隠しボスドラゴン、初見、レベリングなし、装備なし、アイテムなし
縛りプレイで最強ボス戦に挑め
大きな扉をくぐると、そこは洞窟だった。
整った道でなく、人の手が加えられた痕跡もない。ただありのままの石が転がっていて、ゴツゴツとした天然の岩と地形がわたしたちを迎え入れる。
それなのに、足元だけは不自然なほど道を形成している。まるで、来訪者に進むべきルートを伝えるかのように。
「ここは……」
わたしと同じ違和感を覚えたのだろうか。ブッちゃんが神妙な顔になって周囲を観察し、薄暗闇に包まれた空間を睨みつけた。
「ようやくゴールのようね」
「何があるかわかりませんわ。油断せず進みましょう」
急な雰囲気の変化。
それに伴う緊張。
一歩進んで、その後みんなが静止した理由。
あんずちゃんの一言で、硬直した身体に勇気がみなぎっていく。
足音が静寂を断ち切る。
音の反響。無機質な気配。生命は感じられない。
だれもいないはず。
それなのに、一歩進むごとに心臓を締め付けられるような恐怖感が身体を貫く。
「ッ!?」
なにかいる。
わたしはひと一倍敏感だ。
そう訓練してもらった。
だから感じるのは早かった。
「なに、この感覚」
「わかりませんわ。でも、なんだかとっても不安になってきましたわ」
「……何かいる」
その後すぐ、みんなもそれを理解した。
その正体はすぐにわかった。
「なるほど、そういうこと」
頬に水滴を垂らしつつ、ドロちんは引きつった笑みを浮かべた。
狭い一本道だった洞窟は、やがて大きく開けた領域にさしかかる。
まるでドームのように形成されたその空間。
中央に向かって下り坂になっており、周囲に地上への穴が無いにも関わらず、そこにはうっすらと光が溢れていた。その中心では燃え上がるような朱色のくりーちゃーがぐっすりおねんね中でした。
あかいうろこ。
あかいはね。
しろいつの。
どっからどーみてもドラゴンです。
はは、そりゃ生物としての本能が叫ぶわけだ。
「どーする?」
ひそひそ声で何の気なしに言ってみる。
たたかう? それともなかったことにする?
「どーするって、どうしますの?」
「やるしかないでしょ」
「どうやって、だ? ドラゴンなんぞ初めて相対する相手だぞ」
結論を出すまでみなさま凍結中。
近くに隠れられそうな岩陰なし。つまり、いまドラゴンくんが目を覚ませば強制戦闘待ったなしの運びとなりますが――あっ。
「……」
おめめ、きいろいです。
「……こんにちは」
有効的である可能性をワンチャン狙いつつ、わたしは精一杯の営業スマイルで手のひらを見せた。
わたしわるいあんさつしゃじゃないですよ。
さて相手のお返事は?
「グオオオオォォォォォォオオオオ"オ"オ"!!!!!」
洞窟が軋んだ。
ドラゴンが飛翔した。
こっちに来た。
「ヒィ!?」
わたしはが跳んだ。
その跡を鋭い尾が貫いた。
「やっぱこうなりますのね!」
「グレース! あんたが余計なことしたから!」
「そんなことないよ! ちゃんといー笑顔だったもん!」
「くぅ、牙を見せるのは威嚇の合図だったのかもしれん」
「ガビーン!」
合図なく四散する。ドラゴンはどれにタゲとるかんじ?
(って、こっちじゃん!)
めっちゃ睨んでる! こわ! はねブンブン!
(やだーくるなー!)
楽しくない鬼ごっこ開始。
背中にめっちゃ"死"を感じる。
そしてリアルに感じた熱と壁の変色。それだけで背後で何が起こってるか察した。
これブレスだ。
「わひゃあ!!」
反射的にジャンプした結果、地面すれすれに吐き出された炎のブレスは避けられたんですがちょっちやべーことになりました。
(あっ)
宙に浮いた。
動きを制御できない。
目の前にドラゴン。
あっちは飛行能力持ち。
こっち来てる。
詰んでね?
「グレース!」
だれかがわたしの名を叫ぶ。
ドラゴンの爪が眼前に迫り、ちょっとしてわたしマジで死――。
「たわけが!!」
「わッ!?」
寸前で別の巨体に身体をもってかれた。
そのまま地面に着地。正体はブッちゃんだった。
「気を抜くな! 油断すれば死ぬぞ」
「う、うん。ありがと」
体制を立て直す。油断したけど相手の動きは見切った。
「ドロちん!」
「わかってる!」
まずは飛行能力を奪う。
あいつは巨体だ。
飛んでるから強そうに見えるだけ。
地面に落としてしまえばただのオブジェ。
あとはわたしの独壇場。
的を絞らせず、確実にダメージを与えて仕留める。
「弱点属性ってあるのかしらね。スキル、氷!」
ドロちんの髪が青く輝く。髪が肩口の先まで伸びて、つららが数本召喚された。
それが飛び立ったドラゴンを追跡し、そのうち一本が翼に命中する。
「グアアアアア!!」
「効いてる! よっしゃ次いくわよ!」
また氷を唱え、こんどは前後左右から攻めていく。
命中するたびドラゴンの雄叫びが聞こえるが、飛行能力自体を奪う結果にはなってない。
「威力が足らんか。ドロシー! 最大火力でいくぞ!」
ブッちゃんが拳をぶつけ合わせ呪文を唱えた。
「猛き者もついには滅びぬ。スキル、勇猛!」
(わお!)
ドロちんの身体から黄色いオーラが!
「さんきゅー。よっしゃコレで……力は心に寄りて力たり。氷結の力、凍てつく刃となり世界を覆わん」
魔法少女が魔法少女っぽい呪文を唱え、その手がにわかに青く白く激しく光っていく。
髪の毛が地面まで垂れた。
「スキル、氷嵐!」
閃光。
炸裂。
洞窟に極寒の世界が生まれた。
(さっぶッ!)
生み出された氷が空へと舞っていく。
それは激しい螺旋となり、上空を青一色に染めた。
視認性ゼロ。
そこには無数の氷が飛び交っている。
ただの氷じゃない。
魔力の塊だ。
当然、当たれば痛い。
氷柱のようなピンポイント射撃じゃなく、空間全体を覆う面による攻撃。避けようもないそれが全方向からドラゴンの身体を襲った。
「ギャアアアアアアアアアアアア!!!」
悲鳴のような金切声。やがてドラゴンの巨体が氷嵐の中から現れボトリと堕ちていく。
身体中キズ。
動きが鈍ってる。
今ならいける。
「あんずちゃん!」
「了解ですわ!」
あんずちゃんが側面にまわる。
わたしはデコイ担当。ドラゴンの顔面に接近し、そのまま鼻先にナイフを突き立てる。
ガキィィン!
「ッ!?」
(かったーぁ)
手が痺れるぅ。
「あっ」
目と目が合う。
瞬間「コロス」というメッセージを受け取った。
口が開いて、
赤くなって、
「わひゃあ!?」
炎のブレスは横っ飛びで回避。
あんなの当たったら一瞬で骨になっちゃうよ。
でも時間は稼いだ。
「スキル、雪崩!」
ブッちゃんの補助スキルが乗っかった最大出力の攻撃。
ドラゴンの翼の根本に一点集中。
ドラゴンの鮮血も、その身体と同じく赤々と燃えていた。
「やったか!」
ブッちゃんの叫びと、ドラゴンの翼が宙に舞ったのはほぼ同時。苦悶にのたうつドラゴンにほんのり罪悪感を抱きつつ「勝てるかも」と思った――その可能性が頭をよぎった時だった。
「ッ!」
ドラゴンの全身から炎が吹き出した。
すべてが赤に染まった。
整った道でなく、人の手が加えられた痕跡もない。ただありのままの石が転がっていて、ゴツゴツとした天然の岩と地形がわたしたちを迎え入れる。
それなのに、足元だけは不自然なほど道を形成している。まるで、来訪者に進むべきルートを伝えるかのように。
「ここは……」
わたしと同じ違和感を覚えたのだろうか。ブッちゃんが神妙な顔になって周囲を観察し、薄暗闇に包まれた空間を睨みつけた。
「ようやくゴールのようね」
「何があるかわかりませんわ。油断せず進みましょう」
急な雰囲気の変化。
それに伴う緊張。
一歩進んで、その後みんなが静止した理由。
あんずちゃんの一言で、硬直した身体に勇気がみなぎっていく。
足音が静寂を断ち切る。
音の反響。無機質な気配。生命は感じられない。
だれもいないはず。
それなのに、一歩進むごとに心臓を締め付けられるような恐怖感が身体を貫く。
「ッ!?」
なにかいる。
わたしはひと一倍敏感だ。
そう訓練してもらった。
だから感じるのは早かった。
「なに、この感覚」
「わかりませんわ。でも、なんだかとっても不安になってきましたわ」
「……何かいる」
その後すぐ、みんなもそれを理解した。
その正体はすぐにわかった。
「なるほど、そういうこと」
頬に水滴を垂らしつつ、ドロちんは引きつった笑みを浮かべた。
狭い一本道だった洞窟は、やがて大きく開けた領域にさしかかる。
まるでドームのように形成されたその空間。
中央に向かって下り坂になっており、周囲に地上への穴が無いにも関わらず、そこにはうっすらと光が溢れていた。その中心では燃え上がるような朱色のくりーちゃーがぐっすりおねんね中でした。
あかいうろこ。
あかいはね。
しろいつの。
どっからどーみてもドラゴンです。
はは、そりゃ生物としての本能が叫ぶわけだ。
「どーする?」
ひそひそ声で何の気なしに言ってみる。
たたかう? それともなかったことにする?
「どーするって、どうしますの?」
「やるしかないでしょ」
「どうやって、だ? ドラゴンなんぞ初めて相対する相手だぞ」
結論を出すまでみなさま凍結中。
近くに隠れられそうな岩陰なし。つまり、いまドラゴンくんが目を覚ませば強制戦闘待ったなしの運びとなりますが――あっ。
「……」
おめめ、きいろいです。
「……こんにちは」
有効的である可能性をワンチャン狙いつつ、わたしは精一杯の営業スマイルで手のひらを見せた。
わたしわるいあんさつしゃじゃないですよ。
さて相手のお返事は?
「グオオオオォォォォォォオオオオ"オ"オ"!!!!!」
洞窟が軋んだ。
ドラゴンが飛翔した。
こっちに来た。
「ヒィ!?」
わたしはが跳んだ。
その跡を鋭い尾が貫いた。
「やっぱこうなりますのね!」
「グレース! あんたが余計なことしたから!」
「そんなことないよ! ちゃんといー笑顔だったもん!」
「くぅ、牙を見せるのは威嚇の合図だったのかもしれん」
「ガビーン!」
合図なく四散する。ドラゴンはどれにタゲとるかんじ?
(って、こっちじゃん!)
めっちゃ睨んでる! こわ! はねブンブン!
(やだーくるなー!)
楽しくない鬼ごっこ開始。
背中にめっちゃ"死"を感じる。
そしてリアルに感じた熱と壁の変色。それだけで背後で何が起こってるか察した。
これブレスだ。
「わひゃあ!!」
反射的にジャンプした結果、地面すれすれに吐き出された炎のブレスは避けられたんですがちょっちやべーことになりました。
(あっ)
宙に浮いた。
動きを制御できない。
目の前にドラゴン。
あっちは飛行能力持ち。
こっち来てる。
詰んでね?
「グレース!」
だれかがわたしの名を叫ぶ。
ドラゴンの爪が眼前に迫り、ちょっとしてわたしマジで死――。
「たわけが!!」
「わッ!?」
寸前で別の巨体に身体をもってかれた。
そのまま地面に着地。正体はブッちゃんだった。
「気を抜くな! 油断すれば死ぬぞ」
「う、うん。ありがと」
体制を立て直す。油断したけど相手の動きは見切った。
「ドロちん!」
「わかってる!」
まずは飛行能力を奪う。
あいつは巨体だ。
飛んでるから強そうに見えるだけ。
地面に落としてしまえばただのオブジェ。
あとはわたしの独壇場。
的を絞らせず、確実にダメージを与えて仕留める。
「弱点属性ってあるのかしらね。スキル、氷!」
ドロちんの髪が青く輝く。髪が肩口の先まで伸びて、つららが数本召喚された。
それが飛び立ったドラゴンを追跡し、そのうち一本が翼に命中する。
「グアアアアア!!」
「効いてる! よっしゃ次いくわよ!」
また氷を唱え、こんどは前後左右から攻めていく。
命中するたびドラゴンの雄叫びが聞こえるが、飛行能力自体を奪う結果にはなってない。
「威力が足らんか。ドロシー! 最大火力でいくぞ!」
ブッちゃんが拳をぶつけ合わせ呪文を唱えた。
「猛き者もついには滅びぬ。スキル、勇猛!」
(わお!)
ドロちんの身体から黄色いオーラが!
「さんきゅー。よっしゃコレで……力は心に寄りて力たり。氷結の力、凍てつく刃となり世界を覆わん」
魔法少女が魔法少女っぽい呪文を唱え、その手がにわかに青く白く激しく光っていく。
髪の毛が地面まで垂れた。
「スキル、氷嵐!」
閃光。
炸裂。
洞窟に極寒の世界が生まれた。
(さっぶッ!)
生み出された氷が空へと舞っていく。
それは激しい螺旋となり、上空を青一色に染めた。
視認性ゼロ。
そこには無数の氷が飛び交っている。
ただの氷じゃない。
魔力の塊だ。
当然、当たれば痛い。
氷柱のようなピンポイント射撃じゃなく、空間全体を覆う面による攻撃。避けようもないそれが全方向からドラゴンの身体を襲った。
「ギャアアアアアアアアアアアア!!!」
悲鳴のような金切声。やがてドラゴンの巨体が氷嵐の中から現れボトリと堕ちていく。
身体中キズ。
動きが鈍ってる。
今ならいける。
「あんずちゃん!」
「了解ですわ!」
あんずちゃんが側面にまわる。
わたしはデコイ担当。ドラゴンの顔面に接近し、そのまま鼻先にナイフを突き立てる。
ガキィィン!
「ッ!?」
(かったーぁ)
手が痺れるぅ。
「あっ」
目と目が合う。
瞬間「コロス」というメッセージを受け取った。
口が開いて、
赤くなって、
「わひゃあ!?」
炎のブレスは横っ飛びで回避。
あんなの当たったら一瞬で骨になっちゃうよ。
でも時間は稼いだ。
「スキル、雪崩!」
ブッちゃんの補助スキルが乗っかった最大出力の攻撃。
ドラゴンの翼の根本に一点集中。
ドラゴンの鮮血も、その身体と同じく赤々と燃えていた。
「やったか!」
ブッちゃんの叫びと、ドラゴンの翼が宙に舞ったのはほぼ同時。苦悶にのたうつドラゴンにほんのり罪悪感を抱きつつ「勝てるかも」と思った――その可能性が頭をよぎった時だった。
「ッ!」
ドラゴンの全身から炎が吹き出した。
すべてが赤に染まった。