第十九話 九州の感覚感応
ボールの友達になりきれない伊東が、文系の緒方と卓球対決をするあいだ、稲葉は弥勒に、九州の感覚感応について解説する。
「先に十点を取った。弥勒の勝ちで良いよな? 稲葉」
「存外、熱い戦いだったな。ほらよ、有馬」
稲葉はそういって、五百円玉を巳代へと投げた。そのやり取りから察するに、二人はどちらの勝利かに、ミルクコーヒーの代金を賭けていたのだろう。
弥勒は、賭け事なんて下らないと思ったが、それよりも気になることがあった。
「ねぇ巳代、感覚感応者ってなに? 伊東(いとう)さんは第八感っていってたけど、皆も持ってるの?」
「聞いてたのか。まぁ夕食までまだ時間があるし、話してやる」
弥勒は稲葉からの奢りのミルクコーヒーを片手に、巳代の隣に座った。
「感覚感応者ってのは、第六感から第九感までの超能力を持った連中の事だ。第六感、別名で超直感は、物体の重さや大きさ、時間の流れを直感的に寸分の狂いなく理解する事ができる。第七感、別名で超集中は、脳と身体が究極的且つ最上のリラックス状態になることで、最高のパフォーマンスを引き出すことができる。そして第八感、別名で絶対認識が、さっき説明した通り、空間認識が完璧になるんだ」
「第九感はどんな能力なの……?」
「第九感は別名、全能。五感に加え、六感以上の全てを使うことが出来、神通力もその全てを理解し操れる様になるという、当に神にも等しい存在だ。仙人などの俗世から解脱した人間のみがそうであるとされるが、有史以来ただの一人も、その境地に立ったことはないとされている」
「そんなの、空想の存在にも聞こえるなぁ。感覚感応はまだ、欠点があるから、実在していても不思議じゃないよ。伊東さんだって、認識は完璧だけど身体が追いつかったから、僕に負けたんだね」
「そうだ」
卓球台から再び、「はぁうんっ!」という、力が抜けそうになる声が響く。細身で、取り分け運動能力が高い訳ではない緒方が、既に五点を先制していた。
「負けんなよ伊東(いとう)、またお前に賭けたんだからな」
「任せてよ稲葉、僕の闘志は負けやしない!」
二人の闘いが再開した後、稲葉は弥勒と巳代の隣に座った。
「ちなみにな、俺も第八感の感応者だ。まぁ武の道を行くものは、そもそも敵の動きを完璧に認識しなくては、いくら己の身体や武術を鍛えても意味が無いからな。だから伊東(いとう)にはもっと頑張って欲しいが」
「まぁ流鏑馬の的は動かないしなぁ稲葉。動くのは馬に跨る己だけで」
「そういや的が動く犬追物(いぬおうもの)は苦手だとかなんとかいってたなぁ」
「フォームを固定しなくては戦えないなど、ただのスポーツじゃないか」
「まぁそういってやるなよ有馬。あれでも立派な男だ。ただのスポーツマンじゃ、この九州で流鏑馬(やぶさめ)の天才とは呼ばれないぜ」
稲葉のその言葉には、どこか重々しい含みを感じたが、その言葉の意味を弥勒は理解できなかった。
「巳代や僕は感応者じゃないの?」
「あぁ。どういう訳か、関東や関西など、都市部では感応者が少ないんだ」
「そっかぁ。じゃあこの前稲葉さんと闘ってた時に有り得ない動きをしてたのは、どういう仕組みなの?」
「ただの神通力の応用だ。お前が陵王を舞う時に跳躍をしたり、片足で力んでポーズを取る時があるだろう。あの時やってるのと同じことだ」
「あれ、神通力だったんだ。脚力も鍛えてたし、筋力だと思ってた」
呆気に取られた様にそう呟く弥勒を見て、稲葉は笑った。
「有馬のいう通り、神通力の潜在能力やコントロール能力が人並み外れてるらしいな。だから無意識に、神通力を扱えている。陵王、感覚というのは緒方曰く、まだ研究があまり追いついていないものらしくてな、神通力とは異なり自然発生的に後天性の感応者になることもあるらしいぞ」
「もっと感覚感応者についても学んでいきたいなぁ」
「後で緒方に聞いてみな。詳しいことが知れるかもしれないぞ」
卓球台の方で再び「はぁうんっ!」という声が聞こえ、稲葉は無心で、財布を開いていた。
「存外、熱い戦いだったな。ほらよ、有馬」
稲葉はそういって、五百円玉を巳代へと投げた。そのやり取りから察するに、二人はどちらの勝利かに、ミルクコーヒーの代金を賭けていたのだろう。
弥勒は、賭け事なんて下らないと思ったが、それよりも気になることがあった。
「ねぇ巳代、感覚感応者ってなに? 伊東(いとう)さんは第八感っていってたけど、皆も持ってるの?」
「聞いてたのか。まぁ夕食までまだ時間があるし、話してやる」
弥勒は稲葉からの奢りのミルクコーヒーを片手に、巳代の隣に座った。
「感覚感応者ってのは、第六感から第九感までの超能力を持った連中の事だ。第六感、別名で超直感は、物体の重さや大きさ、時間の流れを直感的に寸分の狂いなく理解する事ができる。第七感、別名で超集中は、脳と身体が究極的且つ最上のリラックス状態になることで、最高のパフォーマンスを引き出すことができる。そして第八感、別名で絶対認識が、さっき説明した通り、空間認識が完璧になるんだ」
「第九感はどんな能力なの……?」
「第九感は別名、全能。五感に加え、六感以上の全てを使うことが出来、神通力もその全てを理解し操れる様になるという、当に神にも等しい存在だ。仙人などの俗世から解脱した人間のみがそうであるとされるが、有史以来ただの一人も、その境地に立ったことはないとされている」
「そんなの、空想の存在にも聞こえるなぁ。感覚感応はまだ、欠点があるから、実在していても不思議じゃないよ。伊東さんだって、認識は完璧だけど身体が追いつかったから、僕に負けたんだね」
「そうだ」
卓球台から再び、「はぁうんっ!」という、力が抜けそうになる声が響く。細身で、取り分け運動能力が高い訳ではない緒方が、既に五点を先制していた。
「負けんなよ伊東(いとう)、またお前に賭けたんだからな」
「任せてよ稲葉、僕の闘志は負けやしない!」
二人の闘いが再開した後、稲葉は弥勒と巳代の隣に座った。
「ちなみにな、俺も第八感の感応者だ。まぁ武の道を行くものは、そもそも敵の動きを完璧に認識しなくては、いくら己の身体や武術を鍛えても意味が無いからな。だから伊東(いとう)にはもっと頑張って欲しいが」
「まぁ流鏑馬の的は動かないしなぁ稲葉。動くのは馬に跨る己だけで」
「そういや的が動く犬追物(いぬおうもの)は苦手だとかなんとかいってたなぁ」
「フォームを固定しなくては戦えないなど、ただのスポーツじゃないか」
「まぁそういってやるなよ有馬。あれでも立派な男だ。ただのスポーツマンじゃ、この九州で流鏑馬(やぶさめ)の天才とは呼ばれないぜ」
稲葉のその言葉には、どこか重々しい含みを感じたが、その言葉の意味を弥勒は理解できなかった。
「巳代や僕は感応者じゃないの?」
「あぁ。どういう訳か、関東や関西など、都市部では感応者が少ないんだ」
「そっかぁ。じゃあこの前稲葉さんと闘ってた時に有り得ない動きをしてたのは、どういう仕組みなの?」
「ただの神通力の応用だ。お前が陵王を舞う時に跳躍をしたり、片足で力んでポーズを取る時があるだろう。あの時やってるのと同じことだ」
「あれ、神通力だったんだ。脚力も鍛えてたし、筋力だと思ってた」
呆気に取られた様にそう呟く弥勒を見て、稲葉は笑った。
「有馬のいう通り、神通力の潜在能力やコントロール能力が人並み外れてるらしいな。だから無意識に、神通力を扱えている。陵王、感覚というのは緒方曰く、まだ研究があまり追いついていないものらしくてな、神通力とは異なり自然発生的に後天性の感応者になることもあるらしいぞ」
「もっと感覚感応者についても学んでいきたいなぁ」
「後で緒方に聞いてみな。詳しいことが知れるかもしれないぞ」
卓球台の方で再び「はぁうんっ!」という声が聞こえ、稲葉は無心で、財布を開いていた。
第八感(絶対認識)……暗闇であっても完全に空間を把握し、物体の距離や質感、重量などが触れずとも理解できる。
第九感(全能)……五感に加え第六感以上を全て使用することが出来る超人。仙人とも言われる。神通力を用いて開眼し、悟りを開いた状態とも関連があるとされる。
史上一人たりともその境地に達したことはないが、達した者は社会から逸脱するので、認知されていないだけで存在はしているとされている。
第九感(全能)……五感に加え第六感以上を全て使用することが出来る超人。仙人とも言われる。神通力を用いて開眼し、悟りを開いた状態とも関連があるとされる。
史上一人たりともその境地に達したことはないが、達した者は社会から逸脱するので、認知されていないだけで存在はしているとされている。