次出会う時はふたりで
犬に「じっとしてろ」は無理な話
まるいちにち事情聴取されたわ。
せまーい部屋。
ちっちゃい机。
パイプ椅子。
鉄格子がかけられた窓。
こちらを向く厳つい顔のオッサン。
部屋の隅っこで記録とる若いの。
異世界感皆無。
そこでうん時間。
脚がぼー。
(お疲れの言葉もなし。せめてサンキューキャンディくらいよこしてくんない?)
次の日も取り調べよ?
同じこと何回もなんかいも聞かれてイヤんなる。
ようやく開放され建物の外に出たわたし。
日差しがまぶしい。
自由にできなかった身体がギシギシ言う。
いの一番にジャンプ。
うん、やっぱちょっと身体が硬いかも。
私服が乱れた以外に問題なし。
お役所の入口を警備する人が驚いた様子でこっちを見る。
異世界人とこの世界の住人では身体能力が異なる。
わたしたちは元から三階くらいまで届く強さ。
けど、こっちの人たちは修行を積んでそうなっていく。
驚かれるのも無理はない。
こちとらオジサンに鍛えられてるからもうアレよ。
ひとっとびでレブリエーロの端から端よ。
(ってのは言い過ぎか)
わたしはお役所を出た。
あてもなく? いいえ、空腹です。
足は自然と市場へ向かう。
野菜、果物、魚におにく。
喧騒とお金の音の中。
まずは鼻で味わってる最中、うしろから声がかかった。
「よ」
「あ、さくら」
腰まで伸びる長い黒髪。
頭頂部のまんなかから額にかけて白い。
ツギハギが目立つ赤と黒と白の服。
それだけで人を殺せそうな眼差し。
相変わらずカッケーっす。
「開放されたみたいだな」
「んもう、あの後どこ行っちゃったの?」
「レブリエーロの外。うるさい連中に絡まれたくなかったんだが」
言って、後頭部をぽりぽり。
「ったくおれのこと言うなよメンドくせぇ」
「見つかっちゃったの?」
「まあな。おかげで予定が一日狂った」
「そうなんだ」
「ギルドからも呼び出し喰らってるし、おれは逃げるもとい目的を果たさなきゃいけないからさっさと街を出るぜ」
それでいいのかコンクルージョン団長。
いいのかな、いいんだろうな、じゆうだし。
ダメだったりギルドがなんかするでしょう。
これにはグレースちゃんノータッチ。
そのかわり、ふと浮かんだ疑問を投げかけよう。
「なんでイギーくんいるの?」
さくらの眉が下がった。
目が棒になった。
しょぼーん。
「ついてくんだよ」
「なんで?」
「いっしょがいい」
イギーくんに聞いた。
さくらの足に抱きついた。
さくらは絶望顔になった。
「帰れよ」
「ヤだ」
「薬屋のジジババが心配してんだろ」
「いいって言ってくれたもん」
そして自分が持ってた道具をアピール。
中にはたくさんの薬草類、なんかの本、そして大切なもの。
黒い丸薬も紛れ込んでる。
微妙に焦げ臭い。なにそれ火薬?
「一人前だし、おねーちゃんに付いてく」
「あぁぁぁグレース! このガキなんとかしてくれよぉ」
「走って逃げちゃえばいいじゃん」
「追いかけるよ!」
イギーくん、脚力には自信があるようだ。
でも残念。たとえキミの走力が反則級だったとしても、
おねーちゃんの素早さはチート級なんだよね。
って顔でアイコンタクト。
そしたら意外なリターン。
「それで迷子になったらどうすんだよ……メンドウだろ」
(およ?)
おかしいな。
いつもの彼女なら絡まれるほうが面倒くさいと思うだろうに。
一昨日の晩みたいにさっさと退散しちゃうだろうに。
イギーくんのことは引き剥がさないの?
なんでだろうね?
(んっふふ~ふしぎだねさくらちゃん)
やっぱ性根はやさしいおねーさんだね!
「なんだよその目は」
「ううん、なんでも」
あ、そうだ。
「奢って」
「なぜそうなる」
「逃げたでしょ」
「無駄だった」
「イチバンがんばったのわたしだもん」
「トドメ刺したのはおれ」
「おなかすいた!」
「勝手にしろ」
「ぶー」
けちんぼ。
「ケチじゃねえ。今のうちに人間の資本経済とやらを学んどけ」
「あ、まって!」
後で役に立つから。
そう言って、彼女は通り過ぎていく。
その後を少年がついていく。
わたしはそれを見送った。
「じゃーな! おれはここを出るから」
「イギーくんはどうするの?」
いっしょに連れてくの?
返事はなかった。
でも、こんど会ったときはふたりな気がした。
「とりあえずメシだ」
天気がいい。
空気もいい。
気分もいい。
こんな日はおにくに限る。
わたしは銅貨を取り出し、
屋台のおっちゃんに注文しようとして、
その隣りにある高そうなおにくにときめいた。
値段を見る。
まっじかよ高ぇ。
わたしは諦めた。
くそう、これがさくらの言う資本経済というものか。
(この時こそ隠密スキルの出番です?)
冗談ですごめんなさい。
わたしはアツアツの串焼きを片手に街へ繰り出した。
せまーい部屋。
ちっちゃい机。
パイプ椅子。
鉄格子がかけられた窓。
こちらを向く厳つい顔のオッサン。
部屋の隅っこで記録とる若いの。
異世界感皆無。
そこでうん時間。
脚がぼー。
(お疲れの言葉もなし。せめてサンキューキャンディくらいよこしてくんない?)
次の日も取り調べよ?
同じこと何回もなんかいも聞かれてイヤんなる。
ようやく開放され建物の外に出たわたし。
日差しがまぶしい。
自由にできなかった身体がギシギシ言う。
いの一番にジャンプ。
うん、やっぱちょっと身体が硬いかも。
私服が乱れた以外に問題なし。
お役所の入口を警備する人が驚いた様子でこっちを見る。
異世界人とこの世界の住人では身体能力が異なる。
わたしたちは元から三階くらいまで届く強さ。
けど、こっちの人たちは修行を積んでそうなっていく。
驚かれるのも無理はない。
こちとらオジサンに鍛えられてるからもうアレよ。
ひとっとびでレブリエーロの端から端よ。
(ってのは言い過ぎか)
わたしはお役所を出た。
あてもなく? いいえ、空腹です。
足は自然と市場へ向かう。
野菜、果物、魚におにく。
喧騒とお金の音の中。
まずは鼻で味わってる最中、うしろから声がかかった。
「よ」
「あ、さくら」
腰まで伸びる長い黒髪。
頭頂部のまんなかから額にかけて白い。
ツギハギが目立つ赤と黒と白の服。
それだけで人を殺せそうな眼差し。
相変わらずカッケーっす。
「開放されたみたいだな」
「んもう、あの後どこ行っちゃったの?」
「レブリエーロの外。うるさい連中に絡まれたくなかったんだが」
言って、後頭部をぽりぽり。
「ったくおれのこと言うなよメンドくせぇ」
「見つかっちゃったの?」
「まあな。おかげで予定が一日狂った」
「そうなんだ」
「ギルドからも呼び出し喰らってるし、おれは逃げるもとい目的を果たさなきゃいけないからさっさと街を出るぜ」
それでいいのかコンクルージョン団長。
いいのかな、いいんだろうな、じゆうだし。
ダメだったりギルドがなんかするでしょう。
これにはグレースちゃんノータッチ。
そのかわり、ふと浮かんだ疑問を投げかけよう。
「なんでイギーくんいるの?」
さくらの眉が下がった。
目が棒になった。
しょぼーん。
「ついてくんだよ」
「なんで?」
「いっしょがいい」
イギーくんに聞いた。
さくらの足に抱きついた。
さくらは絶望顔になった。
「帰れよ」
「ヤだ」
「薬屋のジジババが心配してんだろ」
「いいって言ってくれたもん」
そして自分が持ってた道具をアピール。
中にはたくさんの薬草類、なんかの本、そして大切なもの。
黒い丸薬も紛れ込んでる。
微妙に焦げ臭い。なにそれ火薬?
「一人前だし、おねーちゃんに付いてく」
「あぁぁぁグレース! このガキなんとかしてくれよぉ」
「走って逃げちゃえばいいじゃん」
「追いかけるよ!」
イギーくん、脚力には自信があるようだ。
でも残念。たとえキミの走力が反則級だったとしても、
おねーちゃんの素早さはチート級なんだよね。
って顔でアイコンタクト。
そしたら意外なリターン。
「それで迷子になったらどうすんだよ……メンドウだろ」
(およ?)
おかしいな。
いつもの彼女なら絡まれるほうが面倒くさいと思うだろうに。
一昨日の晩みたいにさっさと退散しちゃうだろうに。
イギーくんのことは引き剥がさないの?
なんでだろうね?
(んっふふ~ふしぎだねさくらちゃん)
やっぱ性根はやさしいおねーさんだね!
「なんだよその目は」
「ううん、なんでも」
あ、そうだ。
「奢って」
「なぜそうなる」
「逃げたでしょ」
「無駄だった」
「イチバンがんばったのわたしだもん」
「トドメ刺したのはおれ」
「おなかすいた!」
「勝手にしろ」
「ぶー」
けちんぼ。
「ケチじゃねえ。今のうちに人間の資本経済とやらを学んどけ」
「あ、まって!」
後で役に立つから。
そう言って、彼女は通り過ぎていく。
その後を少年がついていく。
わたしはそれを見送った。
「じゃーな! おれはここを出るから」
「イギーくんはどうするの?」
いっしょに連れてくの?
返事はなかった。
でも、こんど会ったときはふたりな気がした。
「とりあえずメシだ」
天気がいい。
空気もいい。
気分もいい。
こんな日はおにくに限る。
わたしは銅貨を取り出し、
屋台のおっちゃんに注文しようとして、
その隣りにある高そうなおにくにときめいた。
値段を見る。
まっじかよ高ぇ。
わたしは諦めた。
くそう、これがさくらの言う資本経済というものか。
(この時こそ隠密スキルの出番です?)
冗談ですごめんなさい。
わたしはアツアツの串焼きを片手に街へ繰り出した。