死は状態変化のひとつ
ただし壊れたキャラは消去する
「あんずちゃん!」
変身を解除し、ちょっぴり疲れる身体をひっぱりつつアプローチ。王女騎士は、自身がまたがる白馬のたてがみをやさしく撫であげ、目を閉じ、そよ風の香りに身を任せる。
剣に宿っていた赤い光が消え、少女の身体が光と共に変化し、甲冑姿を取り戻した女騎士は、スッと胸を撫で下ろした。
「この気持ち……これが、変身なのですね」
「どうだった?」
「とても心地の良いものでした。何がとはうまく言えないのですが」
「だよね」
彼女の気持ちに触れた気がして、わたしはにんまりと笑った。
巨大化したマモノの身体が両断され、それと同時に小さなウサギから大きなゴリラのようなマモノまで、マモノたちの姿も一斉に消滅していた。ただひとりを除いて。
「メイス」
テトヴォ主張の声。彼はブッちゃんに守られた後、メイスの後を追うため私兵と共にここにいた。マモノとの戦いで負傷者を出したものの、彼はひとりの犠牲も出さずこの場を切り抜けていた。
そんな彼が、町に巣食う悪を見下ろしている。ひとり、またひとりと集結し、わたしたちに囲まれるなか、メイスはボロボロの服で穏やかな笑みを浮かべていた。
「こっけいだ……何もかもが滑稽だ……なあウォルターよ。わかるか?」
「何がだ」
「この世界、すべてが……」
彼は仰向けのまま、腕だけを天に伸ばす。
「我らは所詮、創造主のおもちゃでしかなかったのだ」
「何のことだ?」
「貴様もそうだということだ……そうだろう? 異世界人たちよ」
メイスが乳白色と化した瞳をこちらに向けている。恐らく、何も見えてないんだろう。それでも、彼は何か根拠があって、もっとも間近にいる異世界人がいる方を見抜いた。
「文句はあのクソ犬に言いなさい」
「いぬ――ッ! あ、はは、は」
見えていたかはわからない。
けど、視線は絡み合った。
ドロちんが言い、彼は何かに気づき、そして諦めたように笑った。
「なるほど。だからアヴェスタの連中は、異世界人を旅人と言うのか……神は我らを救わない。ただ、旅人をもてなすための置き物でしかないんだぁ」
(ッ!?)
その時、メイスの身体に異変が起きた。
全身が、身につけている服すら脱色していく。
指先から透明になり、質感すら変化していく。
固形から液体へ。彼の変貌は誰から見ても異様だった。
「これは」
青服の僧侶。反射的に治療法を探るも手の打ちようがなかった。歯噛みするブッちゃんに対し、ドロちんはドライな態度を崩さず、背後から近づく気配に真っ先に気付いた。
「あら、思ったより回復が早かったわね」
振り向き何事か言う。それに手を振って返事をしつつ、ガタイの良い若人が乱暴に草を踏みしめつつメイスの傍らまで近づく。
「おい」
「フッ、誰かと思えば」
その姿を認め、メイスは恨めしい視線で彼を貫いた。
全てお前のせいだとでも言うように。
「キサマさえこの町にいなければ、私は今でもただの操り人形でいられたものを」
彼は――ティッくんは、感情の知れぬ顔で因縁の相手を見下ろす。
「記憶がふたつあるのだ。キサマの言う人間が死んだ記憶と、ただ追い出しただけの記憶」
「どっちが本物だ」
男は笑った。
その勢いで血を吐き出した。
「ゴフッ! フ、ふふ、ニセモノだよ。どっちも。すべて神の望む記憶にすげ替えられる。生死、記憶、すべて意味などない」
「言え。あのふたりは生きてるのか?」
「片方は死んでる。しかし、後になって生まれたもう一方の記憶では、死んだ姿を見てないな……あぁ、空が、あおい……な」
そして、メイスは水になった。
僧侶は愕然として巨大な手のひらで己の顔を掴む。
ドロちんもやや神妙に、わたしやあんずちゃんは、もはや何をすればいいかさっぱりわからなかった。
ただひとり、テトヴォの義賊だけが「生きてる」とつぶやきこの場を離れていく。何とも言えない雰囲気のなか口火を切ったのは、テトヴォ首長のこんな言葉だった。
「依頼遂行、ご苦労だった。謝礼の話は町に戻ってからするとしよう」
マモノは死んだら消滅する。だから、草原では負傷者の救助だけ行えばよかった。
問題は町中だ。テトヴォ広場で起こった爆発騒ぎにより、一般人にも被害が及んでいる。すでに救助活動にあたっていたサンダーさんと合流しつつ、ブッちゃんたちが治療を担当し、わたしたちで瓦礫の撤去などを担当した。
「こんなのウチらの仕事じゃないのに。報酬に含まれてんでしょーね!」
「ねードロちん、ゴミをぜんぶ捨ててくれる魔法とかないの?」
「あるわけないでしょ」
「ちぇ」
ウォルターさんは、偉い人と話があるらしく早々に広場を離れていた。帰ってきたのは、広場の処理を終えた夜頃になってからで、交渉の末引き続き宿の手配だけでなく、その間の滞在費まで賄ってもらうことになった。
ウォルターさんがメイスの悪行を暴き出し、その打倒にひと役担ったわたしたちは各方面から称賛の嵐だったそう。メイスの私邸はテトヴォに抑えられ、そこで暮らす人たちはメイスの協力者として処罰されるんだって。ってことは、あの子どもも罰せられちゃうのかな?
メイスに付き従っていた武器商人、アルもまた処罰されることになったんだけど、ブッちゃんの証言やウォルターさんの計らいで、監視下ながらふたたび武器屋を営業することになったそう。あんずちゃんお墨付きのクオリティーで、わたしも投げナイフを見繕ってたら思いのほか良い品ばかりで――ちょっぴり買いすぎちゃいました。
結局メイスとは何者だったんだろう?
彼を操っていた黒幕はだれ?
わからないことばかりだけど、みんな元に戻ったのならそれでいいのかな。
「ねーどう思う?」
「うっせーな! 俺が知るか」
んもう、ドロちん以上にツンツンなんだから。
「なんでついて来んだよ!」
「えーいいじゃん」
ティッくんの前後を行ったり来たり。
あそぼーぜの意思をことごとく無視され、
そっけない態度をされても、
「わたしめげない」
「消えろ」
対応温度絶対零度。
「だってオトモダチじゃーんいーことしよーぜ?」
「ダチと言った覚えはねぇ」
「なんでこんな路地裏ばかり歩くの?」
「テメーに言う必要はねぇ」
「義賊だったんでしょ? 隠密スキル鍛えてるかんじ?」
「企業秘密だ」
「そーれぇ!」
乗っかってみる。
振りほどかれた。
「つれないなーって、ん?」
あ、ここ見覚えある。
えーっとなんだっけ。
「思い出した。ここあの宿の近くだ」
「やど?」
ティッくんが首をひねった。
「この近くに宿なんかなかったはずだが」
「そんなことないよ。だってこの角を曲がって――ほらここ」
わたしはソコを指さした。
ティッくんが近づき建物を確認する。
「なんだ?」
訝しげに、テトヴォに詳しい義賊さんが不審な顔を演出した。
変身を解除し、ちょっぴり疲れる身体をひっぱりつつアプローチ。王女騎士は、自身がまたがる白馬のたてがみをやさしく撫であげ、目を閉じ、そよ風の香りに身を任せる。
剣に宿っていた赤い光が消え、少女の身体が光と共に変化し、甲冑姿を取り戻した女騎士は、スッと胸を撫で下ろした。
「この気持ち……これが、変身なのですね」
「どうだった?」
「とても心地の良いものでした。何がとはうまく言えないのですが」
「だよね」
彼女の気持ちに触れた気がして、わたしはにんまりと笑った。
巨大化したマモノの身体が両断され、それと同時に小さなウサギから大きなゴリラのようなマモノまで、マモノたちの姿も一斉に消滅していた。ただひとりを除いて。
「メイス」
テトヴォ主張の声。彼はブッちゃんに守られた後、メイスの後を追うため私兵と共にここにいた。マモノとの戦いで負傷者を出したものの、彼はひとりの犠牲も出さずこの場を切り抜けていた。
そんな彼が、町に巣食う悪を見下ろしている。ひとり、またひとりと集結し、わたしたちに囲まれるなか、メイスはボロボロの服で穏やかな笑みを浮かべていた。
「こっけいだ……何もかもが滑稽だ……なあウォルターよ。わかるか?」
「何がだ」
「この世界、すべてが……」
彼は仰向けのまま、腕だけを天に伸ばす。
「我らは所詮、創造主のおもちゃでしかなかったのだ」
「何のことだ?」
「貴様もそうだということだ……そうだろう? 異世界人たちよ」
メイスが乳白色と化した瞳をこちらに向けている。恐らく、何も見えてないんだろう。それでも、彼は何か根拠があって、もっとも間近にいる異世界人がいる方を見抜いた。
「文句はあのクソ犬に言いなさい」
「いぬ――ッ! あ、はは、は」
見えていたかはわからない。
けど、視線は絡み合った。
ドロちんが言い、彼は何かに気づき、そして諦めたように笑った。
「なるほど。だからアヴェスタの連中は、異世界人を旅人と言うのか……神は我らを救わない。ただ、旅人をもてなすための置き物でしかないんだぁ」
(ッ!?)
その時、メイスの身体に異変が起きた。
全身が、身につけている服すら脱色していく。
指先から透明になり、質感すら変化していく。
固形から液体へ。彼の変貌は誰から見ても異様だった。
「これは」
青服の僧侶。反射的に治療法を探るも手の打ちようがなかった。歯噛みするブッちゃんに対し、ドロちんはドライな態度を崩さず、背後から近づく気配に真っ先に気付いた。
「あら、思ったより回復が早かったわね」
振り向き何事か言う。それに手を振って返事をしつつ、ガタイの良い若人が乱暴に草を踏みしめつつメイスの傍らまで近づく。
「おい」
「フッ、誰かと思えば」
その姿を認め、メイスは恨めしい視線で彼を貫いた。
全てお前のせいだとでも言うように。
「キサマさえこの町にいなければ、私は今でもただの操り人形でいられたものを」
彼は――ティッくんは、感情の知れぬ顔で因縁の相手を見下ろす。
「記憶がふたつあるのだ。キサマの言う人間が死んだ記憶と、ただ追い出しただけの記憶」
「どっちが本物だ」
男は笑った。
その勢いで血を吐き出した。
「ゴフッ! フ、ふふ、ニセモノだよ。どっちも。すべて神の望む記憶にすげ替えられる。生死、記憶、すべて意味などない」
「言え。あのふたりは生きてるのか?」
「片方は死んでる。しかし、後になって生まれたもう一方の記憶では、死んだ姿を見てないな……あぁ、空が、あおい……な」
そして、メイスは水になった。
僧侶は愕然として巨大な手のひらで己の顔を掴む。
ドロちんもやや神妙に、わたしやあんずちゃんは、もはや何をすればいいかさっぱりわからなかった。
ただひとり、テトヴォの義賊だけが「生きてる」とつぶやきこの場を離れていく。何とも言えない雰囲気のなか口火を切ったのは、テトヴォ首長のこんな言葉だった。
「依頼遂行、ご苦労だった。謝礼の話は町に戻ってからするとしよう」
マモノは死んだら消滅する。だから、草原では負傷者の救助だけ行えばよかった。
問題は町中だ。テトヴォ広場で起こった爆発騒ぎにより、一般人にも被害が及んでいる。すでに救助活動にあたっていたサンダーさんと合流しつつ、ブッちゃんたちが治療を担当し、わたしたちで瓦礫の撤去などを担当した。
「こんなのウチらの仕事じゃないのに。報酬に含まれてんでしょーね!」
「ねードロちん、ゴミをぜんぶ捨ててくれる魔法とかないの?」
「あるわけないでしょ」
「ちぇ」
ウォルターさんは、偉い人と話があるらしく早々に広場を離れていた。帰ってきたのは、広場の処理を終えた夜頃になってからで、交渉の末引き続き宿の手配だけでなく、その間の滞在費まで賄ってもらうことになった。
ウォルターさんがメイスの悪行を暴き出し、その打倒にひと役担ったわたしたちは各方面から称賛の嵐だったそう。メイスの私邸はテトヴォに抑えられ、そこで暮らす人たちはメイスの協力者として処罰されるんだって。ってことは、あの子どもも罰せられちゃうのかな?
メイスに付き従っていた武器商人、アルもまた処罰されることになったんだけど、ブッちゃんの証言やウォルターさんの計らいで、監視下ながらふたたび武器屋を営業することになったそう。あんずちゃんお墨付きのクオリティーで、わたしも投げナイフを見繕ってたら思いのほか良い品ばかりで――ちょっぴり買いすぎちゃいました。
結局メイスとは何者だったんだろう?
彼を操っていた黒幕はだれ?
わからないことばかりだけど、みんな元に戻ったのならそれでいいのかな。
「ねーどう思う?」
「うっせーな! 俺が知るか」
んもう、ドロちん以上にツンツンなんだから。
「なんでついて来んだよ!」
「えーいいじゃん」
ティッくんの前後を行ったり来たり。
あそぼーぜの意思をことごとく無視され、
そっけない態度をされても、
「わたしめげない」
「消えろ」
対応温度絶対零度。
「だってオトモダチじゃーんいーことしよーぜ?」
「ダチと言った覚えはねぇ」
「なんでこんな路地裏ばかり歩くの?」
「テメーに言う必要はねぇ」
「義賊だったんでしょ? 隠密スキル鍛えてるかんじ?」
「企業秘密だ」
「そーれぇ!」
乗っかってみる。
振りほどかれた。
「つれないなーって、ん?」
あ、ここ見覚えある。
えーっとなんだっけ。
「思い出した。ここあの宿の近くだ」
「やど?」
ティッくんが首をひねった。
「この近くに宿なんかなかったはずだが」
「そんなことないよ。だってこの角を曲がって――ほらここ」
わたしはソコを指さした。
ティッくんが近づき建物を確認する。
「なんだ?」
訝しげに、テトヴォに詳しい義賊さんが不審な顔を演出した。