レストランとブルームーンとチビヒョロ
メシ食ってるときだいたいジャマが入るよね
「真実なら指導しなければならない。どのような仕打ちを受けたのか教えてくれ。ただし」
スパイクは床に散乱した食器に目を流しながら言った。
「テーブルを蹴飛ばすに足る理由をだけど」
「アタイの出番かい?」
「やめろ。トゥーサが行くとテーブルどころか店が壊れる」
サっちゃんが腕まくり。となりの弓兵が全力で止めに入る。はは、ビーちゃん大げさだよ。多めに見積もっても半径20メートルぶんの地面に亀裂が入るくらいでしょ。
(あ、店壊れるわ)
「なぁーにが楽しいんだか」
両手をあたまに乗せ完全に視聴者モードなのはスプリットくんです。心配そうに見つめるグウェンちゃんと違って、なにかたのしいことが起きてくれないかわくわくしてる。それもこれもスパイクといっしょにオジサンも立ち上がったからだ。
カールは黙々と食べ物を口に運んでるけど、その耳はピンとスパイクのほうへ向いている。そしてその先にいるツースにサングラスという真っ黒くろすけスタイルの野郎どもを警戒してる様子だ。
(さすが護衛人。なにかあればわたしたちより素早く動きそう)
はてさてどのような塩梅で事が運ばれるのでしょうか――あれ。
(んん?)
スーツ姿の男たち。だいたいガタイが大きくて堂々とした立ち振舞ではあるのだけど、ひとりだけツーサイズくらい縮んじゃった人がいる。
(あのひとどこかで)
気になって、わたしはそちらに鼻を向けた。くんくん、くんくん。
「おい、グレースなにやってんだよ」
「くんかつ」
「なんだそりゃ?」
オトメの活動を理解できない少年が首を傾げた。そんな小さな風流すらキャッチする鼻で向こうから漂う空気を受け止める。
鼻腔をくすぐるこの臭い。うん、サングラスと髪型で誤魔化してるけど覚えあるよ。
「オジサン、こいつらオジサンち襲ったあの人たちと同じ臭いする」
「なに?」
オジサンはわたしからの声掛けに目を見開き、振り返って目を細め、サングラスの奥に潜むチンピラの正体を探っていく。
「またお前らか」
やがて、大きなため息とともにボサボサの髪をかき上げるのだった。
「はぁ? お前らとはだれのことだ? オレたちはただメシ食いに来た客だぞ。なあ?」
今は無惨に倒れたテーブル。それを囲んでいたのは彼含め4人の男だった。
それぞれ頷いたり、不敵に笑ったり、どこ知る風な顔で誤魔化したり。いやもうバレてるし。
(んーでもなんだったっけ?)
このチンピラたちが所属してる組織の名前。長話モードにはいったスパイクから聞かされたはずなんだけど。
「オジサンオジサン、こいつらの組織名忘れちゃったなんだったっけ」
「おいおい、スパイクが教えてくれたろ」
「覚えてないよ。だってこのチョビヒゲいちいち遠回しな言い方するんだもん」
スパイクは肩をすくめた。
「詩人たる所以さ。夜空に輝くもの、静寂、きまぐれに姿を変える。さて思い出したかい?」
「んー」
スパイクの言ってることはわかんないから無視するとして、とりあえずこいつらの挙動から考えよう。
「虎の威を借る狐? 外見だけで中身なし軍団? チビヒョロと愉快な仲間たち?」
「ブルームーンだ!」
チビヒョロが叫んだ。あー思い出したそんな名前だったっけ。
「フッ、おおよそ土地ころがし業者に似つかわしくない名前だな」
オジサンがクスッと。明らかにバカにしたようなそれだったのでチビヒョロはもうおカンムリ。だけどスーツ姿のひとりが焦った風味で口添えしてる。
「アニキ、名を明かすなと言われてたはずじゃ」
「うるせえ! くっそこいつらバカにしやがって!」
崩れたテーブルをさらに蹴る。存外パワーがあるようで、蹴飛ばされたテーブルはけっこうなスピードで飛んでいく。
食事を楽しんでいたよそのテーブルに直撃した。
「……さて」
料理が飛び散る音に人の悲鳴が交じる。スパイクは眉をひそめ険しい顔。口調もやや低くシリアス風味が漂っている
「いよいよ公衆の面前にまでゴタゴタを巻き起こしてくれたか」
セリフはやんわり、いつもの調子だ。でも目が笑ってない。
「他人に迷惑をかけなければまだ穏便に済ませてたんだけど、そうも言ってられなくなったね」
普段は紳士を装った浮浪者風の態度だけど、この時ばかりは浮浪者でも吟遊詩人でもなくいっぱしの戦士に見えた。
「他人様に迷惑をかけるな。キミたちがロクでもない集団なのは承知だが、そこまでするならこちらも対抗措置をとらせてもらうよ?」
スパイクの警告に、チビヒョロは勝ち誇った笑みを浮かべた。
「できるものならやってみろよ。大人しく土地を明け渡せばよかったものを……いまさら後悔しても遅いぞ!」
(おっと)
スーツ姿の男たちは、それぞれ得意とする得物があるようだ。といっても棍棒に鉄パイプにそのヘンで売ってそうなナイフと、まあ武器とするには物足りないような装備。
だけど、人間というやわらかい装甲しかもってない動物にはそれで充分。チビヒョロも自分のサイズに見合ったおはじきを――おはじき?
(あーしまった)
このせかい、銃あったんだ。
「フッ、結局力にモノを言わせてくるのか」
キラリと光るソレ。オジサンは一瞬警戒を見せたけど、その形状と使用者のウデを瞬時に見破って余裕の態度を崩さなかった。
(明らかに慣れてないかんじだよねー。正しく持ってないし銃口自分に向けてるし)
パァンしたらオシマイですよ? っていうかオジサンもヘタに挑発しないほうがいいんじゃない?
「先日我が家に乗り込んできた威勢はどこに行ってしまったのやら」
「なんだと!」
「それでどうするんだ? 王城のお膝元でドンパチかませば貴様らもタダでは済まされんぞ?」
オジサンが問う。彼の手に得物はない。そりゃそうだ、ここにはおいしいものを食べに来たんだから。
でも、それが彼らにとって幸運だと思う。
(あの目をしたオジサンとヤり合うのかぁ。勝てた試しないなー)
食事のつづきといきたいところですが、ここはひとつレディーな働きをしなければ。
ってことで、とりあえず席から立ちテーブルが蹴飛ばされた方向に目を向けたのですが、そこには既にいっぱしのレディーがふたりいました。
「だいじょうぶですか?」
モデルなほうは倒れた女性に声をかけ、
「これでだいじょうぶです。痛みは?」
ロリなほうは子どものケガを回復スキルで治療していた。うん、わたし要らなさそう。
(ああそう? んじゃあいいやこのままで)
ってことで観戦モード。果たしてチビヒョロは無傷でいられるのでしょうか?
「こっちだって今回は本気だぜぇ……おい出番だ!」
(よよ?)
チビヒョロが外に向かって叫んだ。で、すぐさま入口の扉をくぐってひとりの女性が歩いてくる。
姿は凛々しい騎士風味。といっても貴族が持つようなギャラギャラしたものじゃなく、ほんと戦いのための装備的な感じ。ここはレストランなのに仰々しくも立派でぶっとい剣を鞘に収めてこの空間に入り込んできた。
すぐに女性だと気付いた理由は背の高さだ。グウェンちゃんレベルではないにしろわたしより低く、光の当たり方によって明るい茶色にもゴールドにも見えるボリューミーな髪、自信たっぷりのつり目。
召喚に応じたことからして、彼女はこちらのカールと同じポジションなのだろう。ふとカールに視線をやってみると、彼もまたその女性を鋭い視線でチェックしていた。
「わたくしの出番のようですわね」
こつこつと床を鳴らして、彼女はわたしたちの前に立ちふさがった。
スパイクは床に散乱した食器に目を流しながら言った。
「テーブルを蹴飛ばすに足る理由をだけど」
「アタイの出番かい?」
「やめろ。トゥーサが行くとテーブルどころか店が壊れる」
サっちゃんが腕まくり。となりの弓兵が全力で止めに入る。はは、ビーちゃん大げさだよ。多めに見積もっても半径20メートルぶんの地面に亀裂が入るくらいでしょ。
(あ、店壊れるわ)
「なぁーにが楽しいんだか」
両手をあたまに乗せ完全に視聴者モードなのはスプリットくんです。心配そうに見つめるグウェンちゃんと違って、なにかたのしいことが起きてくれないかわくわくしてる。それもこれもスパイクといっしょにオジサンも立ち上がったからだ。
カールは黙々と食べ物を口に運んでるけど、その耳はピンとスパイクのほうへ向いている。そしてその先にいるツースにサングラスという真っ黒くろすけスタイルの野郎どもを警戒してる様子だ。
(さすが護衛人。なにかあればわたしたちより素早く動きそう)
はてさてどのような塩梅で事が運ばれるのでしょうか――あれ。
(んん?)
スーツ姿の男たち。だいたいガタイが大きくて堂々とした立ち振舞ではあるのだけど、ひとりだけツーサイズくらい縮んじゃった人がいる。
(あのひとどこかで)
気になって、わたしはそちらに鼻を向けた。くんくん、くんくん。
「おい、グレースなにやってんだよ」
「くんかつ」
「なんだそりゃ?」
オトメの活動を理解できない少年が首を傾げた。そんな小さな風流すらキャッチする鼻で向こうから漂う空気を受け止める。
鼻腔をくすぐるこの臭い。うん、サングラスと髪型で誤魔化してるけど覚えあるよ。
「オジサン、こいつらオジサンち襲ったあの人たちと同じ臭いする」
「なに?」
オジサンはわたしからの声掛けに目を見開き、振り返って目を細め、サングラスの奥に潜むチンピラの正体を探っていく。
「またお前らか」
やがて、大きなため息とともにボサボサの髪をかき上げるのだった。
「はぁ? お前らとはだれのことだ? オレたちはただメシ食いに来た客だぞ。なあ?」
今は無惨に倒れたテーブル。それを囲んでいたのは彼含め4人の男だった。
それぞれ頷いたり、不敵に笑ったり、どこ知る風な顔で誤魔化したり。いやもうバレてるし。
(んーでもなんだったっけ?)
このチンピラたちが所属してる組織の名前。長話モードにはいったスパイクから聞かされたはずなんだけど。
「オジサンオジサン、こいつらの組織名忘れちゃったなんだったっけ」
「おいおい、スパイクが教えてくれたろ」
「覚えてないよ。だってこのチョビヒゲいちいち遠回しな言い方するんだもん」
スパイクは肩をすくめた。
「詩人たる所以さ。夜空に輝くもの、静寂、きまぐれに姿を変える。さて思い出したかい?」
「んー」
スパイクの言ってることはわかんないから無視するとして、とりあえずこいつらの挙動から考えよう。
「虎の威を借る狐? 外見だけで中身なし軍団? チビヒョロと愉快な仲間たち?」
「ブルームーンだ!」
チビヒョロが叫んだ。あー思い出したそんな名前だったっけ。
「フッ、おおよそ土地ころがし業者に似つかわしくない名前だな」
オジサンがクスッと。明らかにバカにしたようなそれだったのでチビヒョロはもうおカンムリ。だけどスーツ姿のひとりが焦った風味で口添えしてる。
「アニキ、名を明かすなと言われてたはずじゃ」
「うるせえ! くっそこいつらバカにしやがって!」
崩れたテーブルをさらに蹴る。存外パワーがあるようで、蹴飛ばされたテーブルはけっこうなスピードで飛んでいく。
食事を楽しんでいたよそのテーブルに直撃した。
「……さて」
料理が飛び散る音に人の悲鳴が交じる。スパイクは眉をひそめ険しい顔。口調もやや低くシリアス風味が漂っている
「いよいよ公衆の面前にまでゴタゴタを巻き起こしてくれたか」
セリフはやんわり、いつもの調子だ。でも目が笑ってない。
「他人に迷惑をかけなければまだ穏便に済ませてたんだけど、そうも言ってられなくなったね」
普段は紳士を装った浮浪者風の態度だけど、この時ばかりは浮浪者でも吟遊詩人でもなくいっぱしの戦士に見えた。
「他人様に迷惑をかけるな。キミたちがロクでもない集団なのは承知だが、そこまでするならこちらも対抗措置をとらせてもらうよ?」
スパイクの警告に、チビヒョロは勝ち誇った笑みを浮かべた。
「できるものならやってみろよ。大人しく土地を明け渡せばよかったものを……いまさら後悔しても遅いぞ!」
(おっと)
スーツ姿の男たちは、それぞれ得意とする得物があるようだ。といっても棍棒に鉄パイプにそのヘンで売ってそうなナイフと、まあ武器とするには物足りないような装備。
だけど、人間というやわらかい装甲しかもってない動物にはそれで充分。チビヒョロも自分のサイズに見合ったおはじきを――おはじき?
(あーしまった)
このせかい、銃あったんだ。
「フッ、結局力にモノを言わせてくるのか」
キラリと光るソレ。オジサンは一瞬警戒を見せたけど、その形状と使用者のウデを瞬時に見破って余裕の態度を崩さなかった。
(明らかに慣れてないかんじだよねー。正しく持ってないし銃口自分に向けてるし)
パァンしたらオシマイですよ? っていうかオジサンもヘタに挑発しないほうがいいんじゃない?
「先日我が家に乗り込んできた威勢はどこに行ってしまったのやら」
「なんだと!」
「それでどうするんだ? 王城のお膝元でドンパチかませば貴様らもタダでは済まされんぞ?」
オジサンが問う。彼の手に得物はない。そりゃそうだ、ここにはおいしいものを食べに来たんだから。
でも、それが彼らにとって幸運だと思う。
(あの目をしたオジサンとヤり合うのかぁ。勝てた試しないなー)
食事のつづきといきたいところですが、ここはひとつレディーな働きをしなければ。
ってことで、とりあえず席から立ちテーブルが蹴飛ばされた方向に目を向けたのですが、そこには既にいっぱしのレディーがふたりいました。
「だいじょうぶですか?」
モデルなほうは倒れた女性に声をかけ、
「これでだいじょうぶです。痛みは?」
ロリなほうは子どものケガを回復スキルで治療していた。うん、わたし要らなさそう。
(ああそう? んじゃあいいやこのままで)
ってことで観戦モード。果たしてチビヒョロは無傷でいられるのでしょうか?
「こっちだって今回は本気だぜぇ……おい出番だ!」
(よよ?)
チビヒョロが外に向かって叫んだ。で、すぐさま入口の扉をくぐってひとりの女性が歩いてくる。
姿は凛々しい騎士風味。といっても貴族が持つようなギャラギャラしたものじゃなく、ほんと戦いのための装備的な感じ。ここはレストランなのに仰々しくも立派でぶっとい剣を鞘に収めてこの空間に入り込んできた。
すぐに女性だと気付いた理由は背の高さだ。グウェンちゃんレベルではないにしろわたしより低く、光の当たり方によって明るい茶色にもゴールドにも見えるボリューミーな髪、自信たっぷりのつり目。
召喚に応じたことからして、彼女はこちらのカールと同じポジションなのだろう。ふとカールに視線をやってみると、彼もまたその女性を鋭い視線でチェックしていた。
「わたくしの出番のようですわね」
こつこつと床を鳴らして、彼女はわたしたちの前に立ちふさがった。