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作者: 犬物語
スキルというよりタレント的な
ジーニアス「ダンジョン攻略ボーナスだよ」
「僧侶が般若の顔になっとる」
「……」

 やっべ冗談も通じない。グレースちゃんすべったみたいになっちゃったじゃん。

(と、いかんいかん)

 このままじゃシリアスモード一直線。それは望まないので神様仏様ブッちゃんさま、菩薩っぽい顔にもどってくださいな。

 わたしはつとめてシリアスっぽく、けどシリア過ぎないよう心がけた。

「どうしたの?」
「こやつ、何者かが憑いている」
「え?」

 ついてるって、つまり幽霊さん?
 わたしは倒れ伏した武器商人に目を向ける。

(べつにふつーじゃない……あ、ん?)

 ぐっと目を凝らす。
 違和感。
 うっすらと、ねとつく黒い何かがアルの周囲にいる、気がする。

「なにこれ?」

 わたしは目をしぱしぱして、こすってまた見た。
 勘違いじゃない。
 なんかいる。
 どことなく、わたしはこの世界に突如現れる黒いマモノたちを思い出した。

「邪悪な気配。この者はただ利用されていただけに過ぎん。ずべてはこの黒い……そうか」
「うわっ」

 ブッちゃんって大きいじゃん?
 ただでさえ威圧感あるじゃん?
 それが鬼の形相になったらどうよ?

「グレースよ」
「ひゃい!?」

 やめ、そんな顔でこっち見んな怖いから。

「以前、お主から聞いた人がマモノ化する現象。半信半疑だったが、こやつはその被害者だ」
「うそ!?」

 反射的に周囲を検索した。
 あの白髪ガリガリ猫背男の姿はなかった。

「おのれ――善良な一般市民にこのような術を用いるとは。あまつさえ悪の道に引きずり込み、人の命を弄ぶとは」
「ブッちゃん?」

 ブッちゃんの黒い身体から、ほんのり明るい光が立ち込めた。

 瞬間的に、これが彼の感情の発露だと実感わかった。それは異世界人があるスキルを発動する時に必要な条件。本来戦いを望まず、自衛以外の手段を好まない彼にとって、他者から強要され、望まぬ戦いを強いられる存在は哀れに思い、そして。

「ゆるせん!」
「ブッちゃん……ぁ」

 それを仕組んだ者に対し、万感の恨みを覚えるんだろう。
 それが彼を物理的に変化させた。

(身体がかわってる)

 小さな変化だけど、やっぱりそうだ。彼の頭頂部から新しい耳が生まれる。黒く、やや茶色いそれがふわりと浮かび、垂れ下がって本物の耳にペタンと触れる。それがなんかかわいくて、わたしは思わず笑みをこぼした。

「万物の戒めから解き放たれよ――アルケ・ホーン・クライ・セイ・ダー」

 ブッちゃんがナゾの呪文を唱え手をかざすと、彼の光がぜんぶアルへ移っていく。
 瞬間、アルが暴れ出した。

「ッ!? があああああああああ!!」
「な、なに!?」
「耐えろ!」

 すかさず抑えかかる僧侶。彼の体格でも抑えきることは難しいほど武器商人の身体が痙攣する。そうしてる間に光が闇を喰い、泡粒となって消滅していく。やがて、それらが全て霧散すると武器商人の痙攣も止まり、飛び起きた。

「うわあああ!! ――ッ、は、ぁあ?」

 キョロキョロと当たりを見回るドワーフのような髭面。先程のような悪い雰囲気がなくなっている。っていうかしびれ薬刺したはずなのですが?

「はぇ? な、何が? どーしてこんなところに?」
「覚えておらんのか? お主は闇によって操られていたのだ」
「や、み? ……ぁあ!」

 ブッちゃんの話を聞いた途端、彼は何かに恐怖するような表情をもって、両手で顔面をくしゃくしゃにした。

「思い出した! あ、ある人とつぜんメイスが店を訪れて、それで、何かわけのわからんことを言って……ハッ! そうだ店は! シティーザはどうなってるんだ!」
(よかった、とりあえず無事みたい)

 ふと見ると、ブッちゃんはいつも通りの青いローブと黒い肌だった。さっきまでの光もなく、ひょっこり飛び出してたかわいいお耳もない。もったいないなぁと唇を横一文字にしたころ、後ろから聴き覚えるのある声を感じた。

「無事で何よりだ」

 振り向けば、そこにいたのは今回の作戦首謀者。そんな彼に、ブッちゃんは感情をあわらにする。

「貴様、陽動はどうした? 爆発が合図だったはずだ」
「伝達が伝わっていなかったらしくてな、申し訳ない」
「ふざけないで」

 ぜんぜん悪いと思ってない口ぶりだ。それに反論したのは冷静さを失いつつある僧侶ではなく、最後まで抜け目のなかった魔法少女。

「ウチが盗聴スキルで把握してたけど、そんな伝達なかったし、そもそも陽動部隊すらいなかったわ」
「えっ?」

 マ?
 ってことは、どういうこと?
 尋ねようとして、ブッちゃんもドロちんもそんな雰囲気じゃない件。
 ウォルターさんだけは、余裕あるのか無いのかわからん顔。
 彼は自嘲気味に笑った。

「抜け目ないな、キミという人は。すばらしい魔術師だけでなくこのような才能まであるとは」
「みなさん! 無事でしたか」

 そしてあんずちゃんも合流。見ればおおよそ決着がついたようで、今更やってきたウォルターさんの増援部隊により、広場はほぼ鎮圧されていた。

 我がパーティーのうち、ふたりの視線がテトヴォ首長を責める。やがて、彼はそれに絞り出されるような形で言葉を放った。

「……あの状況で動かなければならんのはキミたちだけだ。なにせ、異世界人が死んでしまえば意味がないからな。キミたちは動かざるを得ない一方、こちらは私兵をムダに減らしたくなかった」
「つまり、ウチらは当て馬にされたわけね」
「キミたちの腕を見込んでいたからこそだ。そうでなければ、我々は作戦通り襲撃犯を準備させていた」
「白々しい。ハッキリ言えばいいじゃない。捨て駒にするつもりだったって」
「ここで私を責めてもどうにもならんだろう。それよりも、ターゲットを追ったほうが良いと思うが?」

 言って、ウォルターさんはどこを示すでもなく首をあてがった。

「ところで、メイスはどこですの?」
「あ」

 さっきまでそこにいたのに。
 っていうかティッくんもいねーし。
 はい、ドロちん怒り心頭。

「ったく、誰よ逃がしたの!」
「どこに逃げたかわかる者は?」
「わたくしはわかりませんが、さっきあちらにふたりの男性が走っていきましたが」

 あんずちゃんが指さしたのはテトヴォ中心部。メイスの私邸がある方向だった。

「おっけー任せて!」
「ちょ、グレース! 単独行動するんじゃないわよ!」

 後ろから甲高いロリっ子魔法少女の声を浴びつつ、わたしはその方向へひた走る。素早さ特化のグレースちゃんにみんな追いつけず、けど目的地にはすぐ到着し、そこにはティッくんがメイスを追い詰める様子が見て取れた。

「ティッくん!」

 メイスは数名の護衛に囲まれ入口前に立つ。もし護衛すべてが倒されても籠城できる算段なんだろう。対してティッくんは己の身体いっぽん。けど彼のスキル的に、武器がなくともなんとかなるはず。

「おらあ!」

 思った通り、彼はご自慢の四肢で護衛たちをバッタバッタ張り倒していく。

 サっちゃんみたいな身体ごとズドーン! じゃなくてテクニカルタイプ。大きな身体で軽やかにジャンプ。ミリタリーな土と緑のズボンが風に舞い、空中で弧を描いた足が相手の首に着地した。

 続けざまに別の相手へタックル。倒れた相手にマウントはとらず踏みつけ、あれいたそー。んで卑怯にも後ろから襲いかかってくるヤツには灰色のジャケットで相手の顔を覆い隠し拳一本。

 まるでカンフー映画みたい。こちらの出る幕なし。周囲に護衛ゼロ。慌てておうちの中に入ろうとするもティッくんの「動けばヤる」オーラに圧倒され身体カチンコチンな悪徳政治家。

 つまるところ、詰みってヤツですは。
 もしくは罪。
 罰が必要だよね?

「グレース!」

 後ろから重量級の声。ブッちゃんにウォルターさん、あんずちゃんと続き、最後は息が上がり気味のドロちん到着。

「観念するんだな」

 黙り込むメイスにテトヴォ首長が一歩前に立ち、何かしらの巻紙を広げました。

「ここに貴様の罪状が記されている。大人しくお縄につくがいい」
「バカな!」

 メイスが大声をあげた。

「私は清廉潔白だ! その紙切れ一片にすら書く罪などない!」
「首長の採決なく処刑を行うのは越権行為である。その結果今回のような騒動を生み出した。いったい何人の犠牲が出たと思う?」
(はぁ!?)

 こいつ何言ってんの?
 実際に市民に被害出したのは、そっちが投げた爆弾でしょ?

「それはこいつらのせいだろ!」
「はあ!?」

 冤罪! 冤罪ですこれ! ドロちんの指向性爆弾は市民に被害出してませんー!

(ちょっとこれどういう流れ?)

 わたしだけでなくドロちん、ブッちゃん、あんずちゃんまで驚愕の視線で首長へ注目する。

「この腹黒首長め、最初からそのつもりだったのね」
「観念しろメイス。これまでの罪を認め、操作に協力するならば寛大な処置を下す。そうでなければ」

 ドロちんの悪態をスルーしつつ、首長がいち政治家へ問う。窮地に追い込まれたメイスは大粒の汗を流しつつ、今なお飛びかからんとする狂犬ティッくんによりバインド状態。

 その時、メイスの背後にある入口が開かれた。

「ごしゅじんさま! おかえりなさい!」
(……え?)

 玄関から、メイド服の子どもが出てきた。
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