天才犬ジーニアス
誰から見て天才か? ここが最も重要だ
「こんにちは」
「こんにちは!」
まっしろい世界のなか、わたしはまっくろい犬とフレンドリーにハイタッチした。
いつ来てもおもしろい空間だ。すべてが白一色なのに地面がある。
わたしはここに立っている。それでいて上も下もなく右も左もない。あるのはひとりといっぴきだけだ。
「うーん、いっぴきといっぴきじゃないかな」
「わん?」
わたしは首をかしげた。
その後すぐぴょんと飛び出した。
狙いはわんちゃん。
飛行機っぽく飛び出して鳥さんっぽく着地。
腕は横にフライングスタイル。
なお足はフラミンゴ。
目と鼻の先に犬の鼻。
「今日はなんのごよーですか?」
「キミは好奇心旺盛だよね」
会話の切り出しから核心をつくスタイル? そうです。わたしは何でも首をつっこむタイプです。
「キミはいろんな仲間と巡り合ってきたよね」
「うん」
「道すがら、もしくは街の中で。世界にはまだたくさんの仲間がいるよね」
「うん」
「キミがオトモダチと言う異世界人は」
「この世界の人もたくさんいるよ!」
オジサンとかその親友の大道芸人とか。
「みんなオトモダチだよ!」
「まあそれはそうだけどさ」
わんちゃん、本日はちょっとしどろもどろ。
「どしたの?」
「うーん、旅の目的地へ一直線ってのもいいけど、たまに寄り道してみるのも悪くないんじゃないかなーってボクは思うんだ」
「うん」
「だからさ、たまーに好奇心を発揮してみたくはないかい?」
「?」
つまりどゆこと?
「あーもういいや。なんか疲れた」
「疲れたの? だいじょうぶ?」
触れられる位置にわんこの鼻があって、わたしはそれにスッと手を伸ばした。
手のひらにやわらかい感触が伝わる。それから頭にまわしてそっと撫でる。それまで無表情だった犬の顔がどことなく和らいだように感じ、耳としっぽはハッキリと喜びの意思を伝えてくれた。
「ありがとう。キミはやさしいね」
「してほしいことがあるの?」
「うん。デバッグ的なことなんだけど」
「でばっぐ」
なにそれ。
「気にしないで。キミがいる街にちょっとした隠し要素があるってことさ。問題は、その調整がうまくいったか確かめたいんだ」
(隠し要素)
そのワードだけで気になるんですけど。
「何を確かめて欲しいの?」
「無理強いはしないけど、もしよかったらギルドの依頼を受けてくれるかな」
(なるほど、ギルドから依頼が来るんだ)
他ならぬオトモダチの頼みならてやんでい! でもみんながどうするかだよね。
真面目なブッちゃんは目的優先しそうだし、ドロちんなんかは目に見えて反対しそう。あんずちゃんは、まあわたしの説得次第かな?
「ほんとうはあの人の助けを借りたかったんだけど……こっちの動きがバレて先立たれちゃったみたいだからね」
「あの人って?」
「ほら、キミが変身してぶん投げたあの人さ」
「あっ」
さくらだ。
「もしかして知り合いなの?」
「うん、まあ……積極的にデバッグしてくれるのはありがたいんだけど、あまりやりすぎないでほしいんだよなぁ」
わんちゃんどこか上の空。もしかしたら、わたし以外にもたくさんの人と出会ってるのかもしれない。
「そうそう、いつまでも"わんちゃん"じゃ都合が悪いからね」
「あっ」
夢から醒める。
わたしは感覚でそれを悟った。と同時に犬の姿がおぼろげになり、自分自身の存在感すらこの世界から薄れていく。
「ボクの名前はジーニアス。遠い未来、もしくは近い未来。どこかで会えるかもしれないね」
こちらの返事を待たず、ジーニアスは霞に消え気配もなくなった。
「ジーニアス……なんかかっこいー名前だ」
どんな意味なんだろう?
ニックネームはどうしたらいいかな?
「じっちゃん、ジー、にゃす、じす、うーん」
迷う。
「ねえどうしたらいい?」
「いきなりなんですの?」
「えっ」
目の前にあんずちゃんがいた。
「あっ」
ここは現実だ。
わたしはほっぺをつねって再確認した。
「痛いのですけど?」
「夢じゃない」
「いきなりなんですの?」
レモンイエローのワンピースに身を包んだ少女はジトっとした目になった。
「めずらしくお寝坊さんですわね」
などと供述。その言葉通り、窓から差し込む光は角度をもちはじめ、ひんやりした石畳に幾分の熱を送り込んでいる。
かったいベッドでも寝られるもんで、むしろ快適さマックスな空間から足を出すと、朝の空気に身体が温められて、徐々に眠気がさよならしてく。
「おいしいものたべたい」
「まだ寝ぼけてますのね」
あんずちゃんは呆れ風味の顔。
「それよりも、はやく支度をしてくださいな」
「なんで?」
「ギルドから緊急の要件ですって」
(さっそくですか)
わたしは夢の中で出会ったジーちゃんの姿を思い出していた。
うーん。
ジーちゃんはないわ。
わんこのニックネーム問題は後回しだ。
「どうしました?」
「ううん、なんでも。じゃあ行こっか」
「こんにちは!」
まっしろい世界のなか、わたしはまっくろい犬とフレンドリーにハイタッチした。
いつ来てもおもしろい空間だ。すべてが白一色なのに地面がある。
わたしはここに立っている。それでいて上も下もなく右も左もない。あるのはひとりといっぴきだけだ。
「うーん、いっぴきといっぴきじゃないかな」
「わん?」
わたしは首をかしげた。
その後すぐぴょんと飛び出した。
狙いはわんちゃん。
飛行機っぽく飛び出して鳥さんっぽく着地。
腕は横にフライングスタイル。
なお足はフラミンゴ。
目と鼻の先に犬の鼻。
「今日はなんのごよーですか?」
「キミは好奇心旺盛だよね」
会話の切り出しから核心をつくスタイル? そうです。わたしは何でも首をつっこむタイプです。
「キミはいろんな仲間と巡り合ってきたよね」
「うん」
「道すがら、もしくは街の中で。世界にはまだたくさんの仲間がいるよね」
「うん」
「キミがオトモダチと言う異世界人は」
「この世界の人もたくさんいるよ!」
オジサンとかその親友の大道芸人とか。
「みんなオトモダチだよ!」
「まあそれはそうだけどさ」
わんちゃん、本日はちょっとしどろもどろ。
「どしたの?」
「うーん、旅の目的地へ一直線ってのもいいけど、たまに寄り道してみるのも悪くないんじゃないかなーってボクは思うんだ」
「うん」
「だからさ、たまーに好奇心を発揮してみたくはないかい?」
「?」
つまりどゆこと?
「あーもういいや。なんか疲れた」
「疲れたの? だいじょうぶ?」
触れられる位置にわんこの鼻があって、わたしはそれにスッと手を伸ばした。
手のひらにやわらかい感触が伝わる。それから頭にまわしてそっと撫でる。それまで無表情だった犬の顔がどことなく和らいだように感じ、耳としっぽはハッキリと喜びの意思を伝えてくれた。
「ありがとう。キミはやさしいね」
「してほしいことがあるの?」
「うん。デバッグ的なことなんだけど」
「でばっぐ」
なにそれ。
「気にしないで。キミがいる街にちょっとした隠し要素があるってことさ。問題は、その調整がうまくいったか確かめたいんだ」
(隠し要素)
そのワードだけで気になるんですけど。
「何を確かめて欲しいの?」
「無理強いはしないけど、もしよかったらギルドの依頼を受けてくれるかな」
(なるほど、ギルドから依頼が来るんだ)
他ならぬオトモダチの頼みならてやんでい! でもみんながどうするかだよね。
真面目なブッちゃんは目的優先しそうだし、ドロちんなんかは目に見えて反対しそう。あんずちゃんは、まあわたしの説得次第かな?
「ほんとうはあの人の助けを借りたかったんだけど……こっちの動きがバレて先立たれちゃったみたいだからね」
「あの人って?」
「ほら、キミが変身してぶん投げたあの人さ」
「あっ」
さくらだ。
「もしかして知り合いなの?」
「うん、まあ……積極的にデバッグしてくれるのはありがたいんだけど、あまりやりすぎないでほしいんだよなぁ」
わんちゃんどこか上の空。もしかしたら、わたし以外にもたくさんの人と出会ってるのかもしれない。
「そうそう、いつまでも"わんちゃん"じゃ都合が悪いからね」
「あっ」
夢から醒める。
わたしは感覚でそれを悟った。と同時に犬の姿がおぼろげになり、自分自身の存在感すらこの世界から薄れていく。
「ボクの名前はジーニアス。遠い未来、もしくは近い未来。どこかで会えるかもしれないね」
こちらの返事を待たず、ジーニアスは霞に消え気配もなくなった。
「ジーニアス……なんかかっこいー名前だ」
どんな意味なんだろう?
ニックネームはどうしたらいいかな?
「じっちゃん、ジー、にゃす、じす、うーん」
迷う。
「ねえどうしたらいい?」
「いきなりなんですの?」
「えっ」
目の前にあんずちゃんがいた。
「あっ」
ここは現実だ。
わたしはほっぺをつねって再確認した。
「痛いのですけど?」
「夢じゃない」
「いきなりなんですの?」
レモンイエローのワンピースに身を包んだ少女はジトっとした目になった。
「めずらしくお寝坊さんですわね」
などと供述。その言葉通り、窓から差し込む光は角度をもちはじめ、ひんやりした石畳に幾分の熱を送り込んでいる。
かったいベッドでも寝られるもんで、むしろ快適さマックスな空間から足を出すと、朝の空気に身体が温められて、徐々に眠気がさよならしてく。
「おいしいものたべたい」
「まだ寝ぼけてますのね」
あんずちゃんは呆れ風味の顔。
「それよりも、はやく支度をしてくださいな」
「なんで?」
「ギルドから緊急の要件ですって」
(さっそくですか)
わたしは夢の中で出会ったジーちゃんの姿を思い出していた。
うーん。
ジーちゃんはないわ。
わんこのニックネーム問題は後回しだ。
「どうしました?」
「ううん、なんでも。じゃあ行こっか」