▼詳細検索を開く
作者: 鈴奈
Exspetioa2.10.3
 昨夜、ニゲラ様が私の部屋に遊びに来てくださいました。
 私は、昨日のシスター・アザレアとのことをお話ししました。ニゲラ様は、「ふうん」とつぶやくと、

「蟲が出た時、シスター・ルドベキアがひとりで戦っていると聞いた途端に血相を変えたから、てっきり想いを寄せているのかと思ったわ」

 とおっしゃいました。
 ニゲラ様は、なんて鋭いのでしょう。私は、ちっとも気が付きませんでした。もしニゲラ様がおっしゃることが本当だとしたら、シスター・ルドベキアはどれほど喜ばれるでしょう。
 ですが、そうであるなら、どうしてお話しされないのでしょう。私はますます疑問に思いました。シスター・アザレアは、忠誠心が深くていらっしゃるから、ご自分のお気持ちを抑えていらっしゃるのでしょうか。
 もしそうだとしたら、どれほど苦しいことでしょう。
 お二人が何の気兼ねもなくお話できればいいのに、と思いました。そうして、お二人が一緒にいられたら、二人が笑顔を交わせる日が来たら、どんなにお二人は幸せなことでしょう。
 私に、何かできることはないでしょうか。そうつぶやき、考えようとした、その時。

「何がその人の幸せかなんて、その子にしかわからないものよ」

 ちら、とニゲラ様の方を向くと、ニゲラ様のお顔が美しく、夜の光に浮かび上がっているのが見えました。ニゲラ様は、天井を――いえ、どこか遠くを見ていらっしゃいました。

「人それぞれ、幸せのかたちは違う。これがこの人の幸せだと思っても、実際は違うことなんてざらにあるもの」

 私は、頬をつままれたような気持ちになりました。私はこれまで、この方はこうすれば幸せだと決めつけていたのです。恥ずかしく、申し訳ない気持ちが込み上がりました。
 ニゲラ様にもずっと、私の考えを押し付け続けていました。私は深く反省し、「勝手に決めつけてしまっていてごめんなさい……」とお伝えしました。

「考えてもらえることは嬉しいことよ。ただ、その子にしかわからないことは、決めつけたり、押し付けたりしない方がいいかもしれないわ。心の自由が奪われたら、私たちは、息ができなくなってしまうから」

 私は、気をつけよう、と思いました。これがこの方の幸せ、と決めつけて動くのではなく、その方が幸せになれるように祈ろう、と思いました。そうして、もしその方が幸せになれることをみつけたら、私のできる限りで力になってさしあげたいと思います。
 美しさや楽園のかたちがそれぞれにあるように、幸せのかたちもそれぞれなのです。それぞれを尊重することは、いつかシスター・フリージアがおっしゃった、相手の大切なものを大切にするという美しさに通じるものだと思います。私はこれから、そうやって相手を大切にできる美しい花で在りたいと思いました。
 
 ニゲラ様はきっと、たくさんおつらい思いをしてきたからこそ、誰かを大切にできる方法を知っていらっしゃるのだろうと思います。ニゲラ様が教えてくださることを大切にして、もっとやさしく、美しくなりたいと、心から思います。
 ニゲラ様のような、美しい花になれますように。
Twitter