海の幸と山の幸を堪能できる港町
おいしい! うまい! つまり両得!
「てーとぼー!」
「うるさい」
ドロちんに杖でぶっ叩かれた。
「いたーい!」
「近所迷惑よ。これから下船だってのにうるさくしないの」
「ぶーぶー!」
抗議の声。けど帰って来るのはドロちんの援護射撃でした。
「なんだぁあの嬢ちゃんは、あっちこっち駆けずり回ってしまいにゃあ甲板の先っちょで絶叫とは」
「この距離では、テトヴォの方にも見えてますわね」
「まったく恥ずかしい」
「味方は!? どこぞにわたしの味方はおりませんか!?」
みんなひどいよ! とくにあんずちゃんもひどいよ! この間しっぽりむふふで愛情を確かめあったじゃないですか!
「あんずちゃん!」
「なんですかその視線は」
「あんずちゃんはわたしの味方だよね!」
「あーはいはい、いい子だから」
「だいすきー!」
我がソウルシスターが両手を広げ「おいで」のサイン。
わたしは自分よりクッション性のあるふくらみに飛び込んだ。
吸引した。
うーんあまい香り。
「なんだこの茶番は」
「案ずるな。いつものことだ」
「いつもの事、ねぇ」
僧侶と一般中年ドクターが呆れた様子でこっちを見る。一方ロリっ子魔法少女は素知らぬ顔で、眼前に迫った船の目的地へと意識を寄せていた。
トレードマークのとんがり帽子を外し、私服という私服がないドロちんは、元の装備から上着をひとつ脱いでいた。それもそのはず。この海を渡る前まですこし暖かい程度だったのに、こちら側へ近づくほど太陽から感じる熱が強くなっていったんだ。空気もそれに熱せられて、ブッちゃん以外は渡航前の服より一枚キャストオフモード。ってか逆になんで脱がないの?
「暑いよ?」
あんず様の双峰から顔をすぽっと出してそっちを見る。対する青いローブ装備の僧侶さんは涼しい顔だ。
「問題ない。特殊な呼吸法を習得している」
(ふーん)
呼吸ひとつで変わるもんかね。
まいっか。わたしは栄養補給を終えてゆりかごから飛び出した。
「てーとゔぉー!」
「だからうるさいっての!」
「……はぁ。こいつらに付いてくのは間違いだったか?」
へへっ、今さら後悔しても遅いぜ中年!
わたしは再度甲板の先頭に立ち、すがすがしい笑顔で振り返ったのだ。
「ここがテトヴォか」
地に降り立って、まずはブッちゃんのひと言からはじまった。
「人は、思った以上に少ないですわね」
「港だからな。中心に向えば自然と増えるだろう。話を聞く限り、お前達はテトヴォに来たことが無いんだったな」
「サンダー殿はあるのか?」
「大昔にな。ほとんど忘れてるから頼らないほうがいいぜ。まあ、こっから見た感じは変わりねぇと思うが……」
サンダーさんの視線を追っかける。
大きな港。行き交う人は忙しなく走り、背負った大きな袋がモソモソと蠢いている。
そこからは、お魚さんの匂いがした。
「ようこそテトヴォへ。海と山の幸がどっちもいただける欲張りな港町だぜ」
「ッ!?」
サンダーさんが石畳をトントンとタップ。小気味よい音だ。
いんやそれよりも、今このやさぐれ中年お医者さんはなんと言いました?
「グレース、気が早いですわよ」
「おっと失礼」
ヨダレが地面に降り立ってましたわ。えー気を取り直していきましょう。
わたしたちは船から降りて、桟橋を渡って、石畳の港へ第一歩を踏みしめております。
立派だ。港の要所はすべて頑丈な石でできてて、船はただその隣に停泊するだけ。フラー側にあったような長い桟橋などはなく、その変わりに石を埋め立てて造られたものが機能していた。
「ほえー」
ギリギリまで迫って下を覗き込めば、海底にたくさんの小魚や貝殻が確認できた。これをすべて獲ったら何日保つだろう?
「暑いですわね」
「そうね。でも湿気が少ないし、ジメッとしたトコより快適よ」
「あ、わかる。あちこちカユくなるもんねー」
「グレース、それは湿気以外の原因なのではないですか?」
「こらガキども、いつまでボサッとしてるんだ。後ろに客がつかえてるだろ」
「っと、ごめんなさい」
サンダーさんに急かされ、わたしたちは港へ上陸した。そしてお空に注目。
「きれー」
「そうですわね。雲ひとつなくて、心地よい風ですわ」
「そうだな。テトヴォは海より大陸からの風が強くて過ごしやすいんだ。見てみろ」
博識ドクターが天空を指さして、けどその先は白い雲でも青い空でもなく緑の大地だった。
「あの山脈が独自の風を生み出すんだ。山頂からの降ろし風、山脈を沿うように流れる季節風もあれば、逆に盆地のようになって風が起こらなくなる場合もある」
「サンダーさん、物知りですわね」
「知識だけはな。長旅をしてると勝手に身につくんだ」
サンダーさんの言うとおり、今は港のほうから海へ強い風が吹いていた。
潮風というより緑と山の香り。
どっちかって言うと、今まで旅してきた道のりとだいたい同じ匂いがする。
きっとすごい山の幸が隠れてるに違いない!
「すごいねサンちゃん!」
「誰だそりゃ」
「じゃあランちゃん?」
「人の話を聞けこの」
ゴツン。
「いったぁー! ぶった! サンちゃんぶった!」
しかもゴツンだって!
「サンダーでいいつったろ」
「むー……もう、いいやそれで」
「なに敗北感たっぷりな顔してやがる。ほら、階段に足とられんなよ」
停泊所から階段を伝う。
ここからが本格的な港エリアだ。
見渡してみると、早速とれたてのお魚を売ってる店発見! よっしゃ行くぜぅお!?
「グレース、単独行動は会議の後にしてくださいな」
「ぐ、ぐるし、ちょっと離して首が」
「まったく」
存外パワー系のあんずちゃん。首の戒めを解き放っていただきまして、それではブッちゃんのお声かけより作戦タイムスタートです。
「では、宿を探すとするか。今回は少し滞在して仕事をしなければならぬな」
「はいはいはーい! グレースちゃん今回はウェイトレスさんにチャレンジしたいとおもいまーす!」
「やめておきなさい。店に迷惑がかかるわ」
「わたくしは武器屋でメンテナンスのバイトをしましょうかしら。ブーラーさんは宿を見つけた後どうしますの?」
「そうだな。まずは教会にて奉仕活動をしてから――」
「金が無いって言ってんのにバカなことしないでよね」
「……なるほどな」
それまでだんまりだったサンダーさん。妙に納得した様子でわたしたちのやり取りを眺めてる。
(にょ?)
彼の表情。
どこかで見たことある。
どこだっけ?
(オジサンといっしょだ)
探して探して、記憶を手探っていって、わたしはその答えにたどり着いた。
「うるさい」
ドロちんに杖でぶっ叩かれた。
「いたーい!」
「近所迷惑よ。これから下船だってのにうるさくしないの」
「ぶーぶー!」
抗議の声。けど帰って来るのはドロちんの援護射撃でした。
「なんだぁあの嬢ちゃんは、あっちこっち駆けずり回ってしまいにゃあ甲板の先っちょで絶叫とは」
「この距離では、テトヴォの方にも見えてますわね」
「まったく恥ずかしい」
「味方は!? どこぞにわたしの味方はおりませんか!?」
みんなひどいよ! とくにあんずちゃんもひどいよ! この間しっぽりむふふで愛情を確かめあったじゃないですか!
「あんずちゃん!」
「なんですかその視線は」
「あんずちゃんはわたしの味方だよね!」
「あーはいはい、いい子だから」
「だいすきー!」
我がソウルシスターが両手を広げ「おいで」のサイン。
わたしは自分よりクッション性のあるふくらみに飛び込んだ。
吸引した。
うーんあまい香り。
「なんだこの茶番は」
「案ずるな。いつものことだ」
「いつもの事、ねぇ」
僧侶と一般中年ドクターが呆れた様子でこっちを見る。一方ロリっ子魔法少女は素知らぬ顔で、眼前に迫った船の目的地へと意識を寄せていた。
トレードマークのとんがり帽子を外し、私服という私服がないドロちんは、元の装備から上着をひとつ脱いでいた。それもそのはず。この海を渡る前まですこし暖かい程度だったのに、こちら側へ近づくほど太陽から感じる熱が強くなっていったんだ。空気もそれに熱せられて、ブッちゃん以外は渡航前の服より一枚キャストオフモード。ってか逆になんで脱がないの?
「暑いよ?」
あんず様の双峰から顔をすぽっと出してそっちを見る。対する青いローブ装備の僧侶さんは涼しい顔だ。
「問題ない。特殊な呼吸法を習得している」
(ふーん)
呼吸ひとつで変わるもんかね。
まいっか。わたしは栄養補給を終えてゆりかごから飛び出した。
「てーとゔぉー!」
「だからうるさいっての!」
「……はぁ。こいつらに付いてくのは間違いだったか?」
へへっ、今さら後悔しても遅いぜ中年!
わたしは再度甲板の先頭に立ち、すがすがしい笑顔で振り返ったのだ。
「ここがテトヴォか」
地に降り立って、まずはブッちゃんのひと言からはじまった。
「人は、思った以上に少ないですわね」
「港だからな。中心に向えば自然と増えるだろう。話を聞く限り、お前達はテトヴォに来たことが無いんだったな」
「サンダー殿はあるのか?」
「大昔にな。ほとんど忘れてるから頼らないほうがいいぜ。まあ、こっから見た感じは変わりねぇと思うが……」
サンダーさんの視線を追っかける。
大きな港。行き交う人は忙しなく走り、背負った大きな袋がモソモソと蠢いている。
そこからは、お魚さんの匂いがした。
「ようこそテトヴォへ。海と山の幸がどっちもいただける欲張りな港町だぜ」
「ッ!?」
サンダーさんが石畳をトントンとタップ。小気味よい音だ。
いんやそれよりも、今このやさぐれ中年お医者さんはなんと言いました?
「グレース、気が早いですわよ」
「おっと失礼」
ヨダレが地面に降り立ってましたわ。えー気を取り直していきましょう。
わたしたちは船から降りて、桟橋を渡って、石畳の港へ第一歩を踏みしめております。
立派だ。港の要所はすべて頑丈な石でできてて、船はただその隣に停泊するだけ。フラー側にあったような長い桟橋などはなく、その変わりに石を埋め立てて造られたものが機能していた。
「ほえー」
ギリギリまで迫って下を覗き込めば、海底にたくさんの小魚や貝殻が確認できた。これをすべて獲ったら何日保つだろう?
「暑いですわね」
「そうね。でも湿気が少ないし、ジメッとしたトコより快適よ」
「あ、わかる。あちこちカユくなるもんねー」
「グレース、それは湿気以外の原因なのではないですか?」
「こらガキども、いつまでボサッとしてるんだ。後ろに客がつかえてるだろ」
「っと、ごめんなさい」
サンダーさんに急かされ、わたしたちは港へ上陸した。そしてお空に注目。
「きれー」
「そうですわね。雲ひとつなくて、心地よい風ですわ」
「そうだな。テトヴォは海より大陸からの風が強くて過ごしやすいんだ。見てみろ」
博識ドクターが天空を指さして、けどその先は白い雲でも青い空でもなく緑の大地だった。
「あの山脈が独自の風を生み出すんだ。山頂からの降ろし風、山脈を沿うように流れる季節風もあれば、逆に盆地のようになって風が起こらなくなる場合もある」
「サンダーさん、物知りですわね」
「知識だけはな。長旅をしてると勝手に身につくんだ」
サンダーさんの言うとおり、今は港のほうから海へ強い風が吹いていた。
潮風というより緑と山の香り。
どっちかって言うと、今まで旅してきた道のりとだいたい同じ匂いがする。
きっとすごい山の幸が隠れてるに違いない!
「すごいねサンちゃん!」
「誰だそりゃ」
「じゃあランちゃん?」
「人の話を聞けこの」
ゴツン。
「いったぁー! ぶった! サンちゃんぶった!」
しかもゴツンだって!
「サンダーでいいつったろ」
「むー……もう、いいやそれで」
「なに敗北感たっぷりな顔してやがる。ほら、階段に足とられんなよ」
停泊所から階段を伝う。
ここからが本格的な港エリアだ。
見渡してみると、早速とれたてのお魚を売ってる店発見! よっしゃ行くぜぅお!?
「グレース、単独行動は会議の後にしてくださいな」
「ぐ、ぐるし、ちょっと離して首が」
「まったく」
存外パワー系のあんずちゃん。首の戒めを解き放っていただきまして、それではブッちゃんのお声かけより作戦タイムスタートです。
「では、宿を探すとするか。今回は少し滞在して仕事をしなければならぬな」
「はいはいはーい! グレースちゃん今回はウェイトレスさんにチャレンジしたいとおもいまーす!」
「やめておきなさい。店に迷惑がかかるわ」
「わたくしは武器屋でメンテナンスのバイトをしましょうかしら。ブーラーさんは宿を見つけた後どうしますの?」
「そうだな。まずは教会にて奉仕活動をしてから――」
「金が無いって言ってんのにバカなことしないでよね」
「……なるほどな」
それまでだんまりだったサンダーさん。妙に納得した様子でわたしたちのやり取りを眺めてる。
(にょ?)
彼の表情。
どこかで見たことある。
どこだっけ?
(オジサンといっしょだ)
探して探して、記憶を手探っていって、わたしはその答えにたどり着いた。