僧侶と医者のムービング
魔法やスキルにも理屈が求められる今日このごろ
「ああ、いいぜ」
「即答!?」
ビックリし過ぎて、思わず昭和のノリで跳ねちゃったぜ☆
(って、昭和ってなんだ?)
「なんだお嬢ちゃん。頭はカラッきしだが身体の動きははえーな」
「前半いらなくない?」
わりとマジな睨みつける攻撃。
しかし効果はいまひとつのようだ。
「いいから着替えてこい。さっきからおまえがソコにいるだけで悪臭が漂ってくるんだ」
「あっ」
わたしは自分の服を見下げた。
もわーん。
ハンカチのシトラスな香り完全敗北。
おけい、装備を変えよう。
「ちょっと消えます。あと嬢ちゃんじゃないしグレースだし」
シュバ!
わたしは影に隠れ事を成した。
そして秒で戻って来る。
「はえぇな、どこで着替えたんだ?」
「グレースの得意技ですわ」
あんずちゃんが誇らしい態度で答えた。
わたしも胸を張った。
何がとは言わんけど、ドロちんよりはあるけどあんずちゃんよりはないです。
「えっへん! 隠れられる場所ならいくらでもあるのだ! そーゆー場所見つけるのも隠密スキルのうちだよ! たとえばねぇ」
「あぁいい興味ない」
「おい」
わたしは暗殺者モードになった。
視線だけ。
「悪いが、若人の自己主張は年寄りの武勇伝に敵わぬもんさ」
自称年寄りがそんなことを言う。わたしはむーっとなりつつも、その年寄りさんをじっくり眺めてみた。
よく見ると小ジワが目立つ。もしかしてオジサンよかずっと年上? 白髪だし、そーいえばさっき男性を助けるときもブッちゃんにアシストしてもらってたな。緑のコート以外はマトモな服装してるのにぃと思いきや、そっちもサンダーさんの小ジワに負けず劣らずヨレヨレでござる。
サンダーって雷のことでしょ? こんなヨレヨレの雷ないわぁ。
(ヨレヨレのジーさんだからよれじぃ? それとも素直に省略してサンとか?)
いやいやどこのもののけプリンセスだよ。っていうか既にサンダーで略してるからそれ以上は。
「おい嬢ちゃん、俺の顔になんかついてるのか?」
「グレースですぅ! んもう」
後でしっかりインプットさせなきゃダメだね。なんてったって新しいオトモダチ候補なんだから。
それはそれとして別問題。
例の吐瀉物まみれになった装備の処遇。
いつも通りなら川につっこんでわしゃわしゃしちゃえば良くて、フラーみたいな街に寄った際しっかり洗濯するのがいつもの流れ。その例に沿うのであれば、ここにある丁度よい水場は船の底にありまする。
「海水で洗濯できないかな?」
「やめておけ」
ブッちゃんがブスッとした声で言った。
「海水は塩分が多いから服が痛むし色落ちするぞ」
「それは困る」
黒は黒でも闇に溶け込みやすい黒があるんです。
「そもそも海水は微生物の宝庫よ。そんなところで洗ったら逆に雑菌まみれになるじゃない」
とはドロちんの助言。
なるほど、じゃあやめとこう。
こっちが方針決定した一方で首を傾げるですわ少女がひとり。
「でも、海水浴って人気じゃないですか」
「それも塩分のおかげだな」
ニューオトモダチ候補が疲れた声を出した。
「塩分が一定量あることで、人体に有害となる雑菌の繁殖が抑えられるんだ。とはいえ海水は海水。運が悪けりゃ病気になるし、もともと身体が弱いヤツなんかはそのリスクが高い。まあ、娯楽と安全を天秤にした危険な遊びってことだ」
「詳しいな」
「俺は医者なんだ」
ばさぁ。
サンダーさんが緑のコートを広げ、その内側をさらけ出す。
見たこともないいろいろな器具、なんかの液体、それを注入するらしき道具まで。そりゃあガバつくわけだ。
わたしとあんずちゃんは驚いた。
ブッちゃんとドロちんは「やっぱりな」みたいな顔だった。
「俺はお前のように治療スキルを使えないが、必要な道具さえあれば患者を救える」
「なるほど、さっきの事態をつまらないと言った理由がわかったわ」
ドロちんの毒づきをスルーし、肌黒い僧侶に向き直った。
「ブーラーと言ったな。俺とあんたじゃ役割は被るがまったく同じじゃない。だからスカウトしようとしたんだろ?」
「いかにも。迷惑だったか?」
「まさか。むしろカニスに向かうと聞いてこっちも興味が湧いた。こんな老いぼれでよければ旅に同行させてもらえないか?」
おっちゃん、わりとノリノリである。
「ウチは賛成」
「あら、素直ですわね」
「回復役は多いに越したことはないってことよ。その代わり役立たずだったらすぐ見捨てるけどね」
「腕なら問題ない。なんなら、お前さんの寝違えた首も治療してやるぜ?」
「ッ! あんた気づいてたの?」
「ずっと庇ってたみたいだからな。で、そっちは?」
サンダーはこっちと別方向に視線を向ける。
「わたくしも賛成ですわ。心強い味方は何人いても大歓迎ですもの」
「決まったな」
「いやいやわたしは! わたしの意見は?」
「嬢ちゃんははじめから賛成だろ?」
「グレースだってば!」
わざとか? わざとなのか?
キルしちゃっていいのか?
「よろしくな。」
(はぁ……オジサンといいこの人といい、なんで年寄りさんはおしゃべり長いんだろ)
だーれも答えてくれない。
ふと遠くに目をやると、窓のむこうに新しい大地が浮かんでいた。
「即答!?」
ビックリし過ぎて、思わず昭和のノリで跳ねちゃったぜ☆
(って、昭和ってなんだ?)
「なんだお嬢ちゃん。頭はカラッきしだが身体の動きははえーな」
「前半いらなくない?」
わりとマジな睨みつける攻撃。
しかし効果はいまひとつのようだ。
「いいから着替えてこい。さっきからおまえがソコにいるだけで悪臭が漂ってくるんだ」
「あっ」
わたしは自分の服を見下げた。
もわーん。
ハンカチのシトラスな香り完全敗北。
おけい、装備を変えよう。
「ちょっと消えます。あと嬢ちゃんじゃないしグレースだし」
シュバ!
わたしは影に隠れ事を成した。
そして秒で戻って来る。
「はえぇな、どこで着替えたんだ?」
「グレースの得意技ですわ」
あんずちゃんが誇らしい態度で答えた。
わたしも胸を張った。
何がとは言わんけど、ドロちんよりはあるけどあんずちゃんよりはないです。
「えっへん! 隠れられる場所ならいくらでもあるのだ! そーゆー場所見つけるのも隠密スキルのうちだよ! たとえばねぇ」
「あぁいい興味ない」
「おい」
わたしは暗殺者モードになった。
視線だけ。
「悪いが、若人の自己主張は年寄りの武勇伝に敵わぬもんさ」
自称年寄りがそんなことを言う。わたしはむーっとなりつつも、その年寄りさんをじっくり眺めてみた。
よく見ると小ジワが目立つ。もしかしてオジサンよかずっと年上? 白髪だし、そーいえばさっき男性を助けるときもブッちゃんにアシストしてもらってたな。緑のコート以外はマトモな服装してるのにぃと思いきや、そっちもサンダーさんの小ジワに負けず劣らずヨレヨレでござる。
サンダーって雷のことでしょ? こんなヨレヨレの雷ないわぁ。
(ヨレヨレのジーさんだからよれじぃ? それとも素直に省略してサンとか?)
いやいやどこのもののけプリンセスだよ。っていうか既にサンダーで略してるからそれ以上は。
「おい嬢ちゃん、俺の顔になんかついてるのか?」
「グレースですぅ! んもう」
後でしっかりインプットさせなきゃダメだね。なんてったって新しいオトモダチ候補なんだから。
それはそれとして別問題。
例の吐瀉物まみれになった装備の処遇。
いつも通りなら川につっこんでわしゃわしゃしちゃえば良くて、フラーみたいな街に寄った際しっかり洗濯するのがいつもの流れ。その例に沿うのであれば、ここにある丁度よい水場は船の底にありまする。
「海水で洗濯できないかな?」
「やめておけ」
ブッちゃんがブスッとした声で言った。
「海水は塩分が多いから服が痛むし色落ちするぞ」
「それは困る」
黒は黒でも闇に溶け込みやすい黒があるんです。
「そもそも海水は微生物の宝庫よ。そんなところで洗ったら逆に雑菌まみれになるじゃない」
とはドロちんの助言。
なるほど、じゃあやめとこう。
こっちが方針決定した一方で首を傾げるですわ少女がひとり。
「でも、海水浴って人気じゃないですか」
「それも塩分のおかげだな」
ニューオトモダチ候補が疲れた声を出した。
「塩分が一定量あることで、人体に有害となる雑菌の繁殖が抑えられるんだ。とはいえ海水は海水。運が悪けりゃ病気になるし、もともと身体が弱いヤツなんかはそのリスクが高い。まあ、娯楽と安全を天秤にした危険な遊びってことだ」
「詳しいな」
「俺は医者なんだ」
ばさぁ。
サンダーさんが緑のコートを広げ、その内側をさらけ出す。
見たこともないいろいろな器具、なんかの液体、それを注入するらしき道具まで。そりゃあガバつくわけだ。
わたしとあんずちゃんは驚いた。
ブッちゃんとドロちんは「やっぱりな」みたいな顔だった。
「俺はお前のように治療スキルを使えないが、必要な道具さえあれば患者を救える」
「なるほど、さっきの事態をつまらないと言った理由がわかったわ」
ドロちんの毒づきをスルーし、肌黒い僧侶に向き直った。
「ブーラーと言ったな。俺とあんたじゃ役割は被るがまったく同じじゃない。だからスカウトしようとしたんだろ?」
「いかにも。迷惑だったか?」
「まさか。むしろカニスに向かうと聞いてこっちも興味が湧いた。こんな老いぼれでよければ旅に同行させてもらえないか?」
おっちゃん、わりとノリノリである。
「ウチは賛成」
「あら、素直ですわね」
「回復役は多いに越したことはないってことよ。その代わり役立たずだったらすぐ見捨てるけどね」
「腕なら問題ない。なんなら、お前さんの寝違えた首も治療してやるぜ?」
「ッ! あんた気づいてたの?」
「ずっと庇ってたみたいだからな。で、そっちは?」
サンダーはこっちと別方向に視線を向ける。
「わたくしも賛成ですわ。心強い味方は何人いても大歓迎ですもの」
「決まったな」
「いやいやわたしは! わたしの意見は?」
「嬢ちゃんははじめから賛成だろ?」
「グレースだってば!」
わざとか? わざとなのか?
キルしちゃっていいのか?
「よろしくな。」
(はぁ……オジサンといいこの人といい、なんで年寄りさんはおしゃべり長いんだろ)
だーれも答えてくれない。
ふと遠くに目をやると、窓のむこうに新しい大地が浮かんでいた。