一夜明け、みんなで過ごす、ボロ宿屋
ベッドの種類やグレードによって回復量が変わるゲーム、たまにあるじゃん?
寝覚め最悪なんですわ。
「ッ――ん……だるぅ」
睡眠不足感マシマシ。
言うてベッドの中にいたくない。
寝心地アカンのですよ。
「ぐでー」
口で効果音を表現しつつ、わたしはベッドがら文字通り落ちた。
地面にメチャってかんじで。
わたしは液体だった。
「ぜんぜん疲れが取れてない。なんでぇ」
おしごとがキツかった? それはない。
確かに、船の上でどんぶらこされるのは、いつもより違う筋肉使ってそこそこ疲れたけど、じゃあ次の日グロッキーになるほどですか? 言われたらぜんぜんって感じ。むしろ、日頃と別のエクササイズで楽しかったくらいなのよ。
「ってうかザラザラしてる」
木目に頬をすりつけ感じるささくれ感。これヘタすっとリアルに突き刺さるわ。
わたしは身体を起こした。
部屋を見渡した。
「ひとん家じゃないよね? ここお宿だよね?」
古びてギシギシ言う木の板。
角っこのクモの巣。
たたけばホコリが舞いそうなおふとん。
レブリエーロの日々を思い出す。あそこの寝台はめっちゃ硬い石だったにも関わらずメタクソ熟睡できた。その経験から一転、こっちじゃ一夜明けて身体がゴツゴツ言います。うまく説明できんけど、なんかHPとMPが回復した気がしない。
「はぁー……まいっか」
屋根の下ってだけでありがたいもん。と思いきや、となりで寝てたルームメイトもうなされてた。
「うぅーん」
「あんずちゃん、起きて、ほら」
ほっぺをつんつん。
起きない。
じゃあむにっと。
起きない。
「んー、じゃあ」
ちゅ。
「んんっ」
起きない。
じゃあ――ちょっと鼻先をぺろり。
「ッ! なんですの今の感触は!!」
あんずちゃんが顔面を押さえて飛び起きた。はは、かわいー。
「朝からバカねぇ」
「あ、ドロちん」
メッタクソ不機嫌そうな顔で目をこすってる。髪の毛短いのに寝癖。
「はぁ……鑑定」
お得意の魔法で何かを探る少女。ホログラムのように光が浮かび上がり、その対象は――じぶん自身?
「やっぱり。ったくこれなら野宿のほうが良かったじゃない」
ブツくさ文句垂れつんつんロリ魔術師。
それきり何も言わず、ごそごそと自分の荷物を手に席を立つドロちん。なんかことば掛けにくい感じだったので、こちらも荷物を整理しつつ朝日を浴びに行きましょう。
部屋を出て、階段を降りて、宿のエントランスにて待ち合わせしつつ、続けて男子ふたりがやってきたところで不機嫌な幼女が口火を切った。
「他にいい宿なかったの?」
「仕方ねぇだろ」
サンダーさんは肩をすくめた。
「マトモな宿はぜんぶ予約済みかお上御用達になっちまってんだ。空き部屋があるにしても料金が高すぎるんだよ」
そこで一旦ことばを切り、サンダーさんはあたりを見渡した。
「こっちだって、ブーラーから聞いた予算内に収めようと苦労したんだぜ?」
「相談してくれればもう少し宿泊費用に充てても良かったのだが」
「気にすんなよ黒人坊主、電話スキルで話したろ? 予算を倍にしたとして、どの道これ以上のホテルは見つからなかったぜ」
「体力も魔力も中途半端だったんだけど?」
人が寄り付かないような裏道を二度三度曲がった先に、ボロボロな風貌の木造建築があった。ここだけ江戸時代にタイムスリップしちゃったみたいな?
すっごい年寄りさんが運営してるみたい。あちこちにクモの巣あるしさっきネズミいたし、近くに井戸があってラッキーと思ったらちょっと水の色がね……さすがに飲みませんでした。
「これなら近場で野宿したほうがいいんじゃないの?」
店主さんに聴かれちゃわない? っていうリスクそっちのけで文句垂れるドロちん。それに対しブッちゃんは否定的だ。
「やめておけ。ヘタに目立つだけだ」
「そうですわね……近くに林があれば、その中にまぎれて過ごせるのですが」
残念ながらここは港町。視界良好につき野宿は目立つのです。そんなことする旅人もいないし、いたらウワサになるんじゃないかな?
加えて、背後の山々で野宿するにはサンダーさんの肉体労働がキツい。
「ま、路銀が溜まるまでの辛抱ですぜドロちん?」
心底イヤそうな顔である。
「いっかいの仕事で金貨ゲッチュしたんでしょ? ダイジョーブだよ」
「ったく、仕方ないわねぇ」
なんやかんやで納得してくれるのほんっとデレですわぁ。
寛容な態度を示しつつ、ドロちんはさっそく本題に入ることを促した。
「それで、朝から人を集めて何しようとしてるの?」
「うむ。今日はこの依頼を果たしに行くつもりだ」
言って、ブッちゃんは青いローブから一枚の封書を取り出しテーブルに置いた。
真っ白い外観。蝋のようなネットリ赤いやつで封がしてある。
あんずちゃんが思い出したように目を開いた。
「レブリエーロで受けた依頼ですか」
「そうだ」
「なんだぁそりゃ」
興味あり気に、もしくは興味なさそーにサンダーさんが身を乗り出す。矛盾してるようで矛盾しない。なんだこのやさぐれビヘイバーおじさんは。
「レブリエーロの役人から、テトヴォの長に直接渡すよう言付かっている」
「おいおい、なんだぁお前らお役人と知り合いかよ」
「そういう仲ではないが、レブリエーロで依頼を受けたことがある」
「なるほどな。この件に関しては俺は無関係だ」
「あ、サンダーさんどこへ行かれるのですか?」
イスを鳴らし立ち上がったサンダーさん。
あんずちゃんがその背中にことばを投げかけた。
「テキトーに仕事でも探すさ。ついでに町の様子も見てくる。どうもきな臭いんでな」
こちらを振り返らず、緑のコートに身を包んだ無精髭の不審者は外へと繰り出していった。
(お役人関係の話をした瞬間にすっ飛んでっちゃった。何ていうか)
「逃げた?」
「ように見えるわね」
「そんなこと……」
わたしの何気ないドロちんが続き、あんずちゃんはそれを擁護しようとして断念。
「まあ、闇医者として後ろめたいことのひとつやふたつあるだろう」
「お、ブッちゃんがそれっぽいこと言った!」
「そうと決まったワケではない。無意味な妄想をするよりも、さっさと依頼を済ませてしまおう」
手紙を懐に戻し、パーティー最年長かつ最高身長の男子が立ち上がる。
相変わらずすごい威圧感だ。
サっちゃんがいたら山と山で周りが見えなくなっちゃいそう。
なんて事を考えつつ、わたしもお宿を後にしたでござる。なお、その時にはすでにサンダーさんの姿は見えなくなっていた。
「そーいやさ、あんずちゃんは仕事見つけたの?」
ドロちんの稼ぎで興味をもったわたしは、きっと連帯保証人にもなってくれそうな関係のあんずちゃんに尋ねてみた。
「ええまあ」
「やっぱ武器屋さん?」
「防具を主に扱っているお店ですわ。買い取りもしてるらしくて、修繕できると言ったら雇ってもらえました」
「すっご! あんずちゃんやるぅ」
グーサイン。親指の指紋見せちゃうよ!
「いろいろタイヘンだよね? 稼ぎいいの?」
「グレース、ちょっと怖いですわよ」
そんなこと言わず教えて?
「基本は防具の修繕ですけど、たまに店番で人の相手をすることもありますわね」
「へー、そうなんだ」
「グレースもやったことあるでしょ」
「えへへ、あの時は散々だったなぁ」
あんずちゃんがピカピカに磨いた盾を曲げちゃったり、お金を少なく受け取っちゃったり。
「バカね」
下方向からそんな罵詈雑言聞こえました。なるほどぉ、そんなこと言うならカウンターおしゃべりだからね?
「ドロちんはさ、テトヴォ到着した後何してたの?」
「はぁ?」
「ひとりだけ別行動してたよね?」
「野暮用よ」
「ヘイヘイ、ヒミツにしないで教えちゃいなよ!」
「だから野暮用だって」
「ヤボなYo!」
「……」
あ、冷たい視線。
ちょっとまって魔法なしでこの場の気温じゅーどくらい下がったんだけど。
「やるなドロちん!」
「何が?」
「下らん話はそのくらいにしておけ」
くだらなくないもん! と反論しようとしたところで、目の前を進んでた青い壁が停止した。
「うわっとぉ?」
「着いたぞ」
どうやら目的地に到着したらしい。見えないので青い壁に手を伸ばしその横から覗いてみますと、そこには赤茶っぽい漆喰で固められた、四角い家が建っていた。
「ッ――ん……だるぅ」
睡眠不足感マシマシ。
言うてベッドの中にいたくない。
寝心地アカンのですよ。
「ぐでー」
口で効果音を表現しつつ、わたしはベッドがら文字通り落ちた。
地面にメチャってかんじで。
わたしは液体だった。
「ぜんぜん疲れが取れてない。なんでぇ」
おしごとがキツかった? それはない。
確かに、船の上でどんぶらこされるのは、いつもより違う筋肉使ってそこそこ疲れたけど、じゃあ次の日グロッキーになるほどですか? 言われたらぜんぜんって感じ。むしろ、日頃と別のエクササイズで楽しかったくらいなのよ。
「ってうかザラザラしてる」
木目に頬をすりつけ感じるささくれ感。これヘタすっとリアルに突き刺さるわ。
わたしは身体を起こした。
部屋を見渡した。
「ひとん家じゃないよね? ここお宿だよね?」
古びてギシギシ言う木の板。
角っこのクモの巣。
たたけばホコリが舞いそうなおふとん。
レブリエーロの日々を思い出す。あそこの寝台はめっちゃ硬い石だったにも関わらずメタクソ熟睡できた。その経験から一転、こっちじゃ一夜明けて身体がゴツゴツ言います。うまく説明できんけど、なんかHPとMPが回復した気がしない。
「はぁー……まいっか」
屋根の下ってだけでありがたいもん。と思いきや、となりで寝てたルームメイトもうなされてた。
「うぅーん」
「あんずちゃん、起きて、ほら」
ほっぺをつんつん。
起きない。
じゃあむにっと。
起きない。
「んー、じゃあ」
ちゅ。
「んんっ」
起きない。
じゃあ――ちょっと鼻先をぺろり。
「ッ! なんですの今の感触は!!」
あんずちゃんが顔面を押さえて飛び起きた。はは、かわいー。
「朝からバカねぇ」
「あ、ドロちん」
メッタクソ不機嫌そうな顔で目をこすってる。髪の毛短いのに寝癖。
「はぁ……鑑定」
お得意の魔法で何かを探る少女。ホログラムのように光が浮かび上がり、その対象は――じぶん自身?
「やっぱり。ったくこれなら野宿のほうが良かったじゃない」
ブツくさ文句垂れつんつんロリ魔術師。
それきり何も言わず、ごそごそと自分の荷物を手に席を立つドロちん。なんかことば掛けにくい感じだったので、こちらも荷物を整理しつつ朝日を浴びに行きましょう。
部屋を出て、階段を降りて、宿のエントランスにて待ち合わせしつつ、続けて男子ふたりがやってきたところで不機嫌な幼女が口火を切った。
「他にいい宿なかったの?」
「仕方ねぇだろ」
サンダーさんは肩をすくめた。
「マトモな宿はぜんぶ予約済みかお上御用達になっちまってんだ。空き部屋があるにしても料金が高すぎるんだよ」
そこで一旦ことばを切り、サンダーさんはあたりを見渡した。
「こっちだって、ブーラーから聞いた予算内に収めようと苦労したんだぜ?」
「相談してくれればもう少し宿泊費用に充てても良かったのだが」
「気にすんなよ黒人坊主、電話スキルで話したろ? 予算を倍にしたとして、どの道これ以上のホテルは見つからなかったぜ」
「体力も魔力も中途半端だったんだけど?」
人が寄り付かないような裏道を二度三度曲がった先に、ボロボロな風貌の木造建築があった。ここだけ江戸時代にタイムスリップしちゃったみたいな?
すっごい年寄りさんが運営してるみたい。あちこちにクモの巣あるしさっきネズミいたし、近くに井戸があってラッキーと思ったらちょっと水の色がね……さすがに飲みませんでした。
「これなら近場で野宿したほうがいいんじゃないの?」
店主さんに聴かれちゃわない? っていうリスクそっちのけで文句垂れるドロちん。それに対しブッちゃんは否定的だ。
「やめておけ。ヘタに目立つだけだ」
「そうですわね……近くに林があれば、その中にまぎれて過ごせるのですが」
残念ながらここは港町。視界良好につき野宿は目立つのです。そんなことする旅人もいないし、いたらウワサになるんじゃないかな?
加えて、背後の山々で野宿するにはサンダーさんの肉体労働がキツい。
「ま、路銀が溜まるまでの辛抱ですぜドロちん?」
心底イヤそうな顔である。
「いっかいの仕事で金貨ゲッチュしたんでしょ? ダイジョーブだよ」
「ったく、仕方ないわねぇ」
なんやかんやで納得してくれるのほんっとデレですわぁ。
寛容な態度を示しつつ、ドロちんはさっそく本題に入ることを促した。
「それで、朝から人を集めて何しようとしてるの?」
「うむ。今日はこの依頼を果たしに行くつもりだ」
言って、ブッちゃんは青いローブから一枚の封書を取り出しテーブルに置いた。
真っ白い外観。蝋のようなネットリ赤いやつで封がしてある。
あんずちゃんが思い出したように目を開いた。
「レブリエーロで受けた依頼ですか」
「そうだ」
「なんだぁそりゃ」
興味あり気に、もしくは興味なさそーにサンダーさんが身を乗り出す。矛盾してるようで矛盾しない。なんだこのやさぐれビヘイバーおじさんは。
「レブリエーロの役人から、テトヴォの長に直接渡すよう言付かっている」
「おいおい、なんだぁお前らお役人と知り合いかよ」
「そういう仲ではないが、レブリエーロで依頼を受けたことがある」
「なるほどな。この件に関しては俺は無関係だ」
「あ、サンダーさんどこへ行かれるのですか?」
イスを鳴らし立ち上がったサンダーさん。
あんずちゃんがその背中にことばを投げかけた。
「テキトーに仕事でも探すさ。ついでに町の様子も見てくる。どうもきな臭いんでな」
こちらを振り返らず、緑のコートに身を包んだ無精髭の不審者は外へと繰り出していった。
(お役人関係の話をした瞬間にすっ飛んでっちゃった。何ていうか)
「逃げた?」
「ように見えるわね」
「そんなこと……」
わたしの何気ないドロちんが続き、あんずちゃんはそれを擁護しようとして断念。
「まあ、闇医者として後ろめたいことのひとつやふたつあるだろう」
「お、ブッちゃんがそれっぽいこと言った!」
「そうと決まったワケではない。無意味な妄想をするよりも、さっさと依頼を済ませてしまおう」
手紙を懐に戻し、パーティー最年長かつ最高身長の男子が立ち上がる。
相変わらずすごい威圧感だ。
サっちゃんがいたら山と山で周りが見えなくなっちゃいそう。
なんて事を考えつつ、わたしもお宿を後にしたでござる。なお、その時にはすでにサンダーさんの姿は見えなくなっていた。
「そーいやさ、あんずちゃんは仕事見つけたの?」
ドロちんの稼ぎで興味をもったわたしは、きっと連帯保証人にもなってくれそうな関係のあんずちゃんに尋ねてみた。
「ええまあ」
「やっぱ武器屋さん?」
「防具を主に扱っているお店ですわ。買い取りもしてるらしくて、修繕できると言ったら雇ってもらえました」
「すっご! あんずちゃんやるぅ」
グーサイン。親指の指紋見せちゃうよ!
「いろいろタイヘンだよね? 稼ぎいいの?」
「グレース、ちょっと怖いですわよ」
そんなこと言わず教えて?
「基本は防具の修繕ですけど、たまに店番で人の相手をすることもありますわね」
「へー、そうなんだ」
「グレースもやったことあるでしょ」
「えへへ、あの時は散々だったなぁ」
あんずちゃんがピカピカに磨いた盾を曲げちゃったり、お金を少なく受け取っちゃったり。
「バカね」
下方向からそんな罵詈雑言聞こえました。なるほどぉ、そんなこと言うならカウンターおしゃべりだからね?
「ドロちんはさ、テトヴォ到着した後何してたの?」
「はぁ?」
「ひとりだけ別行動してたよね?」
「野暮用よ」
「ヘイヘイ、ヒミツにしないで教えちゃいなよ!」
「だから野暮用だって」
「ヤボなYo!」
「……」
あ、冷たい視線。
ちょっとまって魔法なしでこの場の気温じゅーどくらい下がったんだけど。
「やるなドロちん!」
「何が?」
「下らん話はそのくらいにしておけ」
くだらなくないもん! と反論しようとしたところで、目の前を進んでた青い壁が停止した。
「うわっとぉ?」
「着いたぞ」
どうやら目的地に到着したらしい。見えないので青い壁に手を伸ばしその横から覗いてみますと、そこには赤茶っぽい漆喰で固められた、四角い家が建っていた。