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作者: 犬物語
火遊びはほどほどに
銃火器の歴史は古いけど、みんながイメージする拳銃はけっこー新しめなのよね
「このわたくし、あんずが成敗してさしあげますわ!」

 チビヒョロはぽかーんとした顔と共にですわ系少女へ目を向けた。

 威勢よく宣言してくれたものの、たぶん、自己紹介してくれたですわ女子もあまり状況把握してないっぽい。

 切っ先をそちらに向けつつたらーっと冷や汗流してる。たぶん、支払われた報酬どうするんだろう問題を気にしてるんだと思う。

 わたしだったらそうなる。おかねはだいじ。

「ところで……これはどういう状況ですの?」

「テメーが裏切ったんだろ!」

 態度だけでかい男が裏切り者を怒鳴りつける。怒鳴られたほうは切っ先をキープしきれなくなって腕がぷるぷるしてきております。いや無理すんな武器をおろしなさい。

(不釣り合いな武器だなー。わたしのナイフ貸したげる?)

 懐から少女に似合いそうなサイズを見繕ってる間、いろいろ吹っ切れたっぽいチビヒョロが髪の毛をわしゃわしゃして叫んだ。

「くっそ使えねえ。もういい! テメーらやっちまえ!」

(ッ!)

 チビヒョロがスーツの中から黒光りするモノを取り出す。ソレが晒されたとき、さすがのオジサンも警戒心を顕にせざるを得なかった。

(あーそういえば)

 この世界銃あったんだ。異世界転生だからてっきり剣と魔法の世界だと思ってたのになんちゃらパンク的要素混入されてた。

(やっばいなぁ、オジサンから猟銃の扱いちょっぴり教わったけど実践はちょっと)

 ビーちゃん相手の動きでいい? いやでも弾丸ってもっと速くてまっすぐなんだよね。

 気づけばそのほかのスーツ野郎も臨戦態勢。こっちは拳銃でないにしろ棍棒に鉄パイプに刃渡りうん十センチのナイフとそれなりにややこしい。

 オジサンの屋敷とおなじ状況ならまだ楽なんだけど、あのチビヒョロ何しでかすかわからんのよねぇ。

「おまえらひとり残らずぶっ殺してやる!」

 銃口がですわ少女ことあんずちゃんに向かう。

(ちょっと長いなぁ……あっちゃん。いや、あーちゃん?)

「な、なんですのそれは!?」

 丸い穴が自分に向いてることに気づき、少女は明るく光る髪を震わせながら言った。

「テメーが仕事してりゃコレを使う必要はなかったんだよ」

 そう言って、彼は銃を大げさに示した。指が引き金にかかっており、その気になればいつでも発射できるようになってる。

(あまり刺激したくないなぁ。ここはわたしお得意の隠密で、およ?)

 オジサン、めちゃリラックスしてるけどなんなん?

「死人を出す気なんてなかったんだぜ? それもこれもぜんぶテメーが悪い。責任とってはじめに死にやがれ!」

「威勢がいいところ悪いが」

 オジサン、なんとズカズカ相手に歩み寄っていくではありませんか。

「止まれぇ! さもなければ撃つ」

「拳銃か。私も撃ったことがあるがなかなかの反動だな。その構えだと肩がもっていかれるぞ」

「それ以上近づけば撃つ! 冗談じゃねえからな!」

 なんて言いつつ、チビヒョロはオジサンのアドバイス通り腕を伸ばし両手で拳銃を掴んだ。

「それは構わないんだが……ハンマーを起こさなくていいのか?」

「えっ?」

 チビヒョロが手に構えた銃を見直して、

「きゃっ!」

 オジサンが神速でですわ少女の横を通り過ぎて、

「あっ」

 拳銃を持つ手首を打ち、手の力がゆるみ、放されたそれが地面に落ちる前に取り上げ、オジサンはそのまま彼の額に照準を合わせた。

「あ……ぁ」

 チビヒョロの顔が恐怖に歪んだ。まわりにいる見掛け倒しの大男たちは完全に戦意喪失。いわゆる"詰み"というヤツですわ。

「しっぽを巻いて帰れ、と言いたいところだがこの惨状の落とし前はつけてもらう」

「ヒッ、た、たすけ――ッ!」

「オジサン?」

 まさかぶっ放す気? という不安は、オジサンが次に行った行動でかき消された。

「まったく物騒なモンを持ち込みやがって」

 カシャ、とかシャカシャカ、みたいな金属音をたててオジサンがなんかやってる。と思ってる間に拳銃がただの部品の塊になった。

 すべて分解したらしい。え、オジサンそんなこともできるの?

「最後の慈悲だ。衛兵に突き出される前に貴様が知るブルームーンに関する情報を洗いざらいしゃべれ」

「はぁ!?」

「わからんのか? 王城の目の前でこんな騒ぎを起こして無事でいられるワケないだろう? 組織はそれを知っておまえを寄こした」

 諭すようにオジサンは続けた。

「お前は見限られたんだ……まあ、抹殺されないことからして、貴様が知ってる情報もたかが知れてるが」

「な、な――」

 チビヒョロの顔がみるみる紅潮していく。恐怖から絶望、そして怒りに変貌し、言葉にならない叫びを上げて身近なスーツ姿の男の武器を奪い取った。

「テキトーなこと言ってんじゃねえええええええ!」

「うるっさいわよ!」

(ん?)

 どこぞの方角からかわいい少女の叫び声。かと思えば、オジサンに殴りかかろうとしたちっこいのがレストランの壁までふっ飛ばされていた。

 そうしたのは、先程まで地面に転がっていた壊れたテーブル。それが風に巻き上げられて、ふたりに襲いかかって、オジサンだけ避けてこのような結果になった。

「――はぁ、人がせっかく食事を楽しんでるってのに、なんなのこのありさま」

「ん?」

 ガチャ。レストランのどこかで音がした。だれかがイスから立ち上がるような音だ。

 物音に敏感なビーちゃんがそちらに視線をよこす。後につづくと、そこにはこんな騒ぎだというのにひとりテーブルで食事をしていたらしい女性の姿があった。

「メシくらいゆっくり食わせろっての。せっかく評判のレストランだと聞いて寄ったのにあぁイライラする」

 こっちは完全にロリっ子だ。たぶんサっちゃんの三分の一くらい。

 手には杖、そして彼女が座ってたテーブルの片隅にいかにもな帽子がある。魔法使いさんだね。

 いかにも「魔法学校に通ってます」的な衣装。でもローブじゃなくて動きやすさを追求した感じ? だけどスカートなんだよなぁ。

 少女の周辺が意味深に光輝いて、それが何らかの魔法の行使を教えてくれた。

 光が鎮まるにつれ、翻っていた彼女の長い緑色の髪が――あ、黒くなった。しかも短くなった。どゆこと?

「あーもうアタマにきた。ちょっとそこのアンタ!」

 杖を手に持ったまま、少女は軽い音をたて歩みをすすめていく。その終着点にいたのは、テーブルに運送された哀れなチビヒョロくん。カモフラージュに付けてたサングラスは無惨に割れ果てております。

「へぁ? あ?」

 まったく理解できない様子。それもそうだ、突然テーブルが自分に向かって吹っ飛んできたんだから。

 で、その犯人は自分の身長ほどある木製の杖を哀れな被害者に突き出して言った。

「メチャクチャにしてくれて、覚悟できてるんでしょうね?」

 少女の身体からまた光が生まれる。それと同時に、彼女の髪がまた長く伸びていき、こんどは灼熱のような赤色に燃えあがった。

「ッ! まずいやめ――」

 オジサンがなにか言いかけた。でも時すでに遅しだった。

「スキル、ファイア

 レストラン内を熱気が襲う。誰かの叫び声とともに、わたしの視界は真紅に染め上げられた。
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