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作者: 鈴奈
Exspetioa2.5.13 (1)
今日は休息の時間に、シスター・ルゴサに、昨日書いた日記を読んでいただきました。
「これを一時間で書いたの? 大変だったでしょう!」と驚き、ねぎらってくださいました。

「でもね、きっと毎日こういう風に書いていたら大変だと思うの。だから、印象的だったことだけ取り上げるといいと思うわ。あと、なるべく言葉ややりとりを、その人の言ったまま、様子も含めて忠実に書いたりすると、読み返した時にお話を読んでいるみたいになって楽しいわよ」

「なるほど。ありがとうございます、シスター・ルゴサ」

 あ、本当です。お言葉ややりとりをそのまま書くと、読み返した時に頭の中にその時の映像が浮かんできて、とても嬉しくなります。忠実に書けば書くほど、記憶が日記に守られて、宝物のように増えていくように思えます。それに、お言葉はその方の心そのものです。お言葉を大切にすることは、その方の心を大切にするということ。ますますその方のことを大切に想え、感謝の気持ちが膨らみ、私自身もとても幸せな気持ちになります。これからはシスター・ルゴサに今日教えていただいたように、お言葉とやりとり、その時の様子を忠実に、しっかり記録していきたいと思います。
 シスター・ルゴサは、眉間にぎゅっとしわを寄せ、もう一度私の日記を見直しました。そして、悩ましげにつぶやかれました。

「うーん。やっぱり私のことが少ない……」

たしかに、毎日遊びに来てくださるし、たくさん言葉を交わさせていただくのに、少なかったかもしれません。とても失礼なことをしてしまいました。私は、

「申し訳ありませんでした。でも、シスター・ルゴサには心から感謝しています。今日の日記はシスター・ルゴサのことをたくさん書かせていただきます」

 とお伝えしました。

「本当? 絶対よ! じゃあ、また見せてくれる?」

「はい。もちろんです。また書き方を教えてください」

「わかったわ!」

 シスター・ルゴサはいつも元気たっぷりなご様子で笑いました。しかしその直後、満面に咲かせていらっしゃった笑みが、シスター・ルゴサの手の甲に咲く紫色の花とともに、ピンと張り詰めた様子に変わりました。少しの沈黙の後、ためらうように、シスター・ルゴサはおっしゃいました。

「――……あの、ねえ……シスター・セナ? ……この、『あのお方』って……?」

 私は、ドキリとしました。
 その時です。

「こら、シスター・ルゴサ。シスター・セナに日記を返しなさい」

 背後からの温かくも厳しいお声に、シスター・ルゴサは「キャッ!」と飛び跳ね、くるっと振り向きました。シスター・フリージアがむっとしたお顔でシスター・ルゴサを見つめていらっしゃいました。

「シスター・フリージア。日記の書き方を教えていただいていたのです」

「シスター・セナの言う通りです。日記の書き方を教えていただけで」

「それは、見なくてもできることでしょう。誰かの日記を見るものではありません。言葉は心。それを綴る日記は、その人の心そのもの。自分でそっと、大切にするべきものですよ。誰にでも、触れられたくない宝物があるものでしょう。相手の大切なものを大切にしてあげることも美しさですよ」

 私は、シスター・フリージアの素敵なお考えに心を打たれました。シスター・ルゴサはしゅんとして、私に日記を返してくださいました。
 「あっ」という声が聞こえてきて、私たちは振り向きました。シスター・プリムラとシスター・パンジーが、椅子を持って立ち尽くしていらっしゃいました。
シスター・プリムラが、「まあ、シスター・フリージア……」とまあるくなったままのお口から、吐息のような声をこぼしました。シスター・パンジーはいつものふんわりさに驚きを交えたご様子で、「どぉしてここにぃ?」と大きな瞳をさらに大きく開きました。

「たまたま通りかかったの。あら、四人とも椅子を持って、今日は何かをするの?」

「いえ、天気がいいので、皆で座って、のんびりお話ししようと思いまして」

「そう。本当に、気持ちのいい天気よね。そうだわ、また今度、シスター・ロベリアも呼んで、このメンバーでお茶会しましょうね」

「シスター・セナのお世話役、再結集ですねぇ。したいですぅ」

「ではまた今度、機会をつくりましょうね」

 手を振って朗らかに、シスター・フリージアは去っていかれました。私の世話をしてくださった皆さん――シスター・フリージアと、シスター・ルゴサ、シスター・プリムラ、シスター・パンジー、シスター・ロベリア。皆さんと再び集まり、お茶会ができるなんて――。想像するだけで楽しみで、幸せな気持ちになりました。その日が早く来ますように。
私が幸せな気持ちで祈っていると、シスター・プリムラがシスター・ルゴサに、「何を怒られていたの?」とささやきました。シスター・ルゴサが日記のことを話すと、「シスター・フリージアに怒られると、どきっとしちゃうわよね。ずっとマザーだったから」とうなずき納得していらっしゃいました。

「でも、気持ちを切り替えていきましょう。今日はエスパーティーなのだから!」

 シスター・プリムラが明るくおっしゃると、シスター・マネチアとシスター・トレニアが、そして、本日の主役である、シスター・ロベリアとシスター・アナベルが椅子を抱きしめ、駆けていらっしゃいました。
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