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作者: 犬物語
偽りの記憶
データや設定の上書きは慎重に
 メイド服のおんなの子。
 おんなの子のメイド服。

「は?」

 みんなを代表したドロちんの吐息。うーん、こちらのおんなの子も幼児体型ではありますが、出てきた子のメイド服を着用するにはギリギリキツそう。

「ここはキケンだ、下がれ!」
(お?)

 ここに来てメイスが善人ぶったセリフ。衛兵を張り倒して取り囲んだこの状況からそんなこと言われた日にゃあ、まるでこっちが悪役に見えてしまうではないか。

「えっ……ごしゅじんさま、こちらの方はおきゃくさまですか?」
「いいから下がってろ!」
「きゃっ!」

 バタン。
 メイスがおんなの子を中へ押し込み扉を閉める。
 妙な雰囲気がこの場を支配した。

 それもそのはず。今まで悪役まっしぐらだった悪徳政治家が、その時だけ純粋な瞳に早変わりですもの。まるでパパみたいな。

(まかさ娘さん? いやーまさか)

 だってかわいかったし。
 こいつの子どもとはとてもとても。

「メイスよ……テトヴォを牛耳るだけでなく、よもや児童労働にまで手を出すとは」

 気を取り直したテトヴォ首長。自身の犠牲を最低限にしつつ、わたしたちをダシにするレベルの策謀家でもこの展開は驚いた。

「罪状に追記せねばなるまいな……おい」
「はっ!」

 傍に控えていた兵士が巻物を手渡し、ウォルターはその巻物を広げた。

「議会の了承なく処刑断行など許されん。さらに目下要注意組織のブルームーンに対する斡旋、売春宿の違法運営、度重なる重税」
(すっご)

 読み上げられる罪状の数々。いやーこれは悪徳政治家ですわ。

 と感心するのも束の間。四面楚歌の罪人は紫の髪を振り乱して叫んだ。

「ま、待て! それは本当に知らん! 私がいったい何をしたというのだ!」
(またまたトボけちゃってぇ、って、んん?)

 わたしの嘘発見器が反応しない。
 いやそんなスキルないけど。
 なんていうの、そのー、野生のカンみたいな?

「観念なさい! あなたの罪はすべて暴かれましてよ! 増して年端もゆかぬ子どもをムリヤリ働かせるなんて」
「い、言いがかりだ!」

 ジャキン! と大剣の切っ先を向ける女騎士に彼は叫んだ。

「あの娘は、我が私邸に元からいる住人なのだから不思議ではあるまい!」
「元から?」

 ブッちゃんが首をひねる。だが今はあんずちゃんのターンだ。

「おかしいに決まってますわ! 子どもを働かせて恥ずかしくないのですか!」
「そんなことは……」

 で、メイスは黙って、考えて。

「そういえば、なぜあの子はここで働いているのだ?」
「は?」

 こんどはドロちん。しかし正義感たっぷりの我が親友はノンストップ。

「白々しい! 悪もここまで堕ちれば救いようがありませんことよ!」
「おいテメェ!」
「ひぃ!」

 こんどはティッくんがヒートアップ。彼は物理的に接近し、両サイドの襟を引っ掴んでメイスの身体を宙に持ち上げる。

「ぐああ!」
「正直に話せ! なぜじーさんとばーさんを殺した!」
「何のことだ?」
「とぼけんじゃねえ! テメーがムリヤリ土地を奪ったんじゃねーか! 旧地区のことを忘れたとは言わせねーぞ!」
「ッ!? ――クッ、ククク、そうか、あのジジババどもと住んでいた異世界人は貴様だったのだな」

 息を詰められつつ、彼は評判通りの悪どい顔に変わった。

「答えろ! 金を出して引っ越してもらうこともできたはずだ!」
「下民どもにくれてやる金などないわ」

 歯を食いしばる異世界人を無視し、男は続けた。

「出ていくならそれで良し。そうでないなら力で潰せばいいだけのこと。ふっ、見せてやりたかったぞ? 胸を貫かれ倒れるジジイと、それを見て泣き叫ぶクソババアの姿を」
「ッ! ――キサマァ」

 彼は右手を離し、左手一本でメイスの身体を持ち上げた。

 右手が光る。それはスキル発動の前兆。そこにあるのは明確な殺意だった。

「待て!」

 背後から声。その主はウォルターさんだ。

「そこの異世界人。名は確か、ティトと言ったな」
「なんだ!」
「その老夫婦とやら、もしかしたら生きてるかもしれん」
「は!?」
「なにッ!?」

 ティッくんとメイスが同時に驚愕する。

「バカな、あり得ん! 私は確かに死ぬところを見て――いや、生きてた? 待て、待てどういうことだ!」
「ッ!」

 メイスが暴れたため、ティッくんの腕は否応なしに振りほどかれる。再度取り押さえようとするも、奇妙な態度をとりつづけるメイスに対し、怒りに身を任せた異世界人の頭が徐々に冷えていく。

「死んで、いや生きてる。なぜだ、なぜふたつの記憶がある? 私はこの町を支配するため、待て、いったい何のために? あの娘はだれなんだ?」
「なんだこいつ」
「ッ!」

 ティッくんに締め上げられシワくちゃになった服。取り乱しボサボサになった紫の髪の毛。額に大粒の汗をかきながら、彼は道端を見た。

 不自然に切り取られた道路。

 隣の家屋の二階の壁には扉があり、まるでその空間だけ切り取られ、新たにメイスの私邸が建てられたような構図。

 彼は頭を抱え、吐きそうな表情をつくった。

「なんだ……三年前わたしは何をしていた? どこで生まれどうやって過ごした? なぜだ、なぜ私は、テトヴォ以外に何も知らんのだ!」
(ッ!?)

 何かがくる!

「みんな伏せて!」

 ある気配にわたしは叫び、

「グレース!?」

 親友の女騎士が驚きと共にこちらを見て、

「ッ!」

 魔法少女は反射的に防御魔法を展開し、

「ぬおお!」

 慈愛深き僧侶は、首長の頭を抑え地に伏した。
 刹那。

「私は何者だああああああ!!!」

 メイスの身体に閃光が走る。

 それは建物を貫き、空を貫き、目の前にいた異世界人を包みこんだ。

「ティッくん!」

 一面の光。眩しさに目を開けられず、わたしはただその人がいた方向へ叫ぶ。やがて視界が開けると、そこには倒れたまま動かなくなったティッくんの姿がある。メイスがいたはずの場所にはだれもおらず、その地面は不自然な形にくり抜かれていた。

「ティッくんだいじょうぶ!」
「な……なにが、あった?」

 爆風? をモロに受けたのか、ティッくんの迷彩ズボンはボロボロに敗れており、上着はほぼ機能せず上半身があらわとなっている。

「わかんない。ブッちゃん! はやく治療スキルを!」
「ま、て」

 彼は震える手でわたしの腕を掴む。そのまま懇願するようにキッと目を開けた。

「俺のことはいい。メイスを追いかけろ」
「でも」
「ナメるな。この程度のキズなんざしょっちゅうよ。それより早く!」

 彼はそう望む。けどボロボロの身体をほっとけない。
 どうすればいい? その迷いを断ち切ったのはロリっ子魔法少女のひと声だった。

「グレース、行くわよ」
「ドロちん」
「これ持っといて」

 言って、少女は小瓶を異世界人の腹に投げた。

「ぁあ?」
「回復役。そのヘンの薬より効くわよ」
「――へっ、ありがとよ」

 その後、ティッくんは「さっさと行けよ」とでも言うかのように手を振って、こちらから顔を背けた。

「なんですの今の光は?」
「わからん。だが今はメイスを追う他ないだろう」
「そうだね」

 パーティーの意見が一致した。

「ヤツを見かけた人いる?」
「かすかだが、閃光の中あちらへ走る影を見た。おそらく外に向かっているのだろう」
「よし、追いかけよう!」

 逃がしちゃいけない。
 なにかマズイことが起きようとしてる。
 そんな焦燥感を抱えながら、わたしは第一歩を踏み出した。
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