Exspetioa2.7.11
今日はとても幸せなことがありました。マザーが、お許しくださったのです。
休息の時間に、シスター・フリージアがお越しくださいました。シスター・フリージアは、私に、シスター・タンジー、そして、あの後あまりのショックで亡んでしまったというシスター・ルコウソウの種を私にくださいました。いつかまたお会いできるよう、幸せに生を歩めるよう、誠心誠意、お世話させていただきたいと思います。
シスター・フリージアは、マザーから伝言を預かっていらっしゃいました。休息の時間に、マザーのところへ来るように、とのことでした。私は、胸がバクバクしました。どんなお話があるのでしょう……。
休息の時間、私はシスター・ルドベキアに送られて、マザーの部屋にたどり着きました。胸をバクバクさせながら、ノックをしました。
扉が開いて、マザーが、にっこりとほほ笑まれました。昨日のことが、嘘だったかのように。
「入って」
私を部屋に招き入れ、扉を閉めると、マザーはいつものように私の手を握り、庭園へと連れていってくださいました。机には、クッキー、マフィンなどのたくさんのお菓子と、ティーポットが置かれていました。
マザーは私に座るように促すと、私のカップに、お茶を注いでくださいました。飴色のお茶からは、甘いベリーの香りがしました。
「罪って言ったこと、撤回する。セナを、赦すよ」
思いもよらない言葉でした。ぶわりと、涙があふれました。
私は涙を拭いながら、「ありがとうございます、申し訳ありませんでした」とお伝えしました。
「ねえ、セナ。考えは変わった?」
私は、首を振りました。
「どうして? 罪を背負うことになったかもしれないのに。怖くなかったの?」
私は、罪を背負うことは怖くないのです。ただ、罪を犯したということは、神様を裏切った――つまり、神様を傷つけたということ。ただひたすら、申し訳ない気持ちになるのです。
それに、マザーと、もう仲直りできないのではないかという不安が一番強かったのです。
涙ながらにそう伝えると、マザーは小さな声でぽつりと、
「じゃあ、もう、これしかないか……」
というようなことをつぶやかれたかのように聞こえました。
マザーが、私の濡れた両手を、やさしく包み込みました。
「昨日あの後、考えたんだ。セナは、どうして罪女ニゲラを解放したいのかって。助けてくれたお礼、だよね。それに、これから蟲が出た時に、助けてくれるかもしれない。そういうことだよね。別に、愛しているわけじゃない。セナが唯一愛しているのは、神。そうだよね」
私が涙を拭っているうちに、マザーはすぐに言葉を続けました。
「神が必要としているのは、セナの愛。セナが神様だけを、唯一、永遠に愛してくれるなら、なんでも構わない。セナが、必ず『神の花嫁』になると、神を永遠に愛すると誓ってくれるなら、いいよ。罪女ニゲラを解放しても」
「私は、愛しています。これまでも、これからも、変わらずに。私はずっと、神様を愛します」
私は、心のままに申し上げました。これが私の、嘘偽りない心だったのです。
マザーは、嬉しそうにほほ笑まれました。
「それなら、解放を許可してあげる。ただし、これ以降、必ず私の言葉に従うと誓って。神を永遠に愛し、『神の花嫁』になると誓って」
私は、ドキドキしながら「はい、はい……!」とうなずきました。
嬉しくて嬉しくて、涙がとめどなくあふれました。神様が、マザーを通じて彼女をお赦しくださった。私は、そう感じました。
「神の学び」の時間が終わると、シスター・ルドベキアが私を待っていてくださいました。
マザーがあのお方を解放してくださる許可をくださったのだとお話しすると、「よかったじゃないか!」と私の両肩を掴んで、喜んでくださいました。今まで見た中で一番幸せそうなシスター・ルドベキアのお顔を見ることができて、とても嬉しくなりました。
「たくさんご尽力いただいて。勇気もたくさんいただいて……。本当に、なんとお礼を申し上げたらいいか」
「礼には及ばない。シスター・セナが罪女ニゲラを信じる姿を花の修道女たちに見せ、彼女たちの心を変えてくれさえすれば、私は十分なんだ。シスター・セナ。君なら、私の望む楽園をつくってくれる。君は、私の希望だ」
嬉しいお言葉で、私は胸がいっぱいになり、嬉しさで体がふわふわするようでした。
――ですが、今になって、少し気になってまいりました。
シスター・ルドベキアは、どうして、花の修道女たちの心を変えたいと思っていらっしゃるのでしょう。皆さんはおやさしく、変える必要のあるところなど、ひとつもないと思うのですが……。
それに、シスター・ルドベキアの望まれる楽園とは、どのような楽園のことなのでしょう。楽園とは、神様が幸せになられた世界のことをいうのではないのでしょうか。それとは、違うものなのでしょうか。
神様の楽園ではない「楽園」が、あるのでしょうか。
お訊きしたかったのですが、珍しく穏やかなお顔で眠っていらっしゃるので、また明日、機会があったらお訊きしたいと思います。
今日も、とても幸せな日になりました。
神様が、あのお方を赦してくださったおかげです。
神様が、あのお方が、シスター・ルドベキアが、マザーが、この世界のすべてのものが、幸せになりますように。
愛しています。Ex animo.
休息の時間に、シスター・フリージアがお越しくださいました。シスター・フリージアは、私に、シスター・タンジー、そして、あの後あまりのショックで亡んでしまったというシスター・ルコウソウの種を私にくださいました。いつかまたお会いできるよう、幸せに生を歩めるよう、誠心誠意、お世話させていただきたいと思います。
シスター・フリージアは、マザーから伝言を預かっていらっしゃいました。休息の時間に、マザーのところへ来るように、とのことでした。私は、胸がバクバクしました。どんなお話があるのでしょう……。
休息の時間、私はシスター・ルドベキアに送られて、マザーの部屋にたどり着きました。胸をバクバクさせながら、ノックをしました。
扉が開いて、マザーが、にっこりとほほ笑まれました。昨日のことが、嘘だったかのように。
「入って」
私を部屋に招き入れ、扉を閉めると、マザーはいつものように私の手を握り、庭園へと連れていってくださいました。机には、クッキー、マフィンなどのたくさんのお菓子と、ティーポットが置かれていました。
マザーは私に座るように促すと、私のカップに、お茶を注いでくださいました。飴色のお茶からは、甘いベリーの香りがしました。
「罪って言ったこと、撤回する。セナを、赦すよ」
思いもよらない言葉でした。ぶわりと、涙があふれました。
私は涙を拭いながら、「ありがとうございます、申し訳ありませんでした」とお伝えしました。
「ねえ、セナ。考えは変わった?」
私は、首を振りました。
「どうして? 罪を背負うことになったかもしれないのに。怖くなかったの?」
私は、罪を背負うことは怖くないのです。ただ、罪を犯したということは、神様を裏切った――つまり、神様を傷つけたということ。ただひたすら、申し訳ない気持ちになるのです。
それに、マザーと、もう仲直りできないのではないかという不安が一番強かったのです。
涙ながらにそう伝えると、マザーは小さな声でぽつりと、
「じゃあ、もう、これしかないか……」
というようなことをつぶやかれたかのように聞こえました。
マザーが、私の濡れた両手を、やさしく包み込みました。
「昨日あの後、考えたんだ。セナは、どうして罪女ニゲラを解放したいのかって。助けてくれたお礼、だよね。それに、これから蟲が出た時に、助けてくれるかもしれない。そういうことだよね。別に、愛しているわけじゃない。セナが唯一愛しているのは、神。そうだよね」
私が涙を拭っているうちに、マザーはすぐに言葉を続けました。
「神が必要としているのは、セナの愛。セナが神様だけを、唯一、永遠に愛してくれるなら、なんでも構わない。セナが、必ず『神の花嫁』になると、神を永遠に愛すると誓ってくれるなら、いいよ。罪女ニゲラを解放しても」
「私は、愛しています。これまでも、これからも、変わらずに。私はずっと、神様を愛します」
私は、心のままに申し上げました。これが私の、嘘偽りない心だったのです。
マザーは、嬉しそうにほほ笑まれました。
「それなら、解放を許可してあげる。ただし、これ以降、必ず私の言葉に従うと誓って。神を永遠に愛し、『神の花嫁』になると誓って」
私は、ドキドキしながら「はい、はい……!」とうなずきました。
嬉しくて嬉しくて、涙がとめどなくあふれました。神様が、マザーを通じて彼女をお赦しくださった。私は、そう感じました。
「神の学び」の時間が終わると、シスター・ルドベキアが私を待っていてくださいました。
マザーがあのお方を解放してくださる許可をくださったのだとお話しすると、「よかったじゃないか!」と私の両肩を掴んで、喜んでくださいました。今まで見た中で一番幸せそうなシスター・ルドベキアのお顔を見ることができて、とても嬉しくなりました。
「たくさんご尽力いただいて。勇気もたくさんいただいて……。本当に、なんとお礼を申し上げたらいいか」
「礼には及ばない。シスター・セナが罪女ニゲラを信じる姿を花の修道女たちに見せ、彼女たちの心を変えてくれさえすれば、私は十分なんだ。シスター・セナ。君なら、私の望む楽園をつくってくれる。君は、私の希望だ」
嬉しいお言葉で、私は胸がいっぱいになり、嬉しさで体がふわふわするようでした。
――ですが、今になって、少し気になってまいりました。
シスター・ルドベキアは、どうして、花の修道女たちの心を変えたいと思っていらっしゃるのでしょう。皆さんはおやさしく、変える必要のあるところなど、ひとつもないと思うのですが……。
それに、シスター・ルドベキアの望まれる楽園とは、どのような楽園のことなのでしょう。楽園とは、神様が幸せになられた世界のことをいうのではないのでしょうか。それとは、違うものなのでしょうか。
神様の楽園ではない「楽園」が、あるのでしょうか。
お訊きしたかったのですが、珍しく穏やかなお顔で眠っていらっしゃるので、また明日、機会があったらお訊きしたいと思います。
今日も、とても幸せな日になりました。
神様が、あのお方を赦してくださったおかげです。
神様が、あのお方が、シスター・ルドベキアが、マザーが、この世界のすべてのものが、幸せになりますように。
愛しています。Ex animo.