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作者: 犬物語
馬術適正:SS
だれにでも得意分野があるんです
「へ、へんしんって?」
「変身できるよ! ほらこんな感じに!」

 グレースちゃん、自分をアピール。
 もふもふになったお肌。
 ぷにぷにになったにくきう。
 実は髪の毛もほんのり伸びてます。

「わん!」
「わんって」
「ほらほらもったいぶらずに」

 覚醒状態あんど俊足すごくはやいにてマッハで親友の背中へ。ちょっとスレイプニールさん背中借りますね。

「よいしょ」
「ちょ、グーレスいきなりなんですの!?」
「ほらほらぁ、このヘンがあったかくなってくるでしょ?」

 腰回りをさわさわ。
 そのままお腹へとまわし、こんどは上方へ指先をなぞっていく。

「そ、それは、あぅ」

 頬が上気してる。甲冑越しなのに感度良好。しかもあんずちゃん周りにゃ例の光が膨らんでまいりました。あとは女騎士の気持ちと覚悟とドビュッシー。

「ほらほら、自分にフタしないでパーっとはっちゃけちゃいなヨゥ☆」
「で、ですがこれはどうすれば」
「変身スキル、もう知ってるでしょ? 思いのままに叫べばいーのさ」

 考えるな。
 感じろ。
 今のあんずちゃんならそれができる。

「準備はいい?」
「わかりましたから、ちょっと、そんなトコ触らないでくださいな!」
「ちぇ」

 甲冑の隙間からズボッと手を抜く。暖かくて気持ちよかったのに。

 しかたなしに、わたしは弄っていた両手を離す。マイベストフレンドはちょっとだけ恥ずかしさを演出しつつ、高らかに剣を掲げる。邪魔したくないので、グレースちゃんはさっさと退散しました。

「わたくしに力を――スキル、変身トランスファー!」

 まばゆい光が草原に瞬く。駆けつけた兵士たちはもちろん、群れをなすマモノさえ光の出どころに視線をよこす。驚き、あるいは警戒。いずれにしても、マモノたちの末路は決まっている。

「わぁ……」

 光の中心には、まさしく騎士がいた。
 姫騎士、いや、なんだったら王騎士レベル。

 もともとボリューミーだった髪がさらに膨れ上がり、その一部をツーサイドアップあんど縦ロールにまとめ上げた。彼女の淡い茶色の毛並みは、光の反射具合によっては黄金こがねにも純白にも見える。

 純白といえば彼女の肌だ。変身トランスファーの影響か、今の彼女は重い甲冑を脱ぎ捨てていた。今はうっすらと白銀のもふもふが彼女の全身を包み込み、太陽のもとまばゆい光を放っている。

 手は若干ケモノじみており、肉球があるもののそれがかえって剣をガッツリホールドしてる。そんなあんずちゃんは、今掲げた剣をもつ自分の手にツリ目を丸くして、パチパチとして、眼前へと近づけた。

「これが……わたくし?」

 手入れの行き届いた剣に己自身の姿が浮かぶ。わたしと同じように、ちょっとだけツンと伸びた鼻先。おヒゲもあって、ツンツンとした凛々しい表情から漏れる声のギャップがたまらない。

「あんずちゃん!」
「わっ!」

 わたしは思わず飛び乗った。

「ねえねえもふもふさせて! ちょっとだけでいーからもふもふさせろ!」
「ちょ、やめ、グレースやめてくださいな!」
(やべーやわらけー)

 せなかすりすり、おなかもふもふ。装備を外してるのでダイレクトお触りでござる。うーん毛並みがキモティー!

「ッ! いい加減になさい!」

 おなかにまわした手をさらに上下させようとして、とうとうあんずちゃんがキレた。ひょいとジャンプでごめんあそばせ。

「えへへ、ごめーん」
「まったく、初めての経験なのですから……もうちょっとだけ浸らせてくださいな」

 言って、王女騎士は自らの姿を確認した。肉球で己のマズルをペタペタ触る。ヒゲを弾き、ぺたんと飛び出した耳を撫で、それから彼女は草原の彼方へと視線を飛ばした。

「すごいですわ――すべてが美しく輝いて見えます」
「それが変身トランスファーだよ」

 わたしは自分の姿を誇示した。

「今のあんずちゃんなら、スレイプニールといっしょに大空を駆けることだってできるよ!」
「わたくしにこのような力が……」

 人とケモノ。それらが両棲りょうせいした自らの手をぐーぱー。そこに、気を取り直したマモノたちが押し寄せてくる。

 あぶない? いんやぜんぜん。

「フッ、動きが止まって見えますわよ?」

 あんずちゃんの華麗な剣捌きによりお料理。
 一瞬にしてマモノの活造りが完成。
 なおすぐ消滅する模様。

「ほう」

 まっくろ僧侶が感心あんど感嘆。いつも補助スキルをかけてくれてた仲であり、そんなあんずちゃんの大変身ぶりに顔がほころびまくる。

「かっけースレイプニールに乗ってるあんずちゃんマジかっけーってうぉお!!」

 背中に気配、すかさず防御、我が鋭いネイルが巨大マモノの拳を受け止めました。

(忘れてた!)

 いまボス戦だった!

 ナゾの存在が残していった負の遺産。思わせぶりな登場だっただけに、ナゾの野郎特製キメラマモノも中途半端に強いでやんの。ブッちゃんやドロちんの援護射撃がありつつ、このままじゃ防戦一方だ。

「あうぅぅ、ちょっと疲れてきた……ねえあんずちゃんコレお願いしていーい?」
「フッ、たやすいこと。わたくしに任せてくださいな!」

 おーおーあのルームメイト完全にチョーシ乗ってるよ。
 かっこつけて目ぇ閉じながら戦ってるし。
 ってゆーか何でそれで戦えてるの?

(つえー、水を得た魚とはまさにこのことか。いやウマを得た女騎士?)

 あんずちゃんに近づくことすらできず消えていくマモノたちに若干の同情を覚えつつ、じゃああの新米王女騎士にとっておきの食材をプレゼントしましょうか。

「ぱーす!」
「ッ!」

 巨大化したメイスの背後にまわり背中を蹴り込んだ。よろよろと身体を傾けた先には、美しい白馬にまたがる騎士が控えていた。

 メイスの狙いがあんずちゃんに変わった。凛々しい王女騎士は、漆黒の悪魔を整然と見つめている。

「身体が熱い。今なら、一撃で倒せますわ」
(マジで?)

 言っとくけどマジで強いよ?
 こっちの攻撃ふつうに受け止めたし。
 ナイフ折れちゃったし。
 なんだったら爪も欠けましたが?

「スキル、鋭利しゃープ
(なにそれ?)

 今まで聞いたことのない名前。あんずちゃんがその言葉を口にした瞬間、彼女の持つ剣がにわかに赤い輝きを放つ。

 が、マモノにとってはお構い無しだ。
 雄叫びを上げ突進する。

 悪魔に金棒。他のマモノを巻き添えに、一直線に突き進むマモノをあんずはたた見つめる。

 自身の間合いへ誘うため。
 必殺の一撃を放つため。
 そして彼女は、その方向に切っ先を向けた。

「一瞬でカタをつけますわ――スキル、一閃いっせん

 刹那。

「えっ」

 あんずちゃんとスレイプニールが消えた。
 周囲に風が巻き起こった。
 メイスだったモノが真っ二つになった。
 その先で、あんずちゃんは白馬のたてがみを撫でていた。

「………………………うわーお」

 想像以上だわ。
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