エクストラダンジョン
本編とは関係ない要素って痺れるよね
行かざるを得ないよね
行かざるを得ないよね
「図書館にヒミツの地下室、ですか」
そんなあんずちゃんの一言からお話が始まった。
ここはギルド、レブリエーロ支部。あんずちゃんに急かされ私服に着替えた後、お宿の入口で待つ黒いのと白いのに引っ張られトボトボ歩いてきました。
至急だって。朝食ぬきで。
ふざけんな。
意地でも食うと建物の壁に手を伸ばしふんばる。ドロちんが引き剥がしにかかるもなんのその。あんずさま言い出しっぺの折衷案にて開店直後の屋台へとなだれこみ、とりあえず乾パンとりんごっぽいくだものひとつをいただきました。本当はおにくが良かったんだけどなぁ。
あとは最短距離でギルドへ到着。ブッちゃんが受け付けさんになんか言って、すぐに上の階へと案内された。
上のさらに上の階。ガチャリと扉が開かれ、人目見てわからせられる高級感。
(……いごこちわるいです)
どっちかってとこじんまりした藁の上のがいーなぁ、なんて。
相変わらず石造りだけど、床は超高級カーペットっぽいなにかで敷き詰められてる。歩くとボフボフというかボソボソ的な音がした。これが高級の音か、暗殺者ジョブにとって脅威かもしれない。
入口から落ち着いたシックな雰囲気。正面奥にご立派な机がありまして、部屋中央に焦茶と黒のソファー。
わたしたちはそれに座ってる。
真ん中は交渉お得意のブッちゃん。
入口に近いほうに話を聞きたいあんずちゃん。
そして、いちばん長い時間事情聴取受けたっぽいわたしグレースちゃん。
こっちは長椅子。向かい側は個人用のソファーになってて、そこに偉そうな人がふたり腰を下ろしてた。
あんずちゃんの前にはギルドの受け付けさんと同じ、それよりちょっぴり装飾された服の人。淡い茶髪をまっすぐ肩口まで伸ばし、とメガネが真面目そうな印象だった。その隣には軍服? みたいな装備のおじちゃんが被っていた帽子を脱ぎ捨て、黒髪に白髪が交じるダンディな髪型とちょび髭を披露してた。
「以前の持ち主が設計したのでしょう。かなりの道楽家でしたから」
窓から取り入れる光のほか、取り付けられたシャンデリアが揺れながら淡いクリーム色の光を放っている。そこから乱反射する光のひとつが目の前の男性に差し込んだ。
「盗賊が利用していた可能性を踏まえ調査してみたところ、どうやらかなり複雑な内部構造をしているようでして……捜査が難航しているのです」
「なるほど、我々にその調査と報告を依頼したいということか」
「まさしく」
男は我が意を得たりと笑顔を向ける。
「今回の騒動を収めた立役者と聞いております。もちろん、国としての依頼なので報酬額を期待してくれても構いませんぞ」
それって交渉スマイル?
スパイクといい、どーしてこの世界のちょび髭は胡散臭いのか。
「いかがかな?」
その提案にしばし黙り込むブッちゃん。真っ黒いソファーにいつでも真っ青な僧侶服。そして黒い顎に指を当てつつ渋い顔になる。
「本来の旅を優先させたいところだが」
「それに関してはコンクルージョンに問い合わせ済みです」
と、ギルドのおねーさんが言った。
「お伺いしてみたところ、みなさまはコンクルージョンから超極秘の任務を充てられているとか」
ですよね? って顔をされたのでとりあえず肯定しておく。
「そのような重要な任務を預けられている方たちであればなおさら信頼に足ると判断させていただきました。ぜひとも」
「許可を得ている、ということですか?」
「はい」
あんずちゃんの問いに瞬で返答。
旅団としての行動とはいえ、ブッちゃんとドロちんは旅団所属でないからあまり関係ない。逆にわたしとあんずちゃんは旅団の許可なしに別行動していいものか考えなきゃいけなかった。
その枷が取り払われた。
「本来ならコンクルージョン団長のさくら殿も同席していただきたかったのだが、残念ながら事情聴取終了早々、街を離れてしまったとお伺いした。だからこ皆さんの助力が必要なのです」
(んー、なんか外堀埋められてる感マシマシなんですけど?)
さてはこの展開知ってて逃げ出したなさくらっち?
よし、こんど出会ったときはさくらっちに決定だ。
(さてどうしよう?)
顔を見合わせシンキングタイム。
そのついでに気紛れがてら、部屋のあっちこっちを見渡してみると、空きスペースを無駄にしない調度品の数々が所狭しと並んでる。緑あり、壁には絵画がかけられ、風景画に人物画など種類は様々。
(ん?)
ふとドロちんの後ろ姿が目に入る。人が描かれた油絵? に集中して何事かをぶつぶつ呟いていた。
「これが伝説の魔術師ケルベロス……」
(すっげー夢中)
ジャマすんの悪いかな。
「うちは構わないわよ」
「うぇ?」
まさかのご意見いただきました。
そーいや今回のドロちん、いつもならまっさきに大反対しそーだけどぜんぜんだわ。どういう風の吹き回し?
ブッちゃんも驚き、訝し気に一瞥。
「ドロシー?」
「なによ、文句ある?」
「じゃあ決まりだね!」
わたしも行きたい。
あのわんちゃんが言ってたイベントはまさにコレだ。
好奇心がムクムクしてきた!
「グレース、わたくしたちは今大事な任務中なのですよ」
「旅団がいいよって言ってるんでしょ? じゃあへーきだよ」
「それはそうですが、例えば他のギルドの方にお願いするというのは」
「どこも人手不足でして……他支部も当たってみたのですが、このレベルに対応できる人材はアナタ方しか該当しませんでした」
対して申し訳無さそうでないリアクション。
こりゃ完全に外堀埋立地ですわ。
あんずちゃん、撃沈。が、めげない。
「ではせめて、現時点での情報をいただけませんと」
「それはご安心ください」
待ってましたと言わんばかりに、ギルドのおねーさんがサイドから資料を取り出した。
「こちらに必要な情報はすべて揃っています」
「図書館の被害状況、入口の位置、判明している内部経路図など知りうる限りの情報を詰めてあります」
「……準備がよろしいようで」
これにはブッちゃんも仏頂面。
うまい具合に誘導されてますありがとうございます。
まあ、こっちとしても興味津々だし?
ジーニアスの助言もあるし?
やらない理由はとくにないし?
「やっちゃおうよ!」
「フッ、グレースがそう言うなら決まりだな」
はじめてまっくろ僧侶の笑顔が見れた。
それから細かい作戦タイムが始まった。
装備やアイテムはギルドから提供してくれるらしい。ありがたいことに装備も新調してもらえるそうだけど、この前買ったばかりなので追加ぶんの暗器だけ注文して済ませた。あんずちゃんは久方ぶりの重鎧。手入れ用の油と道具一式をリクエストし、滅多に手に入らないらしいブレナム産? の最高級品に目を輝かせていた。
ブッちゃんは自身が旅団員じゃないと言って慎ましく辞退。ドロちんは遠慮なくメタクソ高い書物を注文してギルドのおねーさんの唇を引きつらせてた。
アイテム潤沢。準備万端。好奇心もりもり。
今すぐにでも行こう。すぐ行こう!
「んじゃ、はりきってこー!」
ギルド入口の扉を開け、わたしは図書館探索の第一歩を踏み出した。
そんなあんずちゃんの一言からお話が始まった。
ここはギルド、レブリエーロ支部。あんずちゃんに急かされ私服に着替えた後、お宿の入口で待つ黒いのと白いのに引っ張られトボトボ歩いてきました。
至急だって。朝食ぬきで。
ふざけんな。
意地でも食うと建物の壁に手を伸ばしふんばる。ドロちんが引き剥がしにかかるもなんのその。あんずさま言い出しっぺの折衷案にて開店直後の屋台へとなだれこみ、とりあえず乾パンとりんごっぽいくだものひとつをいただきました。本当はおにくが良かったんだけどなぁ。
あとは最短距離でギルドへ到着。ブッちゃんが受け付けさんになんか言って、すぐに上の階へと案内された。
上のさらに上の階。ガチャリと扉が開かれ、人目見てわからせられる高級感。
(……いごこちわるいです)
どっちかってとこじんまりした藁の上のがいーなぁ、なんて。
相変わらず石造りだけど、床は超高級カーペットっぽいなにかで敷き詰められてる。歩くとボフボフというかボソボソ的な音がした。これが高級の音か、暗殺者ジョブにとって脅威かもしれない。
入口から落ち着いたシックな雰囲気。正面奥にご立派な机がありまして、部屋中央に焦茶と黒のソファー。
わたしたちはそれに座ってる。
真ん中は交渉お得意のブッちゃん。
入口に近いほうに話を聞きたいあんずちゃん。
そして、いちばん長い時間事情聴取受けたっぽいわたしグレースちゃん。
こっちは長椅子。向かい側は個人用のソファーになってて、そこに偉そうな人がふたり腰を下ろしてた。
あんずちゃんの前にはギルドの受け付けさんと同じ、それよりちょっぴり装飾された服の人。淡い茶髪をまっすぐ肩口まで伸ばし、とメガネが真面目そうな印象だった。その隣には軍服? みたいな装備のおじちゃんが被っていた帽子を脱ぎ捨て、黒髪に白髪が交じるダンディな髪型とちょび髭を披露してた。
「以前の持ち主が設計したのでしょう。かなりの道楽家でしたから」
窓から取り入れる光のほか、取り付けられたシャンデリアが揺れながら淡いクリーム色の光を放っている。そこから乱反射する光のひとつが目の前の男性に差し込んだ。
「盗賊が利用していた可能性を踏まえ調査してみたところ、どうやらかなり複雑な内部構造をしているようでして……捜査が難航しているのです」
「なるほど、我々にその調査と報告を依頼したいということか」
「まさしく」
男は我が意を得たりと笑顔を向ける。
「今回の騒動を収めた立役者と聞いております。もちろん、国としての依頼なので報酬額を期待してくれても構いませんぞ」
それって交渉スマイル?
スパイクといい、どーしてこの世界のちょび髭は胡散臭いのか。
「いかがかな?」
その提案にしばし黙り込むブッちゃん。真っ黒いソファーにいつでも真っ青な僧侶服。そして黒い顎に指を当てつつ渋い顔になる。
「本来の旅を優先させたいところだが」
「それに関してはコンクルージョンに問い合わせ済みです」
と、ギルドのおねーさんが言った。
「お伺いしてみたところ、みなさまはコンクルージョンから超極秘の任務を充てられているとか」
ですよね? って顔をされたのでとりあえず肯定しておく。
「そのような重要な任務を預けられている方たちであればなおさら信頼に足ると判断させていただきました。ぜひとも」
「許可を得ている、ということですか?」
「はい」
あんずちゃんの問いに瞬で返答。
旅団としての行動とはいえ、ブッちゃんとドロちんは旅団所属でないからあまり関係ない。逆にわたしとあんずちゃんは旅団の許可なしに別行動していいものか考えなきゃいけなかった。
その枷が取り払われた。
「本来ならコンクルージョン団長のさくら殿も同席していただきたかったのだが、残念ながら事情聴取終了早々、街を離れてしまったとお伺いした。だからこ皆さんの助力が必要なのです」
(んー、なんか外堀埋められてる感マシマシなんですけど?)
さてはこの展開知ってて逃げ出したなさくらっち?
よし、こんど出会ったときはさくらっちに決定だ。
(さてどうしよう?)
顔を見合わせシンキングタイム。
そのついでに気紛れがてら、部屋のあっちこっちを見渡してみると、空きスペースを無駄にしない調度品の数々が所狭しと並んでる。緑あり、壁には絵画がかけられ、風景画に人物画など種類は様々。
(ん?)
ふとドロちんの後ろ姿が目に入る。人が描かれた油絵? に集中して何事かをぶつぶつ呟いていた。
「これが伝説の魔術師ケルベロス……」
(すっげー夢中)
ジャマすんの悪いかな。
「うちは構わないわよ」
「うぇ?」
まさかのご意見いただきました。
そーいや今回のドロちん、いつもならまっさきに大反対しそーだけどぜんぜんだわ。どういう風の吹き回し?
ブッちゃんも驚き、訝し気に一瞥。
「ドロシー?」
「なによ、文句ある?」
「じゃあ決まりだね!」
わたしも行きたい。
あのわんちゃんが言ってたイベントはまさにコレだ。
好奇心がムクムクしてきた!
「グレース、わたくしたちは今大事な任務中なのですよ」
「旅団がいいよって言ってるんでしょ? じゃあへーきだよ」
「それはそうですが、例えば他のギルドの方にお願いするというのは」
「どこも人手不足でして……他支部も当たってみたのですが、このレベルに対応できる人材はアナタ方しか該当しませんでした」
対して申し訳無さそうでないリアクション。
こりゃ完全に外堀埋立地ですわ。
あんずちゃん、撃沈。が、めげない。
「ではせめて、現時点での情報をいただけませんと」
「それはご安心ください」
待ってましたと言わんばかりに、ギルドのおねーさんがサイドから資料を取り出した。
「こちらに必要な情報はすべて揃っています」
「図書館の被害状況、入口の位置、判明している内部経路図など知りうる限りの情報を詰めてあります」
「……準備がよろしいようで」
これにはブッちゃんも仏頂面。
うまい具合に誘導されてますありがとうございます。
まあ、こっちとしても興味津々だし?
ジーニアスの助言もあるし?
やらない理由はとくにないし?
「やっちゃおうよ!」
「フッ、グレースがそう言うなら決まりだな」
はじめてまっくろ僧侶の笑顔が見れた。
それから細かい作戦タイムが始まった。
装備やアイテムはギルドから提供してくれるらしい。ありがたいことに装備も新調してもらえるそうだけど、この前買ったばかりなので追加ぶんの暗器だけ注文して済ませた。あんずちゃんは久方ぶりの重鎧。手入れ用の油と道具一式をリクエストし、滅多に手に入らないらしいブレナム産? の最高級品に目を輝かせていた。
ブッちゃんは自身が旅団員じゃないと言って慎ましく辞退。ドロちんは遠慮なくメタクソ高い書物を注文してギルドのおねーさんの唇を引きつらせてた。
アイテム潤沢。準備万端。好奇心もりもり。
今すぐにでも行こう。すぐ行こう!
「んじゃ、はりきってこー!」
ギルド入口の扉を開け、わたしは図書館探索の第一歩を踏み出した。