暖かくて陽気な町
火のないところに煙は立たない
作戦会議の結果、サンダーさんが本日の宿を探してくれることになった。
ってことで、必要物資を把握してるブッちゃんがそのまま買い出し担当に合流。今回はあんずちゃんとドロちんが買い出し担当だったんだけど、ドロちんが「買いたいものがある」とクールに去っていったのでおふたりさまでショッピング。
じゃあグレースちゃんはどうすんだって? そりゃあもうアレよ。
(おさんぽの時間です。じゃなかった)
しごとさーがし。
働かざる者食うべからず。
それが我がパーティーの掟なのだ。
(おかねがない。とにかくお金になる仕事はなかろうか?)
なんだったら闇を感じる仕事でもかまわ、いやいやそれだけはダメだちゃんとしないと。
(そもそも仕事に光も闇もあるのかな?)
なんて言ってるここは冒険者ギルドテトヴォ支部。
フラーのような大都市は各地区に支部があったり、冒険者ギルド用の建造物があったりする。テトヴォはそこそこ大きい街だけど都市じゃないレベルだから支部はひとつ。すべての機能がひとつになったおっきな建物があるのでした。
見た目がおもしろいんだ! 赤いレンガを積み上げてるんだけど、なんと! 柱は木造なの! どうやってくっつけてるんだろうね。
「んー、なにか良さげなジョブはぁ~」
レンガの落ち着くような赤色と木のほがらかな香り。
わたしは掲示されたお仕事を指でなぞる。
一日ウェイトレスはパス。
皿洗いもパス。
草刈りはこの前やったし大工さんはその前にやったしぃー、んー、なにかいいワーキングないかなー。っと、お?
「漁師募集。気力体力ある方お待ちしてます。余剰分の成果はお持ち帰りおーけー……じゅるり」
これだ!
わたしは張り紙を取って受付に走った。
「これやりたいでーす!」
「では、ギルド員カードをご提示ください」
「はーい」
受付のおねーさんに銀色のカードを渡した。
冒険者ギルド、旅団に所属してる証だ。
おねーさんはそれを元に、鑑定スキルで情報照会する。
(さぁどうでしょう?)
これまでの実績、ステータスなどを鑑みて、その仕事を任せられるか判断される。
不可と判定されれば「申し訳ありませんが……」と突っ返される。
そうでなければ相手方に連絡。あとはわたしが個人で依頼主で話し合い、仕事の詳細な条件を定めていく。その際の契約内容はギルドに報告し、さらに仕事が追加された場合などは追加報酬を請求する。じゃないと、依頼票にない仕事を押し付けられちゃうからね。
「グレースさまの能力であれば、今回の仕事は遂行可能と思われます。依頼主に連絡を入れるので少々お待ちください」
「はーい」
この手続き、はじめは慣れなかったなー。いちいち受付さんにどーするの? こーするの? って聞きまくってて、最後はほんっとにイヤそーな顔で「これで終了です」ってさ。わたしが悪いのはわかるけど、もうちょっとグウェンちゃんのようなやさしさや慈しみをね?
「……応答がありませんね」
情報端末に耳を傾けたおねーさんが困った顔。
ギルドは、依頼をしてきた相手に情報端末を渡す。
いわゆるひとつの携帯電話だね。
すぐ連絡がとれるようにしてるんだけど、たまーに電話を持たないまま連絡がつかない人もいるのだ。
「仕方ありませんね、少々お待ちください」
おねーさんはメガネをクイッとした。
連絡がつかない場合、残る手段は別途連絡用スキルを行使するか、あるいは直接会って話をするしかない。地方じゃよくあるパターンとして、わたし自身が直接依頼主の元へ赴き「ギルドのグレースちゃんです! お仕事はなんですか?」と尋ねる場合が多い。
(今回もその流れかなー)
カウンターによっかかって天井を見上げた。シンプルな建物ほどこころ落ち着くよね。受付のおねーさんが手間取ってるようなので、こっちから直接伺っちゃいますか? と進言しようとしたところ、近くのテーブルでくっちゃべる若いあんちゃんふたりの会話が耳に入ってきた。
「それで、また見せしめで処刑か」
「らしいぜ。ったく、腐った連中が上に立つとこれだから」
「おい! あまりデカい声だすな」
人の目を気にしてか、そのふたりはヒソヒソ声でやりとりしてる。けどわたしのニンジャ・イヤーはそれを細々とキャッチしております。にんにん。
「今度は異世界人だとよ」
(やっぱここにもいるんだ)
うれしい反面、さっきからの流れなので不安が募ってきた。さっき処刑言いませんでしたっけ?
「そいつもバカだぜ。おとなしくしときゃいいものを、何でよりによって人目のある遊説中に」
「なんでも、石を投げた子どもを庇ったらしいぜ。そうでなきゃ、処刑されるのはその子どものほうだったらしい」
「まさか! いくら悪逆非道の政治家とはいえそこまではしねーだろ」
「わからねぇぞ。ウワサじゃ、むしろ女子どもを殺した数のほうが多いらしい」
「マジかよ」
(……もしかして、テトヴォってヤバい?)
実は心当たりがなくもない。
作戦会議中、とりあえずみんなで町を散策していたのです。
あったかいからみんな薄着。
港町でありながら背後に山脈を抱え、海の幸に山の幸なんでもござれ。
さぞや陽気でハッピーなお町柄? かと想像してたらどうしたことか。
どこかおかしーんだ。
どこが? って聞かれたらわかんないって答える。
でも、どこかおかしい。
みんなも感じた。
サンダーさんも「昔と違う」と言った。
景気はいいんだよ?
あっちこっちいい匂い。
笑顔の人々。
賑わう市場、レストランで語り合うカップル、的あてができる遊技場みたいなお店もあった。
表面上は活気に溢れてる。
でも、わたし見ちゃったんだ。
(裏路地で遊んでる子どもの服、ボロ布をツギハギして作ったものだった)
フラーで見たものと同じ景色。
間違いなく、この町には何かがある。
(あたらしい事件の予感がする)
「依頼主と連絡がつきました。仕事は明日からとのことです」
若いあんちゃんたちが席を立った頃、受付のおねーさんが話しかけてきた。
ってことで、必要物資を把握してるブッちゃんがそのまま買い出し担当に合流。今回はあんずちゃんとドロちんが買い出し担当だったんだけど、ドロちんが「買いたいものがある」とクールに去っていったのでおふたりさまでショッピング。
じゃあグレースちゃんはどうすんだって? そりゃあもうアレよ。
(おさんぽの時間です。じゃなかった)
しごとさーがし。
働かざる者食うべからず。
それが我がパーティーの掟なのだ。
(おかねがない。とにかくお金になる仕事はなかろうか?)
なんだったら闇を感じる仕事でもかまわ、いやいやそれだけはダメだちゃんとしないと。
(そもそも仕事に光も闇もあるのかな?)
なんて言ってるここは冒険者ギルドテトヴォ支部。
フラーのような大都市は各地区に支部があったり、冒険者ギルド用の建造物があったりする。テトヴォはそこそこ大きい街だけど都市じゃないレベルだから支部はひとつ。すべての機能がひとつになったおっきな建物があるのでした。
見た目がおもしろいんだ! 赤いレンガを積み上げてるんだけど、なんと! 柱は木造なの! どうやってくっつけてるんだろうね。
「んー、なにか良さげなジョブはぁ~」
レンガの落ち着くような赤色と木のほがらかな香り。
わたしは掲示されたお仕事を指でなぞる。
一日ウェイトレスはパス。
皿洗いもパス。
草刈りはこの前やったし大工さんはその前にやったしぃー、んー、なにかいいワーキングないかなー。っと、お?
「漁師募集。気力体力ある方お待ちしてます。余剰分の成果はお持ち帰りおーけー……じゅるり」
これだ!
わたしは張り紙を取って受付に走った。
「これやりたいでーす!」
「では、ギルド員カードをご提示ください」
「はーい」
受付のおねーさんに銀色のカードを渡した。
冒険者ギルド、旅団に所属してる証だ。
おねーさんはそれを元に、鑑定スキルで情報照会する。
(さぁどうでしょう?)
これまでの実績、ステータスなどを鑑みて、その仕事を任せられるか判断される。
不可と判定されれば「申し訳ありませんが……」と突っ返される。
そうでなければ相手方に連絡。あとはわたしが個人で依頼主で話し合い、仕事の詳細な条件を定めていく。その際の契約内容はギルドに報告し、さらに仕事が追加された場合などは追加報酬を請求する。じゃないと、依頼票にない仕事を押し付けられちゃうからね。
「グレースさまの能力であれば、今回の仕事は遂行可能と思われます。依頼主に連絡を入れるので少々お待ちください」
「はーい」
この手続き、はじめは慣れなかったなー。いちいち受付さんにどーするの? こーするの? って聞きまくってて、最後はほんっとにイヤそーな顔で「これで終了です」ってさ。わたしが悪いのはわかるけど、もうちょっとグウェンちゃんのようなやさしさや慈しみをね?
「……応答がありませんね」
情報端末に耳を傾けたおねーさんが困った顔。
ギルドは、依頼をしてきた相手に情報端末を渡す。
いわゆるひとつの携帯電話だね。
すぐ連絡がとれるようにしてるんだけど、たまーに電話を持たないまま連絡がつかない人もいるのだ。
「仕方ありませんね、少々お待ちください」
おねーさんはメガネをクイッとした。
連絡がつかない場合、残る手段は別途連絡用スキルを行使するか、あるいは直接会って話をするしかない。地方じゃよくあるパターンとして、わたし自身が直接依頼主の元へ赴き「ギルドのグレースちゃんです! お仕事はなんですか?」と尋ねる場合が多い。
(今回もその流れかなー)
カウンターによっかかって天井を見上げた。シンプルな建物ほどこころ落ち着くよね。受付のおねーさんが手間取ってるようなので、こっちから直接伺っちゃいますか? と進言しようとしたところ、近くのテーブルでくっちゃべる若いあんちゃんふたりの会話が耳に入ってきた。
「それで、また見せしめで処刑か」
「らしいぜ。ったく、腐った連中が上に立つとこれだから」
「おい! あまりデカい声だすな」
人の目を気にしてか、そのふたりはヒソヒソ声でやりとりしてる。けどわたしのニンジャ・イヤーはそれを細々とキャッチしております。にんにん。
「今度は異世界人だとよ」
(やっぱここにもいるんだ)
うれしい反面、さっきからの流れなので不安が募ってきた。さっき処刑言いませんでしたっけ?
「そいつもバカだぜ。おとなしくしときゃいいものを、何でよりによって人目のある遊説中に」
「なんでも、石を投げた子どもを庇ったらしいぜ。そうでなきゃ、処刑されるのはその子どものほうだったらしい」
「まさか! いくら悪逆非道の政治家とはいえそこまではしねーだろ」
「わからねぇぞ。ウワサじゃ、むしろ女子どもを殺した数のほうが多いらしい」
「マジかよ」
(……もしかして、テトヴォってヤバい?)
実は心当たりがなくもない。
作戦会議中、とりあえずみんなで町を散策していたのです。
あったかいからみんな薄着。
港町でありながら背後に山脈を抱え、海の幸に山の幸なんでもござれ。
さぞや陽気でハッピーなお町柄? かと想像してたらどうしたことか。
どこかおかしーんだ。
どこが? って聞かれたらわかんないって答える。
でも、どこかおかしい。
みんなも感じた。
サンダーさんも「昔と違う」と言った。
景気はいいんだよ?
あっちこっちいい匂い。
笑顔の人々。
賑わう市場、レストランで語り合うカップル、的あてができる遊技場みたいなお店もあった。
表面上は活気に溢れてる。
でも、わたし見ちゃったんだ。
(裏路地で遊んでる子どもの服、ボロ布をツギハギして作ったものだった)
フラーで見たものと同じ景色。
間違いなく、この町には何かがある。
(あたらしい事件の予感がする)
「依頼主と連絡がつきました。仕事は明日からとのことです」
若いあんちゃんたちが席を立った頃、受付のおねーさんが話しかけてきた。