急な仕事依頼
そろそろ新しい犬が登場しますよ
「また盗賊騒ぎ?」
わたしは天然の石でできたテーブルに顔半分を突っ伏した状態でブッちゃんのほうを向いた。
交渉事はだいたいブッちゃんのお役目だ。我らがパーティーのなかでもいちばんの社交性をもつ僧侶っぽい見た目の人。顔がデカく威圧感マシマシなのが気にかかるけど、だからこそナメた態度をとられにくい。
街中を歩き回ったあと、みんな集合場所にあつまってブッちゃんの案内で宿にたどり着いた。わたしは疲れた足を休めるためすぐ近場のテーブルを確保しつつ、流れで軽くダベりつつ今後の作戦会議の運びとなった。そうしたら、ブッちゃんが「気になる情報があるな」なんて言うんだもん。
「現在、レブリエーロのギルド支部が各種旅団や個人に協力要請している。ヤツらは巧みに追手をかわし、この街に大きな拠点を作ろうとしているようだ」
ここが石の街なら、宿もぜんぶ石造りだった。まるで大きな岩をくり抜いたような全体像で、それを利用した天然の石によるイスやテーブルもある。周囲に人だかりは少なく、多くは夜に向け街へ繰り出していったようだ。
「ガラリーでキネレットちゃんを襲ったあの連中ですか」
あんずちゃんが語気を強めに言う。たぶん、あの出来事を思い出したんだろう。あんずちゃんやわたしが助けたからなんとかなったものの、一歩間違えば幼い少女の命が散らされるところだった。
シャンデリアの温かい光に見下され、四人の異世界人は石のひんやりした感触に包まれている。
「許せません。わたくしたちに何か協力できることはありませんの?」
心の中で賛同しつつ、その思いを表現しようと思ったところで反対意見が飛び出した。
「うちらには関係ないでしょ。さっき電話で問い合わせてみたけどあっちも無理強いしないって言ってたし」
「え」
なんかスゲーワードが飛び出したんだけど。おかげで盗賊へのヘイトとかいろいろ吹っ飛んだ。
「でんわ?」
真顔でロリっ子を見つめると、ロリっ子も真顔でこっちを見返した。なんだこの時間。
「電話に決まってるじゃない」
言って、魔法少女は魔法のごとく指先に小さな魔法陣を生み出した。それは青く、少女の手のひらにすっぽり入るような二次元フォルムで、少女の髪もまたほんのり青みがかっている。
(初耳なのですがそれは)
っていう気配を察したドロちん。まさかといったような表情で見返し追加のお言葉。
「知らなかったの?」
「はじめて見ましたわ」
それに答えたのはあんずちゃんだった。ドロちんはあんずちゃんにも唖然とした表情で見返し、ブッちゃんまでもちょっち目を見開いてやりとりを眺めている。
「アンタら今までどうやって生きてきたのよ」
「そこまで!?」
「う、うむ……便利なスキル故、後で二人にレクチャーしよう。それは別として本筋だが、いちおうギルド支部に問い合わせようと思う」
「それならうちも行くわ。いろいろと更新しなきゃいけないものあるし」
スキルの件はともかく、ギルドからの要請に関しては興味ある。あとで鑑定スキルも教わろうと画策しつつ、本日の作戦会議は早めの切り上げとなった。で、やることないし本日はゆっくりおやすみといきたいところだったのですが。
「まじで?」
石のベッドである。さっすが石の街! じゃなくて。
「寝れる?」
指の関節で叩いてみる。こんこんと軽くて良い響き。手のひらでスリスリしてみたところ、しっとりかつヒンヤリな感触が神経を駆け巡っていき、暑い日は天国だろうなぁなんて思いに駆られる。
残念ながら、夏はもう少し先だ。そして何より、わたしがオフトゥンに求めているクッション性のクの字もない。お宿代金は代表で支払ってくれたブッちゃんに返したけど、寝具に関してはお値段以上の家具をお求めしたくなる今日このごろ。
「寝袋を使えばいいじゃない」
と、有言実行にベッドの上でさらに寝袋にまるまるドロちん。そうきたかと関心するわけもなく、わたしはさらに目を配らせ、すでに石の上で熟睡中の僧侶に向かって「マジかよこいつ」的な視線をプレゼントした。
「イタくない? ぜったい朝起きたときあっちこっちイタイよ」
月の明かりは完全に遮断され、ここには魔法でもない油とロープでこしらえた炎だけが灯っている。どこに引火するおそれもなく、皿に乗せられたそれは石の台座にて、部屋を囲むように備え付けられていた。
「野宿よりはマシですわ。それに冷たくて気持ち良いのではなくて?」
そういうあんずちゃんも石の上に布、緩衝材、毛布を重ねてからのダイブである。そりゃそうするよねと思いつつ、自分にあてがわれた硬さハードマックスなベッドへ同じような創意工夫を重ねてく。
「はぁ~あ。ふっかふかのオフトゥンがよかったのに」
手近な灯火だけを消す。四方を青みがかった石壁に囲われた、ほんのり光が失われた空間のなかで、わたしはゆっくりと目を閉じ、あのわんちゃんに会えるかな? なんて空想に耽りながら夢の世界へと落ちていった。
石のベッドじゃん? あちこちカタいじゃん? だから節々が痛くなったり寝違えちゃったりするかもじゃん?
「びっくり仰天」
全快だよ。いつぶりだろうこの感覚。
「なにしてんの?」
むくりと起き上がったイモムシ、じゃなくてドロちんとその身体が収まった寝袋。彼女の髪の毛自体はウェーブがかったパツキンショートヘアだけど、寝相が悪いのか髪の毛の質の問題なのか、毎度のこと寝癖がありますねん。ブサッとした表情につんつんした寝癖。そんな姿を見て、ドロちんがまだ子どもなんだなぁってわかるのだ。
「なにしてんの?」
ドロちんがリピートした。わたしは手を振ってノーサインを出した。
「石の床というのも存外悪くない」
この場にいるだれもが「それはオメーだけだよ」とツッコミを入れたくなるセリフを吐きつつ、ブッちゃんはいつもの青い僧侶服でベッドから立ち上がる。異空間へ自分の道具を出し入れできるスキルを覚えてからは、みんな着の身着のままレベルの最低限の道具しか常備してない。
「ここからすこし歩いた場所にレブリエーロ支部がある。料金には食事代も含まれている故、まずは腹ごしらえしてから行こう」
「さんせーい!」
各々の準備を整えつつ、わたしたちは階下にくだりおいしいごはんを食べた。本格的な石焼きのピザ! あとなんか穀物と豆と野菜をたくさん煮込んだスープ! おにくも食べて元気百倍になりつつ、お宿の主人にお礼を言いつつ、我らの足はギルド支部へと進んでいきました。
青い空、白い雲、行き交う人々は笑顔に薄着で陽気な服装。とても盗賊騒ぎが起こってる街には見えない。要請とのギャップに頭をひねりつつ、先頭を進むブッちゃんは一軒の建物の前で停止する。
「ここだ」
同じように石造り。けど少し赤みがかったレンガで組み立てられており、扉は木製で窓もある。レンガはすべて同じ色じゃなくすこし茶色っぽかったり白みがさしていたり、それが建物の風情を生み出していて、窓枠に飾られた紫の花もまた存在を主張していた。
扉が開かれる。内装は石がメインではあるけど、フラーのそれとほぼ同じような作りになっている。室内を見渡していると、エントランスの一角に見覚えのある先客が腰掛けていた。
「よう」
赤と黒と白。自前であることが見てわかるツギハギ具合の衣装。クールで堂々とした出で立ちに、澄み渡った黒の長髪は頭頂部から額の部分にかけてまっしろくなっている。
「あ、さくら!」
「またなって言っただろう?」
さくらは人を切り裂けるような鋭い目をこちらに向けた。
わたしは天然の石でできたテーブルに顔半分を突っ伏した状態でブッちゃんのほうを向いた。
交渉事はだいたいブッちゃんのお役目だ。我らがパーティーのなかでもいちばんの社交性をもつ僧侶っぽい見た目の人。顔がデカく威圧感マシマシなのが気にかかるけど、だからこそナメた態度をとられにくい。
街中を歩き回ったあと、みんな集合場所にあつまってブッちゃんの案内で宿にたどり着いた。わたしは疲れた足を休めるためすぐ近場のテーブルを確保しつつ、流れで軽くダベりつつ今後の作戦会議の運びとなった。そうしたら、ブッちゃんが「気になる情報があるな」なんて言うんだもん。
「現在、レブリエーロのギルド支部が各種旅団や個人に協力要請している。ヤツらは巧みに追手をかわし、この街に大きな拠点を作ろうとしているようだ」
ここが石の街なら、宿もぜんぶ石造りだった。まるで大きな岩をくり抜いたような全体像で、それを利用した天然の石によるイスやテーブルもある。周囲に人だかりは少なく、多くは夜に向け街へ繰り出していったようだ。
「ガラリーでキネレットちゃんを襲ったあの連中ですか」
あんずちゃんが語気を強めに言う。たぶん、あの出来事を思い出したんだろう。あんずちゃんやわたしが助けたからなんとかなったものの、一歩間違えば幼い少女の命が散らされるところだった。
シャンデリアの温かい光に見下され、四人の異世界人は石のひんやりした感触に包まれている。
「許せません。わたくしたちに何か協力できることはありませんの?」
心の中で賛同しつつ、その思いを表現しようと思ったところで反対意見が飛び出した。
「うちらには関係ないでしょ。さっき電話で問い合わせてみたけどあっちも無理強いしないって言ってたし」
「え」
なんかスゲーワードが飛び出したんだけど。おかげで盗賊へのヘイトとかいろいろ吹っ飛んだ。
「でんわ?」
真顔でロリっ子を見つめると、ロリっ子も真顔でこっちを見返した。なんだこの時間。
「電話に決まってるじゃない」
言って、魔法少女は魔法のごとく指先に小さな魔法陣を生み出した。それは青く、少女の手のひらにすっぽり入るような二次元フォルムで、少女の髪もまたほんのり青みがかっている。
(初耳なのですがそれは)
っていう気配を察したドロちん。まさかといったような表情で見返し追加のお言葉。
「知らなかったの?」
「はじめて見ましたわ」
それに答えたのはあんずちゃんだった。ドロちんはあんずちゃんにも唖然とした表情で見返し、ブッちゃんまでもちょっち目を見開いてやりとりを眺めている。
「アンタら今までどうやって生きてきたのよ」
「そこまで!?」
「う、うむ……便利なスキル故、後で二人にレクチャーしよう。それは別として本筋だが、いちおうギルド支部に問い合わせようと思う」
「それならうちも行くわ。いろいろと更新しなきゃいけないものあるし」
スキルの件はともかく、ギルドからの要請に関しては興味ある。あとで鑑定スキルも教わろうと画策しつつ、本日の作戦会議は早めの切り上げとなった。で、やることないし本日はゆっくりおやすみといきたいところだったのですが。
「まじで?」
石のベッドである。さっすが石の街! じゃなくて。
「寝れる?」
指の関節で叩いてみる。こんこんと軽くて良い響き。手のひらでスリスリしてみたところ、しっとりかつヒンヤリな感触が神経を駆け巡っていき、暑い日は天国だろうなぁなんて思いに駆られる。
残念ながら、夏はもう少し先だ。そして何より、わたしがオフトゥンに求めているクッション性のクの字もない。お宿代金は代表で支払ってくれたブッちゃんに返したけど、寝具に関してはお値段以上の家具をお求めしたくなる今日このごろ。
「寝袋を使えばいいじゃない」
と、有言実行にベッドの上でさらに寝袋にまるまるドロちん。そうきたかと関心するわけもなく、わたしはさらに目を配らせ、すでに石の上で熟睡中の僧侶に向かって「マジかよこいつ」的な視線をプレゼントした。
「イタくない? ぜったい朝起きたときあっちこっちイタイよ」
月の明かりは完全に遮断され、ここには魔法でもない油とロープでこしらえた炎だけが灯っている。どこに引火するおそれもなく、皿に乗せられたそれは石の台座にて、部屋を囲むように備え付けられていた。
「野宿よりはマシですわ。それに冷たくて気持ち良いのではなくて?」
そういうあんずちゃんも石の上に布、緩衝材、毛布を重ねてからのダイブである。そりゃそうするよねと思いつつ、自分にあてがわれた硬さハードマックスなベッドへ同じような創意工夫を重ねてく。
「はぁ~あ。ふっかふかのオフトゥンがよかったのに」
手近な灯火だけを消す。四方を青みがかった石壁に囲われた、ほんのり光が失われた空間のなかで、わたしはゆっくりと目を閉じ、あのわんちゃんに会えるかな? なんて空想に耽りながら夢の世界へと落ちていった。
石のベッドじゃん? あちこちカタいじゃん? だから節々が痛くなったり寝違えちゃったりするかもじゃん?
「びっくり仰天」
全快だよ。いつぶりだろうこの感覚。
「なにしてんの?」
むくりと起き上がったイモムシ、じゃなくてドロちんとその身体が収まった寝袋。彼女の髪の毛自体はウェーブがかったパツキンショートヘアだけど、寝相が悪いのか髪の毛の質の問題なのか、毎度のこと寝癖がありますねん。ブサッとした表情につんつんした寝癖。そんな姿を見て、ドロちんがまだ子どもなんだなぁってわかるのだ。
「なにしてんの?」
ドロちんがリピートした。わたしは手を振ってノーサインを出した。
「石の床というのも存外悪くない」
この場にいるだれもが「それはオメーだけだよ」とツッコミを入れたくなるセリフを吐きつつ、ブッちゃんはいつもの青い僧侶服でベッドから立ち上がる。異空間へ自分の道具を出し入れできるスキルを覚えてからは、みんな着の身着のままレベルの最低限の道具しか常備してない。
「ここからすこし歩いた場所にレブリエーロ支部がある。料金には食事代も含まれている故、まずは腹ごしらえしてから行こう」
「さんせーい!」
各々の準備を整えつつ、わたしたちは階下にくだりおいしいごはんを食べた。本格的な石焼きのピザ! あとなんか穀物と豆と野菜をたくさん煮込んだスープ! おにくも食べて元気百倍になりつつ、お宿の主人にお礼を言いつつ、我らの足はギルド支部へと進んでいきました。
青い空、白い雲、行き交う人々は笑顔に薄着で陽気な服装。とても盗賊騒ぎが起こってる街には見えない。要請とのギャップに頭をひねりつつ、先頭を進むブッちゃんは一軒の建物の前で停止する。
「ここだ」
同じように石造り。けど少し赤みがかったレンガで組み立てられており、扉は木製で窓もある。レンガはすべて同じ色じゃなくすこし茶色っぽかったり白みがさしていたり、それが建物の風情を生み出していて、窓枠に飾られた紫の花もまた存在を主張していた。
扉が開かれる。内装は石がメインではあるけど、フラーのそれとほぼ同じような作りになっている。室内を見渡していると、エントランスの一角に見覚えのある先客が腰掛けていた。
「よう」
赤と黒と白。自前であることが見てわかるツギハギ具合の衣装。クールで堂々とした出で立ちに、澄み渡った黒の長髪は頭頂部から額の部分にかけてまっしろくなっている。
「あ、さくら!」
「またなって言っただろう?」
さくらは人を切り裂けるような鋭い目をこちらに向けた。