▼詳細検索を開く
作者: 唯響-Ion
第十八話 感覚感応者
 女子二人組が長風呂に浸かっているあいだ、弥勒ら男子組は、遅れて合流した伊東祐介を交えて卓球に興じる。その最中で弥勒は、伊東ら九州の生徒らが、感覚感応という特殊能力を操るということを知る。
 女子二人が温泉に入っているあいだに、男子は温泉から上がり、そして卓球に興じていた。
 そこには、温泉に入る直前に遅れて合流した、伊東祐介(いとうゆうすけ)の姿もあった。
 彼は稲葉潤と同じく十八歳の三年生で、流鏑馬(やぶさめ)部の主将であった。日向分校に於いては棒術の泰斗として知られる稲葉と、武術の双璧に数えられる強者(つわもの)であった。
「皇君、私と勝負をしよう。卓球で」
「ボールは友達じゃなくて……音が聞こえないと軌道が読めなくて苦手なんです」
「気にするな。それは私も……同じだ!」
 二人の試合は、ラリーが三回と続かない泥仕合となった。しかし、玉の軌道が読めずに反射神経だけで戦っている弥勒と、音は聞こえていても、飛矢と異なり真っ直ぐと素早く思い通りの動きを行えない運動音痴の伊東(いとう)は、卓球の実力が拮抗していた。
 得点が付かず離れずを繰り返すその戦いは、意外にも白熱していた。
 瓶に入ったミルクコーヒーを飲みながら、稲葉と巳代、緒方(おがた)の三人は、どちらが勝つのか話し合っていた。
「伊東(いとう)が勝つと思っていたが、案外惟神の陵王にも勝機がありそうだな。にしても、あいつは棒術だけじゃなく、ピンポン玉とも相性が悪かったのか」
「弥勒のポテンシャルは高いが、肘が曲がってねぇし、勝てはしないだろう。緒方さんはどう思います?」
「そうだなぁ。でも、伊東(いとう)君は第八感の感応者だ。そもそもピンポン玉の動きを理解することが困難な弥勒君より、ピンポン玉の動きや、どの様に打てば思い通りに動かせるかを完璧に理解している伊東(いとう)君の方が、勝機はある様に思うんだ。あと、敬語はもういいよ巳代君。君も同い年だし、そうじゃなくても、男同士のあいだにそんな謙遜は必要ないよ」
「そうか……。それにしても地方には感応者がいるとは聞いていたが……本当に居るんだな」
 巳代は、感覚感応者という言葉を知っていた。それは第六感から第九感までの特殊な感覚を使用できる、いわゆる超能力者のことであった。
「伊東(いとう)君が持つ第八感は、絶対認識。例え暗闇であっても、空間内の物質の距離や質量を完全に認識できる感覚だ。いくらラケットを打つのが苦手であっても、ピンポン玉の軌道が完全に把握できる伊東君に軍配が上がるだろうと、僕は思う」
「そうでもなさそうだが」
 巳代が伊東(いとう)へ返答すると、接戦だった試合に動きが出てきた。
 弥勒は瞬き一つせず、ピンポン玉から一瞬たりとも目を離さず上手にラケットを動かしていた。しかし伊東(いとう)は汗ばみ、弥勒に遊ばれる様に左右に移動しながらラケットを打っていた。伊東(いとう)は肘が曲がらなくなり、力ずくでラケットを振って、台の遥か遠くまでピンポン玉を飛ばしてしまった。
「はぁうんっ!」という情けない声を出しながら、伊東(いとう)は倒れ込んだ。そして手を床に突きながら深呼吸をし、顔を歪めていた。一方の弥勒は、余裕の表情をしていた。
流鏑馬……鎌倉時代に武士のあいだで流行った騎射三物(きしゃみつもの)の一つに数えられる武芸。疾走する馬に跨り、三つの的を射る。

第六感(超直感)……五感を超えた直感で、重さや大きさ、時間の流れなどが感覚的に寸分の狂いなく理解できる。虫の知らせの様に、未来を予知することも稀にある。

第七感(超集中)……いわゆるゾーン。瞬間的に脳が最上の集中状態に入り、身体が究極的リラックス状態に入ることで、完璧な一撃を行うことができる。

Twitter