だれかの上にだれかがいる
だれかの下にもだれかがいる
職業病ということばがあるそうです。
普段の生活のなかで、ついつい仕事に関する物事に着目しちゃったり、仕事の動きを再現しちゃったりする現象。それを今実感してるところです。
(ちらちら、こそこそ)
石でできたおうち。カタくて丈夫だけどいろんなデザインに加工するのは難しいから、多くの建物は四角くて死角がない。太陽の影も明るい街並みに隠密性を失っており、複雑な地形が少なく直線的な道路がそれに拍車をかけていた。
「アサシンのクセか?」
さくらがこっちの様子に気付いた。
「楽しそうだな。しっぽが見えてんぞ、ブンブンしてるわ」
「えへへ、わかる?」
今までとちがった力感のない声色で彼女は言った。まさか買ってそのまま着てくれるとは思わないじゃん? 今のさくらはもはや少女って言っちゃってもいいくらいなかわいさ。お店を出てすぐ見せた仕草があって、こう、周囲の視線から逃れるようちょっと恥ずかしそうにうつむいたんよ。
いよ! さくらちゃん!
もにょもにょ言葉にできない独り言をつぶやきつつこっちに抗議の視線を向けたのね、困り眉的なアレで。あ、装備は変えられるけど身体のパーツはそのままなので、さくらの人を威圧するような視線は健在なのよ。だけど、そのキレ目が逆に嗜虐心をくすぐるっていうか、なんかここまでキュートなの卑怯くさくない?
他者を寄せ付けない雰囲気を出していた女傑が、今はフリフリのピンク柄に身を包んで冗談を口にしてくれる。
ちょっぴり、ううん、すっごく心の距離が近くなったと実感できてうれしくなった。
「しっぽかー……そうかも」
もし、わたしに尻尾が付いてたらそんな風になってると思う。っていうか実際にそうだったなぁ――あれ。
(ちがうちがう、わたし人間だししっぽなんてあるわけ……あるわけ)
なかったっけ? そう疑問に思った瞬間、わたしの脳裏に様々な景色がフラッシュバックした。
そびえ立つ建物。それらを見渡して心と身体を弾ませる自分。たくさんの人、それに仲間たちを見つけて、それで――。
「で、おれはいつまでこのカッコしてりゃいいんだ」
モヤモヤした幻想は、となりを歩くさくらによってかき消された。疑問に思い返すことなく、わたしは少女然とした出で立ちのさくらに物申す。
「ずっと」
「ぬかせ」
グチりつつ付き合ってくれる。まあ彼女の衣服がこっちの在庫にある以上着替えることはできないんだけど。
でもなんやかんやで付き合ってくれるし、今のさくらだったらみんなにモテモテだよ。だって今でもほら、すれ違う人がだいたいさくらのほうを見てるってわたしは? ちょっと通行人さん? たまーにグレースちゃん派がいてくれてもいいんじゃない?
「レブリエーロ。石造りの街。陽気で温暖な気候。まったくどこを参考にしたんだか」
だれに聞かせるでもなく少女はそう言った。
「そういえばブッちゃんが、あ、ブッちゃんってあの僧侶のおっきなおとこの人ね。そのブッちゃんがこの街は人が増えてどんどん大きくなってったって言ってたよ」
「知ってる」
少女はシレッと答えた。
「まるで計画都市だ。追加の区画を土地を確保しては拡張し、水流を制御して住居や施設を揃えていく。日本でいう平安京みたいなもんさ」
「へーあんきょー」
あー、なんか聞いたことあるかも。しらんけど。
そんな難しい話は後にして、せっかくさくらと一緒にいるのだからもっと彼女のことを知りたいな。
「ねえねえ、さくらってどんなひと?」
「いきなりだな」
「どうやってここに来たの?」
「卵に押し付けられて」
「なにそれ?」
「気にすんな」
(むー、なんか煙に巻かれた気がする)
「わたしはおにくが好き! さくらは?」
「強いて言えば自由だな」
さくらは自分の手のひらをじっと見て、それから遥か遠くの空へと視線を移した。
「さっさと目覚めて、このくっそくだらないゲームの開発者にクレームつけてやりたいぜ」
アイスクリームみたいにもくもくと高く積み上がった雲。下から見るとその表面はやや黒ずんでいて、生ぬるい風と同じ方向に流れていく。湿気が増えた空気を切り裂いて、わたしとさくらは当てもなく足を進めていく。
「さくらちゃんは」
「ちゃんはやめろ」
「さくらちゃんは、この世界のことどこまで知ってるの?」
「聞けよ」
ケンカ腰の少女。それでも、これだけは聞かなきゃいけない。
「スナップとキャサリン。あのふたりはあなたのオトモダチ?」
「んなわけあるか。知り合いでもねーし知りたくもねー。ただ」
「ただ?」
少女は前を見て歩く。けどその目は誰も何も捉えることなく、彼女のあたまの中にあるなにかを見据えているようだった。
「やつらも単なる傀儡だ。この世界をぶっ壊したくて仕方ねえバカに乗せられちまってんのさ」
さくらは誰かを見てる。ここにいない誰かを。
「少し前な……この世界について粗方理解できたと思ってたら、ある日いきなり新しいスキルを覚えたんだ」
「へー、なんて?」
「変身」
さくらは、まるで獲物を仕留める直前の猛禽類のような目でわたしを刺した。
「おまえの仕業だろ」
「うーん、うん」
とくに隠すことでもないし、わたしは素直にこくりと頷いた。
「龍脈の水飲んだだろ」
「ちょ」
なぜ知ってるし。いやでも違うんだよ。飲んだというより飲まされたというか。
「なるほどな」
わたしの態度で察したのか、それとも鑑定スキルを使ったのか。少女はピンクのひらひらを周囲の男性に出血大サービスしつつ、また何かを考える素振りを見せる。
「またな」
「え?」
急なおことばに振り向いたとき、さくらはすでにピンクスタイルを放棄し例の黒と白と赤のファッションにすげ替えていた。
(え?)
ちょっとまってその衣装わたしの異次元空間にあるはずじゃ。
「あ、ちょっと!?」
ちょっといきなり? もうちょいガールズトークしよーよ! このままじゃガールセルフトークになっちゃうじゃん。
なんて思い虚しく、完全体さくらは人混みに紛れ大通りから逸れていく。あまりの美しさに振り向いたおとこの人を、となりのガールがひっぱたく音が響いた。
「んもう、なんでクールキャラって自己紹介してくんないかなぁ」
さくらってばおしゃべりなようで肝心な部分をなーんにも教えてくんない。まるであのわんこみたい。でも。
(その気になればいつでも元の姿に戻れたってことかぁ)
それってつまり、わたしと一緒にいる時間だけでもあのカッコでいてくれたってことだよね?
ツンツンがデレてくれたってことだよね?
(っべ)
うれしすぎて鼻血が出そうです。
「っと、そうじゃなくて」
うーんこの後どうしよ。お話に集中してて気づかなかったけど、すこし入り組んだ立地にあった服屋さんから離れ、今は人通りの多い大通りへと移動していた。
上を見る。きれーな雲は雲だけど、てっぺんの太陽さんはちょっち傾き気味。とはいえ光の色は変わらず白く、集合時間までまだ余裕ありますね。
「じゃ、本来の目的を果たすとしましょ」
わたしは良さげで機能的な装備一式を求め街へと繰り出した。そうだ、あとでブッちゃんに鑑定スキル教わろーっと。
(え? さくらからもらった本はどうすんのって?)
ヤだなー、静かな部屋で本を読むなんて、考えただけで頭がフットーしそーだよお。
普段の生活のなかで、ついつい仕事に関する物事に着目しちゃったり、仕事の動きを再現しちゃったりする現象。それを今実感してるところです。
(ちらちら、こそこそ)
石でできたおうち。カタくて丈夫だけどいろんなデザインに加工するのは難しいから、多くの建物は四角くて死角がない。太陽の影も明るい街並みに隠密性を失っており、複雑な地形が少なく直線的な道路がそれに拍車をかけていた。
「アサシンのクセか?」
さくらがこっちの様子に気付いた。
「楽しそうだな。しっぽが見えてんぞ、ブンブンしてるわ」
「えへへ、わかる?」
今までとちがった力感のない声色で彼女は言った。まさか買ってそのまま着てくれるとは思わないじゃん? 今のさくらはもはや少女って言っちゃってもいいくらいなかわいさ。お店を出てすぐ見せた仕草があって、こう、周囲の視線から逃れるようちょっと恥ずかしそうにうつむいたんよ。
いよ! さくらちゃん!
もにょもにょ言葉にできない独り言をつぶやきつつこっちに抗議の視線を向けたのね、困り眉的なアレで。あ、装備は変えられるけど身体のパーツはそのままなので、さくらの人を威圧するような視線は健在なのよ。だけど、そのキレ目が逆に嗜虐心をくすぐるっていうか、なんかここまでキュートなの卑怯くさくない?
他者を寄せ付けない雰囲気を出していた女傑が、今はフリフリのピンク柄に身を包んで冗談を口にしてくれる。
ちょっぴり、ううん、すっごく心の距離が近くなったと実感できてうれしくなった。
「しっぽかー……そうかも」
もし、わたしに尻尾が付いてたらそんな風になってると思う。っていうか実際にそうだったなぁ――あれ。
(ちがうちがう、わたし人間だししっぽなんてあるわけ……あるわけ)
なかったっけ? そう疑問に思った瞬間、わたしの脳裏に様々な景色がフラッシュバックした。
そびえ立つ建物。それらを見渡して心と身体を弾ませる自分。たくさんの人、それに仲間たちを見つけて、それで――。
「で、おれはいつまでこのカッコしてりゃいいんだ」
モヤモヤした幻想は、となりを歩くさくらによってかき消された。疑問に思い返すことなく、わたしは少女然とした出で立ちのさくらに物申す。
「ずっと」
「ぬかせ」
グチりつつ付き合ってくれる。まあ彼女の衣服がこっちの在庫にある以上着替えることはできないんだけど。
でもなんやかんやで付き合ってくれるし、今のさくらだったらみんなにモテモテだよ。だって今でもほら、すれ違う人がだいたいさくらのほうを見てるってわたしは? ちょっと通行人さん? たまーにグレースちゃん派がいてくれてもいいんじゃない?
「レブリエーロ。石造りの街。陽気で温暖な気候。まったくどこを参考にしたんだか」
だれに聞かせるでもなく少女はそう言った。
「そういえばブッちゃんが、あ、ブッちゃんってあの僧侶のおっきなおとこの人ね。そのブッちゃんがこの街は人が増えてどんどん大きくなってったって言ってたよ」
「知ってる」
少女はシレッと答えた。
「まるで計画都市だ。追加の区画を土地を確保しては拡張し、水流を制御して住居や施設を揃えていく。日本でいう平安京みたいなもんさ」
「へーあんきょー」
あー、なんか聞いたことあるかも。しらんけど。
そんな難しい話は後にして、せっかくさくらと一緒にいるのだからもっと彼女のことを知りたいな。
「ねえねえ、さくらってどんなひと?」
「いきなりだな」
「どうやってここに来たの?」
「卵に押し付けられて」
「なにそれ?」
「気にすんな」
(むー、なんか煙に巻かれた気がする)
「わたしはおにくが好き! さくらは?」
「強いて言えば自由だな」
さくらは自分の手のひらをじっと見て、それから遥か遠くの空へと視線を移した。
「さっさと目覚めて、このくっそくだらないゲームの開発者にクレームつけてやりたいぜ」
アイスクリームみたいにもくもくと高く積み上がった雲。下から見るとその表面はやや黒ずんでいて、生ぬるい風と同じ方向に流れていく。湿気が増えた空気を切り裂いて、わたしとさくらは当てもなく足を進めていく。
「さくらちゃんは」
「ちゃんはやめろ」
「さくらちゃんは、この世界のことどこまで知ってるの?」
「聞けよ」
ケンカ腰の少女。それでも、これだけは聞かなきゃいけない。
「スナップとキャサリン。あのふたりはあなたのオトモダチ?」
「んなわけあるか。知り合いでもねーし知りたくもねー。ただ」
「ただ?」
少女は前を見て歩く。けどその目は誰も何も捉えることなく、彼女のあたまの中にあるなにかを見据えているようだった。
「やつらも単なる傀儡だ。この世界をぶっ壊したくて仕方ねえバカに乗せられちまってんのさ」
さくらは誰かを見てる。ここにいない誰かを。
「少し前な……この世界について粗方理解できたと思ってたら、ある日いきなり新しいスキルを覚えたんだ」
「へー、なんて?」
「変身」
さくらは、まるで獲物を仕留める直前の猛禽類のような目でわたしを刺した。
「おまえの仕業だろ」
「うーん、うん」
とくに隠すことでもないし、わたしは素直にこくりと頷いた。
「龍脈の水飲んだだろ」
「ちょ」
なぜ知ってるし。いやでも違うんだよ。飲んだというより飲まされたというか。
「なるほどな」
わたしの態度で察したのか、それとも鑑定スキルを使ったのか。少女はピンクのひらひらを周囲の男性に出血大サービスしつつ、また何かを考える素振りを見せる。
「またな」
「え?」
急なおことばに振り向いたとき、さくらはすでにピンクスタイルを放棄し例の黒と白と赤のファッションにすげ替えていた。
(え?)
ちょっとまってその衣装わたしの異次元空間にあるはずじゃ。
「あ、ちょっと!?」
ちょっといきなり? もうちょいガールズトークしよーよ! このままじゃガールセルフトークになっちゃうじゃん。
なんて思い虚しく、完全体さくらは人混みに紛れ大通りから逸れていく。あまりの美しさに振り向いたおとこの人を、となりのガールがひっぱたく音が響いた。
「んもう、なんでクールキャラって自己紹介してくんないかなぁ」
さくらってばおしゃべりなようで肝心な部分をなーんにも教えてくんない。まるであのわんこみたい。でも。
(その気になればいつでも元の姿に戻れたってことかぁ)
それってつまり、わたしと一緒にいる時間だけでもあのカッコでいてくれたってことだよね?
ツンツンがデレてくれたってことだよね?
(っべ)
うれしすぎて鼻血が出そうです。
「っと、そうじゃなくて」
うーんこの後どうしよ。お話に集中してて気づかなかったけど、すこし入り組んだ立地にあった服屋さんから離れ、今は人通りの多い大通りへと移動していた。
上を見る。きれーな雲は雲だけど、てっぺんの太陽さんはちょっち傾き気味。とはいえ光の色は変わらず白く、集合時間までまだ余裕ありますね。
「じゃ、本来の目的を果たすとしましょ」
わたしは良さげで機能的な装備一式を求め街へと繰り出した。そうだ、あとでブッちゃんに鑑定スキル教わろーっと。
(え? さくらからもらった本はどうすんのって?)
ヤだなー、静かな部屋で本を読むなんて、考えただけで頭がフットーしそーだよお。