ひととひとのさ
なんでエラいの?
どうするとエラくなるの?
どうするとエラくなるの?
階段には上の段と下の段がある。
登っていけば高いところにいく。下っていけば低いところにいく。そりゃそうだ、だって階段なんだもん。
階段がなくて、おなじところに立っていたらそれはつまりおなじということになる。そのなかで上か下かを表現したいとき、人はじぶんから高さを変える。
ヒザを折り低いところへいく。
(おうさま、きぞく、そのほか――なんで階級なんてあるんだろう?)
きらびやかな衣装に身を包んだ人の前で、ちょっとだけきらびやかな衣装に身を包んだ人がヒザを地について頭をたれている。立ってるほうはとても気持ちよさそうにしゃべる。なんだこの光景は。
(立ってる人としゃがんでる人、どっちもおなじに見えるけどなぁ……着てる服がカッコイイと偉い人なのかなぁ)
「なにボサッとしてる。さっさと進め」
「あっ」
うしろから声をかけられ、そこでようやく入口を塞いでいることに気づく。といってもひろーい広間のひろーい扉だからあとふたり、サっちゃんひとりは通れるスペースがあるけれど。
「はじめての雰囲気で足がすくんでるんじゃないか?」
「むぅぅ、そうかも」
今までの旅とまるで別世界だ。ストッケート城はもともと砦だったと言うけれど、この空間に限ってはまんまイメージ通りというか、ほらあるじゃん? 中世ヨーロッパの貴族たちはあらあらうふふ言いながらパーティーしてるようなトコ。
はるか高みのシャンデリア、意匠を凝らした壁とガラス窓、そのところどころにオシャレな灯がかけられ、密閉された空間のなか炎が燃え続けている。
明るすぎず暗すぎず。広間に設置された灯火もまたやわらかな光を放っていて、どこからか流れてくる弦楽器の旋律にあわせ踊っている。そんな空間はじめてだから、もしかしたら目がまわっちゃったのかも。ぐるぐる、目がドライブ。
「おおチャールズ! きまってるじゃないか」
聞き慣れた声。ふとその方向を見れば、今まで傘みたいなカッコした女性たちの相手をしてたスパイクが上機嫌のままこちらに近づいている。こちらとは別口、ひと足先に城へ溶け込んでたお調子ものは、今日はほんの少しだけマトモな吟遊詩人っぽいカッコをしてる。
「腰回りがキツくてかなわん」
彼の語りかけにオジサンは渋い顔。ところどころ革っぽい素材がミッチリ引き締まってる。服装だけ見ればどこぞのお忍び王子様に見えなくもないけど、顔がオジサンのせいでとたんに田舎臭くなったパターン。
「みんなもステキだよ」
調子のいいことばだ。わたしはみんなを代表してそう思うことにした。
パーティー用の服飾です。スプリットくんはオジサンと同じような黒系のデザイン。ビーちゃんは青々としたドレスを身にまとい、その懐には弓を隠してぇ、たりはしなさそう。でもそのくらいの余裕はある。グウェンちゃんは清楚な教会の服。薄着がデフォのサっちゃんも今回ばかりは厚着してもらいました。
(あつぎ……っていうのかな?)
タンクトップの上にプレートアーマー的な。王さまたちの集いにこんなカッコアリなの? と思ったけどなんかへーきっぽい。なんかスパイクさんがビキニアーマーがどうのとか言ってたけどなにそれ?
「これは、あまり居心地いい場所じゃないねぇ」
「同感だ」
高身長女性ふたりのつぶやき。うーん確かに、こんな場所じゃ大の字になって寝れないよねぇ。床、カタいし。
「それがアナタの正装でしたか。普段の酒場の給仕のような姿もかわいらしいですが、今は一段と大人の雰囲気を醸し出している。貴婦人であればダンスに誘っているところです」
「そんなお世辞いりません……でも、ありがとうございます」
拒否ってるように見えて口角が隠しきれてない。おいおいちょろい属性持ちか。そんなこと思ったタイミングで、これまでだまってたおしゃべり少年が両手を頭のうしろに組んだ。
「いつもどーりでいいじゃん。それよりハラ減ったんだけど? パーティーはメシも出るって言ってただろ?」
「ああ、あのテーブルに並んでるから好きなものを取るといい」
スパイクがテーブルが見えやすいように身体をうごかす。みんなの視線をいざなうように振られた手の先に長いテーブルが整然と並び、色とりどりの料理が大皿の上で待機している。
我を腹の中に収めよと。よし乗った。
「ヨダレを垂らすのは早いよ。まずは王子のあいさつからだ」
「えーまだ食べられないの?」
「このパーティーは王子主催なんだよ。だからまず彼の話を聞いて、いい雰囲気になったら食事でもなんでも好きにすると、ああ、ちょうどはじまるようだ」
会場のいちばん奥。アーチを描く柱を隔て、その先の空間をひとりの男性が占領している。
彼の登場で場の雰囲気が沈黙に向かった。だれもがその人の一挙一動に注目し、やがて完全な沈黙が場を支配した。
金色と真紅に彩られた衣服、ナナメに垂れ下がるベレー帽に赤い羽根、立つ場所は同じなのに、自分だけはるか高みにいると言いたそうなその視線。注目されていることに満足しつつ、彼は場の空気が静まり返ったタイミングで唇を開いた。
「親愛なる諸君。この世界は腐敗に満ちている」
(えっ)
おいおいこのムードでいきなり言うことがそれか。
「野蛮な者共にはフラーが、いやアイン・マラハが美しく見えるのだろう。それは正しい。むしろ我が国以外すべて堕落していると言える。だからこそ我らが領域に邪な刃を向けるのだろう」
身振り手振りかんっぜんに酔ってらっしゃる。ほら見ろだいたいの人が戸惑いと不安と恐怖につつまれ――あれ。
(わりと肯定的?)
一部界隈ながら、軍服に身を包む少数の人たちから決意を秘めた表情が読み取れる。
「まるで世間でささやかれるウワサが本当だと言うかのようだ」
「隠す気もないらしい。身内だけの宴会でこのような大口を叩くとは、すでに王になった気でいるのか」
「チャールズ、あまり大きな声で口にしないでくれ。この場には王もいらっしゃるのだから」
となりで大人の会話がくり広げられる。その間も語りはとどまることなく続き、いかにアイン・マラハが素晴らしい国か、そして他国からどのように国を守るかということばが並んでいった。
「もはや忍耐の時は過ぎた。今こそヤツらに我らの偉大さを知らしめる時。そして我が領地を侵す蛮族どもの胸に剣を突き立てこう言ってやるのだ……図に乗るなと」
はじめから計画されたかのように歓声が響く。王子はそれに笑顔で応え、身を翻しその場を後にした。やがて喧騒があたりを支配しつつあるとき、ふとサっちゃんがつぶやき、それが会話の糸口になった。
「これから戦いでもはじめようってスピーチだったね」
「物騒なことを。もし戦争が実現すればこの国の平和が崩れるだけでなく自然にもダメージが及ぶ。エルフの里まで被害が出たら、こんどは人間とエルフの諍いになるぞ」
「なぜ王子はあのようなことを……どうにかできないのでしょうか?」
少女の一途な願いに、この国で長らく暮らしてきたふたりはただ難しい顔をする。何を言うでもなく黙り込むふたりにスプリットくんがガマンできず割って入った。
「もしそうなったとしてもオッサンなら大丈夫だろ? むかしの戦争だって止めたじゃねーか」
「……そう簡単なことではない。あの時だって多くの犠牲の上で成し得たことだ。人々は私を英雄呼ばわりするが、実際の私は何もしていない」
「なんだよそれ」
「国ってのは難しいんだよ。キミも大人になったらわかるさ……さて!」
雨が降ってきそうな雰囲気を破るようにスパイクが手を叩く。
「まずは腹ごしらえだね。取り皿はあそこにあるから好きなだけ食べていいよ」
(なに?)
好きなだけ食べていいだって?
「みんないこ」
わたしは人混みを突っ切った。ご安心ください、この瞬間だけは隠密レベルまっくすなので誰と肩がぶつかるなんてことはございません。
「おぉぉ……じゅるり」
目の前にひろがるにく、パン、くだもの、あとやさい。これぜんぶ好きなだけ食べていいんだ。よし、じゃあまずはあれとこれとそれと、おのれなぜ指の数はぜんぶあわせても十本しかないんだ!。
「これ、あとこれだけ乗せればぁ、だめだこぼれちゃう! うぅぅ」
「皿を分けろこの食いしん坊め」
真後ろでオジサンの呆れ声が聞こえた。
登っていけば高いところにいく。下っていけば低いところにいく。そりゃそうだ、だって階段なんだもん。
階段がなくて、おなじところに立っていたらそれはつまりおなじということになる。そのなかで上か下かを表現したいとき、人はじぶんから高さを変える。
ヒザを折り低いところへいく。
(おうさま、きぞく、そのほか――なんで階級なんてあるんだろう?)
きらびやかな衣装に身を包んだ人の前で、ちょっとだけきらびやかな衣装に身を包んだ人がヒザを地について頭をたれている。立ってるほうはとても気持ちよさそうにしゃべる。なんだこの光景は。
(立ってる人としゃがんでる人、どっちもおなじに見えるけどなぁ……着てる服がカッコイイと偉い人なのかなぁ)
「なにボサッとしてる。さっさと進め」
「あっ」
うしろから声をかけられ、そこでようやく入口を塞いでいることに気づく。といってもひろーい広間のひろーい扉だからあとふたり、サっちゃんひとりは通れるスペースがあるけれど。
「はじめての雰囲気で足がすくんでるんじゃないか?」
「むぅぅ、そうかも」
今までの旅とまるで別世界だ。ストッケート城はもともと砦だったと言うけれど、この空間に限ってはまんまイメージ通りというか、ほらあるじゃん? 中世ヨーロッパの貴族たちはあらあらうふふ言いながらパーティーしてるようなトコ。
はるか高みのシャンデリア、意匠を凝らした壁とガラス窓、そのところどころにオシャレな灯がかけられ、密閉された空間のなか炎が燃え続けている。
明るすぎず暗すぎず。広間に設置された灯火もまたやわらかな光を放っていて、どこからか流れてくる弦楽器の旋律にあわせ踊っている。そんな空間はじめてだから、もしかしたら目がまわっちゃったのかも。ぐるぐる、目がドライブ。
「おおチャールズ! きまってるじゃないか」
聞き慣れた声。ふとその方向を見れば、今まで傘みたいなカッコした女性たちの相手をしてたスパイクが上機嫌のままこちらに近づいている。こちらとは別口、ひと足先に城へ溶け込んでたお調子ものは、今日はほんの少しだけマトモな吟遊詩人っぽいカッコをしてる。
「腰回りがキツくてかなわん」
彼の語りかけにオジサンは渋い顔。ところどころ革っぽい素材がミッチリ引き締まってる。服装だけ見ればどこぞのお忍び王子様に見えなくもないけど、顔がオジサンのせいでとたんに田舎臭くなったパターン。
「みんなもステキだよ」
調子のいいことばだ。わたしはみんなを代表してそう思うことにした。
パーティー用の服飾です。スプリットくんはオジサンと同じような黒系のデザイン。ビーちゃんは青々としたドレスを身にまとい、その懐には弓を隠してぇ、たりはしなさそう。でもそのくらいの余裕はある。グウェンちゃんは清楚な教会の服。薄着がデフォのサっちゃんも今回ばかりは厚着してもらいました。
(あつぎ……っていうのかな?)
タンクトップの上にプレートアーマー的な。王さまたちの集いにこんなカッコアリなの? と思ったけどなんかへーきっぽい。なんかスパイクさんがビキニアーマーがどうのとか言ってたけどなにそれ?
「これは、あまり居心地いい場所じゃないねぇ」
「同感だ」
高身長女性ふたりのつぶやき。うーん確かに、こんな場所じゃ大の字になって寝れないよねぇ。床、カタいし。
「それがアナタの正装でしたか。普段の酒場の給仕のような姿もかわいらしいですが、今は一段と大人の雰囲気を醸し出している。貴婦人であればダンスに誘っているところです」
「そんなお世辞いりません……でも、ありがとうございます」
拒否ってるように見えて口角が隠しきれてない。おいおいちょろい属性持ちか。そんなこと思ったタイミングで、これまでだまってたおしゃべり少年が両手を頭のうしろに組んだ。
「いつもどーりでいいじゃん。それよりハラ減ったんだけど? パーティーはメシも出るって言ってただろ?」
「ああ、あのテーブルに並んでるから好きなものを取るといい」
スパイクがテーブルが見えやすいように身体をうごかす。みんなの視線をいざなうように振られた手の先に長いテーブルが整然と並び、色とりどりの料理が大皿の上で待機している。
我を腹の中に収めよと。よし乗った。
「ヨダレを垂らすのは早いよ。まずは王子のあいさつからだ」
「えーまだ食べられないの?」
「このパーティーは王子主催なんだよ。だからまず彼の話を聞いて、いい雰囲気になったら食事でもなんでも好きにすると、ああ、ちょうどはじまるようだ」
会場のいちばん奥。アーチを描く柱を隔て、その先の空間をひとりの男性が占領している。
彼の登場で場の雰囲気が沈黙に向かった。だれもがその人の一挙一動に注目し、やがて完全な沈黙が場を支配した。
金色と真紅に彩られた衣服、ナナメに垂れ下がるベレー帽に赤い羽根、立つ場所は同じなのに、自分だけはるか高みにいると言いたそうなその視線。注目されていることに満足しつつ、彼は場の空気が静まり返ったタイミングで唇を開いた。
「親愛なる諸君。この世界は腐敗に満ちている」
(えっ)
おいおいこのムードでいきなり言うことがそれか。
「野蛮な者共にはフラーが、いやアイン・マラハが美しく見えるのだろう。それは正しい。むしろ我が国以外すべて堕落していると言える。だからこそ我らが領域に邪な刃を向けるのだろう」
身振り手振りかんっぜんに酔ってらっしゃる。ほら見ろだいたいの人が戸惑いと不安と恐怖につつまれ――あれ。
(わりと肯定的?)
一部界隈ながら、軍服に身を包む少数の人たちから決意を秘めた表情が読み取れる。
「まるで世間でささやかれるウワサが本当だと言うかのようだ」
「隠す気もないらしい。身内だけの宴会でこのような大口を叩くとは、すでに王になった気でいるのか」
「チャールズ、あまり大きな声で口にしないでくれ。この場には王もいらっしゃるのだから」
となりで大人の会話がくり広げられる。その間も語りはとどまることなく続き、いかにアイン・マラハが素晴らしい国か、そして他国からどのように国を守るかということばが並んでいった。
「もはや忍耐の時は過ぎた。今こそヤツらに我らの偉大さを知らしめる時。そして我が領地を侵す蛮族どもの胸に剣を突き立てこう言ってやるのだ……図に乗るなと」
はじめから計画されたかのように歓声が響く。王子はそれに笑顔で応え、身を翻しその場を後にした。やがて喧騒があたりを支配しつつあるとき、ふとサっちゃんがつぶやき、それが会話の糸口になった。
「これから戦いでもはじめようってスピーチだったね」
「物騒なことを。もし戦争が実現すればこの国の平和が崩れるだけでなく自然にもダメージが及ぶ。エルフの里まで被害が出たら、こんどは人間とエルフの諍いになるぞ」
「なぜ王子はあのようなことを……どうにかできないのでしょうか?」
少女の一途な願いに、この国で長らく暮らしてきたふたりはただ難しい顔をする。何を言うでもなく黙り込むふたりにスプリットくんがガマンできず割って入った。
「もしそうなったとしてもオッサンなら大丈夫だろ? むかしの戦争だって止めたじゃねーか」
「……そう簡単なことではない。あの時だって多くの犠牲の上で成し得たことだ。人々は私を英雄呼ばわりするが、実際の私は何もしていない」
「なんだよそれ」
「国ってのは難しいんだよ。キミも大人になったらわかるさ……さて!」
雨が降ってきそうな雰囲気を破るようにスパイクが手を叩く。
「まずは腹ごしらえだね。取り皿はあそこにあるから好きなだけ食べていいよ」
(なに?)
好きなだけ食べていいだって?
「みんないこ」
わたしは人混みを突っ切った。ご安心ください、この瞬間だけは隠密レベルまっくすなので誰と肩がぶつかるなんてことはございません。
「おぉぉ……じゅるり」
目の前にひろがるにく、パン、くだもの、あとやさい。これぜんぶ好きなだけ食べていいんだ。よし、じゃあまずはあれとこれとそれと、おのれなぜ指の数はぜんぶあわせても十本しかないんだ!。
「これ、あとこれだけ乗せればぁ、だめだこぼれちゃう! うぅぅ」
「皿を分けろこの食いしん坊め」
真後ろでオジサンの呆れ声が聞こえた。