼をしたいのだが…」
「それでしたら、皆様が落ち着いた頃合いに王城より使者が参ると思います。代表の方に登城頂くことになると思いますので、その際にどうぞ」
「分かった。劇場との調整は?」
「そちらは劇場の支配人に話が通っておりますので、直接お話して頂いて問題ありません」
…というように、その後も細かな話はティダ兄が上手いことやってくれた。
こうして、私達の王都での新たな生活が始まるのだった。