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作者: 犬物語
再会と感謝と勘違い
なぜ、こんな客が寄り付かなさそーな場所に宿を建てたのか?
「ここは更地だったはずだが」
「えっ?」

 だって、あるじゃん。
 なかったら、グレースちゃんたち野宿だったよ?

(ははーん、なるほどぉ)
「ティッくんもボケることがあるんだねぇ」
「ちげぇ」
「いたっ」

 頭ごっつんこ。えー、ぼーりょくふるうおとこの人きらーい。

「て、ティッくん?」

 そのままつま先を例のお宿へ。外観は幽霊屋敷のようにボロボロで、人が寄り付かないような裏通りを、さらに二度三度曲がった先にある。

「……」

 ティッくんが乱暴に手をかけ、扉がギシギシと壊れそうな音をたて揺れる。ブッちゃんがお手入れしたとはいえ、古い木材の床は、誰が踏みつけても軋む音をたてる。

 ガッシリした体躯の青年はひとしきりあたりを見渡し、受付の奥のイスに力なく腰を下ろした老人に目を留めた。

「まさか」

 ティッくんの目が最大まで開かれた。
 全身がこわばり、その後早足になった。

「じーさん……じーさん!」
「ちょ、ティッくんおしずかにだよ!」

 カウンター越しに声を荒げる。でもその人には届かない。
 以前からそうだった。

 初めてここに来た時も、ブッちゃんと交渉した時も、このおじいさんは力なく俯いたままで、たまにこくりと返事したり、か細いことばでやりとりしたり。わたしは、このおじいさんと正面向き合って話をしたことがなかった。

 今も、おじいさんは力なくイスに座っている。宿泊客が来てもお構い無く、どこか無気力さを漂わせたおじいさんは――ティッくんの声にわずかに反応し、おもたい首を動かした。

「――ぁ」

 目と目が合う。その瞬間、おじいさんの瞳に光がもどった気がした。

「てぃと」
「じーさん! やっぱじーさんじゃねぇか!!」

 ティッくんはカウンターを飛び越えおじいさんの両肩を掴んだ。

(これってもしかして感動の再会?)

 それはいいんだけどティッくんちょっと落ち着いて。そんなパワー自慢で揺すったら、おじいさんの首がガクガクしちゃうよ。

「無事だったんだな! なんだよ、どーしてこんなところに」
「ぉぉお、おお、ティト」

 しわがれた声に張りが生まれ、くたびれた姿勢がどんどん矯正されていく。まるでじゅっさい、ううん二十歳は若返ったように、おじいさんの身体が変化してくように見えた。

「無事だったんじゃな」
「よかった。本当に心配してたんだぜ……は、そうだ、ばーさんは?」
「ばーさんならこっちじゃ」

 ことばを最後まで聞かず、ティッくんは彼が指さした方向へ駆けていった。通路の奥に消え、またティッくんの驚くような声が届き、やがてそれが歓喜の声色に変化していく。

「よかったねティッくん」

 なんだかよくわかんないけど、とりあえずいい事があったんだね。

「おお、あなたは以前のお客さんか。わすれものかね?」
「ううん、ちがうの」

 ここへは流れというかついでというか、むしろ用があるのはあちらのお客さまです。

「わっ」

 ズドドドド! そんな音と共に引き締まった体躯のナイスガイが戻ってきた。いやティッくん建物古いんだからやめてあげて。

「知ってたのか?!」
「ふぇ?」
「ばーさんから聞いたぜ、おまえこの宿に泊まったらしいな。ってことはじーさんばーさんが生きてるの知ってたのか? 知ってて俺をここに――」
(え? え?)

 なになにいきなりナニ事ですの?

 生きてるのどうこうってよくわかんないけど、つまり、わたしたちがこのお宿を使ったことがあるか聞きたいんだよね?

「うん、まあ」
「ッ!」

 そう答え、ティッくんっは感極まったような表情になり、っつーか実際涙滲ませており、なんで?

「すまねえ!!」
「はひゃ?」

 頭下げられたんですが?

「ここまで案内してくれたんだな!」
「えっ」

 なにが?

「すまねえ! テメーのこと単なる性悪コソドロ女だと思ってたが俺が間違ってた!」
「しょーわる」
「しつこくついて来やがってと思ったら、じーさんばーさんのとこまで案内してくれたんだな! マジで悪かった!」
「んにゃ、そーゆーワケじゃないんだけど」

 だめだ聞いてない。

「そうだ、身体は大丈夫なのか? クソ役人どもにケガさせられてねーか?」

 こんどは迷子の子どもみたいなシュン顔。
 宿のじっちゃんばっちゃん間をすばやくローテ。
 忙しいな。

(んー、でもまー)

 ティッくんも、おじいちゃんおばあちゃんもみんな笑顔。
 みんなハッピーならばんばんざいだ。
 輪の中に入る?
 んーにゃ、どうやらわたしはおジャマのようですね。

「よし、グレースちゃんはクールに去るぜ」

 アサシンですもの。気配を消しこの場から離れるなんてお手の物ですよ。

(よかったね、ティッくん)

 来た道もどり、わたしは一度だけ振り向く。まだまだ笑顔満開の三人にこちらまでスマイルが伝染しつつ、そーいえば買い物まだだったなーと思い出し、グレースちゃんは昼下がりの市場へと繰り出したのでした。
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