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作者: 唯響-Ion
第二八話 一撃必殺
 渾身の一撃を、稲葉の第八感絶対認識により防がれてしまう弥勒。しかしめげずに、自分の戦闘スタイルを確立する為に手合わせを続ける。
 稲葉は地面に足を着けるよりも前に、空中で体を反転させ、弥勒の方を向いた。そして弥勒の槍を弾き、太刀を構えた。
 稲葉が着地した時、弥勒は勢いのまま自ら太刀に体当たりし、そのまま倒れ込んだ。勝負ありであった。
「どうして視認して一秒も経たずに、一太刀で僕の槍の位置を把握した上で、完全に弾けたんだ……?」
「忘れたのか、俺の感覚を」
「そうだ……感覚感応者なんだった。第八感絶対認識。そうか……背を向けた瞬間を狙ったつもりでも、全て認識されているから、無意味な戦法だった訳だ」
「そうなるな。だが、流石の運動神経だと思ったぞ。もう少し、自分に似合った戦い方と武器を探していけば、更に強くなれる筈だ。付き合うから、頑張ろうぜ陵王」
「よし、頑張ろう……!」
 弥勒と稲葉は特訓を始めた。ひょろひょろな舞楽部の男と筋骨隆々な棒術部主将の猛々しい闘いに、巳代や部員達は、目を奪われた。
 二時間程が経ち、日が完全に暮れた頃。弥勒は遂に、自身に最も適した武器を見つけ出した。その頃には既に部員は帰り、二人の闘いを見守るのは、巳代だけとなっていた。
「さぁその武器で、闘ってみようか……陵王!」
「手加減しないよ……稲葉さん!」
 弥勒は鞘から刀を抜いた。それは刃渡り六十センチメートルの、なんの変哲もない刀であった。しかしそれは、弥勒の戦闘スタイルに適していた。
 両者は向き合った直後、弥勒は一歩を踏み出して攻勢に出る構えを見せた。
 稲葉は薙刀(なぎなた)で突きをするも、弥勒は強い脚力で一瞬にして一歩下がり、その突きは刃で弾かれた。
 弥勒は余裕の笑みを向けていた。
 稲葉もまた、盛り上がってきたと感じ、微笑んでいた。
 稲葉は薙刀を振り上げ、袈裟斬りを行った。弥勒はパワーで負けて防げないと判断し、一度刃をぶつけ、薙刀の勢いを殺して受け流した後、颯爽と稲葉の懐へ入り込んだ。
 弥勒は渾身の一突きをするも、稲葉は弥勒の突きを回避して弥勒の足を蹴り上げ、転倒させた。うつ伏せになった弥勒の背を刺す様に、袈裟斬りを行おうとする稲葉は、勝利を確信した。
 しかし次の瞬間、弥勒は一瞬にして跳躍し、稲葉の薙刀に乗った。そのまま一歩稲葉の方へと進み、喉元に刀を突きつけた。
 巳代は「勝負ありだな」といった。
「稲葉さん……あなたは僕が背を向けた後、斬りつけるしかなかった。しかしそうさせるのが僕の目的だった。神通力で身体を強化して跳躍すれば、薙刀を踏みつけ無力化できる。そうすれば稲葉さんは薙刀を手放すしか選択肢はなくなるが、もしそうすれば、稲葉さんは刀に対抗する術がなくなり、どの道降参するしかなくなる……!」
「敗けたよ陵王……。君の一撃必殺のカウンタースタイルを知ってしまった以上、長距離での攻勢が取れなくなる体術では勝ち目がなかった。まんまとうつ伏せの背に誘われた俺の……敗けだ」
 巳代は顎に手を当てながら、勝敗を分けた理由を分析した。
「稲葉はどんな武器でも完璧に使いこなすオールマイティさが強みだ。しかしは基本を使いこなす事に長けていることを意味しており、それ故にカウンター攻撃等の虚を突く一撃に対しては弱くなる。ここまで負け続けた弥勒に対する、潜在的なみくびりが、更にその弱点の穴を大きくしてしまったんだな」
 稲葉は弥勒に「これで二八勝一敗だな」といって、黒い肌とは真反対の真っ白な歯を見せ、ニカッと笑った。弥勒は稲葉の冗談に笑い、巳代もまた釣られて、クスッと笑った。
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