超巨大ケーキ
定期的なご褒美こそモチベーションの第一歩
「なんにしても、パパが家出を許してくれてよかったね」
そんなオジサンの睨み攻撃をものともせず、スパイクはさらにヘンなことを口走る。
親子だと思ってるのかな? じゃあ訂正しとこう。
「おとーさんじゃないよ?」
「知ってるしってる」
はいはいって感じでスパイクが手を振る。いや何を知ってるんだと。
「さてさて、うまいこと話が着地したついでにとびきりのデザートを食べよう」
ぴくん。その単語に何人かが気配を尖らせた。もちろんわたしもだよデザートだと? ざっつあすいーつ?
「おーい!」
ウェイターを呼ぶ。んで耳打ち。された方は「おお! アレをやるのですな?」ととびきりハイテンションな顔になりそそくさと退散する。
時間にして数分。気持ちでは数時間くらい待ってやってきたのは遠目から見てもわかるような超絶巨大スイーツの塊だった。
周囲で食事を楽しむ人たちも、台車で運ばれる巨大ケーキに目を奪われている。それがこちらに到着して、給仕さんたちが数人がかりでそれを持ち上げ、開いたテーブルの中央にズドンとまっしろでトロピカルなケーキを放り込んだ。
「ほあぁぁぁ」
目の前にエサをちらつかされたのですよ。そりゃあだれだっておめめパッチリあんどヨダレだらだらですよ。
「すっげ、なんだこれ」
スプリットくんが立ち上がり、それでもなおそびえ立つホイップクリームを見上げなきゃいけない。
段々重ねになった円柱の甘いお菓子。取り囲むようにまっかなイチゴが乗っかって、白と赤のコントラストをさらに彩る果物の数々。チョコレートの雨が幾重のラインをつくり、まるで宝石のカケラのような結晶が散りばめられて――ちょっとまって。
(これ数分で作ったの?)
やばくね?
「……かみさま」
つつしみ深いロリっ子がこのときばかりは年相応の表情でその山を見上げてる。あ、ヨダレ。
「こんな幸せがあっていいのでしょうか?」
「確かに、これはとびきりの名にふさわしいデザートだ」
「ヨダレ出てんぞ? ビシェル」
「んなっ! そういうトゥーサはいいのか?! これは良質なタンパク質ではないだろ!?」
「今日はチートデイだ」
「連日盛大に食ってるだろ」
同じく、ぽけーっとした顔で甘いお菓子を見上げるオジサン。どっちかっていうと歓迎ムードでない?
「まったくだれが食うんだこんなもの」
「わたし! グレースちゃんがぜんぶたべりゅ!」
「食うのか、そうか」
オジサンは額に手を当て目を隠した。
「戦士は食えるうちに食っとくもんでしょ? キミから教わったんだよ」
「スパイク、それは有事の際のことばだ。この年でこれは腹に堪えるって……おまえら好きに食っていいぞ」
「はい、これ取り皿ね」
フォークを添えて皿が回されていく。スレた貴族っぽい衣装が、この瞬間だけは高貴で豪華な装飾に映った。
「いっただっきまーす!」
食った。めちゃ食った。ノラ犬のように貪った。
まずケーキ切断用の包丁でぶった切るでしょ? んでそれを小さなナイフでちょうどいいサイズにして皿に移すでしょ? あとはもうパクパクパクよ。
ただしケーキ用包丁はひとつしかありません。だれもがよりおっきなピースを得ようとします。反対側に包丁を持ってかれたら自分用のつくれないじゃん?
じゃあどうするか? こうするのです。
「あ! グレースてめぇ卑怯だぞ!」
「え? なんで?」
自前のナイフですけど? スプリットくんだって自分の剣使えばいいじゃん。
(あ、今はおうちにあるんだっけ)
「おま、それ獲物解体用ナイフ! どこに隠し持ってた。武器は私の家に置いてけと言っただろうに」
「んー、なんか懐がさみしいなと思って」
「用途外で使うな! ったく汚い」
わたしは武器を奪われた! そのままナプキンで拭き拭きされオジサンの手元に置かれる。
「斬れないじゃん!」
「コレでいけるだろ」
オジサンは食べる用のナイフを手にとり、こちらへ差し出した。
魔法がかかってるでもないフツーのナイフ。ステーキのおにくを切るときに使うナイフ。
「……まあ、いけるけど」
こんな時までシュギョーしたくないなぁ。っていう視線は受け付けられませんでした。
(しかたない、やるか)
大きさチェック、やわらかさチェック、力加減はこのくらい。
(よし)
ナイフを指先に持ち替え、まわりの人がケーキに手を伸ばすなか山の一角に獲物を沈み込ませる。
人の手は傷つけず、それでいてやわらかいケーキの形を崩さずスパスパスパ!
「はいできあがりっと」
お皿に小分けしたケーキを乗せ、わたしはナイフをフォークに持ち替えた。
「うわぁ、なぁんにも見えなかった」
「……ったく、これが戦力になってたらどれほど頼もしかったか」
となりでオジサンふたりの声が聞こえる。まあそんなことはどーでもいいので至福の時間をエンジョイしましょう!
「いっただっきまぁ~」
あまいあまーいケーキを口に運ぶ。それが唇を突破しようというタイミングで、この場にふさわしくないような怒号と衝撃音がレストラン内に響き渡った。
「え? なに?」
とりあえず頬張ってからそっちを見た。ドジっ子ウェイトレスがバナナの皮でも踏んだかな?
と思ったら、ある一角だけ騒々しく人と音が混み合ってる。店員さんが頭を下げて、タバコを口に咥えふんぞり返ったスーツ姿の人たちといろいろ話してるみたいだ。
(カスハラかな?)
「あーあ! 評判だと聞いてやってくりゃとんだお粗末もんだぜ。マズいし接客がなってねーしよ」
(うわーカスハラだ)
これはまごうことなきカスな人のハラスメントだ。あ、いや違うなんの略だったっけ?
「聞き捨てならないことばだね」
レストランの運営をしてるスパイクが立ち上がりクレーム対応に赴こうと歩き出す。わたしたちはその背中を心配そうに、わくわくして、淡々と、それぞれの思惑のもと見送っていた。
え、わたし? わたしはみんなが気を取られてるうちにもうひとつケーキを切り分けてましたがなにか?
そんなオジサンの睨み攻撃をものともせず、スパイクはさらにヘンなことを口走る。
親子だと思ってるのかな? じゃあ訂正しとこう。
「おとーさんじゃないよ?」
「知ってるしってる」
はいはいって感じでスパイクが手を振る。いや何を知ってるんだと。
「さてさて、うまいこと話が着地したついでにとびきりのデザートを食べよう」
ぴくん。その単語に何人かが気配を尖らせた。もちろんわたしもだよデザートだと? ざっつあすいーつ?
「おーい!」
ウェイターを呼ぶ。んで耳打ち。された方は「おお! アレをやるのですな?」ととびきりハイテンションな顔になりそそくさと退散する。
時間にして数分。気持ちでは数時間くらい待ってやってきたのは遠目から見てもわかるような超絶巨大スイーツの塊だった。
周囲で食事を楽しむ人たちも、台車で運ばれる巨大ケーキに目を奪われている。それがこちらに到着して、給仕さんたちが数人がかりでそれを持ち上げ、開いたテーブルの中央にズドンとまっしろでトロピカルなケーキを放り込んだ。
「ほあぁぁぁ」
目の前にエサをちらつかされたのですよ。そりゃあだれだっておめめパッチリあんどヨダレだらだらですよ。
「すっげ、なんだこれ」
スプリットくんが立ち上がり、それでもなおそびえ立つホイップクリームを見上げなきゃいけない。
段々重ねになった円柱の甘いお菓子。取り囲むようにまっかなイチゴが乗っかって、白と赤のコントラストをさらに彩る果物の数々。チョコレートの雨が幾重のラインをつくり、まるで宝石のカケラのような結晶が散りばめられて――ちょっとまって。
(これ数分で作ったの?)
やばくね?
「……かみさま」
つつしみ深いロリっ子がこのときばかりは年相応の表情でその山を見上げてる。あ、ヨダレ。
「こんな幸せがあっていいのでしょうか?」
「確かに、これはとびきりの名にふさわしいデザートだ」
「ヨダレ出てんぞ? ビシェル」
「んなっ! そういうトゥーサはいいのか?! これは良質なタンパク質ではないだろ!?」
「今日はチートデイだ」
「連日盛大に食ってるだろ」
同じく、ぽけーっとした顔で甘いお菓子を見上げるオジサン。どっちかっていうと歓迎ムードでない?
「まったくだれが食うんだこんなもの」
「わたし! グレースちゃんがぜんぶたべりゅ!」
「食うのか、そうか」
オジサンは額に手を当て目を隠した。
「戦士は食えるうちに食っとくもんでしょ? キミから教わったんだよ」
「スパイク、それは有事の際のことばだ。この年でこれは腹に堪えるって……おまえら好きに食っていいぞ」
「はい、これ取り皿ね」
フォークを添えて皿が回されていく。スレた貴族っぽい衣装が、この瞬間だけは高貴で豪華な装飾に映った。
「いっただっきまーす!」
食った。めちゃ食った。ノラ犬のように貪った。
まずケーキ切断用の包丁でぶった切るでしょ? んでそれを小さなナイフでちょうどいいサイズにして皿に移すでしょ? あとはもうパクパクパクよ。
ただしケーキ用包丁はひとつしかありません。だれもがよりおっきなピースを得ようとします。反対側に包丁を持ってかれたら自分用のつくれないじゃん?
じゃあどうするか? こうするのです。
「あ! グレースてめぇ卑怯だぞ!」
「え? なんで?」
自前のナイフですけど? スプリットくんだって自分の剣使えばいいじゃん。
(あ、今はおうちにあるんだっけ)
「おま、それ獲物解体用ナイフ! どこに隠し持ってた。武器は私の家に置いてけと言っただろうに」
「んー、なんか懐がさみしいなと思って」
「用途外で使うな! ったく汚い」
わたしは武器を奪われた! そのままナプキンで拭き拭きされオジサンの手元に置かれる。
「斬れないじゃん!」
「コレでいけるだろ」
オジサンは食べる用のナイフを手にとり、こちらへ差し出した。
魔法がかかってるでもないフツーのナイフ。ステーキのおにくを切るときに使うナイフ。
「……まあ、いけるけど」
こんな時までシュギョーしたくないなぁ。っていう視線は受け付けられませんでした。
(しかたない、やるか)
大きさチェック、やわらかさチェック、力加減はこのくらい。
(よし)
ナイフを指先に持ち替え、まわりの人がケーキに手を伸ばすなか山の一角に獲物を沈み込ませる。
人の手は傷つけず、それでいてやわらかいケーキの形を崩さずスパスパスパ!
「はいできあがりっと」
お皿に小分けしたケーキを乗せ、わたしはナイフをフォークに持ち替えた。
「うわぁ、なぁんにも見えなかった」
「……ったく、これが戦力になってたらどれほど頼もしかったか」
となりでオジサンふたりの声が聞こえる。まあそんなことはどーでもいいので至福の時間をエンジョイしましょう!
「いっただっきまぁ~」
あまいあまーいケーキを口に運ぶ。それが唇を突破しようというタイミングで、この場にふさわしくないような怒号と衝撃音がレストラン内に響き渡った。
「え? なに?」
とりあえず頬張ってからそっちを見た。ドジっ子ウェイトレスがバナナの皮でも踏んだかな?
と思ったら、ある一角だけ騒々しく人と音が混み合ってる。店員さんが頭を下げて、タバコを口に咥えふんぞり返ったスーツ姿の人たちといろいろ話してるみたいだ。
(カスハラかな?)
「あーあ! 評判だと聞いてやってくりゃとんだお粗末もんだぜ。マズいし接客がなってねーしよ」
(うわーカスハラだ)
これはまごうことなきカスな人のハラスメントだ。あ、いや違うなんの略だったっけ?
「聞き捨てならないことばだね」
レストランの運営をしてるスパイクが立ち上がりクレーム対応に赴こうと歩き出す。わたしたちはその背中を心配そうに、わくわくして、淡々と、それぞれの思惑のもと見送っていた。
え、わたし? わたしはみんなが気を取られてるうちにもうひとつケーキを切り分けてましたがなにか?