第七二話 田舎と森、都会とビル
弥勒は剣術を磨くべく、周布の許を訪れる。
月曜になり、大宰府分校で一日を過ごした弥勒と巳代。
「来週は天草だったよね、巳代。本当、遊び慣れてる五条さんのお陰で色んな所へ無駄なく迎えて嬉しいよ。五条さんがいるだけで、旅行だってアピールにもなるしね」
「渋川も、五条や鷲頭との付き合い方が少しづつ理解出来て来たみたいだしな」
「鷲頭さんってどうして常に五条さんの側にいるんだろう?」
「さぁ……興味ねぇよ」
弥勒はこういう話を理解できないからと、巳代は話を逸らした。
「ところで、それまでどうやって過ごすんだ? 大人しく舞楽部に顔を出すのか?」
「それもするつもりだよ。楽しいしね。あとは、周布さんと会ってくる」
「神通力の探究か? 相変わらず真面目だな」
「それよりも、剣を学びたいんだ。巳代程にはなれなくても、少しは使えるようにならないとだから。いざという時、巳代と肩を並べて戦えるくらいにはなってないと」
「確かに……常に守ってやれるとは限らないからな。頑張ってくれ」
「巳代は何をして過ごすの?」
「なにもしないさ。いつも通り帰って剣を研いで過ごすさ」
「相変わらずだね。いつも奔走させてるから、少しは巳代の負担を減らせる様に、僕も渋川さんとか五条さんとか、女性の友達とも人並みに付き合える様に頑張るよ。ちゃんと休んでね」
「ありがとな」
その日の夜、弥勒は周布の許を訪ねた。元々、この日は剣の修行をすると約束していたのだ。五条や鷲頭、渋川が、第六感で見た景色。周布と剣の鍛錬を積むのは、決まっている未来なのだ。
弥勒がラーメン屋を訪ねると、周布はすぐに店を閉めた。
「マスター、今日はよろしくお願いします」
「あぁ、こちらこそだ。では、練習場所へ行こうか」
「どこにあるんですか?」
「この都会で誰にも邪魔されずに剣を振るえる場所がどこにあるんだ。野次馬に動画を撮られたりでもしたら最悪だ。場所は常夜だと決まっているだろう」
「それもそうですね」
「そういや今度、天草へ行くんだってな。五条ちゃんから聞いたよ」
「そうですね。五条さん達とは旅行ということにしてますけど、本当は違います」
「そうだろうな。神父に会いに行くんだろう? ドン・アントニオやヨハネさんに」
「どうして分かったんです?」
「九州独立の陰謀論が気になるんだろうと思ってな」
「どうしてそのことを?」
「以前藤原氏について話した時、それを悟った様な顔をしていただろう。私も同意見で、陰謀論は最早現実になっている。それでこの前俺達を殺そうとした輩が気になったから、独自に調べたんだ。チンピラなんて微量の神通力で殴ればすぐ誘拐できるしな」
「武闘派ですよね……マスターって」
「山内組の連中を誘拐して、丁重に話を聞いてみたら分かったんだ。長崎、天草のカトリックは、星の屑財団を通じて繋がっている様なんだ。君の目の付け所は正しかったという訳だ」
「天草で……探りを入れてみます。大友一派が本当に九州独立を目指しているのか……真相を!」
二人は怒りや憎悪、幸福や快楽の思いが交錯する都会のビルの森から、常夜へと迷い込んで行った。大友のことは忘れ、常夜で視界を失わない様に集中しながらである。
「常夜に迷い込める場所は、なにも本当の森だけではない。思いが交錯してさえいれば、どこからでも常夜へと繋がる。田舎と森、都会とビル群。神道の観点に於けるそれらの大きな違いは、八百万を信じる人、つまり真の日本人の数の違いだ」
「八百万を信仰し、自然や他者を正しく恐れ正しく尊ぶことで育まれた道徳心が、日常生活に根ざした人が少ないから……大都会である関東や関西では、八百万が感知できない」
「そうだ、よく学んでいるな。この福岡でさえ、街中では八百万を見ることは出来ない。もしこの街から外国人や、それに準ずる、八百万への信仰心を忘れた真の無神論者の大和民族……分かりやすく俗っぽい表現をすれば、魂が日本人ではなくなった日本人。それらが居なくなり、八百万を信仰する真の日本人が増えれば、この街でも八百万は姿を現すのだろうな」
「太宰府でも、少ししか見つけることは出来ませんでした。日向では人と相違ないほどたくさんいたのに……」
「それも同じだな。人の数だ」
結界の側までやって来た二人。周布は愛刀を手に取った。少し不安から硬直する弥勒を笑い、「冗談だ、木刀でやろう」といって、周布は木刀二本を手に取った。
「来週は天草だったよね、巳代。本当、遊び慣れてる五条さんのお陰で色んな所へ無駄なく迎えて嬉しいよ。五条さんがいるだけで、旅行だってアピールにもなるしね」
「渋川も、五条や鷲頭との付き合い方が少しづつ理解出来て来たみたいだしな」
「鷲頭さんってどうして常に五条さんの側にいるんだろう?」
「さぁ……興味ねぇよ」
弥勒はこういう話を理解できないからと、巳代は話を逸らした。
「ところで、それまでどうやって過ごすんだ? 大人しく舞楽部に顔を出すのか?」
「それもするつもりだよ。楽しいしね。あとは、周布さんと会ってくる」
「神通力の探究か? 相変わらず真面目だな」
「それよりも、剣を学びたいんだ。巳代程にはなれなくても、少しは使えるようにならないとだから。いざという時、巳代と肩を並べて戦えるくらいにはなってないと」
「確かに……常に守ってやれるとは限らないからな。頑張ってくれ」
「巳代は何をして過ごすの?」
「なにもしないさ。いつも通り帰って剣を研いで過ごすさ」
「相変わらずだね。いつも奔走させてるから、少しは巳代の負担を減らせる様に、僕も渋川さんとか五条さんとか、女性の友達とも人並みに付き合える様に頑張るよ。ちゃんと休んでね」
「ありがとな」
その日の夜、弥勒は周布の許を訪ねた。元々、この日は剣の修行をすると約束していたのだ。五条や鷲頭、渋川が、第六感で見た景色。周布と剣の鍛錬を積むのは、決まっている未来なのだ。
弥勒がラーメン屋を訪ねると、周布はすぐに店を閉めた。
「マスター、今日はよろしくお願いします」
「あぁ、こちらこそだ。では、練習場所へ行こうか」
「どこにあるんですか?」
「この都会で誰にも邪魔されずに剣を振るえる場所がどこにあるんだ。野次馬に動画を撮られたりでもしたら最悪だ。場所は常夜だと決まっているだろう」
「それもそうですね」
「そういや今度、天草へ行くんだってな。五条ちゃんから聞いたよ」
「そうですね。五条さん達とは旅行ということにしてますけど、本当は違います」
「そうだろうな。神父に会いに行くんだろう? ドン・アントニオやヨハネさんに」
「どうして分かったんです?」
「九州独立の陰謀論が気になるんだろうと思ってな」
「どうしてそのことを?」
「以前藤原氏について話した時、それを悟った様な顔をしていただろう。私も同意見で、陰謀論は最早現実になっている。それでこの前俺達を殺そうとした輩が気になったから、独自に調べたんだ。チンピラなんて微量の神通力で殴ればすぐ誘拐できるしな」
「武闘派ですよね……マスターって」
「山内組の連中を誘拐して、丁重に話を聞いてみたら分かったんだ。長崎、天草のカトリックは、星の屑財団を通じて繋がっている様なんだ。君の目の付け所は正しかったという訳だ」
「天草で……探りを入れてみます。大友一派が本当に九州独立を目指しているのか……真相を!」
二人は怒りや憎悪、幸福や快楽の思いが交錯する都会のビルの森から、常夜へと迷い込んで行った。大友のことは忘れ、常夜で視界を失わない様に集中しながらである。
「常夜に迷い込める場所は、なにも本当の森だけではない。思いが交錯してさえいれば、どこからでも常夜へと繋がる。田舎と森、都会とビル群。神道の観点に於けるそれらの大きな違いは、八百万を信じる人、つまり真の日本人の数の違いだ」
「八百万を信仰し、自然や他者を正しく恐れ正しく尊ぶことで育まれた道徳心が、日常生活に根ざした人が少ないから……大都会である関東や関西では、八百万が感知できない」
「そうだ、よく学んでいるな。この福岡でさえ、街中では八百万を見ることは出来ない。もしこの街から外国人や、それに準ずる、八百万への信仰心を忘れた真の無神論者の大和民族……分かりやすく俗っぽい表現をすれば、魂が日本人ではなくなった日本人。それらが居なくなり、八百万を信仰する真の日本人が増えれば、この街でも八百万は姿を現すのだろうな」
「太宰府でも、少ししか見つけることは出来ませんでした。日向では人と相違ないほどたくさんいたのに……」
「それも同じだな。人の数だ」
結界の側までやって来た二人。周布は愛刀を手に取った。少し不安から硬直する弥勒を笑い、「冗談だ、木刀でやろう」といって、周布は木刀二本を手に取った。