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作者: 犬物語
世界に生まれた異物
犬と犬のお話
「ちわっす!」

 わたしは真っ白な世界の中心で叫んだ。

「ふふふ。キミはいつも元気だね」

 黒い犬はくんく笑う。

 その場に座り込む。
 わんちゃんもペタンとおすわり。

 なにもない空間に見えて、そこにはちゃんと地面がある。地面というか、わたしはそう・・だと認識したところが地面になるってこのわんこが言ってた。

(んーでもやっぱもの足んない……いざ! いまじねーしょんたいむ!)

 晴れやかな空。
 澄み渡る草原。
 風に香る花。
 わんことふたりっきりなら、いちばんいーシチュエーションはこうだね。

「お見事」

 あぐらをかいたかわいいおんなの子を前に、かわいいわんちゃんがたれ耳をぱたぱたさせた。

「ありがとう。キミたちのおかげで大事に成らず済んだよ」
「いーってことよ、わたしとわんちゃんの仲じゃん」
「ジーニアスだよ。以前自己紹介しなかったっけ?」
「だっけ?」

 あー、なんかした気がする。

「じゃあジッちゃんで」
「もっと何かない?」
「じぃ」
「ジーニアスでいいよ」
「えー」

 ながーい。

「キミたちには毎回苦労をかけちゃうね。とくにあの子にはお世話になったよ。えーっと、シャル、なんだったっけ」
「しゃる? そんな子いないよ?」

 わんこは少し首をひねり、それから思い出したかのように言いなおした。

「ごめんごめん。キミがティッくんって呼ぶあの子のことだよ」
「へー」

 ティッくん。
 シャル。
 どうすれば言い間違えるわけ?

「ティッくんに悪いことしたの?」
「ボクのせいじゃないんだけど……彼がお世話になってたご老人がちょっとね」

 そう言われ、わたしは今日の出来事を思い出した。

 ヒマ故に新しいオトモダチを遊びに誘い、拒否られたのでストーキングしつつ立ち寄ったあのお宿。

 聞いた話だと、ティッくんがお世話になった老夫婦はメイスの仲間に殺されてしまった。けど生きてて、だれも寄り付かないような場所で宿をやっている。

「ねー」

 サンダーさんから耳にしたウワサ話が間違いだったとしても、何がどーなって、あの老夫婦はお宿なんかはじめた?

 なぜ町のだれもがそれを知らなかった?
 なにより、なぜメイスはどちらの記憶も保持していた?
 いろいろおかしくね?

(ゼッタイ怪しいよね)

 この犬。
 明らかに今回の件に絡んでる。
 突然現れ突然消える。
 ジーニアスはまさにそんな存在。

(だから、今のうちに直撃ロングインタビューしちゃおう!)

「メイスってなんだったの?」
「話すと長くなるよ?」
「いいよ」

 だってここ夢の中だもん。

「彼は異物だったんだ」
「いぶつ」

 ことなるもの。
 いらないもの。
 この世界に不要の存在。

「この世界は……この世界で暮らす人々は、自らの意思で物事を決定できる。食べて寝て、のんびり過ごしたり遊んだり、時には争ったり。その行いは神ですら制御できない。そう、神が望んだから」
「そうなんだ」

 かみさまっているのかなぁ。

「神はこの世界に異世界人。つまりキミたちを招待した」

 言って、黒犬はおおきな肉球をこっちに差し出す。唐突に名指しされ、わたしは目を丸くした。

「わたしたちを?」
「神はこの世界を見せたかったんだよ。そして、キミたちと仲良くなりたかったんだ」

 ジーニアスはどこか遠くを見つめた。

 ちゃんとした場所じゃなくて、目標や到達点に思いを馳せてる感じ。そこを目指していきたいって気持ちが、彼の輝く双眸から伝わってくる。

「でもね、異世界人中には、そんな神の願いを拒否する子もいるんだ……ボクのせいなんだろうな」
「え、なに?」
「なんでも」

 後半部分が聞き取れなかった。
 彼は首を振った。

「神が招待したこの世界が気に入らなくて、その異世界人は世界をメチャクチャにしようとした。その手段として、彼は自分自身の手で世界を作ることにしたんだ」
「せかいを、つくる」

 それってどういうこと?
 ビッグでバーンってこと?
 自分でも何言ってるのかわかんない。

「メイス。彼の家におかしなところはなかったかい?」
「あったよ。道が中途半端に切られてたとか、となりのお家もおかしかったし」
「世界を作るなんて簡単なことじゃない。それこそ神でなければムリだ……けど、彼は神が用いる術を盗み、その業をもってメイスという存在を創造した」

 犬のしっぽがブンブン揺れる。けどそれは嬉しさや楽しさじゃなく、なにか別の想いがこもった打ち付けるような動き。

「そして、彼はテトヴォを破滅させるため動き出したんだ」
「ふーん」

 そうなんだー。
 彼の話をもぐもぐしつつ、わたしは別の考えをぐるぐる回していた。
 結局この子ジーニアスってなんなの?
 ちょっと考えて、頭の中でピコンって音がした。

「そっか!」
「なんだい?」
「ジーニアスは番犬なんだね!」
「えっ」

 わんこの表情が固まった。

「番犬でしょ! ねえそうなんでしょ?」
「番犬って、ま、まあ実験中に不審者を見つけて思わず吠えたことならあるけど」
「やっぱり! ジーニアスはこの世界の番犬なんだ!」
「ああ、そういう理解ね」

 わんちゃんが人とも犬ともなんとも言えない顔になった。

「んー、まあそう言えないこともないけど、うーんちょっと違うような」
「ジーニアスすごい! ほかのみんなの夢にも出るんでしょ?」
「滅多にはおジャマしないよ。負担をかけちゃうからね」
「そんな遠慮しないでぇ~グレースちゃんなら負担にならないよ? いつでも遊びに来てね!」
「っふふ、そう言ってもらえると嬉しいよ。でもやっぱ長居できないかな」

 また、彼の姿が薄くなっていく。
 こうなると止めようがない。
 わたしはお見送りモードにチェンジした。

「キミと離してると楽しくてね、ついついお仕事を忘れちゃうんだ」
「番犬のおしごと? がんばってね!」
「うん、そうだね。ボクはこの世界を見守る番犬なのかもしれない」

 最後に、かわいいまっくろくろすけのわんこは、一面に広がる草原へよつ足で駆けていく。

「たまには、犬っぽく遊んでみようかなぁ」

 なんてことばを残し、彼は草葉の先へと消えていった。
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